戦国異伝供書
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第五十二話 籠城戦その十三
政虎の兵を下がるに任せた、そしてだった。
正虎は兵をまずは相模まで下がらせてだった、そこで諸大名達と別れた。この時に江戸の地を見て言った。
「この地は」
「どうされましたか」
「江戸の地が」
「何かありますか」
「はい、城がありますが」
その小さな城を見ての言葉だ。
「あの城は大きく出来て」
「そうなのですか」
「あの城が」
「そう出来ますか」
「はい、しかもです」
さらに言うのだった。
「この関東いえ東国をです」
「東国全てをですか」
「治められる」
「そうした城を築けるのですか」
「この江戸に」
「はい」
そうだというのだ。
「それが出来ます」
「そうなのですか」
「あの小さな城をですか」
「巨大な城に改築して」
「そしてですか」
「それが出来るのですか」
「江戸はいい場です」
政虎はこうも言った。
「ですから」
「そういえばです」
「ここは平地ですな」
「しかも周りに川も多い」
「そうした地ですな」
「水は悪いですな」
それの質はというのだ。
「ですが」
「それでもですか」
「よい城を築け」
「そこから東国を治められますか」
「鎌倉や小田原よりも」
さらにというのだ。
「治めるにいいでしょう」
「相模ですが」
兼続が言ってきた。
「関東の南東にあり過ぎて」
「それで、ですね」
「はい、それがしが見ても」
こう政虎に言うのだった。
「どうにもです」
「東国を治めるには」
「関東でも」
「不便ですか」
「はい、ですが」
「この江戸は」
「極めていい場所です、天下もです」
東国だけなくというのだ。
「ここから治めることもです」
「出来ますか」
「そうも思います、実に酔よい場所です」
「今はです」
北条が言ってきた。
「城があろうとも」
「廃城同然ですね」
「実にみすぼらしい」
見ればその通りだった、まるで廃墟の様なものだ。
「そうしたものですが」
「はい、ですが」
「それでもですか」
「あの城を整えてです」
「大きなものにすれば」
「必ず立派なものになり街も」
城下町もというのだ。
「必ずです」
「よきものになりますか」
「はい」
その通りだというのだ。
「必ず。ただ風が強いので」
「火事にはですね」
「充分以上に気をつける必要がありますが」
「よい街をですか」
「築けます、ではこれより」
「はい、越後にですね」
「戻りましょう」
江戸も見てだった、そうして。
政虎は関東の諸大名達と別れてからそのうえで彼も越後に戻った、その行軍は最後の最後まで一糸乱れずだった。見事に春日山まで戻ったのだった。
第五十二話 完
2019・6・1
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