戦国異伝供書
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第五十五話 足利将軍その十二
「余計に酒が美味いです」
「だから飲まれますか」
「今宵は」
「越後に戻られましたし」
「そうされますか」
「はい、心ゆくまで飲み」
そうしてというのだ。
「楽しみます」
「それはいいのですが」
家臣達は皆若い者達ばかりだ、小姓の者が殆どだがその中に兼続がいる。その彼が主に対してこう言った。
「あまりです」
「深酒はですか」
「お身体によくないですが」
「ですがこれだけは」
輝虎は言いつつまた飲んだ。
「どうしてもです」
「止められぬと」
「はい」
そうだというのだ。
「ですから」
「左様ですか」
「わたくしにとって酒は」
「どうしてもですね」
「離れられぬもので」
「毎晩ですか」
「飲まずにいられません」
こう言ってまた飲むのだった。
「こればかりは許してもらいたいです」
「そうなのですか」
「織田殿は酒を飲めぬとか」
ここでまた信長のことを言った。
「それはです」
「殿にとっては」
「残念なことですな」
「織田殿が下戸とは」
「それでは」
「ともに盃を交えることが」
それがというのだ。
「織田殿とは無理な様ですね」
「それでは」
今度は兼続が言ってきた。
「織田殿がお好きなのは」
「何でも果物や菓子とです」
「甘いものがですね」
「お好きだとか」
「やはりそうですか」
「わたくしとはです」
それこそというのだ。
「甘いものも食べますが」
「殿はやはり」
「酒なので」
そちらが好きでというのだ。
「ですから」
「このことについては」
「残念です、ですが茶を好かれるとのことで」
「茶ならですね」
「わたくしも好きです」
このことは微笑んで言えた。
「ですから」
「それ故に」
「はい、そして」
「織田殿とは」
「お茶を、そして武田殿も交えて」
そうしてというのだ。
「三人で、です」
「茶を飲むことがですね」
「わたくしの願いとなります」
信長が酒が飲めないならというのだ。
「その様に。しかし意外と言えばです」
「織田殿が酒が飲めぬことは」
「意外ですね」
「確かに。それがしもです」
兼続にしてもというのだ。
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