魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第221話「抗いの光」
前書き
現在の優輝は通称“ヒュンケル状態”(詳細はダイの大冒険で検索)になっています。
神界という特殊条件下とはいえ、これ以上ないぐらい体を酷使していますからね。
容赦なく結界内の者を光が包み込む。
強烈な、しかし眩くない暖かな光が満たされる。
その光に押されるように、結界に罅が入っていく。
「ぇ……あ……!?」
「ぁ、ぁあ……ぁぁぁ……!?」
光が治まっていくと同時に、優輝の目の前から怯えに満ちた声が聞こえた。
優輝が目を向ければ、司と緋雪を筆頭に、信じられないと言った顔をしていた。
「そん、な……あたし達、は……」
“カラン”と、葵がレイピアを落とす。
同じように、司や緋雪も己の武器を手放し、当のデバイス達も待機状態になった。
「ッ……!」
「治療を……!」
即座に対応したのはとこよとサーラだった。
自分が寸前までやっていた事に対する記憶と動揺はあった。
それでも、まずは目の前の優輝を治療するべきだと判断したのだ。
「っ、どうして……!?」
「治療が、効かない……!?」
しかし、二人が行った治療はどちらも無意味に終わった。
「……当然、だ。これは“代償”として定義して、背負ったんだ。……傷を治そうとした所で、支払った代償は戻らない」
「っ……ぁ……」
絞り出すような優輝の応答に、司達は膝から崩れ落ちた。
慕っていたから、好いていたからこそ、自分達が傷つけた事がショックだった。
「ごめん、なさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「………」
譫言のように謝る者。
言葉を失い、ただ呆然と優輝を見つめる者。
反応は様々だった。
しかし、共通して自分がやってしまった事に酷く後悔していた。
「……結界が、崩れる……」
優輝の下へ、離れていた者も集まって来た時。
優輝が気づいたように言った。
「さっきので……」
軽くはないが、比較的ショックが少ないとこよやサーラなどが見回す。
優輝達を隔離していた結界には多くの罅が入り、今にも割れそうになっていた。
すぐさま、とこよとサーラを中心に、プレシア、リニス、クロノ、ユーリを除いたディアーチェ達エルトリア勢、アインス含めたヴォルケンリッター、まだ戦闘が可能な式姫達が陣形を展開する。
同時にとこよが指示を出し、久遠と神夜が戦闘不能及び傷心中のメンバーを集めて優輝ごと守るように防御に徹した。
「くそっ……!」
心底悔しさを滲ませた悪態が、神夜の口から出る。
何も抵抗出来なかった。その事が堪らなく嫌だったのだ。
「………結界が消えるまで、僅かばかり時間があるな……」
結界は、先程の光が淡く残っており、それによって割れそうになっている。
しかしながら、完全に崩壊するにはまだ猶予があった。
「……緋雪」
「ひっ、ぅ……」
再び狂気に呑まれ、狂気の赴くまま優輝を攻撃した。
その事による罪悪感で、名前を呼ばれた緋雪はびくりと肩を揺らす。
「……司」
「っ、優輝、君……」
司も同じように怯えの色を見せていた。
親友であり、好きな人を傷つけた罪悪感が、心に重くのしかかっていた。
「……奏」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいゴメンナサイゴメンナサイ」
奏に至っては、壊れかけていた。
ショックと罪悪感によって、ただただ謝罪の言葉を繰り返していた。
「椿、葵」
「ッ……」
「優ちゃん……」
椿と葵は、他に比べて若干堪えていた。
それでも辛そうに優輝の名前を呼び、見つめていた。
「…………」
五人の様子を見て、優輝は周囲を見渡す。
五人以外にもショックを受けて戦意喪失している者が多くいた。
一部は、先程の戦闘で満身創痍になっている者もいる。
「っ……」
「優輝……!」
行動を起こそうとして、優輝はふらついた。
慌てて、近くにいたアリシアが支える。
「……、っ……喝ッ!!」
「ッ!?」
支えてもらった優輝は、一度深呼吸してから一喝した。
ボロボロの体では、それをするだけでも吐血してしまう。
それでも、優輝は皆に耳を傾けさせるために大声をあげたのだ。
「……ショックか?罪悪感か?ああ、確かに酷く重く、そして辛いものだろう。……信じたくないだろう」
「………」
涙を浮かべたまま、緋雪や司が何事かと視線を向ける。
同じように、奏達も視線を集中させた。
優輝達を守るように陣取っていたとこよ達も、耳を傾ける。
「……だけど、そうやって圧し潰されそうになって、何になる」
「っ、ぁ……」
血の気が引くかのような、冷や水を掛けられたような気分だった。
まるで突き放すような言葉に、ショックが上乗せされる。
「(……お兄ちゃん……)」
その中、緋雪だけは少し違う思いを抱いていた。
今の優輝の態度に、見覚えがあったからだ。
「(……導王としての……)」
それは、在りし日の導王としての優輝……否、ムートと同じだった。
“王”として振る舞う姿が、今の優輝と酷似していたのだ。
「……慰めが欲しいか?叱責が欲しいか?それとも、恨み言でも言われた方が楽か?……そんなのお断りだ」
「で、も……!」
“そう言われても割り切れる訳がない”。
そう司は涙ながらに訴える。
「……気にするなとは言わない。罪悪感を背負うなとも言わない。でも、足枷にはしないでほしい。圧し潰されそうになっても、乗り越えて欲しい」
言葉を発する口の端から、血が漏れる。
今の優輝は喋る事すら難しいはずだ。
それなのに、はっきりと、聞こえるように発言を続ける。
「―――僕は、信じてるから」
「ッ……!」
その言葉だけで、緋雪達はハッとした。
否、厳密には、その言葉を言った優輝の目を見て察したのだ。
「……今更だけど、皆に頼らせてくれ」
「ぁ……」
優輝の口から、本心から“頼る”という言葉を聞いた。
今まで一人で突っ走っていた優輝が、誰かに完全に頼ろうとしているのだ。
「……来るぞ」
そして、結界が崩れる。
今までいなかった神々が、再び周囲に出現する。
「ッッ―――!?」
……それも、見計らったかのように、優輝達へ向けて極光を放ちながら。
「(嘘……!?)」
「(回避……いや、迎撃……!?)」
「(間に合わない……!)」
回避するには包囲されており、防御も迎撃も不可能な威力。
故に、どちらも間に合わないととこよやサーラ達は考え―――
「なのはぁっ!!」
「やっと、出番だね……!!」
―――ずっと息を潜めていたなのはが、それを覆す。
「なっ……!?」
「あれは……!?」
優輝達の頭上に輝くのは桃色の光。
“スターライトブレイカー”による、集束した魔力だ。
「性質変換……展開ッ!!」
―――“Starlight Salvation”
桃色の極光が、他の極光に包まれる前に優輝達を包みこむ。
「っづぅうぅぅううううううううう……!!」
「なのは……!」
「(無理もない。今までの戦闘で使われた魔力どころか、霊力も……そして理力すら純粋な“エネルギー”として集束して使っている。本来なら五体が砕け散る負荷だ)」
苦悶の声を上げながらも術式を維持するなのは。
身に余る力を扱っているため、それは当然の事だ。
「(……だが)」
「負け……ない……ッッ!!」
「“高町なのは”なら、やってのける……!」
一瞬。だが永遠に感じられる程の極光の嵐。
競り負ければその時点で敗北が決まる攻撃を、なのはは耐え続ける。
「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「耐え、た……?」
そして、光が治まると同時に、桃色の光も砕け散る。
中にいた優輝達は無事だった。
あれほどの神々の攻撃を、なのははたった一人で耐え凌いだのだ。
「馬鹿な……!?」
「人間一人に、防がれた……!?」
その事実に、神々や“天使”も驚愕していた。
あれ程余裕を見せていたイリスすら、目を見開いていた。
「如何にこちらから干渉出来ない理力と言えど、防御は出来る。……侮ったな神共」
満身創痍な状態で、優輝は不敵に笑う。
まだ足掻けると、まだ終わっていないと、笑って見せる。
「『どうやって……』」
「『……唯一、なのはだけは洗脳に耐えていた。それに気づいてからは、集束しているエネルギーごとなのはを魔法と霊術で隠していた』」
神々が優輝に警戒を集中させていたからこそ出来た事だった。
足掻き続ける優輝に注視するばかりに、なのはへの警戒を疎かにしていたのだ。
そのために、単純な認識阻害でなのはの存在を隠し通せた。
「さぁ……脱出するぞ……!」
「でも、出口は結界で……!」
相手にとって想定外の事態。
その絶好の隙を使って優輝は脱出しようとする。
しかし、出入り口を塞ぐ結界は健在だ。
それをどうにかしない限り出られないと、司が言う。
「司」
「……えっ?」
「……お前が、破るんだ」
直後告げられた言葉に、司は一瞬反応が遅れた。
「や、破るって……どうやって……」
「司は僕以外で唯一“格”の昇華が可能だ」
「でも、成功させた事なんて……」
結局あの時祈梨に止められて以来、司は“格”の昇華にチャレンジしていない。
祈梨が負担なく“格”を昇華出来たため、必要ないと皆思っていたからだ。
「“やってない”だけだ。失敗続きな訳じゃない。……大丈夫だ司。……信じろ、僕を。そして、何よりも自分自身の可能性を」
「っ……分かった……!」
優輝の言葉には不思議な力が感じられた。
その言葉に促されるように、司は覚悟を決めて祈りの力を開放した。
「っっ……!」
ジュエルシードも優輝の光で元に戻り、再び光を放つ。
“ぶわり”と司の周囲を舞い上げるように力が集束する。
「ッ、させません!」
「妨害こそ、させるか……!」
我を取り戻したソレラが行動を起こそうとし、先に優輝が牽制する。
放たれた剣と魔力弾に、思わず神々と“天使”は対処する。
一人も倒す事は出来なかったが、防御及び回避による隙が生まれる。
「他は司を守れ!仲間を、自分の可能性を信じろ!」
「ッッ……!」
再び優輝の言葉で不思議な力を感じる。
今度は司以外の全員にもそれは感じられ、それによって戦意が復活する。
「攻撃は依然通じない。だけど、防御は出来る。守る事に集中するんだ!」
「っ、了解!」
すぐに動いたのはとこよと紫陽だ。
霊術で多重に結界を展開し、僅かにでも防御力を底上げする。
遅れてシャマルやユーノが結界を展開して司を守る。
「満身創痍な身で、なぜ……!?」
「……その気になれば、ダメージの弊害は無視できる」
優輝と相対した一人の“天使”が動揺を滲ませるように言う。
その発言に背後へ回りつつ優輝は答える。
「……お前らも出来るだろう?」
「くっ……!死にぞこないが……!」
「っ、はぁああああああああ!!」
傷だらけの体に喝を入れるように、優輝は雄叫びを上げる。
そのまま、攻撃のために翳した“天使”の腕を蹴り上げ、続けざまの回し蹴りを叩き込んで神々の群れに向けて吹き飛ばす。
「(二度目……いや、三度目の“格”の昇華、そしてその後の宝具で、ようやく掴んだ……これなら……!)」
次々と襲い掛かる“天使”。
狙いは優輝だけでなく、司達の方へも向かう。
だが、直後に弾かれるように吹き飛んだ。
「……これが、理力か……!」
優輝の掌の上には、金の燐光を放つ光の玉があった。
その光の玉から“天使”達を吹き飛ばす力を放ったのだ。
「あれは……一体……?」
「まさか……!?」
その玉からは、魔力も霊力も感じなかった。
故に、それを見ていた緋雪達は首を傾げた。
対して、神々と“天使”は驚愕していた。
「会得したというのか……!?人の身で、理力を!?」
そう。本来理力は神界の存在にしか扱えないはずの力だ。
それを、優輝は人の身でありながら会得した。
原則としてあり得ないはずなのだ。
「……物事に、例外は付き物だろう?それに、可能性がない訳じゃなかった」
「っ……あの時の私の言葉ですか……」
優輝の言葉に、祈梨が苦虫を噛み潰したような顔をする。
“あの時”とは、祈梨が目覚め、優輝以外が神界の事について知らせに外出していた時の会話の事だ。
「“基本的に、理力を扱えるのは神界の存在のみ”。……まるで、以前にも神界の存在でなくとも理力を扱った者がいたかのような言い分じゃないか」
「……よく気づきましたね……その通りですよ」
祈梨は肯定する。
そんなヒントのようなものを与えていた祈梨に、他の神々や“天使”から若干非難の視線が集中した。
「ですが、悠長に喋っていてよろしいのですか?こうしている間にも……」
「攻防は続く……か?まぁ、防御のみなら出来るさ」
刹那、優輝の周囲にいくつもの衝撃波が走る。
優輝の理力と、相手の攻撃がぶつかり合ったためだ。
「理力同士なら、純粋な“力”のぶつかり合いになる。やりようによっては、防御だけなら数の差を埋める事も可能だ」
「………」
火花が散るかのように、優輝の周囲に衝撃波が走り続ける。
だが、それらは決して後方にいる司達には届かない。
優輝が全て途中で相殺しているからだ。
「……それに、僕だけに集中してていいのか?」
「……なんですって?」
「可能性は既に開かれている。……“主人公”を舐めるなよ?」
直後、金色の燐光を帯びた桃色の光が輝く。
その中心にいるのは、なのは。
「まさか、さっきの魔法の残滓を……!」
「魔力の再利用はなのはの十八番だ。……あいつはずっと諦めていない。不屈の心はまだ砕けていない。……その力を侮るなよ……!」
先程防御に使った魔法。
そのエネルギーの残滓を、今度はその身に集束させる。
限界を超え、その身に余るはずのエネルギーを、なのはは吸収する。
「レアスキル“集束”。……その完成形の一つだ」
「ッ………」
負担がない訳じゃなく、なのはは僅かに顔を顰める。
だが、それもすぐに収まり、優輝に視線を向けた。
その視線に応えるように、優輝は小太刀を二振り、槍を一本理力で創造し、それらをなのはに投げ渡した。
「今の僕が作った武具なら、“格”が足りない皆でもお前らに通じる。……覚悟しろよ?今の高町なのはは、ちょっと怖いぞ?」
「……ッ!!」
「な、ぁ!?」
刹那、一人の“天使”が切り裂かれる。
あらゆるエネルギーを集束し、吸収したためにかなりの身体強化がされている。
その強さは、並みの“天使”や神々では反応しきれない程だった。
「守るための御神の剣。本領発揮だ」
武器での攻撃以外は、相変わらずすり抜けるため、殲滅力は大きく欠ける。
しかし、“白兵戦が可能”というだけで、戦況は大きく変わる。
「(攻撃をさせない。先手を取って、牽制する……!)」
圧倒的な速さで、次々と“天使”を切り裂く。
一撃で倒せるはずもないが、それだけで攻撃の手を遅らせる事が出来た。
中には防御及び回避からの反撃を行う“天使”もいたが……
「ふっ!」
御神流を兼ね備えたその剣技に、すぐに敗れた。
「なのは、凄い……」
「単純に速度が上がってるだけじゃない……状況判断も上手くなってる……」
フェイトとアリシアがなのはの戦いぶりを見て、思わずそう呟く。
言葉にしていないだけで、二人以外も同じような事を考えていた。
「……私も……!」
「奏?何を―――」
そんななのはに触発されたのか、対抗するように奏も行動を起こす。
アリサが呼びかけるのも聞かずに、魔力結晶を手に握り、砕く。
直後、ディレイを使って一気に移動する。
「っ……!」
その時、さすがになのは一人では凌ぎ切れないためか、体勢を崩す。
本来なら誰かがフォローに入る所だが、優輝は動かない。
「ッ!!」
「奏ちゃん……!?」
そこへ、奏が割り込んで攻撃を受けて逸らした。
優輝はこうなる事が分かっていたために、動かなかったのだ。
「ッ、人間が……!」
「どうした?ついさっきまでの余裕はどうした?」
「しまっ……!?」
「少し想定外が起きただけで、随分と焦っているな……!」
無論、何もせずにいた訳ではない。
神々や“天使”の内、動揺した者に対して理力をぶつけていた。
相殺にリソースを割いていた理力のため、一部の攻撃が司の方へ向かうが……
「させない!」
「防ぎ切ってみせる……!」
戦意を滾らせ、複数人で協力して防ぎ切る。
「優輝さん……」
「これを使え。……凌ぎ切るぞ」
「……はい……!」
奏は優輝の方を見つめ、優輝が理力で創った二刀を奏に渡す。
これで、奏の斬撃も通用するようになった。
「なのは……!」
「……ついて来れる?」
「当然……!」
短い会話の直後、まるで瞬間移動したかのように、二人は動く。
絶妙なコンビネーションで、次々と“天使”への牽制を成功させていく。
「司!」
「ッ……!」
一方で、司達もまた頑張っていた。
ひたすらに祈る度に、ジュエルシードの輝きが増していく。
「(何度も見た。実際に経験した。……それを、“祈り”で再現する……!)」
“格”の昇華は、生半可な事では出来ない。
そもそも、理屈で手順を踏む事が不可能なのだ。
故に、感覚と経験で実行するしかない。
「(届かせる、あの領域へ。手を伸ばせ、この状況を切り抜けるために……!)」
その決意が強い祈りとなり、力となる。
ジュエルシードが眩い程の光を放ち、司を包み込む。
「防げ!」
「守り切るんや!」
呼応するように、他の者も奮い立つ。
クロノとはやての声が響き、それぞれが防御魔法を多重展開する。
優輝が相殺しきれなかった流れ弾を、全力で防ぎにかかる。
攻撃としてではなく、防御として術を放つ事で、何とか凌ぎ切る。
「我に力を!絶望を祓う光を与えん!!」
―――“天まで届け、我が祈り”
司を包んでいた光がさらに一際強く輝き、そして司の中へと吸い込まれた。
その瞬間、司を含め、見ていた全員が“変わった”と確信した。
「はっ!」
確かめるように、司は魔力を放出し、出入り口を塞ぐ結界に当てる。
本来なら、それはすり抜けるはずだったが……
「破れてない……けど、当たった」
“格”の昇華は成功しており、確かに結界に命中した。
それでもびくともしない程、その結界は頑丈だったが。
「今度は破る……!皆、もうひと踏ん張りお願い!」
「了解!」
「これを凌ぎ切れば……!」
魔力を集中させながら、司は皆に守ってもらうように言う。
何をすべきか、今更説明するまでもない。
全員が守りの体勢に入る。
希望が見えてきた事で、さらに戦意が高まっていた。
「………」
その状況を面白くないと見る者がいた。イリスだ。
ここに来て想定外の足掻きを見せた事で、予定が狂った。
その事が心底面白くないのだ。
「……蹂躙しなさい」
ただ一言、指示を出した。
直後、抑えられていた力が開放された。
「―――ぇっ?」
それを真っ先に感じ取ったのは、“格”の昇華によって理力の感知が可能になっていた優輝と、司だった。
「……今までのは、遊びだったの……?」
集束させている力が弱まる。
それほど、今まで神々が手加減していた事が衝撃的だったのだ。
「………」
対し、優輝はそこまで慌てていなかった。
まるで、予想していたかのように。
「(他の感情に囚われるな。今、最優先すべきは皆の脱出。そのために戦う相手はイリスじゃない。……祈梨だ)」
否、“ように”ではなく、していたのだ。
相手は領域外の神。故に、“この程度ではない”と、優輝は確信していた。
それが事実になった所で、驚愕には値しない。
「ッッ!!」
尤も、驚愕しない事と苦戦しないかは別問題だったが。
「(根本的に力が足りない。理力が扱えた所で、敵う訳じゃない!)」
圧倒的な理力の圧力と、“性質”による力の奔流が優輝を襲う。
何とか理力の障壁で直撃を避けるが、余波が他の者を襲った。
「くっ、ッッ!」
「速い……!」
なのはと奏も、連携を取る二人の“天使”に後退させられる。
今までと違い、強い且つ連携を取れる“天使”だったため、苦戦していた。
「(右腕と左足を補填している事も火力不足に繋がるか……)」
優輝は代償によって傷だけでなく右腕と左足を失っている。
利き腕ではないだけマシだが、有るのと無いのではかなり差がある。
そこで、創造魔法と理力の組み合わせで仮の腕と足を使っていた。
リソースを割いている事で、理力の出力が足りないのだ。
「(そもそも、僕はまだ人間だ。人の身では、理力はそう多く出せない。多勢に無勢どころか、質も足りていないのが現状だ)」
神々の攻撃を何とか凌ぎ続けるが、ついに吹き飛ばされてしまう。
前線が崩れれば、なのは達も無事では済まなくなる。
そのため、結果的に後退してさらに追いつめられる形となった。
「ッ、緋雪!!」
「ッッ!!」
「くっ、気づかれましたか……!」
優輝が後退した隙を狙ってか、司の下へ向かう神がいた。祈梨だ。
咄嗟に優輝は理力の剣を飛ばし、緋雪へ呼びかける。
緋雪はすぐにその意図を理解し、避けられた剣をキャッチして切りかかる。
「結界さえ破ればいい。……凌ぎきれぇっ!!」
魂からの咆哮が、全員の心を揺さぶる。
相手が手加減していた?それがどうした。
そう言わんばかりに、闘志を絞り出し、燃やす。
「ふっ!」
「ッ、皆!」
近接攻撃だけでは緋雪は祈梨を抑えきれない。
そのため、一瞬の隙を突いて祈梨が砲撃を放つ。
「させない!」
「防げ……ッ!」
「ぉおおおおおおおおおっ!!!」
全力を以て、各々が防御魔法を重ねる。
防御が得意ではないものは、攻撃を防御として使い、防ぎにかかる。
「ッ!」
「ぁっ……!」
だがしかし、防ぎきれない。
威力は軽減させたが、余波が未だ司の祈りを邪魔する威力だった。
「ぬぅううううっ!!」
「させねぇっ!!」
咄嗟に、防御力の高いザフィーラと神夜が割込み、司を守る。
「ぐっ……!」
祈梨だけでなく、他の神々や“天使”達も邪魔しようとする。
だが、優輝となのは、奏が食らいつき、それをさせない。
「……そう来ましたか。ただ庇うだけでは手が足りない。……故に、対処できる自身に集中させましたか」
イリスも何もしていない訳ではない。
再び洗脳をしようと、“闇”を放っていた。
だが、弱い“闇”では優輝が放った宝具に打ち消されていた。
そして、強い“闇”は優輝に吸い込まれるように集中していた。
可能性と因果を導き、強い“闇”であればある程吸い寄せるようにしたのだ。
「ぐっ、づ……ぉあっ!!」
「まだっ……!」
「負けない……!」
防ぎきれなくなった攻撃を、その身を挺して受け止める優輝。
何度も吹き飛ばされ、決して小さくない傷を負いつつも、致命傷は避けて食らいつき続ける奏となのは。
満身創痍になりつつも、その圧倒的物量をギリギリで止めていた。
「皆が繋いだこの一瞬……絶対にモノにして見せる!!!」
そして、その一連の流れが、さらに司の祈りを強化する。
“格”の昇華に続き、“絶対に切り抜ける”と言う強い意志が集束していく。
「束ねるは諸人の祈り……貫け!!」
―――“Prière comète”
彗星の如き極光が、司から放たれる。
「まずっ……!?」
「はぁっ!」
咄嗟に妨害しようとする祈梨だが、させまいと緋雪が剣を振るう。
そんな、刹那のやり取りの直後、結界に極光が激突した。
―――その結果は、ガラスが割れたような音と共に知らされた。
後書き
Starlight Salvation…“救済の星光”SLBとして集束させたエネルギーを、防御のために展開するなのはの防御魔法。エネルギー内に入る事で、周囲からの干渉を全て受け付けなくする。
天まで届け、我が祈り…天巫女としての力をフルに使い、“格”の昇華を実現する“祈り”。名前は祈りと顕現のフランス語(を適当に読んだもの)。
Prière comète…“祈祷彗星”。“格”を昇華し、意志を集束させ、祈りを束ねた砲撃魔法。彗星の如く放たれたソレは、司の魔法の中で最大火力を誇る。
唐突に優輝に出来る事(可能性と因果の導きなど)が増えていますが、一応理由はあります。判明するのも割とすぐなはずです(次回~次々々回あたり)。
なのはの覚醒状態には名前はありません。一応、考えてはありますが飽くまでそれは“完成形”なので、未完成の今は名前がないという訳です。
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