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『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み

作者:織部
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カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み

 
前書き
 今回のお話でとりあえず完結します。 

 
 傷つき、泥だらけになりつつも災害級の魔物を倒したZクラスの生徒。カート=フォン=リッツバーグの名声は学院のみならず街中に広がった。
 学院に通う生徒らはカートを一目見よう、一声かけようとZクラスの教室に詰めかける――ようなことはなかった。勝利した褒美にSクラスへの編入を希望すると、だれもがそう信じて疑わなかったからだ。
 当のZクラスの生徒たちもだ。
 そのためカートが姿を見せると彼らは驚きの声をあげた。

「ふぁ~!? リッツバーグ氏、なにゆえこの教室に来なはるか?」
「てっきりSクラスに移るものかと……」
「まさかカマドウマの味がお気に召したでごわすか?」
「そんなわけないだろ! 言ったずだ、今の俺はZクラスの生徒で、君たちに魔法の楽しさを教えるって」
「つまり今まで通りZクラスに来て魔法を教えてくれるってことかい?」
「ああ、そうだ。それに学院にかけ合って少しはこのクラスのあつかいを良くしてもらったよ。特に学食での差別は最低だったからな」
「するともうカマドウマを食べなくてすむんですか?」
「あたりまえだ! カマドウマは人の食べるものではない!」
「カマドウマの佃煮もカマドウマの唐揚げもカマドウマの炊き込み飯もカマドウマの素焼きも、もう二度と食べられないでごわすか……」
「え? なんなのそのちょっと未練ありそうな感じ。ひょっとしてアレをけっこう美味しくいただいてたの?」
「ふぃひひひ、そんな変態はこのデブぐらいのものだよ」
「ところでカート様、その後ろの荷物はなんでしょう?」
「ああ、これか。机だよ」

 荷車に積んである荷物は会議で使用するような大きな樫の机であった。

「筵に座ったままじゃまともに書きものもできないだろう。倉庫に眠っていた机をゆずってもらったのさ。本当は一人一人に用意したかったけど、今はこれしかなかったから」
「それでもあるとなしとじゃ大違いですよ!」
「ふぃふぃひひひ、それじゃあお手柄リッツバーグ氏の定位置は黒板が直に見える後ろの席だね」
「いやいや、みんなに教えてくれるから前の席でしょ」
「それならオレは」
「僕は」
「それがしは」
「まてまておまえら。いいか、座る場所には序列というものがあって――」

 楽しそうに席決めをする生徒たち。

「序列、か……。よし! みんなちょっとどいてくれ。――魔力よ、集いて剣となれ、其は至高の利刃なり」

 カートが呪文を唱えると、その手に魔力が凝縮し、尖形状の光刃が形成される。
 魔力を武器の形にする【フォース・ウェポン】だ。
 維持している限り常に魔力を消費する消耗の激しい魔法ではあるが、一流の鍜治師が鍛えた刀剣並の強度と鋭利さに加え、純粋な魔力によって作られた性質上、銀や魔力の宿った武器でしか傷つけられない高レベルのアンデッドや魔法生物にもダメージを与えることができる利点がある。

「ハッ!」

 カートが魔力の刃を振るうと机の四隅が切断された。

「か、カート様、いったいなにを!?」
「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために。分かち合えない力なんかに価値はない。おれはZクラスをそんなクラスにしたいんだ。だから序列なんて必要ない」

 角を切り取られた机は円卓となっていた。これならば上座や下座などの序列はない。卓を囲む者すべてが対等である。
 至弱より至強へと昇る、のちに円卓の生徒と呼ばれる彼らの新たな一歩、新たな歩みが今はじまったのだった。



 『帝国の魔女』ミサ=キルシュバオムはその絶大な魔力を駆使して襲撃者たちを簡単に捕らえることができた。
 魔法で金縛りの状態にした彼らを睥睨し、哄笑をあげる。

「ケヒャハハハハハ!」

 プラチナブロンドのツインテールを振り乱し、狂ったように笑いこける。
 ひとしきり笑い、それが治まると中空を見上げて詠うように言葉が紡がれた。

「……魔法は力なり。無粋で粗忽なおまえたち戦士の振るう武器のように無骨なものとは比べものにならないの。もっともっと繊細で強力なもの。破壊の中にも生み出されるものはあるし、創造の中にも失われるものがある。両者は表裏一体、光と影の関係の如し」

 十代前半の姿をした少女の桜色の唇から、聞く者を陶酔させる蠱惑的なキャットボイスが流れる。

「破壊と創造、破壊と創造、破壊と創造――。さぁて、おまえたち無頼の輩を破壊して安らかな夜の時間を作り出すべきか、それとも平和を作り出し、おまえたちに訪れるであろう確実な死を生むべきか、どうしようかしらねぇ」

 いずれにせよ殺す、そう言っているのだ。

「死ぬのはおまえだ、魔女よ。たとえここで我々を倒しても、次の刺客がおまえを襲う」
「あくまで歯向かうのね~。よろしい、ならばひとつ望みのものを選ぶといいわ。……こんなふうな! 灼熱の炎の中で焼け死ぬのがいい? それとも、こんな! 電光に撃たれるのが好みかしら? それとも、こーんな! 風の刃で撫でられるのはどう? あるいは~、こんな! 氷の嵐に見舞われるのはどう? もしくは……て、あらあら~? もう答えられる者はいないようね」

 死屍累々。魔女の周囲は火炎と電撃、風と氷の刃に蹂躙された人々のむくろが積み重なっていた。

「死体ってば風景の破壊者よね、せっかくの景観が台無し。――貪るものよ、暗き砂漠より、来たりて啖え」

 ミサ=キルシュバオムの唱えた召喚呪文に応じて異界よりなにかが現れる。
 人に似た四肢を持ってはいるが、前かがみになった姿勢や顔つきは犬めいており、肌は赤と緑を混ぜたような不気味な色をしている。手には鋭い鉤爪が生え、脚には蹄があった。
 グール。
 人の骸を好んで食べることから食屍鬼とも呼ばれる怪物だ。

「こいつらを食べちゃって」
「GISYAAA……!」

 できたてホヤホヤの死体という、新鮮な状獲物に歓喜のよだれを垂らして食らいつく。
 がぶり、ぞぶり、ごそり、くちゃり、ぞぞり、こつり、じゅるる、くちゃ、ぱく、ごぼ、ばり、べき、ぼこ、ぞぼぼ、ぺちゃ、ばり、ぼり、ぺき、ぱき、ぽき、ぺきん、ごぶり――。
 食屍鬼の食欲は旺盛だ。肉のひとつまみ、骨のひとかけら、血のひとしずくも残さずにたいらげるのに、さして時間はかからないだろう。

女主人様(ミレディ)。皇帝陛下からの使者か参りました」

 腰をわずかな絹で隠しただけの少年が来客を告げる。虚ろな表情は彼がミサの魔法によって精神支配されているからだ。

「ヘラルド坊やからの使い? 珍しいわね」

 ヘラルド=フォン=ブルースフィア。ブルースフィア帝国の皇帝。時の最高権力者のことを、この少女は坊や呼ばわりした。

「皇帝陛下よりの詔勅(しょうちょく)である――」
「…………」

 アールスハイド王国は現在国内を跳梁する魔物の対応に追われ、国防がおろそかになっている。この機を逃さず帝国は全軍をもって出陣し、王国を征服する。ミサ=キルシュバオムもそれに参陣し、力を尽くすように――。
 使者は口上を述べると彼女に一瞥もくれず、逃げるように退出した。

「国内の擾乱に乗じて攻め込む。ヘラルド坊やらしい姑息なやり口だこと。けれどまぁ、いい暇潰しにはなりそうね。飛んで火に入る蛾どもを蹴散らすよりも軍隊を相手にするほうが面白いもの。ケヒャハハハハハ!」

 圧倒的な魔力で軍勢を蹴散らし、蹂躙する。その様を想像するだけで高ぶったミサは全身から魔力を放出させて弓を射る動作をすると、純粋な魔力の塊が夜空を駆け、月に照らされた叢雲に穴を開けた。 
 

 
後書き
 このあとリッツバーグ領内に侵攻してきた帝国軍をカートが法眼ゆずりの軍略で迎え撃つ話も考えていたのですが、アニメ放送終了にともなう創作意欲の激減のためとりあえずおしまいにします。
 続きはアニメ2期がはじまってから書く予定。
 合戦シーンといえば物語の華なのに、原作だと少ししか描写がないのはもったいないです。
 しかも主人公が介入しないという。
 包囲殲滅陣とか、ああいうのの見せどころなのにもったいない。こっちは正面奇襲とか野戦築城とか、いかにもなろう好みの兵法を用意していますよ! 
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