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ある晴れた日に

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665部分:炎は燃えてその九


炎は燃えてその九

「とてもな」
「そうだったんだ。とても」
「ここまでなるかどうかわからなかった」
 また言う正道だった。
「けれどだ。はじめないと何もはじまらない」
「ああ、それはな」
「その通りだな」
 彼の今の言葉には野茂と坂上が応えた。
「俺達だってはじめてみたからな」
「正直どうなるかわからなかったけれどな」
「しかし腕が動いた」
 正道はまたこのことを口にした。
「そして手もか」
「身体自体があったかくなってきてるわ」
 今言ったのは千佳である。彼女は車椅子の未晴の両肩にその手をやっていた。そこから未晴の温もりを感じ取っているのである。
「しっかりとね」
「そうか。本当にか」
「あったかいから」
 千佳はまたこのことを彼に告げた。
「それは安心して」
「わかった」
 正道は千佳のその言葉に頷いた。その間もギターを奏でている。
「じゃあ俺はこのまま」
「ギターを奏でるんだな」
「歌も歌う」
 それもすると。野本に答えた。
「こいつが元に戻る為なら何でもする」
「そうか、凄いな」
 野本は彼のその言葉を聞いてまた述べた。
「御前やっぱり凄いな」
「凄いか。俺は」
「ああ、凄いよ」
 それを素直に認める彼だった。
「絶対に諦めないでやったからな」
「諦めかけた」
 その事実ははっきり告げた。
「話を聞いた時はな」
「そうだったんだ」
「どうしようかとも思った」
 今度は竹山にも応えていた。
「それでも。考えてだ」
「それでずっと俺の家の店に来ていたんだな」
「酒でも飲まないとやっていられなかった」
 この事実を今言うのだった。その時に辛さをである。
「けれど。結局逃げないことにした」
「正解ね」
 明日夢は彼のその判断をそうだと言い切った。
「それはね」
「正解か」
「だから今があるのよ」
 明日夢はそちらに話をやった。
「あんたの今も。未晴の今も」
「俺の今もか」
「そうよ。逃げなかったからなのよ」
 だからだというのだ。
「今があるのよ」
「そうだったのか」
「だから正解だったのよ」 
 今度はこう言って笑う明日夢だった。
「その判断がね」
「そうか」
「それでだけれど」
 今言ったのは加山だった。
「次の曲は何かな」
「次か」
「うん、何を奏でてくれるの?」
 そのことを彼に問うのだった。
「今度は」
「この曲だ」
 言いながらその曲を奏ではじめた。それは。
「あれっ、この曲って一体」
「はじめて聴く曲だけれどな」
「何なんだ?」
「俺の曲だ」
 奏でながら静かに言う正道だった。
 
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