戦国異伝供書
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第五十五話 足利将軍その三
「麿もでおじゃる」
「わたくしにですか」
「及ばずながらでおじゃる」
「お力を貸して下さいますか」
「この天下は乱れに乱れて久しく」
そしてとだ、近衛は政虎に難しい顔で話した。
「天下の万民は塗炭の苦しみを味わっているでおじゃる」
「その民達を救う為にも」
「戦いそしてでおじゃるな」
「天下を安らかにします」
「そうさせてもらうでおじゃる」
「その様に、ではこれよりです」
「帝への参内のことでおじゃるが」
確かな声でだ、近衛は政虎に話した。
「上杉殿には位も授けられるでおじゃる」
「これを機に」
「関東管領になられたのでおじゃる」
それならというのだ。
「ならでおじゃる」
「はい、それでは」
「麿が案内させてもらうでおじゃる」
「そうしれですね」
「帝の御前に参り」
そしてというのだ。
「贈りものと金と何よりも」
「忠義を」
「帝にでおじゃるな」
「捧げさせてもらいます」
こう言って実際にだった、政虎は近衛の案内を受けてそうして帝の御前に参上してそのうえでだった。
多くの貢ぎものに金を献上した、それから帝にも誓った。
それが終わってからだ、近衛は夜に自身の屋敷に政虎を招いてだった。彼に酒を馳走しつつそのうえで話した。
「帝もお悦びでおじゃる」
「そうですか」
「だからでおじゃる」
「これからもですね」
「帝のことをお願いするでおじゃる」
「承知しております」
「今天下はこの有様でおじゃる」
近衛は飲みつつ苦い顔で述べた。
「この都ですら」
「この有様ですね」
「上杉殿はどう思われるでおじゃる」
今の都をというのだ。
「この有様は」
「はい、それは」
「酷いものでおじゃるな」
「まさに」
こう近衛に答えた。
「古書にあった雅はです」
「何処にもないでおじゃるな」
「酷いものです」
政虎もこう言った。
「まことに」
「そうした有様ではでおじゃる」
「朝廷についても」
「今は御所の壁さえ崩れてでおじゃる」
そしてというのだ。
「御所自体も寂れ帝もでおじゃる」
「何かとお困りですね」
「その有様でおじゃるから」
「是非共ですね」
「武になるのなら」
それならというのだ。
「願ってもないことでおじゃる」
「では」
「上杉殿に頼みたいでおじゃる、ただ」
「ただとは」
「朝廷としてはでおじゃる」
ここで近衛は政虎にこうも言った。
「とかく天下を泰平に出来る武士なら」
「ならですか」
「どの家でも頼みたい」
「そうした状況ですね」
「それは事実でおじゃる」
まさにというのだ。
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