魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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Duel:11 日立郷(ヒタチサト)
――side響――
空を蹴って疾走し、両手に持つ刀を振っては背後から飛来する矢を叩き、落としていく。
分かっていたこととは言え、狙いは寸分違わず全部頭だ。しかも、こちらの攻撃速度とほぼ同等で射出される矢。分かりきっていたとは言え……流石だと、自画自賛を贈ろう。
時雨の弓とは違い、戦術的な攻撃とは違う真っ直ぐな殺意。奏の弾幕とは違う一撃必殺。
あれは……間違いなく、俺ならこうする。というのを体現して見せている。
羨ましく思う反面。コレを選んだ意味を分かるからこそ……辛くて重いんだ。
だから……。振り返ると共に、刀を納め。逆手で抜き放つ。抜き打ちの斬撃の射出。
が、振り返ったと同時に目を疑った。
ボウガンから、一本のロングライフルに変形させ掲げ、振り下ろすと共に射撃。完全に虚を突いたと思ったが、逆に読まれていたらしい。
狙い易い矢から、貫通力の高い魔力弾へと切り替わり、射出した斬撃と打つかるが簡単に撃ち抜かれた。
―――通用するわきゃないわな。
分かってたことだ。だが、同時にこの戦いが……いや。やめよう、生きるか、死ぬかのこの瀬戸際で。そんな事を考えてる場合ではない。
こうしている間にも弾丸は俺を貫こうと接近しているのだから。
だが、お前も俺なら分かるはずだ。この程度ならば、狙いがわかり易すぎるのならば。対処は簡単だと。
右の刀を収め、左の刀を逆手に。目指す先は、弾丸の先。コレを放った主のもとへ。
逆手のまま、刀を振り上げ体勢を低くすると共に、一気に踏み込み爆ぜるように飛ぶ。
瞬間、左手に衝撃が奔り、火花で一瞬明るくなったのが見えた。
やはりそうなのか、と。再認識すると共に弾丸を弾き、納めた刀に手を伸ばして、再度斬撃を撃ち放つ。
しかし、意に介さずにアイツは銃を持った腕を振ったと思えば。右腕に槍を……いや、槍斧を振り上げると共に、左腕に召喚した鉄球を前へと落として、コレを殴りつけ射出。
コレで5人分か。なんて考えてる内に、斬撃と激突するもその重さと勢いでそのまま抜いてくる。
鉄球を避ければおそらく先回りされる。ならば、と。逆手から普通に刀を持って、納めた刀も抜いて。正面から斬り掛かると共に、その進路を僅かにずらして受け流す。そのまま、もう一度踏み込むと、あちらも同様に踏み込み鍔迫り合い、駆けていく。
――sideサト――
一瞬大きく払い、二刀を大きく引き離す。柄の半ば持って、連続の刺突と、斬り掛かるような斬撃を交互に織り交ぜていく。手数はあちらのが上。だが、一撃の重さならばこちらが上。
だと言うのに、武器が打つかる度に火花が散るが。お互いに有効打は取れず、紙一重で防護服だけが削られ、間一髪で和服を削るのみ。
分かっているのに。どう動くか分かるというのに。こちらは攻撃を徹す事が出来ていない事が悔しくて、嫌になる……ッ!
しかも、今の状態では出来ない機動が……加速減速からの機動のブレ。それがとても眩しくて。羨ましくて……。
もう違うんだなと、否が応でも思い知らされる。
だが、それでもまだアドバンテージはどちらにもない。そう考え、削り合いを続けてゆく。
目をつぶっても攻撃は躱せる。勝手知ったる動きで、こちらならこうすると考えれば避けれるのだから。だが、それ以上に、こちらは一秒でも早く皆の武装を十全に扱えるようにならなければ。
分かっていたが、動きは読めても、現時点で扱えず削るのは困難で、このまま行けば……間違いなく手数で抜かれてしまう。ならば一点にしぼり、突き抜こう。
斧の部分を無いものと考え、槍の機能のみを使い、一気に突き出す。
すると、それに合わせて瞬時に右の刀を逆手に持ち替え、槍の機動を逸し、掠りながらも前に来る。左の刀を滑らせるように振りこんで来る。
―――しまった。
と考えるよりも先に、体が動いた。接続された鎖を一気に引き寄せ、その先端に接続された鉄球を手元に戻して、その刀を受け止めた。重い鉄球で受け止めた事により、アイツは一瞬下がった。受け流すことも、逸らす事も出来ずに正面からかち合った事により、手が震えたのを確かに見て、距離が開いたのも確認した。
ならばこそ。
両椀の武装を解除して、左腕に長銃を呼び出すと、今の感情が表現されているように銃口からは魔力が溢れ出ているのが分かる。
そのまま、銃をアイツへ向けると。悔しそうに歯を食いしばっているのが見えて。
黒い感情がこみ上げて、視線が赤く染まる。
―――こんなにも、何が違ったんだ?
直後にトリガーに指を掛け。
だが、不思議な声がまた聞こえた。
(私を使って下さい。主!)
不思議と懐かしい声だが、何処から聞こえ、使うとはどういう意味だ? と考える。それは直ぐに分かった。
「結べ」
聞こえた言葉と共に、トリガーを引き絞った。
直射砲が空気を裂いて行く中で、黒い稲妻と共にアイツの格好が代わった。見知った赤い和服の上に、桜の花びらを散らした白銀のマフラー。そして、腰には白塗りの刀。良く見たその刀を見てようやく理解した。
だけど……それが、何だって言うんだ。お前と共に居るのが再認識した。だが、もう……トリガーは絞られた。アイツが踏み込むより早いこの一発。如何に早くとも避けることも逸らすことも出来ない。
でも、あの子諸共だと考えた時、冷や汗が流れたのがわかった。
僅かに目を逸した瞬間。
「割天」
アイツを中心に、直射砲が真っ二つに避け、快音が響いた。白銀の魔力が飛散し周辺を照らす。僅かに行動が鈍り後退ってしまった。その隙を逃さずアイツは動くが。白銀のマフラーも、三本目も無くなってるが見えて。わからなくなった。
何故、このタイミングでそれを解除したのか、と。
でも、向ってくる以上。そんな事は些細な問題だ、アイツの動きに合わせてこちらも前へ出る。銃を消して、槍斧を出すと共に真横に振り抜く。
アイツも、逆手で両方にも刀をもち、抜くと共に正面からこちらの攻撃を受け止める。一瞬の膠着からの、左腕に力が入っていないのを利用され、意図しないタイミングで抜けられた。
わずかに体勢がずれると共に、お前ならば、と。アイツが背後を取るのを見越して槍斧の柄尻を叩き込む。
だが、気づいてしまった。この動作が読まれていたことを。叩き込んだ柄尻が空を切ると共に、衝撃が一つ。そして、もう一つ来たと共に削音が聞こえた。
赤い視界で、アイツを見据えて……なんとも言えない感情が込み上げてくるのが分かる。何方にせよ望みは達せられる。だが、まだだと。まだ、やれるだろう、と。
槍斧を直すと共に、両手に違う武装を取り出す。
視界が更に赤黒く染まる。
だが、まだ、まだ行ける。やれるんだ。
左に出現させたチャクラムを真っ直ぐ奔らせるように射出し、右の拳銃刀の銃口をチャクラムへと向けて―――ありえないものが見えて、動きが鈍る。チャクラムを地面に縫い付けるように双剣が突き刺さった。
こちらの知らない武装をまだ持ってる? だが、そんな事は……。
「待っっったあああぁああ!!」
ありえない人物の声が聞こえて、動きが止まる。
もうバレたという事。そして、あの子が……流がここに居るのなら、震離の到着もそう遠くはないだろう。
ならば、と。
拳銃刀を構え突っ込む。槍斧とは違い、幾分かは使い勝手は良い。
身体強化に比重を置いて、全身の力を持って二刀の刀と斬り合う。長刀故に大きく引いて、振り切るのに時間は掛かるが。速度よりも重さと力で二刀の手数に対抗していく。
「何で……っ! 双方、攻撃を止めて下さい! この戦いに何の意味があるんですか?!」
お互いに視線が流の方に向く。こちらの知らない武装で、こちらに狙いを定めているのが分かるが……。
あの子ならば撃てるわけが無い。
そう考え、目の前のアイツと斬り結んでいく。二刀が閃き弾かれるのに対して、長刀がその手数によって押し止められる。
こんなにスタイルが違うというのに、拮抗してるのがこんなにも■■■。
「止まる気がないのなら……ッ! 穿て。アンサラー!!」
『Jawohl.』
流が叫んだと共に、腹部に重い一撃を受けたと把握し、理解した。
衝撃と爆風で身を飛ばされ、体勢を整えても。腹部に奔る痛みで全身が震えている事から決して軽いダメージではない。
自然と視線を、さっきまで斬り結んだアイツに向けて。自然と傾く。
震える体を無視して体勢を立て直し、流を見据えて。
―――邪魔をするなら、先ずはお前からだ。
何方が言ったか分からない。それ程までに重なっているように聞こえたから。
こちらの言葉を受けた流は、信じられない物を見るかのように。
「……んの、分からず屋!!」
声と同時に突っ込む。大きな砲が二門向けられ撃ち放たれる。あたるわけには行かず、機動を駆使してコレを躱す。もう一度当たれば、今度こそ意識を持っていかれると分かっているから。
その間に、小さな砲門を両手に持って接近戦の用意をし終えた。
同時に、■■■もあった。
ブレイブデュエルで戦う流は。嘗てのスタイルの長剣長銃のスタイル。今のスタイルは違うというのは知っていたが、こんなに違うのだと。そう考えると。
■■■て、こんなにも■■なったんだと、心から……■■■。
流の懐まで踏み込んだと同時に斬り掛かる。が、即座に右の銃身で受け止められる。その一瞬の隙にアイツは背後に回り込むのが見えるが、流もそれを読んでいたように。右の肩越しに銃口をアイツへ向け、同時に銃弾を放ち。
「ぅ、ぐ……」
声が聞こえた。苦悶の様な、痛みを堪えるような。信じたくないものを見るような、そんな声が。
こちらの放った弾は、流の銃口を捉え大きく弾いてその狙いを大きく狂わせていた。
そして、アイツの拳が流の腰に撃ち込まれている。上手いモノで、衝撃を叩き込み、痛みこそあれど後に残るようなことは無いだろう。だが、その衝撃の影響で、流の動きは止められた。
「……何、で?」
ほんの僅かな静寂で、問いかけられる言葉にこちらも、アイツも何も答えない。そして、もう一度衝撃を叩き込むと共に、流の小さな体が吹き飛んでいくのが見えた。
これ以上邪魔をされないように、と。流の吹き飛んだ方を見据えて拳銃刀を構え、魔力を込めると共にトリガーを引く。直射砲が放たれるのを確認したと共に、即座に刀部分でアイツへ斬り掛かる。
先程と同じ展開で、繰り返しだ。
だが、それでは■■■■。それでは、意味がない。アイツよりも上へ行くためにはコレではダメだと。
更に魔力を流し込んで力を強く、更に大きく弾き返す様にしていく。
直撃は弾き、当たりそうならば少し体をずらし逸らす。大きく体を振って、全身を振り回して。
―――俺はアイツに■■んだ、と!
「おおお……っ!」
更に苛烈に、アイツが速度を上げれば、こちらが力と重さで詰める。二刀の切っ先が胸を首を掠っていく。その刀と鍔迫り合うに合わせてトリガーを引いて、アイツを撃つが、頬を撫でるばかりだ。
―――楽■■! ■しい!
視界が赤い部分が減ってきた。コレで少しは見やすくなった。
必殺に近い剣戟に、隙などある訳が無い。刃が触れ合う度に飛び散る火花も、一瞬たりとも掻き消えることはなく、ずっと俺達を照らしている。
もう腕も限界に近い、これ以上速度を上げられると抜かれてしまう。
それが意味するのは、正真正銘の正面からの■北だという事。魔力量で■け■わけでもない、特別な要因で負■■わけでもない。純粋な■敗だ。
おそらく決着が着くとすれば……おそらくそれは刀ではなくて―――
「……も、う。やめてください。主ぃいい!!」
子供のような、悲鳴の様な声と共にアイツの動きが刀が鈍るのが見えた。その一手を逃さず、大きく弾いて。それと連動させた左の拳を胸に添えて。
徹す。
衝撃を通した。否、通してしまった。
直後にアイツが血を吐くと共に正面に立つ俺に寄りかかると共に。
「……勝っ……たんだか、ら。せめて、笑え、よ……」
血を流しながら、血を吐きながら。アイツは笑う。楽しさと悔しさが滲んだ……この顔を俺は知ってる。優夜や煌、紗雪、時雨との勝負に負けた時に。俺はよくしていたんだから……。
ずるり、と前のめりに倒れるように地上目掛けて墜ちてゆく。
待ってくれ。
いや、何時からだ?
アイツを殺すではなくて、何時から変わった? 何時からそれを認識できなくなっていた?
何時から、死ぬために戦うのではなくて……何時から、勝ちたいと願ってしまった?
体が震える。腕が自分のものではないように云うことを聞かず、大きく震える。
「――――――ぁぁぁ」
違う、違う、違う違うちがうちがうちがうチガウチガウチガウチガウ。
こん、な。アイツなら、俺を葬ってくれると分かっていたから、だから。アイツなら、俺をアイツラの元へ送ってくれると信じてたから、こんな勝負をしかけたのに。
あの日何も出来なくて、ただ流されるだけだった俺を殺してくれる筈の、唯一の人物なのに。
アイツを殺しても、ただ何もならないのに、何故……俺は、自分は、私は、
「ああぁぁぁあぁあああああああああああ!!!!!!!」
分からなくて、ただ叫ぶことしか出来なかった。
――side流――
「……も、う。やめてください。主ぃいい!!」
そこで意識が覚醒した。次に感じたのは腰に奔る痛み。見えたのは、大粒の涙を流してる花霞の姿と―――
サトさんの徹しを受けた響さんの姿だった。
いや、それ以上に……不味いものが見えてしまった。
「は……ゲホッ。はな、直ぐに響さんとユニゾン。魔力で止血と、回復魔法を」
「へ、あ……流さま。わた、私……」
私に気づいた花霞がこちらを向く。だけど、その様子は、見るからに大丈夫ではない。おそらく自分の叫びで響さんの動きが鈍ってしまったことを理解してるんだろう。
「大丈夫。でもね花霞。貴方が響さんを救わないと死んでしまう。ならば、分かるね?」
「……え、ぁ……」
じっと涙で濡れた花霞の瞳を見る。不安そうなのは変わらない。だけど、徐々に力強さが戻ってきて。
「グスッ……はい、行ってきます!」
「うん。お願いね」
弾けるように飛んで行く花霞を見送って。直ぐに。
「アンサラー、フラガラッハ。行って!!」
『『Angriff.』』
地上に墜ちた剣と、砲身を直ぐに可動させると共に、空へと向かわせる。私もその場所を目掛けて飛翔を開始するけれど……ダメージが思ってた以上に重くて、ガタガタと体が震えているのが分かる。
だが、そんな事はどうでもいい。今、この時にやることはただ一つ。今はサトさんを―――
『Panzerhindernis.』
月夜の空を、雷光が煌めくのが見えた。
―――流石に、疾い。
思わず舌打ちをしてしまう。ただでさえ調子は宜しくなく。まだまだ不完全なこの身だと言うのに……。まさか、この人を止める事になるとは。
「流。退いて!」
「お断りします。今、その人の身に何かがあれば困りますので……止まってもらいますよ。フェイトさん!」
さぁ、今の私に……何処までやれるかな?
――side震離――
『前方から接近する車両はありません。このままで行けますよ』
「あいよ」
猛スピードで門を潜って、ドリフトの勢いで旅館の駐車場に停めまして……っとぉ!
「よっしゃ。で、スカさん大丈夫?」
ついたと同時に扉を開けて軽く背伸びして。私の後ろに座ってたスカさんに声を掛けると……。
「は、はは、ははははは。へ、平気だとも。ちょっと新しい世界が見えただけさ。勿論?」
うわぁ。メッチャ無理させたわぁ……申し訳ないなぁと思う半面仕方ない無いと言うか。
「ごめんなさい」
「いやぁ、平気だとも。気を落とさないでおくれ」
はははと笑うスカさんってば、ホント凄いわぁ。さ、冗談もそこそこに。
なるほど、うまい具合に反応を消してる。私達が気づいたのは物理的に近づいたから否が応でもわかっただけだろうし……ここからだと全くわからないね。
座標も覚えてる。私ならすぐに飛んで。いや、その前にやることをしないと。あっちは流に任せてるんだ。
「震離!」
突然名前を呼ばれて驚いた、けど、その声の主にもっと驚いて。
「……はやてさん」
「震離! 響とはな、フェイトちゃんと奏が居なくなったんや。しかも後者二人は飛んでどっかに行ってもうた! なんかしらへんか?」
パタパタと旅館側から走ってやってくるはやてさんを見ながら、車の後部座席が見えないように立ち直す。見られても問題ないけれど。もし面倒事に発展したらそれはそれで面倒だし。
それに、二人も飛んでいったということは、私達よりも先に気づいた? だが、あの時点では二人だけ反応が合ったわけだし……。
これは……。
「ここに来る途中に反応を拾ったので流がそちらに向っては居ます。が、フェイトさんと奏は分からないです。少なくとも反応を拾った時には二人だけでした」
「じゃあ、あの二人は別件で飛んだ? いやちゃうな……震離。何を隠しとる?」
ピリッと空気が変わるのを感じる。おそらくこの瞬間から、はやてさん。ではなく、八神部隊長として物事を考えているんだろう。下手なことを言えば更に面倒になる……が。
「まだ。言えません。ですが、一つだけ謝罪と、伺いたいことがあります」
「……ええよ。聞きたいことってなんや?」
チラリと、車の後部座席に視線を送って。スカさんと目が合う。何となくでも意図を察してくれたらありがたいし。
「……はやてさん達の世界の響の来歴を聞きたいです」
「……はい?」
カクンと首を傾げるはやてさん。一気に空気が柔らかくなったけれど……。それと同時に車の後部座席が開いて。そこから出てきた人物を見て、はやてさんの顔が驚愕に染まる。
「……な、あ……あんたは!」
「やぁ。始めまして。平行世界の八神君。私がこの世界のジェイル・スカリエッティだ」
接触は不味いと考え、思い込んでたこちらのミスだ。本当は会わせても問題なかったはず。だからこそ……。
「私と流が知ってる響と、はやてさん達の世界の響、そして、スカさんが持ってる記憶の中の響の時期をすり合わせましょう」
「……すまん震離。それが、何になるって言うんや? 納得行く説明をしてもらわんと」
「……直ぐに終わりますよ。シンプルな事ですから」
心臓が嫌に煩い。ここ数年こんな事なかったのに、気分が悪くなってくる。
どうか事実であってほしいと願って。
「……地上本部が襲撃されたあの日。敗北したあの日、攫われたのはヴィヴィオと――奏でしたよね?」
はやてさんの目が見開くのが見えた。その反応と共に、目の前が滲んで涙が零れ落ちる。
「……震離、血が……涙か、それ?」
「……えぇ。私人じゃないですから。普通に涙は零せないんですよ。
でも……そっかぁ。
私達を知ってる人にまた会えた事が嬉しくて、帰れるかも知れないって喜んで……そっかぁ。
こんなにも近いのに、こんなにもまだ遠いんだぁ」
分かってる、分かってるよ。誰も悪くないよ。だけど、今知れてよかった。もし、その事実を確認せずに、はやてさん達の世界へ行った日には……きっと後ろ髪を引かれて旅に出るのが難しくなってただろうから。
スカさんもはやてさんもこちらを見ている。だからこそ、言わないとね。
「スカさんは気づいてましたか? ちっちゃい響と、サトの関係を」
「……いや。まだ会っていないが……もしや」
よし、スカさんが気づいた。後ははやてさんだけだね。
涙を拭って、すぐに。
「そして、はやてさんには一つ謝罪を。あなた達が来た時にするべきすり合わせを。私達は怠ってしまった。久しぶりに私達を知ってる六課メンバーと出会えたのが嬉しくて、それをしなかったこと。謝罪致します。申し訳ないです」
頭を下げる。はやてさんの表情はわからないけれど、困惑しているというのは伝わってくる。ゆっくりと頭を上げて。
「……おそらく本来この世界に呼ばれた……いや、呼んでしまったのは。きっとサトでしょう。
あの人はずっと謝罪をしたがっていたから。心砕けた自分に寄り添おうとしていたということを知っていたのに、泣き喚くしか出来なかったと言っていたから」
「……何を?」
目を閉じると思い出す。意識を取り戻したサトが……いや、あの響があんなに憔悴して、死にゆく人のような顔をしていたのを。
「おそらく。この世界に先に来た響と、今回やってきた響は、限りなく同一人物なのでしょう。それこそ、鏡に写したように」
「まって、その言い方やと……サトは響ってことに……だって、あんなに違うやん!」
黒と白。顔立ちも何処と無く似てる程度の差異。でもそれは……。
「レリックを用いて……いや、レリックが二人の人生を狂わせたと言うべきか」
突然の発言に私もはやてさんも、その主に視線を向ける。が、そのまま続ける。
「……記憶の一端を。平行世界の私の記憶を見ただけだから詳しくは分からない。おそらくだが、レリックに取り込まれた天雅奏君の生体データを使い、緋凰響君の……サト君の体に入ったレリックが体を作り変えたのだろう。
天雅奏という生体設計図を元に、緋凰響を再編成という。その結果がサト君だ」
カッと、一瞬で視線が鋭くなったはやてさんがスカさんに詰め寄ろうとするのが、その前に二人の間に割って入って止める。
「退きや。震離」
「いけません。次元世界のジェイル・スカリエッティとこの世界のジェイル・スカリエッティとでは天と地程の差があります。
それに……」
改めてスカさんに視線を向けると、顔を伏せているせいで表情は分からない。だけど……。
「……サト君がこの世界に来た時。第一発見者は私だった。山奥だと言うのに、瓦礫の中で意識を失って。何時からそこに居たのか分からないが……衰弱しきっていた。
そして、彼女に……彼に触れた時に。平行世界の私の記憶の一端が流れて……その世界の私が彼に何をしたのかも分かった。
筆舌に尽くし難い程の酷い事を私はしていた。私は……」
「それでも。それがなければ私達はサトがこの世界に来たことに気づかず。死なせていたかもしれません」
変わらない事実を伝える。それに……医療の心得があると、弱ったサトをこの世界の警察に突き出すこともせずに、拒絶されるだろうと分かってても……それでも治療したこの人ならばと、私と流は信用するようになった。
何方にせよ、スカさんの持つ研究所にも、博士のジェネレーターと同じものがあるからデータをとらなきゃいけなかったし。
「……分かった。何で二人がスカリエッティの肩を持つのかは分からへん。せやけど、何故響のすり合わせをするんや?」
「サトが、元の世界で女児になった時って、ギンガと捜査をした時らしいんですよね」
「……ほんまかそれ?」
「えぇ。ただそれ以上は教えてもらえませんでしたけど」
私と流にとっては、嘗てのお話で。サトにとっては未来の話。だから。
「皆が帰ってくるまでにある程度すり合わせましょう。そのうえでちゃんとおかえりなさいって言うために。
それにいい加減。この世界のスカさんは問題ないって認識してくれないと。七緒が傷ついちゃいますし」
一瞬はやてさんが真顔になったと思ったら。
「え……あの子、スカリエッティの子なん?」
「えぇ。ずっと、七か、七緒ってしか呼ばれてないですから気づかないですけどね。しかも奥さんは……ちょっとお耳を」
はやてさんの元まで言って、耳打ちをすると。
「……はぁぁあああ?!」
「びっくりですよねぇ。スカさん自慢の奥さんですよ」
「え、さ、流石に盛ってるやろ。それは?!」
「5人も娘がいるのにそんなこと言っちゃダメですよ」
「……なんで、私には結婚どころか、相手おらへんのや?!」
ガクーンと、膝ついて泣き出した……。んー、ここで私には流いるけどねとか言ったら殺されかねないわぁ。いやまぁ、その程度じゃ死なないけれど。
……サトに響、流に花霞、奏にフェイトさんの計6人が集合してるのかな。
何も無ければいいんだけど……。
――side流――
「フラガラッハァア!!」
『Bewegung.』
魔力を込めて、小型の砲塔が、大型の砲塔に砲撃を行う。そこから生まれるのは。
「ッ!? バルディッシュ!!」
『Sonic Move.』
小型二門を用いて、大型の砲塔にそれぞれ高速に旋回。殴りつけるような動きになるも結局は当たらず、速度を持って回避された。
やはり、と。つい笑えてしまう。
現状の私の戦術では、一騎当千の速度を持った相手には及ばないか、と。
私という壁を抜いてくる相手ならば、手はいくつかある。だが……。
目的が食い違ってる以上、それは叶わない。でも、それでも、だ!
「行きます、アンサラー!!」
『Jawohl.』
両手に双剣を持って、フェイトさん目掛けて私が往く。フラガラッハの各砲塔はそれぞれが空にいるサトさんを護るための盾で迎撃装置として置いておく。
一端距離をとらなければ、私ではこれ以上護り切ることは出来ない。
「流! その人は、響を!!」
「分かっています。ですが、今あの人を追い込めば、死んでしまう! それではダメなんです!!」
おそらくフェイトさんならば、サトさんをむやみに攻撃はしないだろう。あの一撃も何方かと言えば、反撃に備えた攻撃ですし……。
ですが、今あの人を追い込んでしまえば何方も死んでしまうかもしれず。最悪な結果になってしまう。
それにしても……やはり早く、重く、強い。
ザンバー形態で取り回しもし辛いだろうに……それを高速で振るえる辺り、流石としか言いようがない。
お陰でこちらから攻めたというのに、結局は防戦になってしまう。
大剣を振るうのに、大きく引いたと時を狙おうにも……バルディッシュさんとの息の合ったコンビネーションのせいでそれも叶わない。
いや……そもそもそれがなくとも攻め手には成らないだろうなと。
だが、どうする?
響さんは墜ちた。サトさんは今自我を崩壊させるかどうかの瀬戸際。フェイトさんも、響さんを落とされた以上、黙っているとは思えない。
それ以前に、私ではサトさんを正気に戻す方法が分からない。やはり、震離さんを……いや、駄目だ。ほぼ満月である以上、暴走しかねないのに出すという択は最初から無い。
思い出せ、嘗てのサトさんの言葉を。たしかこの時……奏さんが来たと言っていたが。現状来ていない以上、頼れない。やはり、万事休すか……?
高速で思考しながら、フェイトさんの攻撃を凌ぎ、一端大きく距離を取ったその瞬間。
私とフェイトさんの間を白銀の閃光が天空より降り注いだ。
だが、不可解なのが眼の前を奔る閃光には攻撃力はなく、ただと模擬砲撃だということ。そして、何よりもコレを撃ったのは―――
「かな……で?」
フェイトさんが呟くと同時に、この場にいると言われていた一人。奏さんが優しく頷く。それに疑問は抱かない……が、その容姿は大きく異なっていた。
この世界にやってきた奏さんは、腰まで伸びていた髪を、首のあたりまで短くしていた……筈だ。私自身最後に奏さんに会ったのは、初日の時だけですから。
だけど、今この場にいる奏さんは……。
「二人共、ここは私にお任せ下さい。大丈夫。あの人は……サトは、復讐心以外を持ったのが分かりますから。平気ですよ」
長い髪を風になびかせながら、月光で煌めいているようにも見える。そして、月の光を背にしているにもかかわらず、その眼は白銀に輝いているのが分かる。
「フェイトさん。直ぐに下の響の元へ。大丈夫、花霞が護って居ますし、もう伝えていますから。流も武器を納めて。もう誰も戦うことは無いから」
静かに、そして凛と立つ今の奏さんを見ていると、なんというか……その。ヴァレンさんやキュオンさんを思い出す。これから死に行くような、そんな雰囲気を。
「奏、でも……」
「大丈夫ですよ。流もフェイトさんも、本気で想ってるからぶつかっただけですしね。私に任せて下さい。いや、私だからあの人の闇を持っていけるんですから。
大丈夫、だから私は、私から体を借りてここにいるんだから」
「え?」
聞き返すよりも先に、サトさんの元へ奏さんが降りていく。
私も、フェイトさんの方を一度見てから……。
「アンサラー、フラガラッハ。いいよ。ありがとう」
『Keine Ursache.』『Kein Problem.』
2機を待機形態に戻す。
「……全部終わったらお話します。きっと震離さんもその用意をしてると思うので」
「うん。お願いね……あと、ごめ」
「やはり、まだ私では貴女に勝てませんね。まだまだ改良と、自力の強化をしないと……また、戦って下さいね」
謝罪の言葉を遮ってから伝える。私達が戦う必要は無かった。お互いにあの人達が大切だからこそ熱くなってしまったわけですしね。
「……うん。響の所に行ってくるね」
「えぇ。今は花霞が護ってくれているかと。戻ったらアルコールを飲ませないと……」
「うん……うん?」
首を傾げてるのが可笑しくて、つい笑ってしまう。そうか、フェイトさんはまだ知らないんですかね?
「さ、行ってあげて下さい。私は結界の解除を探りますので」
「お願いね。じゃあ」
フェイトさんを見送りながら、ため息が漏れる。この後、サトさんの正体を知ったらフェイトさんは後悔されるんじゃないかと、心配になるけれど……今は、奏さんの動き次第だ。
しかしまぁ……相変わらず響さんの拳は、重くて痛いなぁって。
――side響――
『主、本当に……申し訳ありませ……ぅぇぇ』
「吐くように泣くなよー。どっちにしろ死なねぇって。あと気にするな、そっちに意識を向けれなかった俺にも非があるよ」
ふぅっと、仰向けに倒れたままため息が漏れる。
はなとユニゾンしているお陰で大分痛みも引いたからか、軽口を叩く位には復活したなーと。
『……主、その。あの主を』
「……このあとの動き次第。さっき連絡合ったし、きっと大丈夫だとは思う」
『え、連絡……あ、もしかして奏様からですか?』
「多分な」
目を閉じて、ほんの少し前の事を思い出す。アイツからの一打を受けて、地面に墜ちた辺りだったかな。奏より念話が入った事を。
―――あの人のことは任せて欲しい。それとごめんね。もう少し早く気づいたら良かったけど、遅くなって。
短い一言で、こちらの言い分を聞かない言い方。
それでも分かるのが……あれは、俺の知らない方の奏だと言うこと。
に、しても……。
「……あーぁ。負けたなぁ」
思わず笑ってしまう。いや、ホント……こうしてみると、俺の戦績って基本的に負けばっかだなぁって。
だけど……。
「はな。もし……もし、無事平穏に済んだらさ。アイツの側についてやんなよ」
『はい。その時は、寂しがらないでくださいよ?』
「あっはっはっは、ゴフッ……言うようになったな」
はなの成長が著しくてちょっと嬉しいなーと。ふと、誰かが近づいてくるのが分かってそちらの方に首を向けると。
「響!」
「あー、フェイトさんだー。流といい勝負してましたねー」
パタパタとそこから走ってくるフェイトさんが見えてホッとする……え、待って。なんか勢いがすご……。
「良かった、無事で!」
「ふぐっ」
ガバっと、重ねてくるように抱きつかれたのですが……。先程のダメージも残ってて凄い痛い。しかも動きにくいことこの上なくて……その。
「フェイトさん、その……あの」
「……む」
じとりと、睨まれるけれど。思い当たるフシが多すぎでちょっと困る。でも、直ぐに視線を空へと向けて。
「響、あの人は……」
「……全部後で話します。今は奏がどうするのか見守りましょう」
……また、じとっと睨まれてるけど。何だろう、喋る度に睨まれてんだけど……何だこれ?
だけど、今はアイツの方が問題だ。
―――お前を殺して俺も死ぬ。
確かにアイツはそう言って、それに準じた行動をした。
だけど、アイツは気づいてなかったけど……途中から戦いを、撃ち合いを楽しむ様になってた。特に最後の攻防なんて俺も楽しかった。
もし俺が一刀流だとしたらって考えながらそれを防いで、攻めて。限界まで速度をあげても全然抜けず、抜かせずのギリギリのやり取りが本当に楽しかった。
だからだろうよ。
アイツは確かに衝撃を通した。だけど、もし殺す気が合ったのなら。俺はただ吹き飛んで死んでた。無意識に加減をした。
それが答えで、多分それに気づいていなかったからこそ、俺を殺したと誤認してしまった訳だろう?
きっと、俺なら殺してくれるって思っていたのに、それなのに勝利を取って、逆に俺を殺してしまったと考えたから絶叫して……。だけど、勝てたことに喜んで……。
全く……どうしようもなく、アイツは俺なんだと痛感させられる。
後は無事に終わることだけを祈ろう。
――side――
ずぅっと、貴方を見ていました。
心身共に辱めに合ってたときも、皆が居なくなって心を砕いたその日も、全てを嘘だと思いたくて、だけど嘘じゃない現実に苦しんで、泣いて、立ち止ったときも。
ずっと、ずぅっと、見ていました。
貴方に生きてほしくて、貴方が大好きで、愛おしくて、共に歩めてたことが嬉しくて。
だから、貴方には生きてほしかった。
―――――――――
月光の柔らかい光の元で、血の赤に塗れた響を見る。傍から見れば響にそっくりな女の子にしか見えないだろう……でも、私には彼女が正しく響であると強く認識出来る。
とうに心に罅が入り、今にも決壊しそうな程に脆く儚い。
「やっほ。響、久しぶり」
焦点を失いかけ涙で濡れた瞳が、僅かな輝きを取り戻す。ゆっくりと顔を上げて。
「……かな、で?」
か細い声で私を呼んだ。
あぁ、この人に言葉を紡ぐのが、コレで最後だなんて思いたくないなぁ。
血に濡れた手を取って、両手で包み込んで。
「やっと、逢えた。やっと、言葉を交わせる」
コツンと、額と額を合わせて。
「―――ごめんね。あの日あの時、貴方を助けることが出来なくて」
「なに、を……だって、それ、は―――」
信じられないものを見るような目で、ゆっくりと私の目と視線を合わせた。
「私じゃ、レリックを抑え込むなんて芸当出来なくて、結局取り込まれてしまった」
「……ぃ、ぁ」
小さな悲鳴の様な声を上げる。私と響の足元に魔法陣の足場を作ると共に、二人して座り込む。
「私は……ううん。私達は死んじゃって、貴方一人を残す結果になってしまった。置いていってしまった」
「ちが……ちがう。おれ、は。おれはぁ……」
ボロボロと溢れる涙を拭うように、響の頬を撫でる。
「違わないよ。あの日、あの時、私達は負けちゃった。確かに悔しかった……でもね。
次に繋げることが出来た。時雨と優夜、煌はあの時の抵抗のお陰で死傷者を増やすことは無かった。紗雪があの時足止めしたお陰で、あれ以上の被害は出なかった。震離が体を張って、流を護った事でゆりかご戦を制する事が出来た。
私は……貴方を護ることが出来て、ずっと貴方の心の中に居ることが出来た」
取り込まれる直前に私は強く願った。貴方に生きて欲しい。それだけを願った。
「いや、だぁ。いやだ、いやだ……。皆が居たから、皆が居るから俺は生きてたんだ。皆が眩しくて、暗かった世界に夢を灯してくれたのに……。一人ぼっちは嫌なんだぁぁ……。
だから、だからぁ……行かないで。皆が、奏が居なくなったら俺は……っ!」
泣いて冷え切った響をゆっくりと抱きしめ、背中を撫でる。
「大丈夫だよ。皆ここに居るよ。何時までも何時までも貴方を見守ってるよ。
それに……ううん。だから、貴方は謝りたかったんでしょう? フェイトさんに、ギンガに。そんな自分に変わらず接してくれて、貴方を救おうとしていたのを分かってたのに……。
だから、貴方は……響はもう一人じゃないよ」
響を抱きしめる腕に力が入ると共に、私の体が……いや、魂が輝き始める。それが意味するのは……。
「でも……俺は、俺は……あの日参加できなくて、ただ何も出来なくてっ……」
「……ねぇ響。だったら、私の願いを聞いて?」
今は生きる為の答えを見つけられないだろう。そして、それは私も示せない事だ。だったら。
「私が宿ったレリックを宿した貴方の体は、私の体でもあるの。だからさ、私を死なせないために生きて。
貴方が正しいと思ったことをやりながら、貴方らしく、私らしく、皆の様に、強く生きて」
「っ!」
抱きしめる響の体が暖かくなったのが分かる。
「だから、私の心はいつだって、どんなときだって貴方の側にあるよ。それは私だけじゃない。震離も、時雨も、紗雪も、優夜も、煌も、リュウキやアーチェだって。皆が見守ってるから……だから、生きて、ね?」
瞳から熱い物が溢れる。嫌だなぁ、もっとお話してあげたいのになぁ。ずっとずっと側に居たから、ずっと貴方を見守っていたから話したいことは沢山あるんだ。
だけど、それは叶わないようだ。
だからこそ……。
「響。いってきます。またね」
強く抱きしめる、強く強く、押し付けるように、ずっとずっと強く。
すると、抱きしめられるのを感じて、頬が緩んだ。
「いってらっしゃい。またな、奏」
きっと、この愛してるの意味も、友情としての延長と捉えてるんだろうなぁって。スッと、瞳を閉じて。
―――ありがとうね。私?
―――気にしないで。もう、逢えないの?
―――どうだろ。消えるのは初めてだから。
―――……そう、もう行くの?
―――もっともぉっと、一緒に居たかった。でも、もう限界みたい……体を貸してくれてありがとう。
―――だから気にしないで。いってらっしゃい。また、いつか。
―――えぇ、いってきます。
この躰の持ち主である、平行世界の私に御礼を告げて。今一度抱きしめる。そして、その体を解放して。
「どうか、貴方がまた笑えますように」
その額に唇を落とすと共に、私達を白銀の光が包み込んだ。
――side響――
はなのバックアップを借りて、フェイトさんの肩を借りて、サトと奏の居る場所まで飛ぶ。
その手には、花霞を抜き身のままに携えてサトの側まで行って……。
「……どうする?」
意識を失い横たわっている髪の短い奏を、膝枕したままのサトに、質問を投げかける。その意味は一つで、最終確認だ。
「……いや。もう、いいよ。俺は生きなくちゃいけないんだ」
「そっか」
ゆっくりと花霞を鞘へと納めて。サトを見下ろして。
「……目元が見えるようにしろよ。そっちのが俺らしいだろう?」
「……あぁ」
なんてことのない言葉を交わす。そして、拳をサトへと向けて。
「次は勝つ」
「……次も勝つ」
コツンと拳を合わせた。
後書き
少し補足を。
まずフェイトさんと結ばれたルートの他に、ギンガが攫われ別の結末を迎えたルート、響以外のオリキャラが全滅してしまったルート、オリキャラの一人の奏と結ばれたルートと、4つのルートが存在しています。
今回明言されましたが、今出ている流と震離は、奏と結ばれたルートの二人であり、厳密にはフェイトさんと結ばれたルートの面々とは初対面となります。
そして、サトも響以外の面子が全滅した世界の出身ですが、コチラはまた別のお話です。
今までたまに出てきた喫茶店のメイドさんであるサテラさん=サト、フェイトさんルートに出現している彼女は何だ? という矛盾が現れますが、その辺りも少しずつ展開していきますので、お付き合いいただけると幸いです。
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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