戦国異伝供書
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第五十二話 籠城戦その十
「ここは」
「はい、それでは」
「長尾殿は帰ってもらい」
「東国に来なければいい」
「ですから」
「仕掛けるだけですな」
「左様です」
氏康は幻庵に確かな声で話した。
「越後に対しては」
「それでは」
「はい、そしてあと少しで」
「長尾殿は退かれます」
「ですな、間違いなく」
「ここまで攻められましたが」
小田原までというのだ。
「しかし」
「それでもですね」
「ここまででしたな」
「この城は攻め落とせませんでした」
「そこまで。しかも攻め落とされた主な城もなし」
「失った兵もです」
それもというのだ。
「殆どなく」
「長尾殿が去られれば」
「当家は程なく元の状況に戻ります」
そうなるというのだ。
「これで」
「左様ですな、では」
「あと暫くの辛抱で」
「待っていましょう」
こう言って北条家は籠城を続けた、そして彼等の話している通りに。政虎は周りと自軍の状況を見てだった。
それでだ、上杉家の家臣達即ち二十五将と兼続を集めて言った。
「無念ですが」
「この度は、ですな」
「はい、城を囲んで長い時が経ち」
まずは政景に話した。
「諸大名の方々もその方々の兵もです」
「士気が落ちていますな」
「そしてです」
政虎はさらに話した。
「まとまりに綻びが出てきており」
「それぞれの方の領地に帰られたいと」
「申されてもいますし」
政虎に直接言っていないがその声が彼の耳に入っているのだ。
「ですから」
「これ以上城を囲むことは」
「難しくなってきていて」
そしてというのだ。
「そこに加えてです」
「武田殿、今川殿が動かれました」
宇佐美が言ってきた。
「それぞれ二万程の援軍を以て」
「武田殿、今川殿ご自身までも」
「しかも多くの重臣の方々が将となって」
「その強さは確かです」
「はい、ただ数だけではりませぬ」
「十万の兵があろうとも」
「そのうち八万は他の方々の兵です」
関東の諸大名のだ。
「いざという時頼れるのは我等二万の兵のみ」
「そこで戦うとなると」
「はい、籠城している北条家の兵に」
それにというのだ。
「武田殿、今川殿の合わせて四万」
「相手にはですね」
「難しいです」
「そうです、ですから」
正虎はここで即断を下した、彼らしく。
「ここで、です」
「退かれますか」
「はい、一旦武蔵まで退き」
そしてというのだ。
「江戸辺りで軍を解散し」
「諸大名の方々にはそれぞれの領地に戻って頂き」
「我等もです」
上杉家の者達もというのだ。
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