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ある晴れた日に

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82部分:優しい魂よその十七


優しい魂よその十七

「奇麗だな」
 彼は言うのだった。
「どうもな」
 その光と夜空を見上げて呟いた。目に入るその光もまた柔らかく太陽のそれのようにきつくはない。その光を見ながらテントへ戻っていた。しかしここで。
「あれっ」
 不意に後ろから声がしてきた。
「音橋君」
「んっ!?」
 その声に顔を向ける。するとそこにいたのは。
「竹山かよ」
「どうしてここにいるの?」
 見ればそこにはジャージ姿の未晴がいた。夜の世界に立ちそうして正道の前にいるのだった。
「ここに。どうしてなの?」
「どうしてって。何がだよ」
「だから。どうしてここにいるの?」
 こう正道に問うてきたのだった。
「ここに。何かあったの?」
「何かないと来ない筈もないよな」
 笑って言葉を返す正道だった。
「といっても言うのはちょっとな」
「そうなの」
「それを聞かないのはお互いにしたいよな」
「そうね。実は私もね」
「そうか」
「ええ。実はね」
 未晴は少し俯いて苦笑いをして言った。
「それは。ちょっとね」
「じゃあそれでいいな。ところで」
「何?」
「結構奇麗な世界だよな」
 こう未晴に対して言うのだった。
「この夜空。どうだ?」
「そうね。確かにね」
 未晴も正道のその言葉に頷いた。
「奇麗ね」
「銀色の光か」
 また空を見上げての言葉だった。
「不思議な光景だよ」
「不思議かしら」
「いつもな。昼ばかり見ていたからな」
 また未晴に話す。
「こうした夜の光っていうのもな」
「いいっていうのね」
「そうは思わないか?夜って暗いものばかりだって思っていたんだよ」
「夜は暗いものよ」
「ああ、それはな」
「けれどね」
 未晴はここであえて正道に言うのだった。彼女もまた夜空を見上げていた。その白銀の月の光に照らされ静かな世界を演出しているこの夜の世界を。
「それだけじゃないわよ」
「それだけじゃない?」
「暗いだけじゃないわ」
 穏やかな笑みで正道に言うのだった。
「夜の世界もね」
「暗いだけじゃないか」
「昼だって同じじゃない」
 今度はこう言ってきた。
「明るいだけじゃないでしょ」
「ああ」
 未晴のその言葉に頷く。
「光があればそこにな」
「影ができるじゃない。夜はね。暗いけれど」
「月があるか」
「それに星も。今はないけれど」
「星もか」
「だから暗いばかりじゃないわ」
 未晴が言うのはこういうことだった。
「夜でもね」
「昼でも暗い場所があって夜も暗いばかりじゃないか」
 正道は未晴のその言葉を自分の口で反芻してみた。
「面白いな」
「それって昼や夜だけじゃないわよ」
 今度はこう言う未晴だった。
「それだけじゃね」
「っていうとどういうことだ?」
「何でもそうだと思うのよ」
「そうなのか」
「ええ。人だって」
 人も言葉に出してきた。
「そうよ。誰だって明るい部分があれば暗い部分があるじゃない」
「そうか?うちのクラスの連中なんてな」
「この前。咲のこと話したわよね」
「ああ、あいつかよ」
 咲の話が出ると眉を少し顰めさせた。これは彼女が嫌いだからではない。
「あいつ子供の頃はかなり寂しそうだったってあれか」
「そう、それ。本当に子供の頃はお父さんもお母さんもいなくてね」
「それで今ああしていつも誰かと一緒にいるんだな」
「物凄く寂しがり屋なのよ」
 咲はまだ孤独を忘れてはいないのだ。今は明るくいつも周りに誰かいて全く孤独ではないがそれは孤独を恐れることの裏返しなのだ。
「それが暗い部分なのよ」
「そうなるのか」
「他の皆だって」
 未晴は他の面々についても話す。
 
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