戦国異伝供書
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第五十五話 足利将軍その四
「だからでおじゃる」
「当家が遅れれば」
「他に確かな家が上洛すれば」
「その時はですね」
「その家を頼るでおじゃる」
政虎にこのことを断った。
「そのことは申し上げておくでおじゃる」
「わかりました、では」
「上杉殿はでおじゃるな」
「必ずです」
「朝廷をでおじゃるな」
「盛り立てます、そして」
言葉を続けた、その言葉はというと。
「幕府も」
「天下の為にでおじゃるな」
「働かせて頂きます」
こう言ってそうしてだった。
政虎は朝廷から今度は幕府の御所に向かった、そこでだった。
ふとだ、彼はある一行とすれ違った、それは青い衣に馬具の一団だった。その先頭にいる颯爽とした若武者とはお互いに一瞥した。
そしてだ、政虎は家臣達に言った。
「あの御仁は」
「はい、あれがですな」
「織田吉法師殿ですな」
「日頃殿が言われている」
「あの御仁ですな」
「そうですね、思っていた以上に」
その者についてだ、政虎はさらに話した。
「大きな資質の御仁ですね」
「もう尾張を統一されたとか」
兼続が言ってきた。
「それも瞬く間に」
「はい、そしてですね」
「尾張の政を整え」
「そのうえで」
「さらに大きくなろうとしている」
「そうした御仁だとか」
「そう聞いていましたが」
それでもと言うのだった。
「聞いていた以上にです」
「器をですか」
「感じました、あの資質ならば」
器ならというのだ。
「必ずです」
「天下を救えますか」
「間違いなく」
「左様ですか」
「はい、ですから」
「あの御仁は」
「わたくしの片腕に」
是非にという言葉だった。
「そう願います」
「左様ですか」
「やがては、ですが」
「今はですね」
「幕府にです」
是非にと言うのだった。
「参上しましょう」
「公方様のところに」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「わたくしの考えをです」
「公方様にもですね」
「お話させて頂きます」
「そうされますね」
「そしてです」
さらに言うのだった。
「公方様にも忠義をです」
「捧げますね」
「そのことも申し上げます」
「それでは」
「はい、これより参りましょう」
将軍の御所にもとだ、こう言ってだった。
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