戦国異伝供書
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第六十話 死闘その六
「今何か通ったか」
「大きなものが通った様じゃな」
「馬か?」
「まさか、この霧の中で馬が走られるか」
「そんな筈がないぞ」
こう言うだけだった、そしてだった。
幸村は信玄の下に参上してそのうえで十勇士達から伝えられたことを信玄に伝えた。するとその場でだった。
信玄はすぐにだ、こう全軍に命じた。
「鶴翼十二段の陣を組むのじゃ」
「今よりですか」
「敵は二万、こちらは八千でじゃ」
それでと幸村にも話した。
「守るとなればな」
「鶴翼しかありませぬか」
「十二段でな、敵がその陣で来るなら」
それならばというのだ。
「それしかない」
「左様ですか」
「確かに我等の数はかなり少ない」
上杉の軍勢と比べてだ。
「そうであるが」
「その状況で守るには」
「それで戦い」
「高坂殿が率いて来る軍勢を待つ」
「源助は既に妻女山に入っておる」
信玄は彼の動きを既に察していた、それで確信して言うのだ。
「ならばな」
「それではですな」
「すぐに山に敵軍がいないことから全てをわかったな」
「こちらに来られますな」
「今全速で向かっておる」
そうした状況だというのだ。
「ならばな」
「ここは、ですな」
「守ればよい、敵の兵が多く辛いが」
それでもというのだ。
「守っていれば必ず源助達が来る」
「だからこそここは」
「守れ、槍を前に出し弓矢を放ち」
その様にしてというのだ。
「凌ぐのだ、そして」
「我等も」
「その時は来て欲しくなかったが」
それでもというのだ。
「ここはじゃ」
「それがしと十勇士達に」
「働いてもらう」
「兵の数で劣る分をですか」
「頼めるか」
「はい」
これが幸村の返事だった。
「さすれば」
「暫し頼むぞ」
「何としても守り抜きまする」
幸村は信玄に約束した、そうしてだった。
主の前から姿を消すとまた馬を駆ってそうして自身の兵達のところに戻った、そこにはもう十勇士達が揃っていた。
その彼等がだ、幸村に口々に言ってきた。
「お話はわかっております」
「これよりですな」
「殿と我等十人がその持てる武を使い」
「そうしてですな」
「戦うのですな」
「そうじゃ、我等は皆一騎当千の者」
文字通りにとだ、幸村は十勇士達に答えた。
「さすればわかるな」
「はい、このことは」
「ならばです」
「我等はその武を使い」
「長尾殿の攻めに向かいまする」
「兵のうえでは長尾殿は二万であるが」
幸村は兵の話もした。
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