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戦国異伝供書

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第五十六話 高僧の言葉その八

「父上のことで何もないなら」
「それで何よりじゃ」
「駿河でのことだから不安になったが」
「ならばな」
「流石は雪斎殿ですな」
 山本は晴信と信繁に笑みでこうも言った。
「こうしたこともです」
「既にじゃな」
「お考えで手を打たれておるな」
「大殿には湯治だけでなく酒と馳走を楽しんで頂きますが」
 それだけではない、そうした口調での言葉だった。
「無論です」
「それだけではないな」
「大殿には御身の安全の為に今川殿の家臣の方々がです」
「お供をじゃな」
「してくれております」
 晴信に笑みを浮かべて述べた。
「常に」
「寝食を共にする様にじゃな」
「そうして頂いてくれるとのことで」
「そうか、ではな」
「はい、大殿のことはです」
「安心出来るな」
「確かに突然何をされるかわからない方ですが」
 それでもというのだ。
「ですが」
「それでもじゃな」
「はい、湯治とです」
「酒に馳走にじゃな」
「そこに今川殿の家臣の方々のお供があれば」
「楽しみに目にな」
「そうしたものがあるので」
 だからだというのだ。
「ご安心を」
「そうであるな、ではな」
「はい、お館様は安心してです」
「善徳寺にじゃな」
「行かれて下さい、ただ」
 ここで山本は晴信にこうも言った。
「一つ気になることがあります」
「それは何じゃ」
「雪斎殿が何かと教えておられる今川家の家臣の」
 山本は晴信に神妙な顔で話した。
「松平竹千代殿というのですが」
「確か三河のな」
「はい、元はあの国の方ですが」
「あの御仁がか」
「どうもかなりの出来物で」
 それでというのだ。
「これから今川家で頭角を表すかと」
「だからか」
「この御仁にはご注意を」
「左様か、ではな」
 晴信は山本の言葉に彼も謹厳な顔になって応えた。
「その者のこと覚えておこう」
「さすれば」
「今川家は雪斎殿の次の柱を手に入れたか」
「そうなるかと」
「ではな」
「今川家は余程のことがないとです」
 それこそというのだ。
「衰えないでしょうし雪斎殿がおられると」
「大きくはな」
「雪斎殿がおられるなら」
 まさにというのだ。
「相当な御仁でないと」
「今川家を衰えさせるなぞな」
「出来ませぬ、ただ」
「止めることはな」
「出来ます、そして止めるのが」
「織田殿であるな」
「織田殿が尾張から伊勢と志摩を手に入れられますと」
「今川殿と石高でも戦える」
 そうなるというのだ。 
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