ある晴れた日に
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84部分:優しい魂よその十九
優しい魂よその十九
「それじゃあな。家に帰ったら早速作詞と作曲するからな」
「楽しみにしておくわ」
「一週間、いや五日か?」
考える顔になって自分で述べる。
「時間は」
「五日でできるの?」
「ああ。書くのは早いんだよ」
こう未晴に答える。
「これでもな」
「けれど一曲を五日でなの」
「曲のイメージもすぐに湧くんだよ」
自分でこう言うのだった。
「本当にすぐにな」
「それって凄いことじゃないの?」
未晴は正道の言葉を聞いてそう思わざるを得なかった。
「すぐにって」
「こういうのってな。やっぱり感性なんだよ」
「よく言われることね」
「ああ。それで人それぞれだよな」
これは何に対してもよく言われることであった。
「どうしてもな」
「じゃあ音橋君はそれが早い人なのね」
「学校の勉強は苦手でもこういうのは得意なんだよ」
これは半分以上冗談の言葉である。
「音楽はな」
「けれど成績だってそんなに」
「そうか?」
「そんなに悪くないじゃない」
クラスで真ん中だ。確かに悪いというまではいかない。なおクラスで最下位といえばやはり野本である。彼に関しては皆があれだと言う。
「それでそう言っても」
「まあいいじゃねえか。とにかく五日な」
「五日ね」
「そうさ、五日さ」
お互い笑みになっていた。
「帰って五日後な。待っててくれよ」
「わかったわ」
その笑みのまま答える未晴だった。
「それじゃあ」
「その時な。とりあえず今はな」
「どうするの?」
「これ以上ここにいても何にもならないしな」
次に言ったこはこういうことだった。
「帰るか。あんたもここに長くいない方がいいぜ」
「寒いから?」
「それもあるけれどな。ただもっとな」
「!?ああ、そういうことね」
未晴もここで正道が何を言いたいのかわかった。納得した顔になって彼の言葉に頷くのだった。
「誤解になって噂になるわよね」
「それでもいいっていうんならいいけれどな。俺はまあ別に」
「スキャンダルは怖くないの」
「スキャンダルが勲章なんだよ」
うそぶいてみせた。この辺りは自分に少しだけ嘘をついている正道だった。
「ロッカーにとっちゃな。そういうもんだろ?」
「あら、バラードじゃなかったかしら」
未晴は意地悪い笑みを浮かべて正道に返した。
「音橋君が歌うのは」
「勿論それだけじゃないけれどな。何でもかんでも歌うんだけれどな」
「じゃあロッカーじゃないじゃない」
「生き方がロッカーなんだよ」
かなり強引に力説する。
「俺はな」
「じゃあそういうことにしておくわ。まあ今はね」
「帰るのか」
「私はロッカーじゃないから」
笑って正道から二歩離れた。だがここでまた言うのだった。
「今のところはね」
「今のところは、かよ」
「そういうこと。これからどうなるかはまだわからないわ」
「ロッカーはいいものだぜ」
楽しい笑みを作って未晴に述べた。
「ロックンローラーってのとはちょっと違うけれどな」
「その辺りの違いもまた教えてもらうわ」
「ああ、またな」
「ええ。またね」
こう言葉を交えさせて別れた二人だった。今は二人の仲はこの程度だった。しかしそれがやがて短いものになっていく。だがそれは二人もまだ知らなかった。この穏やかな夜の中では。
優しい魂よ 完
2008・11・3
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