異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》
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第一部
第二章 明かされる真実
2-1
翌日の放課後、文芸部の部室には五人全員が集まって会議が行われた。
議題はもちろん、今後について。
「今回のことで、安藤くんは重症を負っています。異能のことを打ち明けてでも警察に相談すべきと私は考えます。異能の発生から異能の暴力事件まで。この問題は高校生には手に負いかねます」
彩弓さんの真っ当かつ常識的な意見に鳩子達も賛同する。
「警察に言って、襲ってきた人たちを逮捕してもらえばいいんじゃないかな。私たちが危ない目に遭う必要はどこにも無いんだし」
「千冬もそう思う。けーさつにお願いするべき」
「わたしもそう思います。……安藤は?」
と、ここまでなんの発言もしていないおれに白羽の矢が立った。
「……ちょっと考えさせてください」
(このバトルは異能を使った殺し合いさ)
昨日の山崎の発言を思い出す。
聞き出せたのはこの異能バトルは半年前から行われていること。
精霊という存在からなる委員会とやらがこのバトルを主催していること。
そして気絶または死亡によって勝敗が決し、委員会が記憶操作や遺体処理などを行い、周辺への影響を帳消しにするということ。
情報源が山崎なので全面的に信じてはいないが、あの時点でおれを騙すメリットが考えられない。
今の所、おおむね辻褄も合っているし信じていいだろう。
脅されてあの場所に付いて行ったのはみんなに伝えたが、このバトルが殺し合いであることは伏せていた。
「……」
おれは悩んでいた。本当に警察に相談するべきか。
「ただの暴力事件ならそれが最善でしょう。ただこれは異能が絡んでいます。警察に言うことが必ずしもいい結果になるとは限りません。事情を説明し異能を見せたとして、警察が危険人物と判断して留置されることもあり得ます」
みんなは真剣におれの意見に耳を傾け結末を待っていた。
「ですが。そういったリスクを考えても実際に異能を持った者と戦うことになるよりはマシでしょう。昨日戦った奴らはもちろん、別の異能持ちにも狙われながら今まで通り生きていくのは現実的ではないでしょう」
なので、おれはみんなの意見に賛成です。
そう締めくくった。
ただ疑問には思った。
この方法で解決出来るなら、なぜこんなものが半年間も続いているのかと。
「皆さんの意見は分かりました。それではこれから警察に行き、異能について明かすことも含めて話を聞いてもらいましょう」
と、彩弓さんが話をまとめた時だった。
「それはやめておいた方がいい」
いつからか全身黒ずくめの服装の男が窓に腰掛けていた。
三階の窓に気安い姿勢で。
文芸部のメンバーはみな眼を見張った。
「誰です?」
「霧龍・へルドカイザ・ルシ・ファースト。ってこっちじゃ二人しかわかんねーか」
部室の空気を闖入者の独特な雰囲気が支配している。
「桐生一っていうそこの神崎灯代の兄貴だよ」
その人は以前運命的な出逢いを果たした桐生さんだった。
「兄さん……」
「「「えっ」」」
彩弓さんと鳩子と千冬ちゃんの意外な驚きの声が重なる。
「そしてなにより……」
そう言うと男が先程から手で弄んでいた指輪が宙に浮いた状態で静止し、その周囲約二十センチの空間が奇妙に歪み始めた。いや、あるいは周囲の光が屈折しているのか。
明らかに常人の成せることではない。
それの意味するところは……。
「やはりか……」
この状況で今の言葉が出てくるということは。
「そう。おれもお前達と同じ。……このふざけた戦いに囚われた者の一人だよ」
そう言って彼はかかっと不敵に嗤った。
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