戦国異伝供書
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第五十六話 高僧の言葉その十三
「同じ様に思っておる」
「宝であると」
「そうなのじゃ、では今度善徳寺に行くが」
晴信はここでこの話もした。
「その時留守はな」
「それがしがですな」
「任せる」
信繁にはこう話した。
「よいな」
「お任せを」
「わしは勘助とこの者達を連れ」
「駿河に参られますな」
「そうして来る、実は楽しみじゃ」
「今川殿、北条殿とお会いすることが」
「心からな」
こう言うのだった。
「実はな」
「やはりそうですな」
「うむ、何かとな」
「それでは」
「酒も酌み交わそう」
「よいことですな」
「それが挨拶にしてもな」
それでもというのだ。
「楽しみじゃ、あと茶もな」
「そちらもですか」
「飲むことになろう、茶の道もこれからは」
「武士の嗜みですな」
「槍や采配だけではない」
晴信は実は和歌も好きで古書もよく読んでいる、だが政と戦に優れているだけの者ではないのだ。人間としての深みも備えているのだ。
「だからな」
「茶の道もですな」
「学んでいこう」
「それがよいですな」
「当家でもな」
「茶ですか」
幸村もその話を聞いて述べた。
「そちらは」
「お主は知らぬか」
「どうも」
「茶、ですか」
穴山も飲みつつ言った」
「あの様な高いものは」
「うむ、我等はな」
海野が穴山に応えた。
「口にせぬわ」
「真田家は質素な家」
忍だけあってとだ、由梨は言った。
「茶の様な贅沢はせぬ」
「いや、酒はいいにしても」
こちらの方が遥かに安いからだ、望月は言った。
「しかし茶は」
「あの様な高いものは」
根津もどうかという顔で言う。
「我等はとても」
「いや、その茶をまさか」
筧はどうかという顔で述べた。
「上方では普通飲んでいるのでしょうか」
「堺では流行っていると聞きましたが」
霧隠はこの話は耳にしていた。
「それも大金持ちだけでは」
「それが違う様じゃな」
晴信は笑って十勇士達に答えた。
「上方では茶の葉を多く植える様になってな」
「何と、葉自体をですか」
幸村は晴信の今の言葉に驚いて言った。
「それはまた」
「驚いたか」
「はい、それはまた」
「そうして茶を多くの者が多く飲める様にしてな」
「茶の道もですか」
「出来ている様じゃな」
「そうなのですか、では」
幸村は今は酒を飲みつつ茶の話をさらにした。
「当家も」
「これからはな」
「茶をですか」
「そうじゃ、飲むとな」
その様にというのだ。
「していくぞ」
「それでは」
「では茶器もですな」
信繁も言ってきた。
「これまで以上に」
「買ってな」
「そしてですな」
「我等もしていこう、茶器も高いが」
「それでもですな」
「買っていこう」
「それではそのことも」
信繁も応えた、そうしてだった。
晴信達は今は酒を酌み交わした、それから数日後善徳寺に行く為に甲斐を発ち駿河に向かうのだった。
第五十六話 完
2019・7・1
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