ある晴れた日に
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66部分:優しい魂よその一
優しい魂よその一
優しい魂よ
夕食が終わって次はレクレーションの時間だった。しかし皆その前にやることがあった。
「食器洗い器ねえのかよ」
「あるわけねえだろ馬鹿っ」
「ここ山の中だぞ」
野本がまた皆に突っ込まれていた。
「水が出るだけましだろうが」
「それで何で食器洗い器があるんだよ」
「それがあったらかなり楽なのにな」
言われてもまだ反省も理解もしていなかった。
「しけてやがんな」
「何でこいつこんなに馬鹿なんだよ」
春華が洗面所でカレー皿を洗いながら呆れていた。当然屋外である。
「こんな場所に食器洗い器があったら怖いよ」
「それがわからねえからの馬鹿なんだよ」
「こいつはな」
「俺本当に馬鹿馬鹿言われてるな」
坪本と佐々にも言われても特に悪びれた様子はない。
「斬新な考えとは思わねえのか?皆よ」
「思えるかよ」
「そんなこと言うのは世界で手前だけだよ」
今度は野茂と坂上が言った。二人は食器を乾いたタオルで拭いてなおしている。
「どういう頭の構造してるんだよ、全く」
「しかし野本、御前よ」
「今度は何だよ」
「食器洗うのは上手いんだな」
「そういえばそうだな」
見れば確かにそうだった。食器を洗う手の動きが実に滑らかだ。しかも洗い方も奇麗で尚且つ早い。完璧であると言ってもよかった。
「上手いな、確かに」
「人間何か一つは取り柄があるんだよな」
「家で毎日やってるからな」
意外な彼の日常だった。
「だからだろうな」
「へえ、毎日なのかよ」
「それはまた意外ね」
皆それを聞いて少し以上に驚いた。
「御前が食器洗いか」
「あんたみたいなガサツな人間がね」
「何でここでも褒められないんだ?」
野本はそれが少し以上に不満だった。
「褒めろよ。たまには」
「だから取り柄あるって言ってるだろ?」
「馬鹿でも」
「馬鹿だけ余計だよ。まあそれでな」
「ああ」
「俺の分は終わったぜ」
皆よりもずっと早かった。
「ほれ、次」
「次って?」
「まだあるんだろ?さっさと寄越せよ」
左手を出して催促してきた。
「皿よ。どんどん洗うからよ」
「ああ、それはいいさ」
「もうプロがそっちやってくれてるからな」
「往路!?」
野本はプロと聞いて顔を少し顰めさせた。
「うちのクラスに皿洗いのプロなんていたのかよ」
「だからよ。あの二人だろ」
「まずは私」
最初に名乗り出たのは明日夢だった。
「それとね」
「俺だろうがよ」
続いて出て来たのは佐々だった。見れば二人の食器洗いのスピードは野本のそれよりも速くしかも奇麗だった。上には上がいた。
「俺の家は何だよ」
「飯屋だろ?そんなの俺でも知ってるぜ」
「だったらわかるよな」
「私のこともね」
「ああ、そういうことか」
今度は野本にもすぐわかった。
「御前等食器洗いはいつもだからな」
「そうよ。まあおかげで」
「手はいつもがさがさだけれどな」
このことは仕方がなかった。食器を洗えば手が荒れる。とりわけ冬場はであった。
「それはどうしようもないけれどね」
「けれどな。食器洗いはこの通りだぜ」
「やっぱりプロは違うね」
「頼りにしてるわよ、二人共」
「それはいいけれど」
明日夢は褒め言葉の中にも皆の動きを見ていた。
「あんた達もあんた達で頑張ってよね」
「俺達に変に押し付けるなよ」
「わかってるって」
「それはな」
皆もそれはわかっていた。とはいっても洗いものをこっそりとある程度は押し付けようかと思っていたので後ろめたさはあった。
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