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戦国異伝供書

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第六十話 死闘その八

 戦いに向かう、彼の意気は軒昂だった。だがこの度の策を立てた山本は違っていた。敵を目の前にしてだった。
 歯噛みしてだ、こんなことを言った。
「我が策破れたりか」
「まさかな」
 傍にいる信繁が応えた。
「長尾殿が自ら来られるとはな」
「思いませんでした」 
 信繁にも歯噛みした顔で言う。
「まさか」
「全軍で来たな」
「どうやら」 
 山本はまた答えた。
「この度は」
「わしはすぐ己の軍勢に戻る」
「そうしてですな」
「己の場でな」
「最後の最後まで、ですな」
「持ち堪える、それこそ兵達は皆討ち死に覚悟でじゃ」
 そのうえでというのだ。
「戦い抜き敵を足止めし」
「この度の戦は」
「軍勢が崩れぬ様にする」
「ではそれがしも」
 山本は信繁に応えて述べた。
「この度の責を取り」
「最後の最後までか」
「戦い」
 そしてというのだ。
「軍勢が崩れるのを防ぎます」
「そうするか」
「はい、さもなければ」
「この度の戦はな」
「我が軍は崩れます」
 武田の本陣自分達がいるそこはというのだ。
「そうなりますので」
「だからじゃな」
「何としてもです」
 まさにというのだ。
「戦い抜きます」
「討ち死にしてもじゃな」
「そのうえで」
「長尾家の軍勢は強くな」
「しかも兵の数は今はあちらが遥かに多く」
「あの陣じゃ」
「車懸かりの陣は野分です」
 山本は謙信が今繰り出している陣をこう表現した。
「次から次に新手が攻めてきてです」
「激しく攻めてくるな」
「まさに野分の様に」
「だからじゃな」
「この攻めを我が軍が凌ぐには」
「死兵が必要じゃな」
「それがしがそれになります」
 こう信繁に言うのだった。
「何としても」
「そしてその想いはな」
「二郎様もですか」
「わしは兄上にいつもよくしてもらっているが」
 一門の家臣筆頭としてだけでなく弟としてもだ、信玄はとかく信繁を信頼し彼を補佐にして意見もよく求めている。
「しかしかつてはな」
「大殿が、ですな」
「父上がわしを贔屓にされてな」
 自らこのことを話すのだった。
「兄上を廃嫡されようとお考えだった」
「そのことで」
「兄上はよいとされているが」
 それでもというのだ。
「わしは兄上への不孝がある」
「だからこそ」
「ここでな」
「その不孝をですか」
「償う、だからな」
 それ故にというのだ。 
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