蒼と紅の雷霆
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
蒼紅:第六話 光塔
前書き
軍人にしては弱い部類に入るこのボス
皇神の科学工場爆破からしばらくして、フェザーから依頼が舞い込んできた。
「それでアシモフ。今回の依頼は?」
『かつて電子の謡精の歌声を国中に配信していた大電波塔“アマテラス”…ソウには、このタワーの外面から侵入し、警備兵やメカを制圧してもらいたい。GVは内部から侵入する。インサイドとアウトサイドからの同時攻略だ。アマテラスは、今は通常のメディア配信にしか使われてはいないが…あんな物がある限り、シアン…彼女も安心して眠れないだろう』
「アシモフ…」
『無論、我々にとってもあのタワーは今後の危険性を孕んだ施設だ。お前達の活躍、期待しているぞ』
「了解…」
ソウが了承して頷くと装備を確認する。
抑制のレンズは戦い方の都合上、EPエネルギーの消費が激しいソウの弱点を補う為にフェザー時代から愛用している装備だ。
そしてソウの空中移動能力であるマッハダッシュの調整をし、テールプラグの調整も終えるとソウとGVはアマテラスへと向かい、ソウはアマテラスの外面、GVは内部に侵入した。
テールプラグをダートリーダーに接続すると何時でも雷撃ショットを放てる状態にする。
避雷針の数も限られていて一度チャージショットを撃てば使用した避雷針の回収も出来ないソウは第七波動をダイレクトに放つこの状態での戦闘が主だからだ。
『こちらGV。タワーの内部に潜入した。兄さんも、タワー外面の制圧を開始して欲しい』
「了解だ」
巨大な電波塔の外周をソウは駆ける。
大電波塔“アマテラス”…太陽の神の名を冠した塔は、この街を見守るかのように高く聳え立っている。
そして早速、空中を浮遊するレーザー砲台のメカがソウを迎え撃ってきた。
このレーザー砲台は直線を飛ぶ赤いレーザーと対象が縦軸が重なった時に一度だけ曲がる青いレーザーの二種類を使い分けてくる。
青いレーザーの軌道変更にソウは回避が間に合わずにカゲロウを使わされる。
「チッ…だが、二種類のレーザーを放ってくることさえ分かれば当たることはない!!」
それ以降はもう当たらず、砲台にマッハダッシュで接近しながら銃を向けると雷撃ショットの連射を浴びせ、時には雷撃刃の斬撃を叩き込んで破壊していく。
奥に進むと上の方を向いている見慣れない機械があり、そしてアシモフからの通信が入る。
『リニアカタパルトが設置されているようだな。それは特殊コーティングした荷物を高速で射出運搬するためのマシンだ。お前ならそのマシンを使って自分自身を射出出来る。レッツゴー、ソウ!!』
「了解」
そしてソウはアシモフが言っていたようにリニアカタパルトを乗り継ぎながら先に進むが、当然ながら皇神兵はそれを見逃さず、道を阻もうとする。
「やれやれ、実力差も分からない間抜けな無能力者共が来たか…」
「間違いない…紅き雷霆・ソウだ!!」
「フェザーめ、このアマテラスを狙ってきたか!!」
「地の利はこちらにある!!如何に紅き雷霆でも勝機はある!!」
「地の利など関係ないな。その程度で埋まる実力差ではない。」
攻撃をかわしながら雷撃鱗のホバリングで皇神兵達の真上を取ると、雷撃ショットを撃ち込んで蹴散らし、すれ違い様に雷撃刃で斬り捨てる。
「ぐはっ!!」
「こ、これがSSランク・紅き雷霆の力…!!」
「ば、化け物…!!」
皇神兵やメカを蹴散らしながら先に進むとアシモフからの通信が入る。
『電子の謡精の歌はかつてこのタワーによって配信、拡散されていた。彼女の力は本来、それほど広範囲に作用するものではない。にも関わらず能力者の所在が高い精度で探知されていたのはこのタワー自体が、電子の謡精の増幅装置(ブースター)の役割を果たしていたからだ』
「なるほど、つまりこの施設はシアンを繋いでいた機械と似たような物ということか」
『第七波動の能力を利用し、同胞を苦しめるなど…悪魔(デーモン)の所業。お前達が何としてでも破壊せねばならない』
「言われるまでもない。これ以上、皇神の屑共の好きにはさせん」
表面には出さないが、ソウからすればシアンも今では自分の家族のような物だ。
彼女を苦しめる可能性を孕んだこの塔は必ず制圧してみせる。
そして再びカタパルトが複数配置されている場所に出たが、カタパルトの向いている方向にはトゲが生えた壁があった。
「これはカタパルトを使わずにダッシュジャンプとホバリングを使って進んだ方が良さそうだ…マッハダッシュは止めておくとしよう」
マッハダッシュは一気に長距離を移動できるが、下手したら障害物にぶつかる恐れがある。
しかし、壁や足場を上手く利用すれば短時間での上昇と下降が可能なのだが。
ダッシュジャンプとホバリングを駆使してカタパルトに注意しながら先に進む。
『良い判断だソウ。カゲロウがあるとは言え慎重に進むに越したことはない。そこの通路から一旦、タワー内部へ侵入してくれ。ゲートモノリスを破壊するんだ、ソウ』
「ああ」
ゲートモノリスを破壊して内部に侵入する。
そしてメカ群を蹴散らし、カタパルトを利用しながら進むとGVから通信が入る。
『兄さん。こちらは中腹まで到達したけど…そっちはどう?』
「俺も大体それくらいだな。目標の送信設備は頂上にある…それまで気を抜くなよGV?」
『分かってるよ…ん?』
「どうした?」
『ごめん、敵に囲まれたようだ。念の為に一旦通信を切るよ』
「分かった。気を付けろ」
GVからの通信が切れるのと同時にソウは先に進む。
フェザー時代からGVは能力込みならトップクラスの実力者だ。
皇神兵やメカに遅れを取るとは思えない。
「まあ、心配がないと言えば嘘になるが…ん?」
カタパルトで移動しながらソウはマッハダッシュとホバリングで小さな宝石が転がっている場所に着地する。
「こんなところに宝石……まあ、テーラにでもくれてやるか」
何となく脳裏にテーラの姿が過ぎったので、この宝石はテーラに渡すことにした。
宝石をしまった時にGVから通信が入る。
『兄さん、応答を』
「GVか」
『敵を片付けて、先に進んでるけど…どうもこっちの警備が薄い気がするんだ…奴らにとってここの重要度が高くないのか…それとも…』
「俺の方に戦力が集中しているか…構わん、殲滅すれば済む話だ」
『兄さん…』
兄の言葉にGVは溜め息を吐きながら口を開く。
『とにかく兄さんも気をつけて』
それだけ言うとGVは通信を切り、ソウはゲートモノリスを破壊して先に進む。
送信設備のある頂上に辿り着くと、そこには左目に傷のある青年が立っていた。
「こんな所に1人でいると言うことは貴様は皇神の能力者か?宝剣と言う増幅器を所有している」
「デイトナか…口を滑らせおって…部下より連絡があった。紅き雷撃を操る能力者…やはり皇神最悪の失敗作である貴様であったか。この先には行かせんぞ…私はイオタ…皇神の…この国の栄光を守護せし光の戦士!この電波塔“アマテラス”は、皇神の威光をあまねく世界に知らしめるための標…貴様のような国賊に落とされるわけにはいかんのだっ! 」
そして宝剣を取り出し、変身現象を発動させると変身後のイオタの姿はまるで孔雀の尾羽を広げたかのようなビットらしき物を背負っている。
「ほう…GVから聞いていた通りに随分と人間離れした姿になったな。宝剣のような得体の知れない物に制御されてまで皇神に従うとは正気を疑うぞ」
「いくらでもほざくがいい…皇神の最大の汚点よ…光は、我と共にっ!」
ソウとイオタの戦闘が始まる。
「皇神は能力者を利用し、私腹を肥やしているだけのただの屑企業だろう?何故国その物のように語る?」
ショットを連射しながらイオタに問い掛けるソウ。
「皇神こそ、真にこの国を管理し、守護する光の守り手よ!だからこそ、私は軍を退き皇神についたのだ!全ては…この国の栄光と護国のために!」
今でも忘れはしない。
ある時、第七波動能力者によるテロの鎮圧任務中、能力者に対し何も出来ない軍の惨状を目の当たりにし、自身も左目を負傷してしまう。
その際、軍に代わりテロを鎮圧したのがある人物が所属している皇神の能力者部隊だった。
その人物と言葉を交わして、その人物の器を感じ取り、テロの際に負傷した目の傷による視力低下を理由に軍を辞職し皇神に組することになる。
「元軍人か…どうやら戦闘の負傷の際に脳に異常が起きたようだな?いくら強力な第七波動とは言え、あんなチビを本人の意思を無視して幽閉した挙げ句に利用して能力者を狩り集める皇神に大義があるとは思えないがな?」
イオタの言葉にシアンの機械に繋がれた姿を思い出してか、表情を歪めるソウ。
「所詮国賊如きには分からぬことよ。貴様は我が光に……“残光(ライトスピード)”の第七波動に、目を眩ませていれば良い!電流の伝達速度など、しょせんは亜光速!真なる光には、決して追いつけはせんのだ!」
「言葉遊びは結構だ。皇神のことなど理解したくもない。同じ能力者でも邪魔をするというのなら容赦なく斬り捨てるまで」
「威勢はいいようだな…だが!音速(おそ)い…音速いぞ!ソウ!!その速度では、私の光速(はや)さは見切れまい!!」
イオタのその言葉にソウは嘲笑を浮かべる。
「ふん、元軍人の癖に戦闘というものをまるで理解していないようだな…光速さだけで全てが決まるなら誰も戦闘で苦労はしない」
確かにソウから見てもイオタの光速移動だけは厄介だと思える。
あくまで光速移動だけは。
「降リ注グ光ノ御柱(ルミナスレイン)!!」
展開したビットによるレーザーを縦横無尽に放つ。
「影絶ツ閃光ノ牙(フラッシュスティンガー)!!」
他にもビットと一緒に突進。
「煌ク断罪ノ滅光(ジャッジメントレイ)!!」
極めつけはビットによる一斉掃射。
多彩な攻撃ではあるが、これらには差はあれど共通の弱点がある。
カゲロウ込みで回避に徹していればイオタの弱点は嫌でも分かってくる。
「災禍ノ裂槍(カラミティリッパー)…」
「そこだっ!!」
声のした方向にチャージショットを撃ち、ビットを展開しようとしていたイオタに直撃させる。
「ぐあっ!?」
イオタに撃ち込まれた避雷針に帯電した雷撃により追加ダメージを与える。
「貴様の弱点は分かったぞ…貴様はどうやら光速で動く為か移動と攻撃…少なくとも2つの行動を同時に取ることが出来ないようだな。雑魚ならば大した問題ではないだろうが、実力が同じかそれ以上の相手に対してはその弱点は致命的だ。もう貴様の攻撃は俺には当たらん…そのような欠陥能力では俺には勝てん」
「抜かすか!国賊風情が…!我が光刃(ヤイバ)が、貴様という影を絶つ!」
「迸れ、紅き雷霆よ…貴様の光刃を俺の紅き雷刃で叩き斬る…!」
最早どちらが優勢なのかは語るまでもないだろう。
どれだけ多彩な技を使おうとも共通の弱点を突かれてイオタのダメージは蓄積していき、とうとうイオタは切り札を切る。
「私は負けん…!!集いし残光、輝く刃!終焉を告げる光の煌めき!地平を裂いて無へと還す!!終焉ノ光(ゼロブレイ)…」
しかしイオタのSPスキルが完全に発動する前にダッシュジャンプでイオタの真上を取り、銃を大上段で構えた。
「馬鹿が、必殺の一撃は小回りも考えることだ。迸れ、紅き雷霆よ!閃くは破滅の雷光!紅雷の刃よ、敵を斬り裂け!ギガヴォルトセイバー!!」
ソウが背後から放ったSPスキルの雷刃波をまともに喰らったイオタは体を両断されてしまう。
「うっ!光あれぇぇーーっ!」
致命傷を受けたイオタはデイトナ同様に肉体が膨張し、爆発した。
その後に残された宝剣に亀裂が入り、砕ける直前に何処かへと転移された。
「撃破完了…GV、聞こえるか?宝剣の能力者を撃破した。このまま合流するぞ」
『分かった』
この場を後にしてGVと合流すると、互いの無事を喜ぶ兄弟であった。
ページ上へ戻る