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併殺打

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第一章

               併殺打
 阪急ブレーブスに大柄で猛々しい助っ人が入団してきた。
 ダリル=スペンサー、この助っ人を見て当時の野球ファン達はまずこう思った。
「随分獰猛そうだな」
「こりゃ相当血の気が多いぞ」
「暴れん坊だな」
「絶対にそうだな」
 こんなことを言い合った、だが。
 スペンサーは背番号二十五を得たその会見の場で記者達に堂々と言い切った。
「俺のパワーと頭脳で阪急を優勝させる」
「えっ、頭脳!?」
「頭脳派なのか?」
「そうなのか?」
 誰もがこの発言に驚いた、だが調べてみるとだった。
 スペンサーは確かに頭脳派だった、ヤンキースでの活躍ぶりはというと。
「ジャイアンツでショートとして活躍していたか」
「それで色々勉強していたんだな」
「だから頭にも自信あるか」
「けれど阪急を優勝させられるか?」
「南海は強いぞ」
 当時の南海は名将鶴岡一人の下野村克也を筆頭として選手が揃っていて強かった、そうして野球は愚か戦後日本人のモラルを蝕んでいた憎むべき巨人と球界の盟主の座を争っていた。
 その南海と比べてだ、阪急はというのだ。
「選手がな」
「米田と梶本の二人のエースはいるけれどな」
「後がどうもな」
「西本さんは頑張ってるけれどな」
「優勝はな」
「難しいだろ」 
 多くの者が思った、監督である西本幸雄はその熱い指導で阪急の若手選手たちを育てていた、だがそれでもだ。
 阪急の優勝は難しい、そう思われていたが。
 スペンサーは西本にだ、すぐに言った。
「ミスターニシモト、ちょっといいか」
「何や?」
 西本はスペンサーに顔を向けて応えた。
「どうかしたんか」
「俺に一つ考えたあるんだが」
「考え?」
「ああ、一塁にランナーがいたら」
 その時はというのだ。
「転がすんじゃなくて下に打たないか」
「下に?」
「ああ、内野ゴロを打つんだ」
 そうしてはとうかというのだ。
「そうしないか」
「お前何言うてるんや」 
 西本はスペンサーの言葉を聞いてすぐにこいつは頭おかしいんちゃうかという顔になった、そのうえでスペンサーに言った。
「そんなん打ったらや」
「そうだな、ダブルプレーになるな」
「それで折角のランナーも殺すことなるわ」
「そうだな、こうした場合は一塁ランナーにスチールさせるかだ」
「バントや」
「そうするが」
 それがというのだ。
「ここはだ」
「何でダブルプレーにさせるんや」
「そこだ、これは限られている」
 あえて内野ゴロを打つ時はというのだ。
「ノーアウトランナー一塁三塁、あと満塁だな」
「三塁にランナーがおる時か」
「その時に打つ、当然ダブルプレーになる」
 このことは事実だというのだ。
「しかしだ、その時に相手はダブルプレーを取るのに必死になるな」
「アウト二つやしな」
 一つより二つだ、そうなるのは当然のことだ。 
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