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異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》

作者:獣の爪牙
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第一部
第二章 明かされる真実
  2-4




おれ達はリーティアより異能バトルのルールを説明してもらった。
戦いでどちらかが戦闘不能になれば勝敗が決まり負けた方は異能とバトルに関する記憶を失う。
担当精霊とは端的に言ってしまえば運営役で対戦相手や勝敗の結果など必要な連絡や、バトルを円滑に進めるために人払いやプレイヤーの移動も行う。
警察などに相談するのは委員会が許してくれないとも聞いた。
こちらの世界に必要以上に迷惑をかけるのは禁止されており、無理に相談すればなんらかの手段で排除されるだろうとも。

「どうして私達はこのバトルに参加させられたのでしょう?」
一通り聞いておれが失念していた思いついて当然の疑問を彩弓さんが質問してくれた。

それについてリーティアは
「基本的には精霊が直接会って参加するかしないか選べるわ。参加する理由は人により違う」

「金が欲しい、暴れたい、夢を叶えたい、あとは……死んだ人を生き返らせたいとかな」

一さんが実際に会ったように指折りしつつ望みの例を挙げた。

あまりに荒唐無稽な話に頭が追いつかない。

「けど、上に目を付けられて強制参加のやつも稀にいるわ。バトルを面白くするためにね」
そんな自己中心的な行為に実際に巻き込まれたおれ達は、言葉が出なかった。

「残念だが精霊に良識を求めても無駄だぜ? 精霊はこいつとしか会ったことはないが話を聞くだけでもまともな奴の方がすくねえ」
「まあそこに関してはあたしも同意見だわ。それで他に質問は?」
「このバトルを棄権することは可能ですか?」
「これはルール原則に載ってるけど、途中棄権は認められてないわ。負けるか勝って生き残るかのどちらかね。他には?」


「あなた方の仲間に入れてもらうことは出来ますか?」

これはおれも最初に思い浮かんだ。
けど恐らくは

「悪いがそれは出来ねー」

「最初に言った最後まで残って願いが叶うのは八人まで。ラストエイトって呼ばれてるわ。だからこそこのバトルは基本チーム戦なんだけど」
「おれたちのチームはもう七人いてな。入れるとしても一人だ。まさか自分の妹が強制参加させられてるとは思わなくてな」

悪い。と一さんは申し出を断った。
一さんはらしくなく浮かない表情だった。

「そうですか、逃げ道はないと」
「そうねー、まだある?」
面倒臭いけど仕事だからやってますと言わんばかりのリーティア。
一番肝心の所なのですが、と彩弓さんは重々しく口を開いた。
「異能バトルで負けて死んだらどうなりますか?」
「死んだらどうなるかって?」
リーティアは髪を弄りながらなんでもないことかのように言った。


「最初にも言ったけどこれは殺し合いよ。死んだらそれまで。生き返らせるなんてことは私達にも出来ない」


まあ、さすがに死体をそのまま放置って訳にはいかないから、死体の処理とか記憶の改竄とかして存在を無かったことにはするけどね。まあそれもめんどいんだけど。

後半は重要なことを言っていた気もするが殆ど頭に入って来なかった。

「……けないでよ」
今まで沈黙を通し下を向いていた鳩子がなにか言った。

「ふざけないでよっ‼︎」

鳩子が手を机に打ちつけて立ち上がった。

部室に響き渡る怒声に今度は精霊が黙った。

「みんなをこんな危ないバトルに巻き込んで、不参加は出来なくて? 死んだらそれまで? それを見てあなた達精霊は楽しんでるの?」

目に涙を堪えて鳩子は精霊を睨んだ。

「じゅーくんをあんな目に遭わせてっ‼︎ あなた達精霊は楽しんでるの⁉︎」
それでも精霊は何も喋らない。

「なんとか言ってよ‼︎」
もう一度響く怒声。
鳩子の言葉は俺たち五人の心を代弁していた。
それに対し、精霊リーティアは
「……返す言葉も無いわ。あたしが始めたわけじゃないとはいえ、うちの世界が迷惑をかけてることに加担しているのは事実ね」

ごめんなさい、と
リーティアはその小さい頭を下げた。

「……なに、それ」
鳩子は力なく腰を下ろした。
事態を見ていた桐生さんは
「お前らの気持ちも分かるが、相手が間違ってる。こいつも無実じゃないが戦争始めたのは上とやらだ。こいつはただの使いっ走りだよ」

場に沈黙が下りる。

一さんは玉座から腰を上げて周りを見回して
「もう話し合える雰囲気じゃねーな。一十三、そろそろ行くぞ」
「分かった」
「千冬、ワープゲート開いてくれねえか? 寿来は俺と玉座運んでくれ」
「……あ、はい、わかりました」
この重々しい雰囲気の中でも全然ブレないな、この人はと思った。
運んでいる最中、ちらとみんなの顔を見るとやはり事の重大さに打ちのめされていた。


********************


「感謝するべきだと思うよ」

斎藤先輩はゲートの中に消えていった安藤の方を見ながら徐ろに口を開いた。
「今日ここに来ようって言い出したのは一くんなんだ。だから一くんに感謝するのもそうだけど、私たちが来なかったら、君たちは未だに状況が分からず、敵と戦うことになるでしょう」

それまで自分のことで身を震わせていた四人はその言葉を聞きある疑問にたどり着いた。

なぜ彼は危険を冒して戦ったのでしょう?

なぜ彼は私に電話をし、会話を聞かせたのでしょう?

(ころしたのか?)

なんのために?

(ひとりで参加してるのか?)

だれのために?

「まさか……」

「うん。安藤君はこのバトルの事を知っていたんじゃないかな。あの場で彼が死んだとしても一般人はともかくプレーヤーは彼を覚えているからね。少なくとも危機的状況を理解し彼の残した情報を元に動くことは出来る。本当に怖いのは何も分からず訳の分からないまま、殺されたり異能で殺してしまったりすること。その時のために彼は命を懸けて情報を残そうとしたんじゃないかな」

「……」
「そして、さっき聞いた彼の自滅の異能。それなら……」

相討ちには出来る、と斎藤さんは言いました。

思えば彼の右腕は体の他の部位に比べ明らかに傷が少なかった……。

「っ……!」

これが殺し合い。これが命のやり取りですか。
自分の想定の甘さにつくづく呆れます。


四人の目を見て、斎藤さんは言います。

「彼の異能は弱いと私は思う。そしてだからこそ彼は仲間思いで勇気があると思う。そんな彼がいたから一くんは今日ここに来たのかもしれない」

それじゃ、私の独り言はこれくらいで。
斎藤先輩はそう言い残し部屋を後にした。








 
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