女帝の厳しさ
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第三章
「アンリ四世もそうでしたし」
「ブルボン朝の開祖の」
「そして先のルイ十四世も」
「今のルイ十五世も」
多くの王達がというのだ。
「かなり色好みで」
「それだけに享楽には寛容ですな」
「しかし」
ここでだ、貴族達は言葉にぼやきを入れて口調を変えた。
「我が国はどうか」
「このオーストリアは」
「我等の主は代々敬虔といいますか」
「信仰心が倫理にまで及び」
「寵愛されている方はおられても」
これはカール五世、スペイン王としてはカルロス一世といったハプスブルク家でも有名な君主でもそうだった。
「どうも女性については」
「フランス王だった方々よりずっと穏やかで」
「それで、ですな」
「乱れてもきませんでしたが」
「フランスの宮廷の様に」
そもそもフランスでは国王自体がそうであったのでその下にいる貴族達も何かと乱れている状況なのだ。
「ポンバドゥール伯爵夫人の様な方もおられず」
「特に今はですな」
「今の我が国の宮廷は」
「あの方がまことに厳しく」
「今の様になっていますな」
「偉大な方です」
貴族の一人のこの言葉に周りの者は無言で頷いた。
そしてだ、この言葉を出した貴族も周りのその頷きを目で見てから彼等に対してさらに話をしていった。
「そう、まさにオーストリアの誇り」
「全くです」
「あの方がおられてこその今の我が国です」
「オーストリアを中興されています」
「今や我が国はかつての勢いを取り戻しています」
「神聖ローマ帝国皇帝にも相応しい」
この称号が有名無実になっていてもだ、権威に相応しいというのだ。
「そうなっています」
「皇帝陛下はご夫君ですが」
「ロートリンゲン公であられた」
フランツ=シュテファン=フォン=ロートリンゲンンのことも話される、ハプスブルク家から見れば遥かに格が落ちる家なので宮廷では軽く見る者も多いがここにいる者達はそこまでは無礼ではない様だ。
「あの方ですが」
「しかし政を見られているのはあの方」
「だからですね」
「あの方あらばこそ」
「確かにこう言えます」
「オーストリアでは」
「しかし」
名君である、だがそれでもというのだ。
「いささか厳し過ぎますな」
「こうしたことについては」
「非常に寛容な方でもありますが」
「こと男女のことになりますと」
「実に」
こう言ってぼやきつつだった、彼等はお忍びで訪れた高級娼館で話をしていた。以前はおおっぴらに行くことが出来た場所で。
とかく今オーストリアは風紀に厳しかった、それは当然宮中でもであり国の外交を担っているカウニッツ侯爵ですら。
女帝マリア=テレジアは自ら彼自身に怒った顔で告げていた。
「侯爵、私は怒っているのです」
「お顔に出ていますね」
「あえてそうしています」
こう告げるのだった。
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