FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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強き者たちへ
ウェンディside
激しいぶつかり合いを見せていたレオンと天海さん。その間に翼の生えた少女・・・ううん、あれは・・・
「シリル・・・」
真っ白な大きな翼を携えているのは、シリルそのもの。でも、彼の様子が明らかにおかしい。
「なんかシリルの奴・・・」
「様子がおかしくないか?」
それはジェラールさんとカミューニさんもすぐに気付いた。魔力が高いとかそういうことじゃない・・・彼の表情や雰囲気がいつものそれとは明らかに違う。まるで・・・
「天使の姿をした・・・悪魔のような感じだね」
「おい、一夜」
一夜さんの言葉を止めようとするジェラールさん。でも、彼の言っていることは正しい。それくらい、今のシリルは異様な雰囲気を醸し出している。
「あの魔力の感じ・・・レオンと互角・・・いや、それ以上か?」
冷静を装いシリルとレオンを見つめるカミューニさん。確かにシリルの魔力は、今のレオンですら凌駕している。
(でも・・・なんなの?この感じ・・・)
力は確かに上がっている。もしかしたら今のレオンもシリルなら倒せるかもしれないと思わせるほどに・・・それなのに・・・この違和感は何なの?
「シリル・・・」
その場から逃げることすら忘れて思わず手を握り合わせる。一抹の不安が拭えないでいる私は目を閉じて祈ることしかできなかった。
第三者side
(この感じ・・・妖精の心臓を手に入れたのか)
ティオスはシリルの姿を見てすぐに彼に何が起きたのか察した。そして、それだけの変化ではないことも。
「吹っ切れたようだな、シリル」
明らかに開いていた力の差が埋まったからではない。何か別の意味で、少年の心境に変化があったようだ。
「あぁ、さっきまでの不安がウソみたいだよ」
不敵な笑みで自身を見つめる少年。先ほどまで戦っていた時の雰囲気とは確実に違うそれに、ティオスの額から嫌な汗が流れる。
(信じられない・・・シリルにビビることになるとは・・・いや、それ以上に・・・こいつが妖精の心臓に手を出したことが驚きだ)
正義に染まっている彼ならば戦争の原因でもあり、危険な力を秘めている妖精の心臓の力を得てきた。今までの彼では考えられない選択にちょっとした違和感と共に、明らかに違う目の色に恐怖を感じる。
「お前の中で何が起きたのかは知らんが・・・俺の目的を邪魔しないでほしいな」
全ての人間を消し去ると息巻くティオス。そんな彼の言葉を思い出したシリルは思わず鼻で笑ってしまった。
「お前にもうそんな力はないだろ?レオン」
「何?」
シリルの口から出た言葉の意味がわからない。訝しげな視線を送るティオスに対し、足場を慣らしながらシリルは問いかける。
「そもそもお前の力で天海を倒せなかった時点でその計画は破綻してるだろ?」
最大の関門である天海を結局彼は最後まで仕留めることができなかった。彼を倒せなければ全ての人間を殺すという目的の根本が崩れてしまう。
「そうだな。俺自身の力であいつを仕留められなかったのは残念ではある。だが・・・」
地面を蹴り一瞬で距離を詰めるティオス。彼は体を一回転させながらシリルの顔面に蹴りを繰り出す。
「お前のおかげで楽になったよ」
ガンッ
完全に決まったと思った。しかし、ティオスはすぐに違和感に気づく。
「くっ・・・」
すぐさま距離を取ろうとしたティオスだったが、それよりも早く水を纏った拳が彼の腹部に突き刺さる。
「がっ!!」
抜群の身体能力を持っているティオス。彼の反射能力が対応できないほどのスピード。
「水竜の・・・」
怯んだ敵に一切の猶予も与えることはしない。口に魔力を溜めていくシリルを見て青年は翼で自らの体を覆い隠す。
「咆哮!!」
風を含んだ水の強烈なブレスにより漆黒の翼は瞬く間に飲み込まれた。
「これが妖精の心臓の力か!!」
水が晴れた中から出てきたのは無傷の青年。彼は翼から姿を現すと、真っ白な翼を広げている少年に飛びかかる。
「さすがにこれでは殺れないか」
攻めてきたティオスに反応して距離を取る。だが、ティオスの速度もなかなかのものであっさりと間合いに入られた。
「竜神の握撃!!」
至近距離から氷と水を纏った拳を繰り出す。それは見事にシリルの顔面に突き刺さった。
「竜神の・・・」
追撃のために足に魔力を込めるティオス。彼のパンチがクリーンヒットしてしまったシリルは動き出しがわずかに遅れる。
「蹴撃!!」
回し蹴りでさらなる打撃を狙ったティオスだったが、その攻撃は空振りに終わった。なぜなら、シリルが間一髪で回避したからだ。
いや、回避したというよりも、彼はそれ以上のものを狙っていた。
蹴りを打ち出すために片足立ち状態になっている青年の足元を崩すために、シリルは軸足を撃ち抜きにいったのだ。その結果がうまく作用し、ティオスの攻撃を回避することができた。
ガンッ
そしてその攻撃も見事に決まる。支えとなっていた足を崩されてしまったティオスはバランスを崩し転倒する。そんな無防備な彼に、シリルは着地して切り返すと次なる一手に出る。
「水竜の鉄拳!!」
今までの力を遥かに凌駕したパワーを込めた拳が倒れているティオスの腹部に突き刺さる。
「がっ!!」
地面との間にいる格好のティオスにこの一撃は大きかった。いかに天使の力を得てダメージを軽減できる彼でもシリルの手に入れた妖精の心臓の力の前にはそれも無力。
「竜神の・・・」
すぐさま次の一手に出ようとした青年だったがシリルはそれを読んでいた。口に魔力を溜めるその一瞬の隙に彼の顔を鷲掴みにする。
「水竜の盾」
「!!」
その手ですぐに水と風の盾を展開するシリル。彼の行動にすぐに危険を察知したティオスは溜めていた魔力を飲み込む。
「チッ」
攻撃をやめたティオスはヘッドスプリングの要領で起き上がろうとする。その際に目の前の少年の足に自身の足を絡める。
「うおっ」
体格差にはさすがに逆らえずひっくり返されるような格好になったシリル。空中で絡まった足を無理矢理ほどいた少年。二人は背が向き合う形で着地すると、すぐさま向き直る。
「水竜の・・・」
「竜神の・・・」
全く同じタイミングで同じ攻撃に撃って出る両者。魔力が溜まるタイミングも感じられる大きさも全くの一緒。
「咆哮!!」
「怒号!!」
同時に放たれたブレスは互いを打ち消し合い大爆発を引き起こす。黒い煙が晴れると、そこにいる二人は距離を取って睨み合っている。
「これが妖精の心臓の力か・・・すごいものを見せてもらった」
真っ白な神のような姿をした少年を見据えてティオスはそう呟いた。力は全くの五分・・・しかし、ティオスに焦りは一切感じられない。
「楽しかったよ、シリル。最後に面白いものを見せてもらった」
「あ?」
不敵な笑みを浮かべる青年に訝しげな表情を浮かべる少年。そんな彼を尻目に、ティオスの漆黒の翼が黒さを保ったまま、光を放ち始めた。
「シリル、これが君から受け継いだ最後の力・・・さぁ、大人しく眠るといい」
ティオスが封印していた最後の魔法・・・天空の滅悪魔法を解放した青年は鋭い眼光を光らせる少年を見下ろしていた。
後書き
お久しぶりです
全然ストーリーに入り込めずに書いては休んでを繰り返してたらこんなに間が空いてしまいました。
さて、いよいよラストバトル最終局面です。
残り少しですが、またゆっくりと頑張っていきます
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