戦国異伝供書
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第六十話 死闘その七
「こちらは八千」
「二倍半ですな」
「そこまでの違いがありますな」
「この違いは大きいです」
「実に」
「だから我等が文字通りの働きをしてな」
一騎当千のというのだ。
「そのうえでじゃ」
「戦いそして」
「兵の劣勢を覆す」
「我等一人一人は千人」
「ならば一万一千」
「八千と合わせれば一万九千」
「充分防げる」
それだけの数の力になればというのだ。
「援軍は必ず来る、だからな」
「それまでですな」
「我等は戦う」
「そして敵を凌ぎ」
「そのうえで」
「後も戦うのじゃ」
こう言ってだ、そのうえでだった。
幸村は十勇士達にそれぞれの持ち場に行く様に命じた、そして彼自身も馬に乗り両手に一本ずつだった。
十字槍を持って構えて敵を待った、その時に。
遂に霧が晴れた、武田の兵の多くはこの時はまだ落ち着いていた。
「やっと晴れてきたわ」
「これで前がよく見える」
「さて、それではな」
「もう槍は構えてあるしな」
「弓矢の用意も出来た」
「陣も整えた」
信玄が命じた通りだ、皆槍や弓矢を構えて陣も鶴翼十二段に組んでいた。既に万全の用意をしているのだ。
「さて、これからどうなるか」
「前に敵が来ればな」
「挟み撃ちにする」
「よしんばこちらに来てもじゃ」
「槍と弓矢はもう備えてる」
「攻めるだけじゃ」
「返り討ちにしてやるわ」
士気は充分だった、それでだった。
霧が完全に晴れて前を見た、するとだった。
「!?あれは」
「まさか」
「敵か!」
「長尾殿の軍勢か!」
黒の具足と旗、鞍、陣笠の一軍がそこにいた。彼等は鬨の声をあげ法螺貝の音と共に攻めて来た。
それを見てだ、山縣は言った。
「臆することはない!」
「それではですな」
「我等は」
「既に守りは固めてある」
こう己の兵達に言うのだった。
「槍も弓矢も構えてある、だからな」
「臆することなくですな」
「ここはですな」
「戦いそして」
「そのうえで、ですな」
「勝つだけじゃ」
こう言うのだった。
「わかったな」
「はい、それでは」
「この度はですな」
「このまま戦い」
「そのうえで」
「凌ぐのじゃ、源助殿そして兄上は来られる」
必ずという言葉だった。
「それまで持ち堪えるのじゃ」
「ですな、では」
「我等はこのまま戦いましょう」
「越後の者達何するものぞ」
「その意気ですな」
「そうじゃ、この戦い勝つのは我等じゃ」
こう言ってだった、山縣は自ら槍を手にしてだった。
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