魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第42話 その頃の六課、査察という名の
――side震離――
何かロングアーチ組が査察だー、なんだーと騒ぐ隣で、私とティアと流の3人でスバルの溜まった書類を徹底して処理していく。言いたかないけど、この部隊色んな所から睨まれてるだろうし、少しでも突っ込まれる場所を防ごうとギンガが見守る中で今3人でせっせと片してる。ギンガは出向とは言え、流石に手伝わせるわけにはいかないしね。
まぁ、3人もいればすぐ終わりますよねーなんて考えてたら。ピコンとメッセージが入る。なんかなーと思って何気なく開いて。
「ブフッ」
盛大に吹き出しました。差出人はフェイトさんのお義姉さんであるエイミィさんから。
何時もしっかり者の奏が現在フェイトさんの事を先輩呼びしているという事。そして、女子会で盛り上がってる写真を添付して送ってきて、フェイトさん共々弄られてる様子がよく伝わってくる。
そして、何か響が少し老け込んだようにみえるのはなんでだろうか? まぁ、ある意味貧乏クジ引いたんだろう、あんまり気にしない。
これからフェイトさん一家は晩御飯を食べて、その後スーパー銭湯へ行くってメールに書いてあった。
それにしても不思議な縁だよねーとしみじみ思う。六課に来て二日目で出張任務に行った先で、色々仲良くなったなのはさんのお姉さんの美由紀さんと管理局用のメルアドを交換して、割と仲良くさせてもらってたら。
話は聞いたよ! って、突然知らない人からメールが届いたと思ったらエイミィさんだったし。
それからはよく3人……と言うより、2人の年上の方に話を聞いてもらったり、仕事のことは伏せて皆の近状報告をしたりして、仲良くさせて頂いてる。
正直ある程度文通して、なんとなく聞いてみた。
なんで私なんかと連絡を、と。
ちょうどホテル・アグスタの辺りかな。その時に伝えて、返事が帰ってきてびっくりした。
友達だから、と。これには面食らった。向こうは年齢が10程離れた年上2人。そして、色々書いてあったけど要約したらこう言われた。
腹の中で色々考えて、仮面被ってるのが大変そうだったから、と。
うっそーんと、頭を抱えた。この数年……訓練校で髪を切られてからは、何時もニコニコの仮面を被って、当たり障りの無い叶望震離を演じてた。捜査権を獲得してからも正面から見破られたことは無い。
響を始めに皆からは凄く心配された、だけど何時も顔を隠してた髪が亡くなったし変わらなきゃいけないと思って仮面をつけた。だけど、直ぐにバレたのは本当に驚いた。
それからはより一層仲良くなった。いや、仲良くさせてもらった。今もこうしてメールを貰える程度に。美由紀さんからは今度なのはさんと帰ってくるんでしょ? 待ってるよと言われる位に。まぁ、繋がってる要因は流の写真って言う不純な理由なんですけどね。
「そう言えば震離?」
「……ん、あ、はい?」
突然声を掛けられてちょっと焦る。はて、誰かな?
「……まーた何か考えてたでしょう? 私と流は終わったわよ」
「あー、私の方も終わったよー」
ティアからの報告を聞いて辺りを見渡す。スバルが突っ伏して頭から煙が出てる様に見えるほど疲れ果ててる。ちらりとティアの方へ視線を戻すと、呆れたような面白い様な、なんとも言えない表情をしてる。
……まさか。
「……あの、何か私やらかしたでしょうか?」
「違うわよ。ちょうどいい時間だしご飯でも食べに行くわよって話」
「ん、ご飯!」
お、ご飯と聞いて、スバルが復活した。そう言えばちょうどいい時間帯だもんね。ライトニングが居ないし、査察があるっつって、改めて変にたまった書類とか無いかって仕事したわけだし。
なのはさんもはやてさんの所へ行って査察の為の用意をしてるし。フェイトさんが居ないこのタイミングだからねー。かなりピリピリしてるようにも見えるし。
まぁ、何か突っ込まれても大丈夫なように対策は打ってるし、コチラが変なボロさえ出さなきゃ問題ないし。
「よし、いこうか。流もいこ?」
「……はい」
……おっと、何か浮かない顔してるけど。それは間を置いて聞いてみるとして。パタパタとデスクを片付けて4人で食堂へ移動する。
それにしても流がティアやスバルと普通? に会話するようになったのはいい事だ。まだぎこちないのは愛嬌だと割り切ろう。
そして、食堂について皆食事を頼んで……流石に今日はエリオ居ないし少ないでしょうと思ったらあんまり変わってないのはなんでかな?
その事をスバルに聞いてみたら。
今日は頭使ったからお腹すいたし、ギン姉も居るし
ティアと2人で突っ込んだことは言うまでもないと思う。気を取り直して、5人で食事を始めるけど、やっぱ最初の頃に比べると流が表情隠さなくなったから、なんというかご飯を美味しそうに食べるなぁって。見てて癒やされるわ……。
「そう言えば震離と流は連休なにするの?」
ご飯を頬張りつつ話しかけるスバルを、すかさずギンガがはしたないと制裁。いやー、いいねぇお姉さんが居ると。
「んー、流と一緒になのはさんに引っ付いて地球へ行くよー」
「そうなんだー。私達3人はお墓参りに行ったり、お父さんの所へ遊びに行ったりするよ」
ごくんと頬張ってたものを呑み込んでから会話に参加するスバル。うんうん、そうするのが一番だよ。
「へー、ティアも行くんだー」
「腐れ縁よ腐れ縁。それに兄さんのお墓とスバルのお母さんのお墓って同じ地区みたいだし、一緒にいこうかって話になったのよ」
「あーなるほど。うん、沢山お話してきたらいいよ」
……あれ、何かしんとしましたよ? 何か変な事いったかしら私。そうだ、助けを求めよう!
そう考えて流に視線を向けて、それに気づいてくれた。やったね!
「そう、ですね……。積もるお話も沢山あるでしょうし、良いと思いますよ」
ニコッと笑いながらいう流に、そうだよと同調しておく。
だけど、何処か悲しそうに見えたのは気のせいじゃない……よね。
すると、3人で顔を見合わせてフフフと笑い出す。ヤバイ本当に何か変なの踏んだかな? 地雷踏んだ私?
「そうだね。ねぇ、流、震離?」
「ん?」「何でしょう?」
フッと遠い場所を見るような表情のスバルに呼ばれ、返事を返す。
「もしだよ。私が普通じゃないって分かったら。どうする?」
そういうと、ギンガとティアの表情が曇ったのが見えた。だけど、スバルがいう事は間違いなく……いや、よそう。
「……私が地球で超天才って呼ばれてる話しとく?」
「「いや、いい」」「え、そうなの?」
即答か。ギンガだけだよ。食いついてくれたの……悲しいなぁって。まぁ、私のエピソードは置いといて。ギンガは私達の事知ってるのかな? まぁ知らなかったら知らないでいいんだけど。
「そんなん言い出したらきりないと思う。だって私達でさえ濃いエピソードあるし。今更でしょ」
「……そっか。ごめんね変なこと聞いて?」
「いいよ。後は明日終わったら楽しむだけだねぇ」
一瞬変な空気になった。だけど、スバルもギンガも安心したみたいで、表情が和らいだ。ティアなんか聴くまでもなかったわって顔してるけど、さっき一瞬不安そうにしたのは見逃さなかったからね。まぁ、今回は見逃すけど、さ。それ以上に……。
ちらりと流を見ると、既にご飯は食べ終わってるけど……何処か上の空のようにも見える。何か合ったかな……?
――side流――
メッセージを……いや、私のもう一つのメールフォルダを確認したけれど、これと言って連絡が入っていなかった。
もっと正確に言えばライザさんから……特殊鎮圧部隊からの指令が止まっているという事だ。
ここ最近見る機会が少なかったとはいえ、だ。何かしら指令の一つでも入っているだろうと思い、ボックスを見たけれど何も来ていない。もしかすると誰かが消してしまった? そう考えログを確認したけれど誰かが私のボックスを見た痕跡は一切見当たらなかった。
最後に言われた指令を思い出す。ホテル・アグスタで言われたことを。
そのまま機動六課で任務に当たりなさい、と。
ここ最近の動向は連絡した……遺跡の事は流石にどう報告していいか分からずに、隠してしまった。そして、先日のロストロギアの事もちょっと体調が変わった事だけ伝えた。
なのに、返事が来ない。最近ならいざ知らず、もうずっと返事は来ていない。六課へ来た最初の方こそ、定期的に送っていたけど。
無理に連絡は入れなくて良い。変わったことが合ったら伝えなさい。
ただ、それだけだった。
変なことが頭をよぎる。隊長から私は切り捨てられた? そういった負の感情が、良くないことを考えてしまう。確かに最近の私は全然ダメだった……もっと貢献しないと。
「な~がれ?」
不意に呼ばれて、声の方を向くと。
「なんで……むぐッ」
突然口に何かを入れられる。入れた方を見ると、震離さんが何処か楽しそうにスプーン片手に笑ってらっしゃった。
「……おいしい」
「でしょう? 今日のデザートのチョコプリン。眉間にしわ寄せちゃダメだよ?」
フフンと笑う震離さんと、スバルさんとギンガさんは何処か顔が赤い。ティアさんは微笑ましいといった様子で見てる。
……そうか、私は今不安そうにしてた……のかな?
「はい、ごめんなさい。明後日の事で頭がいっぱいでした」
「ありゃ、そうなの?」
……震離さんを誤魔化そうと思ったら大変だから……よし。
「はい……だって、ライトニングと違って、男性って私だけですし」
「「「「……あ」」」」
実際そうですし、ね。響さんは明日の晩には戻ってくるはずですし、そうすると男性1人、女性3人で行くわけで、色々気を使いそうだなと。
と言っても、私の場合常に誰かが負担を被るわけで……。ため息が漏れてしまう。
「まぁ、でもほら。うん、流なら問題ないよ」
「震離、フォローになってない」
「あ、あはは」
だけど何はともあれ……今は楽しもう。そうだよ……そうしないと。私は……。
――sideはやて――
あかんわー……。今日のために皆で詰め込んで備えたのに……それなのに。
「八神さんはなんかこう、あいつら使いにくいわーってことありません? 大丈夫?」
「へ、あ、はい。お陰様で助けられて居ますよ」
私の正面に座ってるのは、スキンヘッドで、ダンディなお髭の、制服の上からでも分かる筋肉モリモリのエドガル・ヴァルロス一等陸佐が笑顔で聞いてくるけど……。
右目にドクロマークの眼帯つけてて……強面で、正直怖い……。すごいフレンドリーに話してくれるんやけど……なんというか、ギャップが怖い……。
「有栖も狭霧も優秀なんですが、今一ノリが悪くて……そのへんは平気? 大丈夫かしら?」
「い、いえいえ、そんな2人はよく裏方の手伝いをしてくれるので、助かっています」
エドガル一等陸佐の隣に座る、女性の佐官。ユリアン・フェアレーター二等陸佐だけや、今この場で私の癒やしというか、なんというか……きれいな人やな~とは思うけど、何か違和感があるんやけど、何や?
まぁ、それは後でええ……問題は、ロングアーチを見に行くって席を外した、ティレット三等空佐と、その付添のフレイさん。
秘書官って言っとったけど……なんや、優夜達の態度がおかしかったなぁ。
確かにフレイさんを見た時、髪が赤くなった流と瓜二つで驚いたなぁって。しかも何か流や、優夜達とも知り合いやったみたいやし。すごいフレンドリーに、流を見て、「髪が伸びたんだね、よく似合ってる」ってすごい自然に褒めとったし。
と、噂をすれば……。
「はやてさん。流石機動六課ですね。まだまだ荒削りの部分はあるけれど、高い位置でバランス良く纏まっております。流石ですね」
「あ、ありがとうございます!」
部隊長室に入るやいなや、笑顔で褒められて凄く嬉しい。
はて? 何やろうか。フレイさんが入ると一瞬ユリアン二佐も、エドガル一佐もピシッとするんやけど……何や?
「二人共? せっかく同期が四人も集まってるんだから、肩の力抜いたら良いのに」
「「なら遠慮なくそうしよう」」
一瞬でだらけおった……うーん。平然としてるけど、この2人も部隊長経験長いんよね。そして、エドガル一佐は煌と紗雪の前部隊、陸士201部隊の部隊長。ユリアン二佐は優夜と時雨の前部隊、辺境警備部隊の部隊長。辺境警備とかいいつつ陸海問わずに、要人警護なども任せられる警備のスペシャリストが集うって言うし……。
ここにはまだ戻っておらへんけど、ティレット三佐は響達3人の前部隊。いわくつきの部隊やけど、よくよく調べれば色んな所と繋がる部隊。そんな人達が来るって言われた時は本気で警戒してたのに、来て早々に、特に見るもん無いしお茶菓子持ってきたから食べましょう! とか言われて、肩透かしやったわ……。
しかも名字で呼んでたら名前でいいって言われるし……。遠慮なく乗ったけど。
「あのーフレイ秘書官?」
「ん? あぁ、私のことはフレイで結構ですよ? 私もはやてさんとお呼びしますので」
「へ? や、あの、しかし……」
ちらりと顔を見れば、ニコニコと笑顔……やねんけど。なんというかすごいプレッシャーが……。流と同じ顔のはずやのに、完全に違う。何処と無くなんて言えばいいんや、これ。わからんへんけど何か怖い。
「……フレイさん?」
「はい、なんですかはやてさん?」
ニパッと笑顔が眩しい…‥流と全然違うのはこういう仕草が自然と出来るからなんやろなー。違う違う、そんな事より本題や。
「あのー、ティレットさんはどちらに?」
「ん? あー彼ねー、海沿いのベンチで寝落ちしたから置いてきた」
ティレットさーん!? なんというか、ホント自由な人ばっかりや。
「さて、3人しか居ないけど……はやてさん。機動六課の査察の結果を発表したいと思います」
「……はいっ?!」
ほんま自由やね!?
――sideなのは――
「……やー緊張したね」
はふーっとため息を吐いて、ロングアーチの皆とお茶を飲む。皆も緊張の糸が切れたみたいで適度にだらりとしてるね。
「ほんとですよう。私はロングアーチとしての仕事だけじゃなくて、デバイスの整備履歴まで見られたんですからー」
「シャーリーがしっかりしてたから突っ込まれる事はなかったねー、良かったよ」
シャーリーとマリエルさんが、ちびちびとお茶を啜りながらホッとしてる。皆も同じようだ。私も普段の仕事だけじゃなくて、教導の経過資料とか色々見られてドキドキしたなぁって。
だけど、正直一番焦ったというか隠したかったのは……。
「……この前の件、バレてなければいいんですけどね」
グリフィス君の一言で皆がしんと静かになる。
今回査察があるということで、ギンガとマリエルさんにもこの前の件を伝えた。履歴上、あくまで訓練の一部という事にしているとはいえ、どこから漏れるかわからない。はやてちゃんと話して、2人にも詳細を話して、漏れる場所を塞ごうという事にした。
結果上手くいったみたいで、ティレットさんと、その秘書官であるフレイさん。2人が色んな人に話を聞いてた。ロングアーチの皆や、スターズの皆に色んな話を。
特にフレイさんは流とよくお話してたなぁって。何ていう話をしてたかわからないけど、一緒に居た震離のリアクションを見ると世間話の様な感じだった。
ティレットさんは、響と奏が今日はお休みだと聞いて残念そうにしてた。久しぶりに話をしたかったけど、居ないなら仕方ないって、肩を落としながら外へと行っちゃった。他にも2人居るけど、はやてちゃんの所で話をしてるみたい。
何にしても。
「早く終わってくれると良いんだけどねぇ」
「そうですねぇ」
ズズッとお茶を飲んでホッと安心。それにしても今日のお茶は美味しいなって。何時もは紅茶だけど今日はなんで緑茶なんだろう? ふと、シャーリーが背伸びをしながら。
「いやー、それにしてもフレイさんを見た時すっごく驚いたなぁって。赤い流だー!って叫んじゃいましたよ私」
あはは、苦笑いを浮かべてるけど、間違えたときのことを思い出したのか若干シャーリーの顔が赤い。盛大に間違ってたもんねぇ。その後凄く謝罪してたけど、フレイさんは気にしてないみたいだし、本当に良かったよ。
ヴィヴィオも驚いてたなぁ。流とフレイさんを交互に見比べて、実際に話しかけるまで全く分かってなかったし。
なんとか判断がつくようになったら、凄く懐いてたなー。震離から聞いて驚いた。
ヴィヴィオと同じくらいの娘さんが居るって聞いて、私も色々話を聞いちゃったし。やっぱり現役お母さんってすごいなぁって。
「あれ? そう言えばFWの皆は?」
「今はオフにしてるよ。私やヴィータちゃんは教導の事で聞かれるかもしれないから待機してるけどね。シグナムさんも何か聞かれるかもしれないからって、待機してるよ」
「本当に今回のはタイミングが悪かったですもんねー。と言っても査察らしいことしてないのは問題ないってことなんですかね?」
「うーん、まだ何も言えないね。だけど見に来たって言うよりも遊びに来たって感じに見えたけどなぁ」
隊長室に残った人がどうかわからないけど、文字通りコチラはただお話してたし。後ははやてちゃんが無事に終われば、後は安心だけど、ね。
――sideはやて――
「色々荒削り、新人の子達もなれて来たとはいえ、まだまだ。ベテランと中堅、新人の差は大きいけれど。それは許容範囲。結論から言うと問題ないと判断できます」
フレイさんが小さなモニターを見ながらそれを言う。手ひどく言われるかと思いきや、これといって言われなかった。そのせいで一瞬遅れて。
「あ、ありがとうございます!」
立ち上がって深々と頭を下げる。ほんま良かったー。いや、でも……。
「あの、結果って普通は後で来るもんじゃ……?」
思わず聞いてしまった。けど、ニコリと笑みを浮かべて。
「まぁ、後々結果は送ります。ですがレジアス君の事ですし、きっとこの結果を不服というかもしれません。色々言われたり追加でやるとか言うかもしれませんが。
その場合私達4人のうち……んー、ティレットが一番繋がるのかな? まぁ、誰かに連絡をください」
「え、あ……了解です。あのレジアス中将とはどういった関係で?」
ニヤリと3人共笑ったのが見えて、何か嫌な予感が……。
「あぁ、彼とは同期ですよ。今でも偶に連絡を取っています。今回の査察の依頼も彼からだけど……私達はこれと言って六課を疑っていないですからね、だから……あまり無茶はしちゃいけませんよ?」
ビクリと体が震えてしまった。皆さんにこやかにしている。だけど、何処か何処か優しそうに笑ってるようにも見える。
「後ろ盾があるのは大いに結構。だけど、貴女達を応援しているのはそれだけではないということ。それだけ理解していただければ、嬉しいかなって。
若い人に無理をさせたくないけど、させてしまった以上私達はあまり言えないことだけどね」
……アカン、色々バレてる気がする……。どこから漏れたかは分からへんし、どこまで報告されるか分からへん。
「だから安心……は出来ないかもだけど、私達は貴女達を可能な限り協力するつもりです」
そう言って私の方へ手を伸ばす。この手を取るかどうか悩む。この人達を本当の意味で信用して良いのか。レジアス中将が悪い人ではないということは重々承知している。だけど、中将の考え方だと私は不要という事になる。
そんな中将と同期だというのに、安心も何も出来ない……。ふと、伸ばしていた手が戻るのが見えて。
「と言っても、流石に信用は得られませんよね」
「あ、いえ、そんな……事は」
寂しそうに笑うフレイさんを見て、申し訳ない気持ちになる。
「まぁ、何にせよ。困ったことがあれば連絡をしてくれたら私達は出来る限りの支援をしますので。さて、皆いこうか?」
「はいはい」「ティレットを拾わねば」
「あ、見送ります」
ぞろぞろと立ち上がって出入り口へと向かう。慌てて立ち上がるけど。
「大丈夫。真っ直ぐ帰りますよ。それでははやてさん。また」
私に向かって敬礼をしてから3人が外へと向かってった。ポツンと部隊長室に残った私は……。
「……疑い深いのもアカンなぁ」
思わず漏れて、力なく笑い声が出る。あの手を直ぐに取ることができなかった。それどころか、あの人達の言葉を信用することが出来なかった。最悪や……。
……フェイトちゃんや、響が居たらもう少し安心できてたんかなぁ。今頃楽しく過ごしてたらええんやけど……。大きなため息しか漏れへん……。
ん? ちょっと待って。レジアス中将と同期って事は……皆さん54歳……流と瓜二つのフレイさんも……え?
――side震離――
「終わったねー」
「そうだねー、やーご飯が美味しいねー」
山かよっていうくらいのご飯にカレーが乗ってるのがどんどん削れていく。もースバルの食べっぷり見てると本当に何か胸いっぱいになるよ……。ティアも察してるのか何も言わないしね。それにしても、ギンガも本当によく食べるなぁって……スバルほどの山じゃないけど、小山だし、二人の間が谷見えるし……すごいね。
「今回の査察って結局何だったのかしらね。なのはさんもこれと言って聞かれてなかったし。私達も普通に世間話みたいな事したけど」
「さぁ、形だけでもやりましたっていうのをしたかったんじゃない? わざわざ隊長クラスが4人で来たわけだし」
ロングアーチの皆から渡された資料を見た時かなり驚いた。だってフレイさん以外は、皆私達の前の部隊のトップなわけだし……。まぁ、今回フレイさんが来たのは想定外だったけど……私達あの人がどういう人なのか知ってるせいで、正直生きた心地しなかったけど……直ぐに以前出会ったときみたいな態度を示してくれて、それに乗っかることが出来たなぁって。
それにしてもなのはさんとフレイさんが仲良く話をしてたのは良かったと思う。
「それにしても震離ー? なんでフレイさんと知り合いだったの?」
「六課に来たときの……あ、出張任務の前の晩に……ってか、六課に来てその日の晩かな。その日のデパートで迷子になった娘さんを連れてった関係で知り合いになった。そんだけだよ」
「あ、分かった。フレイさんと流を間違えたってオチでしょ?」
「うわ、こういう時は鋭いなぁ。その通りだよ。でもスバル話す時は口元拭いてから話そう?」
そう指摘すると慌てて口を拭う。けど、まだ綺麗に取れずにわたわたしてる所をギンガに拭いてもらって。恥ずかしがってるのをティアと2人でニヤニヤと見つめる。いやぁ、姉妹って良いですなぁ。
「で、その流は何処に行ったのよ?」
「ん? さぁ、フレイさんに呼び出されてたからね、そこに行ったよ」
ひとしきりニヤニヤしたティアが思い出したように言うけれど、呼ばれてたことを伝える。
「ふーん」
頬杖つきながらコップの縁をなぞってるけど、あんまり興味なさそうですね……。
「で、フレイさんの階級って分かってんの?」
「……わかってるけど、本人が伏せてることを私が言うわけにはいかないよ」
「そう」
別に隠すことじゃないかもしれない、けどさ。わざわざ自分の名前を伏せて、わざわざ秘書官って言って来てる以上下手に言うのもどうと思う。
しかし、私も驚いたんだよね。あの日に優夜達に指示をだした人だもん。細かく調べて驚いた。
フレイ・A・シュタイン中将、時空管理局本局の次元航行船、フィラメントを指揮する船の長。陸海問わずどちらにも中立の立場を取る事で有名な人。ただ、近年は副長が指揮を取って、自身はデスクワークを中心にしている。
そのせいで中々表に出ることはなく、副長であるマリア・リュトムス二佐が代行してるのもあって、少し調べた程度じゃ分からなかったんだよねぇ……。そして、何より驚いたのが、流と間違えるほどの若さを未だに維持してること。あの人レジアス中将と同期って知って、ひっくり返るほど驚いたし。だって、ねぇ。年齢が……。
それにしても流……遅いなー。そろそろ帰ってこないと、晩御飯終わっちゃうのにねー。
――sideフレイ――
「あー、面白かった……なー」
ぐぐぐっと車内で背伸びを一つ。ティレットの乗用車に皆で乗って次元港へ通じる場所まで送ってもらう。それにしても、対策は勿論してたんだろうけど本当に綺麗に纏められてて驚いたなぁ。情報も見やすかった、デバイスや機材の整備も行き届いてた。だけど、まだ一年生……やっぱりそれぞれの練度の差はどうしようもないけど、それは今後に期待。長い目で見なきゃね。
「さて、皆はどう見えた?」
「俺は楠舞達が安心していることだけで良かったよ」
「エドの言う通り。私も有栖君達が嬉しそうにしているだけで満足」
と、エドガルを筆頭にユリアンもそれに続く……けど、ちょっと待って。
「さすが、歴戦の親父2人が言うのは違いますねぇ」
「ガハハ」「ちょ、永遠のロリっ子に言われたくないわ」
「どうだか」
……ほんとどうなってんのさ。私はもう諦めてるけど、ユリアンなんて、本当男の娘をこの歳まで続けちゃって……何か引っ込みつきそうに無いし。
視線をバックミラー越しのティレットに向けると、察してくれたのか、少し考えるような仕草をした後に。
「俺も同感。俺は元々あいつらの経歴を知ってたからだけど、こんなにも上手く行けるとは思わんかった。ただな」
そこで区切ると車内が一瞬で冷たい空気で満たされる。私もエドもユリアンも皆の目が険しくなる。
「事情はどうあれレジアスが良からぬ事を企んでる……もしくは組んでるのは確かだ。だがな、それを仕組んだやつが居る可能性が出てきた。ゼストもどうやら生きてるらしいしな」
「……そう。間違いなくもっと上が絡んでるはず。なんとかしてそれを突き止めたい」
ギュッと握った拳に力が入る。
「ただ、ここに居る誰も今回の公開陳述会には参加できない。恐らくレジアスが裏で何かしたんだろう、俺達を寄せないように。まぁ影響力があるのは自負してるからな、それでかもしれんが」
面白くなさそうにフンと鼻を慣らして不機嫌そうなエド。彼の言う通り私達は今回出席できない。色んな事情が重なった結果がこれだ。
でも、彼女らを見て何よりも安心した。緋凰響を始めとした特殊部隊第13艦隊の皆を受け入れていること。本当に安心したよ。
だけど、風鈴流。私と瓜二つのそっくりさん。初めてあって、どこかで見た覚えがあるのを思い出して、実家の文献を漁って驚いた。私のご先祖様であるリリシュ・シュタインと瓜二つ。私もご先祖様とにてるとはいえ、髪の色は全然異なる。向こうは茶色、私は赤髪で、似ているのは顔だけ……。しかもあちらは左目が緑、右目が青で、そもそも私はオッドアイじゃないし。
でも、あの子は髪の色と、オッドアイという共通点がある。まぁ、流石に赤い目は違うけどね。
だから、もう一歩踏み込んで実家に保存されてる古代ベルカの文献を解析してるけど、まぁ、何かが変わるわけではない。
今の問題はあの子の本来の所属が未だ不明ってこと。下手すると管理局の裏の部隊かも知れないけど……最近どうも雲行きが怪しいのよね。
「……表沙汰にはなってはいないが、今じゃ機動六課はかつての特殊部隊の主力メンバーがほぼ揃ってる。例の予言を覆せるのか?」
「さぁ、どうだろ。もう賽は投げられた。後はなるように、ね」
そう言って皆の顔が安らいだのが見えて、少しだけ私も安心した。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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