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奴隷は嫌だ

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第五章

「結構普通に接してくれるしな」
「サラセンの連中もな」
「黒人だっているけれどな」
「黒人の連中もな」
「俺達と一緒に接してくれてな」
「そうだからな」
 それでというのだ。
「これはこれでな」
「よかったな」
「ああ、ムスリムになってもな」
「それはそれで」
「快適だぜ」
 こんな話を船でした、そしてだった。
 ギンガーザは港に戻った時海賊船の船長と再会した、すると船長は彼に陽気に笑って誘いをかけた。
「飲みに行くか?」
「おい、あんたムスリムだよな」
「けれどアッラーに謝ればな」
「飲めるのかよ」
「アッラーは寛容なんだよ」
 偉大なだけでなくというのだ。
「だからな」
「それでか」
「ああ、それでな」
「飲みに行ってもいいか」
「久し振りに会ったんだ、どうだ?」
「それが奴隷に売ろうとした人間に言う言葉か」
「今は同じムスリムだからいいだろ」
 船長はギンガーザの悪戯っぽい嫌味に豪快に笑って返した。
「そうだろ」
「そこでそう言うか」
「ああ、それでな」
「一緒にか」
「飲みに行くか、金あるだろ」
「その金で安い宿に泊まって暮らせる様になったさ」
 船乗り達の為の木賃宿にというのだ。
「そして飲む金もな」
「それもか」
「ああ、それじゃあな」
「一緒に飲むか」
「アッラーよ許し給え」 
 ギンガーザは自らこう言った、そしてだった。
 船長に案内されて居酒屋に入った、そこで二人で親しく飲んだ。ムスリムとなった彼はアレクサンドリアでも楽しく過ごしていた。そのうえで奴隷にならないでよかったと思った。それも心から。


奴隷は嫌だ   完


                  2019・5・11 
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