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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第218話「全てを呑み込む絶望の闇」

 
前書き
自分の文章力では絶望感を表しきれていないがもどかしい……(´・ω・`)
一応、常人ではもう絶望して心が折れてしまう状況です。
 

 









「いい見世物でしたよ。あれ程の実力差を、たった一瞬の隙を突く事で覆すとは。……だからこそ、貴方は最も警戒していたんですよ」

「ッ……!」

 イリスの言葉を他所に、優輝は辺りの状況を把握する。
 イリスが無造作に繰り出した闇は、味方のほとんどを呑み込んでいた。
 回避に成功したのは、とこよとサーラのみ。
 また、なのははフェイトに、優香と光輝は寸前で気づいたリニスとクロノに突き飛ばされた事で、運よく呑まれずに済んでいた。

「可能性を閉ざさない限り、どれほど追い詰めようとそれを覆す。……ほら、先程の戦いで、失ったはずの感情が一部戻ってきているでしょう?」

「…………」

 語るイリスに対し、優輝は無言だった。

「ッ……!!」

「させませんよ」

 それもそのはず。その優輝は残像で、本体は転移と併用して斬りかかっていた。
 しかし、イリスの前にいたソレラが“性質”を行使し、他の神がそれを防いだ。

「チッ……!」

「悠長にイリス様を攻撃してていいんですか?」

「ッ!」

 その言葉に優輝は察知する。
 ……闇に呑まれたはずの者達が、全員矛先を優輝に向けている事に。

「……洗脳……!」

「その通り。あの程度の霊術、魔法では決して防げませんよ。ねぇ?」

「………!!」

 魔法が、霊術が優輝に向けて放たれる。
 転移魔法で包囲を抜け出し、魔法や霊術による爆風の中、再び斬りかかる。

「ダメだよ」

「ッ……!?」

「元々勝ち目がないんだから、諦めなよ」

 再び防がれた。だが、今度はそれだけじゃない。
 優輝は攻撃を防いだ相手を見て目を見開く。

「司……!」

「私だけじゃないよ?」

「ッ!」

 攻撃を防いだのは足止めをしていたはずの司だった。
 さらに、そこへ死角からの強襲が来る。……奏だ。

「ふふふ……」

「全員、やられたのか……!」

 奏の攻撃を防ぎ、優輝は再び転移する。
 すると、寸前までいた場所が爆発した。
 転移した優輝は、その爆発を起こした人物……緋雪を見据える。

「ええ。ええ。元々碌に互角にすらなれないのに、足止めなんかしてしまっては……こうなるのは必然ですよねぇ?」

「あはは!避けたッ!避けたんだ!じゃあ、これはどうかな!?」

 狂ったように笑う緋雪は、魔力弾による弾幕を展開した。
 緋雪だけでなく、司も、他の洗脳された者達も弾幕を展開した。

「くっ……!」

 転移を繰り返し、優輝は何とか被弾を避ける。
 奏はその転移を読み、移動魔法を使いつつ斬りかかってくる。

「ッ……!」

「ふっ……!」

 導王流による受け流しをしようとして、咄嗟に体を逸らす。
 ディレイによって、受け流すタイミングをずらされていた。

「(デバイスも機能不全に……!)」

 解析魔法によって、一目で理解出来た。
 洗脳された主を、本来ならデバイスは止めるはずだ。
 しかし、同じように洗脳の影響でも受けたのか、機能不全になっていた。
 それも、主の抑止力となる人格と魔法のロック機能のみ。
 よって、デバイス達は完全に都合のいい道具になってしまっていた。

「(躱しきれないか……!)」

 神や“天使”だけでなく、洗脳された味方全員が優輝を狙っていた。
 いくら身体強化をしていても、回避に限界がある。

「くっ!」

「ッ!?」

 そこで、肉薄してきた奏を掌底で突き飛ばす。
 間髪入れずに転移魔法で司に肉薄。掌底からのダブルスレッジハンマーで障壁を破りつつ地面に叩き落とす。

「あはは!」

「っ……!」

 “破壊の瞳”を転移魔法で躱し、それを読んだ緋雪の攻撃を受け流す。
 直後、再び転移魔法を使用し、緋雪ごと転移。他の攻撃から逃れる。
 カウンターで緋雪の顎を打ち抜き、仰け反った所を回し蹴りで吹き飛ばした。

「ぐっ……!」

 だが、それでも間に合わない。
 神や“天使”の攻撃が雨のように降り注ぎ、逃げ場がなくなる。
 転移しても一時凌ぎにしかならず、味方だった皆は容赦なく攻撃してくる。
 ユーノやクロノ、シャマルのバインドが邪魔をし、プレシアやリニス、はやて、ユーリ、紫陽の魔法や霊術が進路を塞ぐ。
 さらに、そこにフェイトやアリシア、アリサ、すずか、シグナム、ヴィータなど、近接戦を得意とする者達も襲い掛かる。
 それらを悉く返り討ちにするように叩き落とす優輝だが、ついに体勢を崩す。

「(まずい……!)」

 被弾を覚悟した、その時。

「ッ……!」

「『こっち!』」

 いくつもの魔力弾と砲撃魔法が優輝を守るように降り注ぐ。
 そして、掻っ攫うかのようにとこよが優輝を抱えてその場から離脱した。
 なのはの念話による誘導を聞き、優輝はすぐに転移魔法を使用する。

「何が起こったっていうの……!?」

「……洗脳だよ。それも、さっき私達がされたモノと比べ物にならない程、強力な奴……!私達が作っておいた術式じゃ、歯が立たない!」

「どうします……!?」

 焦燥感を募らせる。
 だが、落ち着く暇もなく周囲から魔法や霊術が飛んでくる。
 サーラが言葉を切って咄嗟にアロンダイトで弾いて事なきを得る。

「緋雪だけじゃなく、皆……」

「何とか仕切り直したいけど……!」

「神界にいる内は掌の上……どうしようもない……!」

 考える暇もなく、攻撃に晒される。
 サーラととこよが矢面に立ち、他で援護する事で何とか凌いでいく。
 だが、時間の問題だ。打開策がなければこのまま圧し潰されるだろう。

「(結界が張られているから逃げ道がない。だからと言って、このままでは確実に仕留められる。……一度、見捨てるしかないか……?)」

 優輝達が一度集結した際、神々が結界を張っていた。
 そのため、優輝達は逃げる事が出来なくなっていた。
 万が一結界を抜けても、そこにも罠がある事は予想出来たからだ。

「……結界に穴を開ける。この人数分の大きさなら可能なはずだ」

「……それ以外に打開策はなさそうですね」

「優輝君が穴を開けるまで、私達で露払いだね?」

「そうだ」

 転移魔法を使いつつ、攻撃範囲から逃げ続ける。
 同時に、優輝は片手に霊力と魔力を集束させていく。

「霊術は私が」

「では、魔法は私が」

「他は任せたよ!」

 飛んでくる霊術や魔力弾、砲撃をとこよとサーラが切り裂く。
 さらに障壁を張って防ぎ、同じように霊術や魔法を繰り出して相殺する。
 その後ろから、なのは、光輝、優香が魔法を放つ。
 それらは神達の攻撃とぶつかり、半分ほど相殺する。

「(既存の魔法、霊術ではダメだ。かと言って、宝具でも足りない)」

 元々、六人の大魔法を三人の霊術で増幅してようやく破れる堅さなのだ。
 優輝一人では、その時の結界より強固な結界を破壊するには、既存の魔法や霊術ではあまりにも威力が足りない。
 特殊効果のある宝具でも、一歩どころか数歩足りない。

「(ならば、ここで創り出す)」

 故に、今この場で突破口を開くための術を編み出す必要があった。

「(神界において、ただの威力よりも、その“本質”による影響が強い。だからこそ、“そう在るべき”と力が働く言霊も普段より強化される)」

 概念や言霊と言った、“そう在るべき”と働きかける力。
 そう言った“本質”に携わった攻撃や防御は神界において強い力を発揮する。
 その事が、今までの戦いと神々の“性質”から理解が出来た。
 神々の“性質”はその“性質”の名による“本質”がそのまま力に返還していた。

「(ただ集束させるだけじゃない。言霊を、概念を重ねる)」

 拳を振るって繰り出す衝撃波と、“衝撃波という概念”から繰り出す衝撃波なら、後者の方が“存在”として強固だ。
 副次効果による産物と、“それそのもの”とでは“本質”がまるで違う。
 故に、優輝は言霊や概念を重ね掛けする。
 それらが神界において強い効果を発揮するがために。

「(魔法の術式では効果が薄い。概念付与は霊力で行うか)」

 魔法陣に魔力が集束する。
 そして、そこに重ねるように霊力の陣を纏っていく。

「集束、強化、加速、相乗。穿ち、貫き、導け」

 穴を開けるための一点集中の概念を付与し、その上にさらに概念を追加する。
 そして、導王としての力も付与していく。

「(何より重要なのは、それを為す“意志”だ)」

 そして、魔力だけでなく優輝の“意志”も霊術を通じて集束する。

「(穴を穿つなら、矢か槍か弾。……ここは槍だ)」

 集束した力が、槍の形になる。
 槍を選んだのは、優輝の知る魔法の中で最も貫通力がある魔法からだ。
 優輝がその魔法に抱くイメージもまた、一つの概念として付与される。
 同時に、貫通、穿つ事に長けた槍のイメージも“本質”として付与された。

「(概念の重ね掛け。これで、この術は“貫くモノ”そのものだ)」

 優輝を以ってして時間を掛け作り上げられた術。
 それは、明らかにこの場でも異彩を放っていた。

「も、もう限界……!」

「まだですか……!?」

 そのために、周囲からの攻撃も苛烈になっていた。
 あらゆる攻撃を凌ぐために矢面に立っていた二人が押し切られそうになる。

「完了だ。……穿ち、導け。“穿ち貫く導きの神槍(ブリューナク・ケーニヒ)”!!」

 “貫くモノ”そのものとなった力の集合体が、結界を貫く。
 言ってしまえば、優輝はこの攻撃のみ神々の“性質”と同じ力を再現したのだ。
 そんな力がぶつかれば、さすがの結界にも穴は開く。

「走れ!ッ!!」

 優輝が叫ぶと同時に、魔法と剣が飛ぶ。
 それが、優輝達を阻止しようとした神へ突き刺さる。

「何……!?」

「早く!!」

 その神は“阻止”に関する“性質”を持っていた。
 そのために、どの神よりも早く妨害に来たのだ。
 しかし、優輝はそれを予測しており、後の先……つまり後出しで先手を打った。
 よって、妨害を阻止する事に成功した。

「ッ……一斉掃射!!」

 逃げ出す際、全員が魔力弾を放つ。
 とこよの場合は、影式姫を一気に召喚し、それらに霊術を撃たせていた。

「転移!」

「無駄ですよ」

 転移魔法を使う瞬間、イリスの声が響く。
 直後、転移魔法が途中で中断させられた。

「結界!?」

「外側にもう一枚あったのか……!」

「そんな……」

 転移魔法は結界に阻まれていた。
 イリスは、予め突破されるのを想定して外側にさらに結界が張っておいたのだ。

「再現、展開……!」

「優輝……?」

「一度作った術式なら、再現ぐらい容易い……!」

 魔力結晶と、霊力の詰まった御札が掻き消える。
 同時に、展開された術式にその魔力と霊力が吸い込まれる。

「発動するエネルギーさえあれば、何度でも放てる!」

「ッ……!“ディバインバスター”!!」

 優輝のその言葉に触発されたのか、なのはが振り返って砲撃を放つ。
 今この瞬間、自分は何をするべきなのか、瞬時に理解しての行動だ。

「“穿ち貫く導きの神槍(ブリューナク・ケーニヒ)”!!」

 飛んできた攻撃を相殺しようとし、僅かな拮抗の後押し切られる。
 なのはに続いてとこよやサーラ、光輝、優香も砲撃を放っていた。
 しかし、それでも物量、威力共に足りない。だから押し切られた。
 それでも、直後に優輝の槍が再び繰り出された。

「(さっきより穴は小さい……だが……!)」

 先程までと違い、術式構築にほとんど時間を割いていない。
 そのため、並行して優輝は転移魔法を用意していた。
 チェーンバインドの応用でなのは達を引き寄せ、転移する。

「ッ!」

「三つ目……!?」

「邪魔だ!“穿ち貫く導きの神槍(ブリューナク・ケーニヒ)”!!……Dreifach(ドライファハ)!」

 またもや結界に阻まれる。
 だが、優輝は三発目を既に装填していた。
 しかも、今度はそれを三つ並べて連続で撃ち出した。

「(何重に張られているとか、そういう問題じゃない!破られる度に、新たに張り直している……だったら、それごと貫く!!)」

 強い“意志”が結界をいくつも貫いていく。
 突貫する優輝に、未だ繋がれたチェーンバインドで引っ張られるなのは達。
 展開が一気に切り替わっていくが、なのは達もそれに食らいついていく。

「なのはちゃん!もっと弾幕を増やして!光輝さんと優香さんは撃ち漏らしを迎撃!……サーラさん」

「分かってます……!」

 なのはが弾幕を展開し、出来る限り飛んでくる攻撃を減らす。
 撃ち落としきれないものを光輝と優香がさらに減らす。
 ……だが、それでも攻撃を飛んでくる。
 むしろ、撃ち落とした数の方が圧倒的に少ない。

「斬る……!」

「撃ち落とす……!」

 それを、とこよとサーラが最終防衛ラインとして受け止める。
 余波までは考慮しなくとも、この神界では影響はない。
 故に、直撃だけは避けるように、二人は攻撃を切り裂き、逸らす。

「……加速」

 しかしながら、それでも凌ぎ切れない。
 そこで、優輝は逆にそれを利用した。
 魔法陣と霊術の陣で受け止め、その反動で加速。一気に貫いた穴を通る。

「ッ……!」

 その時、一筋の閃光が突き抜け、バインドが破壊される。

「集束、発射!」

 咄嗟にとこよとサーラが宙を蹴り、それぞれなのは達を手分けして抱えて、スピードを緩めずに優輝を追いかける。
 優輝はこの瞬間まで使用された魔力と霊力を集束させ、追手に向けて放った。

「優輝!どこに向かうの!?」

「戦力がさすがに少なすぎる……!一度、神界から脱出する……!」

「入口近くには椿ちゃん達もいたよね?」

「椿達との合流も兼ねている。方向も距離も分からないが……もうすぐ出口付近に辿り着けるのは“分かる”」

 優香に聞かれて優輝がどこに向かっているのか答える。
 このまま神界にいても事態は好転しない。
 正気の神を見つけるよりも、元の世界から戦力を補給する方が無難だと優輝は考え、神界からの脱出と椿達との合流を狙っていた。
 全速力で走り続けたためか、追手は速い神や“天使”しかいなくなっている。
 撒いた訳ではないが、逃げる事は容易くなっていた。

「“分かる”って……」

「“道を示すもの(ケーニヒ・ガイダンス)”の効果だろう」

「確か、貴方のレアスキルでしたね」

「一回しか話題に出さなかった挙句、直後にあの先程までの戦いに入ったというのに、よく覚えていたな」

 僅かな感心を見せながらも、優輝達は走り続ける。

「(……“嫌な予感”が止まらない。……ここまでのは、今までになかった)」

 その中で、優輝は言い表しようのない不安に駆られていた。
 このままでは……否、もう詰んでいるかのような、そんな不安に。

「っ、あれは……」

「椿ちゃん!葵ちゃん!」

 その時、進行方向の奥の方で、椿と葵が吹き飛ばされてきたのが見えた。
 倒れ込む二人へ、優輝達は駆けよる。

「ぐっ……!」

「く、ぅ……!」

「蓮ちゃん……それに、久遠ちゃんと那美さん……!」

 続けるように、蓮と那美を庇うように抱えた久遠が飛んできた。
 那美は既に気絶し、蓮と久遠も死に体な程ボロボロだ。

「……そうか……!ソレラが既に洗脳されていたように、祈梨も……!」

「ご主人、様……?それに、優輝さん達も……」

 蓮に駆け寄るとこよに、蓮も気づき反応を返す。

「立てますか?」

「くーちゃん、那美さん……」

「くぅ……」

 サーラとなのはは久遠の方へ近づき、応急処置程度の治療を施す。
 同じように、優輝、優香、光輝も椿と葵に近づく。

「(雷の残滓……?)」

 その時、二人の体に残っていた、雷によるダメージの後を見つける。
 優輝は、それを見てふと引っかかり……

「いけません……!その二人に近づいては……!」

「ッ!」

 絞り出すかのような、蓮の叫びが響く。
 同時に、銀閃と翠の閃光が煌めいた。

「……あぁ、そういう、事か……」

「ふふ、そういう事よ」

「そういう事なんだよ」

 胸を貫こうとしたレイピアを逸らし、同時に繰り出された矢は掴んで止めた。
 だが、動揺からか攻撃を逸らし、止めた手からは血が流れていた。

「……既に、敵の手に堕ちていたか」

 そう。椿と葵は既に洗脳済みだった。
 体に雷の残滓が残っていたのは、二人をここへ吹き飛ばしたのが祈梨ではなく、久遠だったからだ。

「そんな……!」

「くっ……!」

 近くにいた優香と光輝が戦慄しながらも構える。
 だが、動揺が大きい。その状態では、椿が放った矢は防げない。

「ッ!!」

 そこで優輝が割って入り、矢を逸らす。
 同時に、とこよも割って入っており、同じように矢を弾いていた。

「ここに来たと言う事は……負けたのね?」

「負けたんだ。まぁ、当然だよね」

「っ……!」

 洗脳され、敗走してきた事を喜ぶように言う椿と葵。
 そんな二人の様子に、とこよは歯噛みする。

「……まだ戦えるのは貴女達だけですか?」

「いえ……まだ、あちらで戦っています。……飽くまで“戦える”だけですが」

「既に満身創痍と言う事ですね。ともかく、今は……」

 サーラが蓮に状況確認をする。
 こちらでも絶望的な状況になっていると分かり、戦闘態勢を改めて取る。
 その際、蓮に対してもサーラは警戒を怠らなかった。
 蓮達も正気という保証がないからだ。

「くっ……!」

 膨大な力がサーラへと襲い掛かる。
 それは光となって襲い掛かり、斬り払う事で何とか凌ぐも、ダメージがあった。

「今のは……!」

「あの神の力です……!祈りをそのまま力に変える。……司さんに似た事があの神にも出来るのです……!」

 祈梨の力については、ある程度知らされていた。
 だが、それを加味しても、脅威なのは変わらない。

「(本当に似ているだけですか……!?)」

 何が真実で、何が虚偽なのか。
 サーラには分からない。そのため、迂闊に行動出来なかった。

「……二人の相手は頼む。父さん、母さんは隙を見て他の皆の保護を。……洗脳されている可能性もあるから気を付けてくれ」

「……了解」

「優輝……?」

「何を……」

 蓮達を守るサーラを一瞥し、優輝は次の行動を決める。
 とこよに椿と葵の相手を任せ、攻撃が飛んできた方向へ跳ぶ。

「加速、相乗……!」

 巨大な剣を創造し、霊力と魔力を合わせた魔法陣を複数展開する。
 そして、それをカタパルト代わりに使い、剣を射出した。

「……防がれるだろうな」

 優輝がそう呟いた瞬間、剣は進行を止められた。
 そこには祈梨がおり、掌から繰り出した光球が剣を受け止めていた。
 その光球が膨れ上がった瞬間、剣が消し飛ぶ。

「(場所さえわかれば距離の概念がなかろうと関係ない)」

 それを狙ったかのように、優輝は祈梨の背後に転移。
 剣を振るい、同時に魔法陣と御札を展開。一気に攻撃を繰り出す。

「無駄です」

「(多重障壁……!!)」

 だが、その全てを防ぐ程の堅さと数の障壁が、攻撃を阻んだ。

「ッ!」

「随分とお早いお帰りで。……負けてきましたね?」

「くそっ……!」

 重力を操るように、優輝は地面に叩きつけられる。
 何とか立ち上がろうとして、咄嗟に横に避ける。
 すると、寸前までいた場所を理力による壁のようなもので押し潰された。

「(圧縮障壁……司が使っていたのに似ている。……いや、むしろ……司が奴に似た力を行使していた……?)」

 漠然と……だが、どこか確信めいた思いと共に優輝は答えを“導く”。
 その考えの答えを、優輝は知る由もないが、その考えは当たっていたのだ。

「(……とにかく、今は……!)」

 優輝が祈梨を引き付けている間に、優香と光輝が葉月や他の式姫を回収する。
 
「えっ……?」

 最後に、満身創痍の鞍馬を回収しようとした、その時だった。
 唐突に鞍馬が霊術を行使。優香と光輝が横へと吹き飛ばされる。

「っ……!?」

 “なぜそんな事をしたのか”。そう問う必要はなかった。
 なぜなら、今現在、鞍馬達を包む“闇”がそこにあったからだ。

「追いつかれた……!」

 鞍馬は、優香と光輝の背後から迫る“闇”に気付き、咄嗟に二人を助けたのだ。
 本来なら二人が抱えていた他の式姫も助けたかったが、既に満身創痍だったため、出力の都合上二人が限界だったのだ。

「っ、ぁ……!?」

「那美……!」

 呆然とする優香と光輝の下へ、蓮と久遠が飛んでくる。

「二人共……!」

「今度は何が……!」

「……サーラさんが、私を庇って……」

「那美……那美が……」

 優香が治癒魔法を掛けながら、二人に何があったか尋ねる。

「……久遠さんは、寸前で目を覚ました那美さんに突き飛ばされ、なのはさんの魔力弾でここまで……。私は、サーラさんに投げられて同じように……」

 目を向けると、サーラがいた場所は同じく“闇”に包まれていた。
 蓮と久遠も庇われたのだ。

「油断していたら、どんどん捕まるよ!」

 さらにそこへ、降り注ぐ“闇”を回避し続けていたとこよが駆けつける。
 刀と弓を持ち、霊力の矢で椿と葵の牽制もしていた。

「そんな……」

「っ……」

 最早、絶望の声すら上げられなかった。
 ここまで来れば、誰もがもう“勝てない”と絶望していた。
 足掻いているとこよも、何もしないままなのが嫌なだけで、“勝てない”と確信してしまっていた。

「ま、だ……まだっ……!」

 未だに絶望に抗っているのは、優輝と……なのはのみ。
 優輝は引き続き祈梨の相手を。
 なのはは、魔力弾を乱射して飛んでくる“闇”を相殺……否、逸らしていた。

「っ、く、ふぅっ……!」

 息をつく暇もなく、なのはは魔力弾を放ちながら飛ぶ。
 とこよでも回避で精一杯な“闇”を、なのはも同じように避け続ける。

「ッ……!」

「ぐっ……!?」

 だが、その拮抗も間もなく崩れた。
 とこよはついに回避が間に合わず、なのはは至近距離で魔力弾が“闇”とぶつかった際の爆風によって、“闇”が当たりそうになる。

「“防げ”!!!」

 刹那、優輝が二人の前に割り込む。
 言霊と“意志”を利用した力任せの障壁を展開。“闇”を防ぐ。

「っ……!」

 拮抗は一瞬。“闇”が障壁を浸食し、あっさりと突き破る。
 しかし、そのおかげで二人を被弾から救った。

「優輝、どうするの……?」

「……元の世界への道は、結界で塞がれていた。……結論から言えば、もう勝ち目は潰えた。逆転の可能性は既にゼロに等しい」

「っ……」

 敗北を肯定したその言葉に、誰も言い返さない。
 もう、本能が敗北を理解していたのだ。

「攻撃が止んだ……?」

「違う。“詰め”だ」

 “闇”が降り注ぐのが止まり、なのはが訝しむ。
 だが、優輝には分かっていた。……“もう、その必要すらない”のだと。

「正面からぶつかるだけでも勝ち目がない力量差に加え、態々誘い込んだ上で逃げ道を塞いだ。……そこまでするか、イリス……!」

「ええそうですよ。そこまでしなければ、安心できませんよ、ねぇ?」

 絞り出すような優輝の()()()()に、イリスが答えた。
 同時に、イリスやソレラ、洗脳された皆が現れる。
 囲うように、他の神々や“天使”も現れた。

「ぅ……ぁ……」

「っ……」

 久遠と優香はその場にへたり込み、光輝も膝を付いて放心していた。
 とこよと蓮、なのはも目を見開いており、絶望がありありと見えた。

「………」

 優輝もまた、もう希望を見出せなくなっていた。
 あらゆる手段を考え、即座にそれらが通じないと確信して切り捨てる。

「(……唯一活路を開けるとすれば、イリスの洗脳を解く事……か)」

 既に洗脳解除の類の術式を優輝の手の中にある。
 今までの行動と並行して組み上げられたそれは、術式において最高峰のモノだ。
 その術式を超える洗脳解除術は存在しないと言える程だ。

「(これでダメなら……!)」

   ―――“Seele Genau(ゼーレ・ゲナウ)

 転移と同時に、その術式を発動。
 対象は、祈りの力で支援が可能な司だ。
 魔法陣が司を囲み、光に包まれる。


















「……無意味だよ。優輝君。それじゃあ、イリス様の力は消せない」

「ッ……!」

 ……そして、先程までと全く変わらない、洗脳された司がそのまま現れた。
 洗脳解除のための術式。その集大成。……だが、それすら通用しなかった。





















   ―――全ての希望と可能性が、絶望へと呑まれていく。



























 
 

 
後書き
穿ち貫く導きの槍(ブリューナク・ケーニヒ)…かつて登場した魔法貫く必勝の魔槍(ブリューナク)をアレンジした術。概念の重ね掛けにより、“貫くモノ”そのものとなっている。型月世界ならあらゆる防御系宝具を貫ける効果を持つほど、貫通力特化となっている。

Seele Genau(ゼーレ・ゲナウ)…洗脳及び精神干渉による影響を全て打ち消すために編まれた術式。名前の意味通り正しい(Genau(ゲナウ))魂(Seele(ゼーレ))に戻すための術。なお、飽くまで“精神干渉から正常”に戻すため、サイコパスが普通になる訳ではない。……尤も、それでもイリスの力は打ち払えなかった。


どう足掻くかよりも、どう楽に死ぬかを考えてしまう程の絶望。それがこれです。
ゲームで例えると強制負けイベからのBADEND確定したみたいなものです。
元々負けイベを無理矢理勝ち続けていたようなものですから、むしろよく今まで何とかなっていたなって状態なんですけどね。 
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