戦国異伝供書
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第五十六話 高僧の言葉その五
「だから今川殿はよくて尾張で足止めされる」
「下手をすれば敗れる」
「我等としてはな」
「上洛については」
「今川殿に先を越されることはない」
その心配はいらぬというのだ。
「それはな、しかしな」
「それでもですな」
「斎藤家も強いしな」
「本城である稲葉山城は天下の堅城」
「攻めるのは容易ではない」
「はい、ですが」
「上洛の為には避けられぬ」
このことはどうしてもだった。
「だからな」
「必ずですな」
「それは狙う、だが」
それでもと言うのだった。
「それは容易でないことはな」
「頭に入れて」
「そして上洛を目指す、その為にも」
「三つの家の盟約をですな」
「結ぼう、そして」
「今川殿、北条殿とですな」
「会おう」
雪斎の言葉に乗ってというのだ。
「是非な」
「それでは」
「その様にな、その際身の周りにはな」
「それがしがですな」
「いてもらう、今川殿も雪斎殿もその様なことはされぬが」
誘き出して謀殺する、そうした謀はというのだ。実際に義元も雪斎もそうしたことはしない。二人の考えの外にあることだ。
「しかしな」
「用心は必要ですな」
「それでお主とな」
それにというのだ。
「源次郎と十勇士達もな」
「同行させますか」
「今川殿も北条殿も用心はする」
彼等もというのだ。
「むしろ用心されぬとはな」
「到底思えませぬな」
「だからな」
「お館様も」
「用心してじゃ」
そうしてというのだ。
「場に赴くぞ」
「さすれば、しかし源次郎と十勇士とは」
山本は晴信のこのことに隻眼の顔を綻ばさせてこうも言った。
「素晴らしいですな」
「お主はそう思うか」
「はい、あの者達ならです」
「傍に置くとな」
「例え一万の兵に囲まれても」
そうなってもというのだ。
「何の心配もいりませぬ」
「そうじゃな」
「あの者達の武はまさに一騎当千」
幸村主従のそれはというのだ。
「だからこそ」
「万の兵を以てもな」
「お館様は無事にです」
「何があろうともな」
「ですからお館様が言われなければ」
そうだった時はというのだ。
「それがしが申し上げておりました」
「そうであったな」
「あの者はこれからもです」
「用いてな」
「役だってもらいましょう、必ず天下一の侍になります」
「その武勇と心根故にな」
「まさに、では」
山本はあらためて言った。
「三家の盟約は」
「当家はお主がじゃな」
「雪斎殿とお話を進めます」
「その様にな。それと北条家は」
晴信はこの家の話もした。
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