戦国異伝供書
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第六十一話 一騎打ちその一
第六十一話 一騎打ち
山本はこの時自らが持っていた槍を見た、見ればその槍は穂先は血で真っ赤になり血糊でもう使いものにならないのは明らかだった。
それでだ、彼は苦笑いを浮かべてこう言った。
「この槍もしまいじゃな」
「もう槍はありませぬ」
「我等には」
「矢は尽きました」
周りの兵達がその山本に言ってくる。
「そして刀もです」
「あらかた折れて」
「残るは人数分のみ」
「そうした有様です」
「文字通り矢尽き刀折れか」
山本は兵達の言葉を聞いてこう述べた。
「そうなったか」
「そしてどの者もです」
「この通り傷付いておりまする」
「満身創痍ですな」
「そんな有様です」
「見ればわしもじゃな」
ここで山本は自身の身体を見回した、するとあちこちに矢傷や刀傷がある。具足のお陰で大怪我にはなっていないがかなりの傷だった。
「よく手足が動けるものじゃ」
「ですが、皆そうですな」
「我等よく生きておるものです」
「見れば周りは屍ばかりですが」
「よくここまで生きております」
「不思議な位ですな」
「全くじゃ、しかしもうそろそろじゃな」
山本は自分と共に戦う彼等にこう笑って返した。
「この身体でしかも槍も弓矢もない」
「刀も尽きました」
「何でしたら拳と蹴りで向かいますか」
「それでもまだ戦えますが」
「そうしますか」
「それも悪くない、最後まで戦って死のうぞ」
既に戦の前に死にたくない者は去れと告げた、これは信繁も同じだった。だが兵達は皆武田の兵達だ。
それで退く筈がなかった、皆笑って共に戦いますると言った。山本はそのことに深く感謝しつつだった。
腰の刀、残った最後の武器を手に取った。そうしてそれを構えてだった。
生き残った兵達と共に最後の戦を挑もうとした、だがそこに。
風の様に何かが来た、そうしてだった。
山本達が向かおうとしていた上杉の隊の一つに向かい彼等を忽ちのうちに薙ぎ倒してしまった。山本はそれを見て言った。
「源次郎、そして十勇士達か」
「源次郎殿ですか」
「あの御仁が来られたのですか」
「何かと思いましたが」
「これは」
「この強さ間違いない」
数百人の隊を瞬く間に薙ぎ倒したそれはというのだ。
「あの者達じゃ」
「そうでしたか」
「しかしすぐに去りました」
「まるで風です」
「風の様に速く」
そしてとだ、兵達は口々に言った。
「林の様に静かで」
「しかも炎の様に激しい」
「山はありませぬが」
「しかし風林火山でしたな」
「あの旗の通りでしたな」
「全くじゃ、しかしこれは」
山本は幸村が何故自分を救ったのか考えた、そうして言うのだった。
「お館様のお考えか」
「お館様ですか」
「あの方が」
「お館様が源次郎達を向かわせてくれてじゃ」
そうしてというのだ。
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