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戦国異伝供書

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第五十六話 高僧の言葉その六

「あちらは幻庵殿がか」
「はい、あの方がです」
 氏康の叔父であり知恵袋である彼がというのだ。
「雪斎殿とお話をされています」
「あの御仁は戦よりも政であるが」
「その政がですな」
「学問も大層であり」
 そうしてというのだ。
「特に外の政がな」
「得意であられますな」
「だからこの度はな」
「まさに水を得た魚の如く」
「働かれるわ」
「それでは」
「この盟約は必ず結ばれる」 
 晴信は微笑んで言った。
「そしてどの家にも益がある」
「そうした盟約ですな」
「後顧の憂いが完全になくなるがな。しかし今川殿はまだ織田殿のことに気付いておらぬな」
「そのことは」
「織田殿はおいそれと負ける御仁ではない」
 信長、彼はというのだ。
「やがて尾張どころかな」
「伊勢や志摩にもですな」
「勢力を拡げるであろうし」
「美濃にも兵を進められますな」
「流石に稲葉山の城はおいそれとは攻め取れぬからな」
「我等が先んずることが出来ますな」
「それは間違いないわ」
 晴信は笑って話した。
「だからまずはな」
「上杉家を凌ぎ」
「そうしつつじゃ」
「美濃に進んでいきますな」
「そうしていこうぞ」
「その為にも」
「お主にはこちらのことも頑張ってもらうぞ」
 策のことだけでなくと言ってだ、そうしてだった。
 晴信は三家の盟約のことは山本に任せた、その中で話は進み氏康も幻庵から話を聞いていた。彼は叔父の言葉に眉を動かして述べた。
「そうですか、駿河の」
「はい、善徳寺においてです」
「それがしと武田殿、今川殿が会い」
「そうしてです」
「確かな盟約を結ぶのですな」
「その様になりました」
「当家は武田家から姫を受けて」
「今川家に姫様をお送りします」
 即ち氏康の娘をというのだ、もっと言えば嫡子氏政の妹となる。
「そして今川殿はです」
「武田殿に姫を送り」
「当家からとなり」
「そして武田殿も」
「当家にとなります」 
 姫を送るというのだ。
「そしてもっと言えば」
「今川家から姫を迎える」
「その様になります」
「二つの家での婚姻はあれど」
「三つの家は、ですな」
「なきこと。それを結ぶとは」
「雪斎殿も考えられますな」
 幻庵も唸ることだった。
「全く以て」
「左様ですな」
「そしてこの盟約を結べな」
「当家も後顧の憂いがなくなり」
 そしてというのだ。
「そのうえで」
「関東に兵を進められる」
「そうなります、関東の諸家も厄介ですが」
「越後のですな」
「はい、上杉殿は」
 輝虎のことも話すのだった。 
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