ある晴れた日に
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703部分:冬の嵐は過ぎ去りその三
冬の嵐は過ぎ去りその三
「それで今までは」
「手出しができなかった」
「あのテロ国家の出先機関と関係が深いですしね」
拉致に麻薬に暗殺と悪の限りを尽くしているその国家のことだ。
「それに過激派とも太いパイプがありますし」
「色々な組織から不法に金を貰っていたりとかもね」
「そんな奴ですからね」
「何が人権派だ」
青島は吐き捨てるようにして述べた。
「あいつは害だ」
「全くです」
「警察を攻撃するのもだ」
「自分の、そしてお仲間にとって邪魔だからですね」
「そういう奴だからな」
「何時か捕まえてやりたいと思っていましたけれどね」
これは偽らざる本音であった。彼等のである。
「それじゃあ」
「はい」
二人言い合い頷き合う。そうして。
「行くか」
「いざ」
こうしてさらに進みマンションに入ろうとする。そのマンションはかなり高くまるで塔である。その塔に見えるマンションを見上げて桐生が言った。
「まるで」
「まるで?」
「どうしたの?」
「バベルの塔だね」
こう皆に言ったのである。
「このマンションって」
「バベルの塔か」
「このマンションって」
「そう見えたよ」
まだ上を見上げている。中に入る途中でだ。
「何故かわからないけれど」
「バベルの塔だね」
今度は加山が応えてきた。
「そうかも知れないね」
「加山もそう思うんだね」
「うん、それでバベルの塔は」
「破壊されたね、神に」
「聖書にある話だとね」
それは確かに書かれている。神に近付こうとした人の不遜に対する罰だとされている。しかし今彼等の中でその罰はあるものに変わっていた。
「人は悪事をすれば」
「報いを受ける」
「そうあって欲しいね」
こう話をするのだった。
「絶対にね」
「その為にも。行こう」
「うん」
こうして彼等はマンションの中に入った。だが入り口で管理人に声をかけられてしまった。前に来た時は野茂と坂上が咄嗟に身分を偽って入ることができたが、である。
「あの」
「ああ、そうだったね」
すぐに青島がその還暦を超えたばかりと思われる管理人に顔を向けた。見れば髪の毛は全て白くなっているが背筋もよく品のある穏やかな老人である。
「ここに来た理由だね」
「何の御用でしょうか」
「こういう者だけれど」
単刀直入だった。すぐに懐から警察手帳を出してそれを管理人室から窓越しに聞いてきた管理人に対して見せてみせたのである。
「いいかな」
「は、はい」
流石に効果があった。管理人もびくりとした声ですぐに応えてきた。
「わかりました」
「それじゃあ」
これで中に入ることができた。正道達はそれを見て唖然とするだけだった。
そうして顔を見合わせて。ひそひそと話をはじめた。
「創めてみたけれど」
「格好いいっていうか」
「漫画、いや刑事ドラマみたいな」
「そんな風だったわよね」
「そうだよな」
それを見ての話であるのは言うまでもない。
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