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ある晴れた日に

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9部分:序曲その九


序曲その九

「やっぱりそうじゃないの?」
「そうよね。親の代からずっとこっちで家族も皆阪神ファンだけれどね」
「あんただけ違うの」
「昔からなのよ」
 こうも述べるのだった。
「実はね」
「ふうん、そうなんだ」
「あたしはまあ。若松監督好きだったからさ」
「私は古田さんがやっぱり」
 ヤクルトファンの二人はそういう事情からだった。
「咲はパパが九州生まれだからそれで」
「えっ、あんたのお父さん九州生まれか」
「そうよ。意外?」
「意外っていうか」
 これには明日夢だけでなく他の二人も少し驚いた感じであった。
「九州ねえ。あまり見えないね」
「こいつの親父さんは八条百貨店の重役さんなんだぜ」
 春華がその咲の横で笑って説明する。彼女の肩を左から抱いて。
「百貨店全体のな」
「全体のなの」
「ああ。まあ八条グループって大きいよな」
「ええ、かなりね」
 明日夢は春華の言葉に頷く。八条グループといえば世界規模の巨大グループだ。この八条町はその企業町であるのでこのことは彼女も知っていた。
「そこの重役さんの娘さんだったんだ」
「ついでに言えば兄貴も八条デパートに勤めてるんだよな」
「うん、そうよ」
 咲もにこりと笑って春華の言葉に頷く。
「パパもお兄ちゃんも大好き。義彦さんも」
「義彦さん?」
「こいつの彼氏なんだよ」
 また咲が微笑んで明日夢達に説明する。
「八条大学の学生さんでな。お菓子屋の息子さんなんだよ」
「八条大学ね」
「義彦さんの実家は山月堂なのよ」
「ああ、あそこね」
 この名前を聞いて明日夢は頷いた。
「あそこの大きなお菓子屋さんね」
「そこの息子さんは知ってる?」
「確か」
 明日夢は咲の話を聞いて考える顔になった。それと共に視線を上にやりつつ述べる。
「あの背が高くて眉の太い。結構顔のいい人よね」
「知ってるんだ、義彦さんのこと」
「まあ一応ね。同じ商店街だし」
「それでもあまりお付き合いないの?」
「一応知り合いは知り合いだけれど」
 頭の後ろをかきながら咲に答える。
「実は。あまりお話もしたことないしね」
「ふうん、そうなの」
「悪い人じゃないわよね」
「いい人だよな」
「ねえ」
 春華と奈々瀬が顔を見合わせて話す。
「礼儀正しいし優しいし」
「穏やかだしね」
「けれどね。甘いものばかり食べるのがね」
「困ったところってやつ?」
 今度は静華と凛が話している。
「幸い今は痩せてるけれど」
「太るかも、将来」
「それでもいいのよ」
 咲が横から言ってきた。
「義彦さんは義彦さんだから。咲大好きよ」
「完全にベタ惚れみたいだね」
 恵美はそんな咲を見て少し呆れたようにして呟いた。
「これはどうにもこうにも」
「こいつな。ファザコンでブラコンなんだよ」
「年上好みってやつ?」
 春華の言葉に茜が問う。
「それって」
「まあそんなところだな。昔からなんだよ」
「ふうん」
「それでなのか」
 茜に続いてまた恵美が述べた。
「親父さんやお兄さんや彼氏の話をしてそんな顔になるのは」
「まあいい感じの人なのは確かね」
「咲の彼氏だからね」
 明日夢の言葉に少しきっとした顔にすぐなって言葉を返してきた。
「いいわね、そこんところは」
「ああ、あたしは別にタイプじゃないしね」
「そうなの」
「やっぱりあれでしょ。ベイスターズの村田修一選手」
 ここでも野球であった。
 
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