魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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Duel:07 世界のおさらいと、フローリアン姉妹
――side震離――
「さて。一晩経過して……コレが現実だというのは理解できたと思いますので。昨日話せなかった事をお話しましょうか!」
一人だけフェイトさんの膝の上に座らされてるけど。私は気にしない!
防音性の高い研究室の一つを借りて、皆を座らせ、昨日までに纏めたデータを展開しまして、と。
「まず。おさらいとして平行世界について。大本となる歴史は同じであれど、それこそボタンの掛け違いから派生した異なる歴史を辿った世界。いわゆるパラレルワールド。平行世界と呼ばれる世界になりますね」
そこまで説明して、はやてさんが静かに手を上げる。
「ちょお待って、そうすると。私達の言う次元世界にも、パラレルワールドに近い世界はあるけど。それはどうなるん? そしてこの世界は、まだ管理局の見つけていない世界やと私は考えとるけど、どや?」
「えぇ。それもまた平行世界。次元の歪みで生まれた世界の一つですが。ここで言うパラレルワールドは、そもそも多少の差異はあっても未来はほぼ同じになる大幹の並行世界群の事を指します。だからとある世界ではゆりかごは目覚めたけど、その時点でスカリエッティは亡き者となり、違う人物が聖王として、ゆりかごのコアとなった世界もあったそうですよ。
ですが、その世界の歴史は一度置いといて。その世界とはやてさん達の世界の決定的に違う点は、別の可能性を描いた世界であることです。だから、同じなのに違う管理局員の出現もありませんしね」
「……何となく理解はした。その上で、この世界はどうなるん?」
コレまた難しい質問を。だけど、コレは……。
「今まで説明した平行世界は編纂事象と呼ばれます。そして、この世界は限りなくメインは同じですが、メインルートから外れすぎて、特定分野が特化した結果、多くの分岐可能性を……分かりやすく言えば、私達の使う魔法や、次元世界という概念を失った文字通りの異世界です」
ここまで説明して。皆の口からため息が漏れる。だって……。
「……そうすると、私らって帰れへん……の?」
はやてさんの顔が若干青くなる。そして、それは皆も同じだ。
「いえ。私と流は現在いろんな平行世界を流れるように旅をしているんで、その術式を用いるのと、同じ様に事故で来たケース。そして今回のケースから情報を集めて、皆さんを帰します。
ううん、一緒に帰りたいと考えてます。
なので、ちょっとだけお時間下さいな。流石に私と流みたいに、多少失敗しても死にはしないからいっかーとは、出来ないので」
「うん、やめてや。ホンマに」
あっはっはとお互いに笑うけれど。空気は一向に変わらないし。
「……元の世界に返す事は可能ですが。それがどの程度経過したのかとかは指定は出来ません。もしかすると、そのまま経過した日数かもしれませんし。僅か数分だけかもしれません。出来る限り安全に帰したいので、了承して頂けると……」
冷や汗流しながらそれを、本題である、どうやって元の世界に帰すかというプランを伝える。
それはできん、すぐ帰せって言われてもどうしようも出来ないからなぁ……。
「あぁ、それは勿論や。ただ、色々情報は集めてこの世界が違う世界やと言うのは集めるし。
それに私の場合は、失態についてどうしようって考えとったし……」
「……失態? 来る直前に何かあったんですか?」
疲れた様子のはやてさんの口から漏れる不穏な単語。多少の逆境なら跳ね飛ばす勢いのこの人が言うとシャレにならない……けど、何だ?
あ、奏がなんか察して疲れたような顔になった。ということは……。
「……アースラを仮隊舎にしてるんやけど。こっちの世界に来る前になー。正体不明の人物の侵入と、開発を進めとった奏と震離のデバイスを強奪されたんよねー。しかも、奏の姿で侵入してきた辺り、舐め切られとるわーって」
「……へ、へー」
ブワッと冷や汗が流れた。
と、言うより……私達は、その事案を知っている。だって、それをした人物は……。
え、でも待って。そのプランって机上の空論で終わったはずじゃ……?
……だが、まだ確証が無いし、下手をすると歴史変わってしまうかもしれないから……。
「まぁ、それは置いといて……以上が説明で、この後の予定なんだけど」
皆の雰囲気が険しくなる。私自身もコレが本題で皆を集めたわけだから。
「……買い物行く予定が、なんかそれぞれ独立してるみたいだし。そちらに任せるとして。何しようか?」
一気に皆がずっこけるのを見て、ただ笑うしか無い。だって皆の楽しみを取るわけにはいかないし、どうしようも出来ませんしなぁ。
――――
「で、どうしますかねぇ。コレは」
皆が3対3のブレイブデュエルの一つであるスピードレーシングをしている間に、色々考えるのと、流にメールを飛ばしておく。
内容は端的に。
―――もしかすると預かっていたものを返却、元あった場所に返す事ができる機会かもしれない。
と。実を言うと、嘗て私や奏用にと作られたデバイス。それを今所持して使用しているのが流なんだよね。ただ、机上の空論。まだ影くらいしか作られなかったものを、とある人物が持ち込み、それを流用に組み立て直し、独自強化した結果が今に繋がるんですよね……。
ただ、持ち込まれたデバイスと、はやてさん達の証言が完全に一致したわけではないからちょっと悩む。
だって、私が居ないし奏もデバイスがあるのに作る理由って何よ? って事があるし……。
なにか引っかかるところがあったから、新規に作ってとりあえず使用してもらう事に? だったら、何故私の分がある?
一応、キュオンさんから渡されたエクスがある以上必要は無いはずだが。あ、だからかな?
でも正直、面倒な問題が増えたなーって。
「……はぁー……」
ダメだ、久しぶりに面倒くさすぎてため息まで漏れる始末だし。
『たーのもー!』
『震離の手は空いてますかー?』
「……ぅわ」
ため息は居た直後だったせいで、一瞬反応に遅れた。モニターを覗き込むと、そこに映るのは。
「ありゃ、アミタにキリエだ。どったの、学校は終わったの?」
『はい! 今回も会心の出来です。コレで旅行もブレイブデュエルも憂い無く出来ます!』
『だ、そうよー。あたしも問題ナッシングー。で、相談なんだけど。あたしたちにも未来からの来訪者と遊んでみたいんだけど、どうかしらって相談を』
「……あー」
元気いっぱいのアミタと比例して、ちょっと落ち着いてるキリエ。そして、その相談を受けて、ちょっと考え込む。昨日はフリーバトルにしていい勝負をしたとは言えだ。本来の経験値を考えるととてもフェアにはなってない勝負。
でもなー……他のルールだと、ボロが出そうなんだよねー。まだ幼いっていう体の響と、ここには居ないはなならともかく、他のメンツでそれは不味いし。
『可能ならば。是非フリーバトルで、白いガンナーと勝負をしたいです!』
『あたしも黒髪の実剣……刀使いっていうのかしらん? その子と勝負してみたいわー』
人の心配ガン無視か!
まぁ、だけど。二人が良いなら、それで良いのかなー?
「……どっちも強いけど良いの?」
『強ければ強いほど、燃え上がります!』
『んー。震離がそう言うなら、勝ったら何かご褒美が欲しいなーって。ダメかしら?』
「……ご褒美。ふむ」
拳を振り上げるアミタ、そして、人差し指を頬に当てて首を傾げるキリエ。
それを聞いて、ちょっとだけ魔が刺しまして。
「勝ったら、私が責任を持って期待に添えるように尽力するってので、どう?」
ニヤリを笑って見せると、アミタは特に気にしていないのか普通の様子で首を傾げて。対してキリエは。
『それは、何でもで、出来る限りしてくれるという事で良いのよね?』
人の悪そうな笑みを浮かべて、互いに笑う。
「いいよー。私も頑張るからさ。ユーリや、シュテル、レヴィは王様にべったりだからねー。希望に添えるよう頑張るよん」
『ふふふー。色々試したいものとかあるのよねー。そして、黒髪ロングって案外珍しいしね』
『……き、キリエ? 震離? あの……?』
「『フフフフフフ』」
やっべ、色々考えてると楽しくなってきた。キリエが何を考えてるかも分かるから。任せとけ、はやてさんもこの世界に来てる以上。フェイトさんを無効化出来る術など、いくらでも出せるしね!!
あーあ。このやり取りに、アイツも入ったらきっと面白くなるのになぁ。
でも、この出会いが良い流れに向いてくれたら、私はとても嬉しい。
色々と準備を開始しまして、と。
直ぐに響に個別通信飛ばしまして。
『タイマンで試合? 俺と奏で?』
「ごめん。言葉足らずだった。響と奏をそれぞれ指名した人と試合だよ」
『……あー、まぁ。いいけど、なんで俺だ? フェイトやスバルっていう』
画面の向こうで怪訝そうな顔をしてるのが、ちょっと可笑しくて笑ってしまう。
『……なんだよ?』
「べっつにー? ちなみに、奏の相手はともかくとして、響の相手は一つお願いをされたんだけど……」
そこまで言うと、響が何かを察したように渋い表情になっていって。
「勝ったらお願いを聞いてほしいってさ」
『……ですよねー』
がっくりと項垂れちゃった。まぁ、おもちゃにされてるってわかってるとそうなるものなんだなーって。
「所でスピードレーシングはどうですかい?」
『ん? あぁ。いい塩梅で面白いな。はなも連れてこりゃ良かったよ』
「そう……って、丁度一勝一敗か。良いね」
ログを見てると面白いように接戦を演じてて驚いた。奏をバックに響とフェイトさんの三人対。はやてさんをバックのナカジマ姉妹チーム。
どちらも奏とはやてさんでポイントをとって、大型はスバルとフェイトさんが抑えて、レース勝負は響とギンガで競り合うという良い流れだ。
『ただ一位を取るにも、加速減速、ドリフトにコース取りとか色々あるからね。なのはさんが居たら喜んだかもしれないってスバル達と話してたよ』
「フフ、たしかにね」
お互いに笑って話をする。声は違うのにその事実が私を安心させて、こうゆう風に話すやつだったねと思い出させてくれる。
「さて、それじゃ、準備してくれる?」
『ん、あぁ。最初はどっち?』
「うん。最初はね―――」
――side奏――
ヘリのハッチの様な部屋でいつものようにデバイスを点検させながら、モニターの向こうの震離から話を聞く。
「……それで、私……か」
『ごめんね。対戦相手が滾って仕方ないからさ、もう最初に出さなきゃって思って』
苦笑いをしている様子を見ながら、両手の拳銃4丁を再度確認していく。問題はないし、何よりデータの世界ということもあっても、こうして気にするのは一つのルーティングに近いものだなと。
「しかし、先輩……あぁ、フェイトさんって言ったほうが良い?」
『ううん。伝わるから良いよ。私の所の奏もフェイトさんのこと先輩って呼んでたから』
「そっか、なら良いね」
にっとお互いに笑っていると、ついこの前の事を……遠い昔のように感じてしまうが、日常に震離も流も居た頃を思い出す。
私達の世界では、次にそれが実現するのが何時になるかわからない。震離は……いや、あの二人は、極めて近く限りなく違う存在なのだから。
『HERE COMES A NEW CHALLENGER.』
新たな乱入者を告げるシステムボイスを耳にして。
『あちらの準備も整ったみたい、始めよっか』
「えぇ。やりましょうか!!」
瞬間、世界がハッチの中から、蒼天へと切り替わり。眼の前には青を基調としたバリアジャケットの赤髪の女の子が居た。
この子が私の―――
「はじめまして! アミティエ・フローリアンと申します!!」
「ッ?!」
耳鳴りがする程の声に思わず驚きながらも、彼女を見据えてニヤリと笑って。
「天雅奏。よろしくね」
「こちらこそ、アミタとお呼び下さい。王様やシュテル、レヴィから話を伺っております。まだまだ未熟なこの身ですが―――」
静かに二丁の銃口をこちらに向けて。
「―――どうか、お付合いください!」
静かに、いや。この一戦を楽しみにしていたんだろう。熱いと思えるほどの闘志を瞳に宿して彼女は笑う。
ならばこそ。
「えぇ、こちらこそ。お付合いを」
軽く会釈をしてから、トリガーを引きながら両椀を振るい弾丸を射出して。
「「いざ、尋常に勝負!」」
弾丸と弾丸がぶつかりあった。一つ、二つ、三つと。魔力の弾丸同士が弾き合い、弾いて、弾き続ける。同じ場所を狙うのではなく、手足や、胴。顔や首、足の付け根など縦横無尽に狙いを定めトリガーを引くが。
「やり、ます、ね!!」
「貴女こそ!」
その全てを相殺される。
既にお互いの銃弾の連射は、弾幕と言っても過言ではない。だが。
―――見えてはいる。
しかし、決定打を出せないというのが現状だ。弾幕生成の精度ならこちらが上。あの子―――否。アミタは反射神経だけでコレを対応して見せている事に私は驚いてる。
実際、こちらは4丁……いや、2丁を一つのバレルとして同時に撃ってる分。威力ならこちらが上だが。あの子は連射力を活かした、二発で相殺というとんでもない技術を発揮して迎撃しているんだ。
―――だが、恐れることは無い。
迎撃の癖も、これだけ見せられれば分かる。だけど―――
「……くぅう、しかし。コレは……楽しいですね!!」
苦しそうにアミタが言うが、その顔は楽しそうに笑っている。そしてそれはきっと。
「えぇ、楽しいね!」
私も同じなんだということ。
今までガンナーというか、似たポジションの人と戦ったことは沢山ある。六課に来てからはなのはさんや、ティアと戦った事もあるし。
だけど……。
「「こんなに似たスタイルは始めてだ!」」
声もセリフも被って、お互いに笑ってしまう。きっとアミタのスタイルを考えると、この戦い方は間違ったものなのだろう。動きやすそうな格好に、アミタの持つ銃のバレルにはブレードが付いてるところから察するに、接近戦もこなせる万能型の射撃寄りなんだろう。
だけど、わざわざ私を指名して、こうして戦っているということは。
派手に撃ち合ってみたかったんだなということ。しかも、実力も拮抗というか、近いから余計にだ。
それに……。
銃型デバイスを持ってて、こんなふうに撃ち合う事なんて、誰しも一度は考えるだろうしね。
だが、そろそろ……。被弾覚悟で、私も前を窺って踏み込む時!!
でも。
「……?」
身を屈めて踏み込もうとした瞬間。ガチンッ、と聞こえた。
「行きます!!」
―――何を?
と言うよりも先に、四方八方から音が聞こえた。それはトリガーを引いたような音。だが、それは一発二発程度ではなくて、何重にも重ねた音。
コレが意味するのは―――
「……嘘」
アミタがかき消えたかと思えば、周囲をスフィアが取り囲んでいるのが見えた。そして、それがこちらに向って一直線に。
「……ヤバ」
ガンスピンさせて、360度から襲い来るスフィアを迎撃するが。絶えずトリガーを引く音が聞こえる。それに合わせてスフィアは増えては真っ直ぐ来るのが分かる。
舐めていたわけではない。侮ってたわけではない。ただ、勝手に勘違いしてしまっただけだ。
重厚とも言える程の密度の弾幕、いや、雨に晒されながらも、ギリギリを維持して考える。
いつか目指して挫折したスタイルが眼の前で動いている。高速移動からのスフィアの順次設置。だが、高速過ぎて、時を止めたかの様に展開される弾幕。
いやいやなんというか……。
格好いいと私は思う!
『対象補足』
『何時でもいけますわ』
有り難いと思うが、その一手を打つにはちょっと早い。絶え間ない射撃に今防ぐので一杯一杯だが、このデバイス達は言われずとも自分の役目をしっかり果たしてくれたらしくて助かる。
しかし―――
―――コレは、キツイ!!
カラクリさえ分かれば倒せる術は用意出来る。だが、それにしては、後手に回ってしまった自分が恨めしい。今、どれだけのスフィアを捌いているのか、もうわからないんだ。
数発程度ではない。20、30……いや、同時とも思える射撃を考えるともっといってる可能性がある。
でも、だ!
『カナデ!!』
稲妻のような何かが駆け巡ったかと思えば、自然と腕が動いた。
「はい、左手上段!!」
『Feuer.』
瞬間的に拳銃から、ライフルへと形態を変更させると共に、抜き打ちで速くて重い一打を放つ。そして直ぐ様、拳銃へと戻して迎撃へ思考を向ける。
「……っ?!」
ニヤリと、口元が緩んだのが分かる。手応えはあったんだと分かったから。
事実、この弾幕のフィールドがゆるくなったのが目に見えて……いや、体感で分かったのと、先程まで影すら見えなかったアミタの姿が一瞬見えた事。
それに合わせて。今度こそ銃口を前に向けて踏み込んで。
「撃って!!」
『『Gespenst Linie!!』』
即射で近距離砲撃魔法を放ち、弾幕に穴を開けてその穴を潜り抜けると共に。
「行くよ、アミタ!!」
「う、く、どうぞ!!」
苦い返事をもらいながら、彼女を追い掛け銃口を向け―――
『WINNER アミティエ!!』
「「……は?」」
お互いに変な声が漏れた。
――side響――
「アッハッハッハッハ、なるほど。まだまだ感覚の違いは強いなーコレは」
画面の向こうで、奏が納得出来ないように呆けて、そんな奏と戦ったアミティエと呼ばれる女の子は狼狽えてる。
片やこれから面白くなる所で、片やなんで勝ったのか理解出来ていなくて。
「……うん。奏の敗因はダメージ上限を把握しきっていなかったことだね」
隣に座るフェイトがちょっとだけ残念そうな顔でそう告げると、はやてさんも大きく頷いてる。
「そや。360度の弾幕を防いで徐々に削られていたのが、気がつけばレッドゾーンへ。そして、起死回生の一手を撃った時までは良かったんやけど、その後穴を開けて踏み込んだ時、完全には落としきれなかった残りに被弾した結果……削りきられて負けてしまった、残念やねー」
はやてさんも冷静に分析して苦笑い。というよりも。
「……これからいい勝負になりそうだったのにねー」
「そうねー」
この場に居る全員があんまり納得出来てない様子だし。
丁度、画面の向こうの奏とアミティエは震離から説明を受けてる最中らしく、一通り話を聞いた後。
奏ががっくりと項垂れて、アミティエもまた、納得出来てない様子で天を仰いだ。
「……ま、実践だったら続行してたけど、こういうゲームだもの仕方ないねー。さ、準備始めるわー」
「うん、頑張ってね響?」
「あいあい、勝てたら良いなーってくらいで頑張りますよ。ありがとう御座いますね、フェイトさん」
と、フェイトと軽いいつものやり取りをしたら、またフェイトさんの眉間にシワが寄って……。
ダメだ、全然わからん。なんでこんな怒ってるのか……謎だわー。
そんなこんなで、ピンクの子、もといキリエと勝負することになったわけだけど。
舐める侮るという行為はしないと決めた。第一まだまだ未熟な我が技術で、人を下に見るなんて、烏滸がましいにも程がある。
だからこそ―――
「やりにくい、な!!」
「そうでも無いわよん?」
大剣を刀二本で受け止めてしまった。その結果、衝撃でバリアジャケットが少しづつ削られ、千切れていくのが分かる。
しかも……。
「あー、見えねぇ!!」
大剣を横に弾く勢いのまま、大きく反対へと飛ぶ。その際に、キリエを見ながら、先程まで居た場所をワイヤーが包み込んでいた。
「なんでそれを躱せるのよ、お姉さん驚きよん」
「……なら、もう少し焦ってくれると嬉しいなって」
しかし、距離を離しても未だに彼女の距離。大剣から2丁の拳銃へ形態を変えたかと思えば、怒涛の連射。先程のアミティエに比べれば精度は落ちている。だが、そのせいで余計に予測がつかないから面倒だ。
その上……!
「そこ、ファイネスト・カノン!!」
「ィッ?!」
左右に振って、接近を試みたのに、完全にタイミングを読まれた挙げ句。真正面から砲撃を受けてしまった。
体勢が揺らぐ。だが、ただでは落ちぬと。斬撃を左右から一つずつ飛ばす。
でも、あの子はそれを見越した上で動き。
「キリエ・とっても・絶好調のKTZよん!」
斬撃を迎撃するだけでなく、こちらに追いついて来る。空を蹴って、流れるように2丁の拳銃で弾幕を張りその勢いのまま大剣へと再び形態を変化させて来た。
薄い弾幕に、本人という本命を加えた結果、厚い弾幕へと即座に切り替わった。だが、当たらなければ問題ない。
刀を鞘へと収め、逆手で抜刀―――
「!!」
銃弾の幕を払うが、それだけで精一杯だ。彼女もそれに気づいて更に加速跳躍してくる。こちらも空を蹴って接近し―――
「フフン」「……マジか」
刀を大剣に叩きつけて、その勢いで跳躍する―――筈だった。
だが、現実はそれとは違い、鍔競り合いになってしまった。
お互いに冷や汗を流しながら、こちらは苦い表情を。あちらは策が決まったことを喜ぶように、ニヤリと笑っている。
コレは完全に遅れをとってしまったこと。彼女の手札を見誤っていたこと。そして、その結果が……。
「……先のワイヤーは見せ札で?」
「ご明答。初見で割れたのは初めてだわ。このワイヤーはもう片方のものよん」
銃口の先から、細く魔力を込められたワイヤーが展開しており、その先には俺の右足が巻き取られていた。
おそらく、全部防がれるのを見越した上で、少しずつ見えないように這わしていたんだと思う。おそらく、砲撃の直撃を食らった時に足に巻き付いたんだろう。
それにしても……。全体的にやりにくいわぁ……。正面戦闘も得意なんだろうけど、おそらく策を使うと言うより、搦め手が上手いタイプだと思う。
アミティエとは打って変わって、接近戦も出来て、搦め手も上手いのは……おそらくあの子と組む事が多いから自然と体得したんだろう。よく見りゃ、桃の髪色によく似合うバリアジャケット。そして、それはアミティエとは色違いだし。
だけど、全体的にやることなすこと裏目ってしまうのは悔しいわぁって。
第一、初手から酷かったもんなぁ。様子見ようと思ってたら、一気に接近を許したし、そっから先手を取られまくってこの様だし。
だが……。
「悪いね。奥の手を使わせてもらうよ」
「昨日のレヴィを落としたソニックなら……私も、速さにはアミタ程じゃないけれど、自信があるわよん?」
「いいや、使うのは本来の方だよ。ユニゾン・リライズ!」
鍔競り合いのまま、光が俺の体を包んで―――
「……あらん? 装甲が厚く……なった?」
「……たぶん?」
今までとは異なって、赤い着物に袴を着けたその姿は行灯袴に近い格好だ。後は、マフラーに相当するものが、羽織った和服を止める帯の役割をしてる位だが……。
「全体的に性能が上がった方だ……よ!!」
右手の刀を引くと共に大剣の剣筋をずらし、体勢を動かせ、右足のワイヤーを叩き切る。
「なるほど、で・も」
体勢をずらしたまま、その姿がかき消え、一瞬見失ってしまった。ほんの僅か、瞬き一つ挟んでしまったその一瞬で。
背後を取られて―――
「せぇー、の!」
「ぅ、お?!」
大剣を大きく振り回して、打ち上げられる。体勢を整えようにも、吹き飛ばされてしまってる以上難しい。その上、彼女が俺の眼前まで追いついて。
「スラッシュ・レイブ―――」
目にも留まらぬ速度で、大剣で切り刻まれて、最後に大剣で叩き落とされる。
海面に着く直前にギリギリ耐えるも―――
「……マジか」
空を見えあげると、双銃を頭上に構え、発生させた巨大な魔力スフィアに双銃から発生させた光糸を繋ぐのが見えて。
「―――インパクト!!」
そのまま振り下ろされる。だが、速度は遅く、避けられると考えるも。設置型のワイヤーで両手両足を取られて。
「……くそっ」
苦々しく呟くしか出来なかった―――
――side奏――
「……うわぁ。やることなすこと響の嫌がる戦闘パターンを」
フェイトさんは心配そうに響を膝枕してる側で、今の試合のリプレイを眺めてる。
先程の試合が終わってシミュレーターから出てきた響は、思ってた以上に負荷が掛かったらしく、眠るように倒れそうになった所を先輩が抱えて支えて。空いてる長椅子で横にしてる。
「そうなん? 搦め手というか、こういうの得意なイメージがあったんやけど?」
不思議そうに首を傾げるはやてさんを見ながら小さく首を横に振って。
「得意だから拮抗して、見切っていたんですけど……それに加えてパワーファイターでもあった事で、バランス崩されて、先手取られてたんですよ。響って力押しには弱いですから」
今の見た目も含めてねーと付け足すと皆さんが笑う。きっと、普段の男の姿ならもっといい勝負を出来たんだろうけど、残念ながら今の姿だとアレが限界だったかな?
後は……。
「見てて思ったのが、ユニゾンを間違えたって感じもしたね」
「ギンガの言うとおりだねー」
映像を見ながらつぶやいた事に反応する。ギンガの言う通り、響の敗因の一つは、ユニゾンを間違えたことにある。
おそらくさっきの戦闘でユニゾン先を選んだのは、はなを選択したんだろう。初めて見たからなんとも言えないけど。
おそらくフェイトさんとユニゾンは速度特化で、はなとのユニゾンは全体的に性能の底上げなんだろうけど。残念ながら今選ぶものではなかったと思う。
まぁ、私は響じゃないから、あの時それを選んだのには何かしら理由があるんだろうけどね。
結果論をグダグダ言っても仕方ないけど……まさか私も響も負けるとわ……。
「……うわぁ。奏の顔がすっごく疲れてる……大丈夫?」
「えー? あー、負けたの悔しいなーって」
「奏はこれからって感じだったもんねー」
「んー……だからスバル慰めてー」
ぐでーっと隣に座るスバルの膝の上にうつ伏せになるように横たわって。
「あー、仰向けがいいなー」
「えー? なんで?」
そこまで言って、ふと思い出す。
嘗てスバルが言っていた言葉を―――
―――ティアのおっぱいって柔らかくてハリがあるんだよ。
……あ。
それを思い出して、そそくさと離れて。
「……いやぁ。胸は揉まれたくないなぁって」
「え、いや。揉まない……よ?」
ちょっとスバルさん? 目を見て話して下さい? そして、はやてさん? なんで、手をワキワキと動かしてるんですか? ギンガは、なんでこれから出荷されていく動物を見る目で私を見てるのかな?
「スバル。ちょい手伝いや?」
「え……あ、了解です」
キョトンとしたかと思えば、はやてさんの手の動きを見て、察したようにゆっくりと立ち上がって。
「「ふふふへへへへへ」」
「……うわぁ、後半隠す気がねぇ」
ジリジリと距離を詰められる。この場合、フロントアタッカーのスバルを警戒すべきなんだろうけど。
はやてさんのプレッシャーが半端なく強くて驚いた。というか、目を離したら狩られると思うほどに。
だが、私は!
「生き残って見せ」「おーい、お昼食べよっか……って、何この状況?」
震離が入室したことにとって、皆の視線がそちらに向いた、が。
「今や」
「え、ちょ、待って待って、はやてさん待って、あ、あ、アーーーー!!」
……認めたくありませんが、人に揉まれると気持ちいいんだと初めて知りました。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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