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【完結】Fate/stay night -錬鉄の絆-

作者:炎の剣製
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第029話 5日目・2月04日『脱落者』

 
前書き
更新します。 

 

「んっ………」

桜は間桐臓硯が桜の体内から消滅してから数分して目を覚ました。
そして視界に広がる人たちの顔。
志郎に慎二に凛の嬉しそうな表情が映る。
その光景に桜は何事かと目を見開いた。

「えっ? 先輩………? それに兄さんに遠坂先輩……?」
「目が覚めたんだね、桜。よかった……」

志郎が心底嬉しそうにそう呟く。

「あれ? 一体、これは………ん?」

そこで桜は体の違和感に気づく。
体が異様に軽く感じられるし締め付けられていた圧迫感がない。
それにどこからか今まで無尽蔵に流れてきていた魔力の流れも消えていた。

「なんで………?」
「困惑するのも無理ないわ」

そこで凛が笑顔ながらも説明するように話し出す。

「今、桜はおそらく体内の魔力の流れの澱みが消えて正常化していて驚いているんでしょう?」
「は、はい。なぜか体が軽く感じるんです。こんな思いは………そうですね、間桐家に引き取られる前の、その………遠坂家にいた頃みたいです」

桜は言い淀みながらもそう言う。
凛と面と向かって素直に会話をするのが恥ずかしいという思いもありつい顔は伏せてしまっているが、

「桜! もうお前は間桐家の呪いに怯えて暮らさなくていいんだよ!」
「に、兄さん? それは一体どういう………」
「お爺様………いや、間桐臓硯はもうこの世からいなくなったんだ! だからもうお前は、お前は………うっ、くっ………」

そこで慎二はとうとう耐えきれなくなったのか片手で顔を覆い涙を流し始めた。
そうとう今まで桜のために苦労してきた事が報われたのが嬉しいのか肩の荷が下りた想いで緊張の糸が切れたのだろう。

『雁夜おじさん、僕はやったよ………』

と、しきりに呟いている。
そんな慎二の背中を宥めながら志郎が言う。

「だから、もう桜は自由だよ」
「で、でも………いきなりそんな。お爺様がもういないなんて………」

困惑する桜に志郎は桜の体を抱きしめながら、

「………大丈夫。桜はもう幸せになっていいんだよ? それを邪魔する人はもういないし邪魔をする権利は誰にもないんだから」
「あっ………」

そこで桜は一筋の涙を流す。
確かにもう胸にいるであろう間桐臓硯の存在を感じることは無い。
そしてとうとう桜の涙腺は決壊した。

「ああぁ、先輩! 先輩………私苦しかった! 今まで苦しかった!!」

志郎の胸に桜は顔をうずめて桜は痰を切ったかのように何度も今までの思いを吐き出すように泣いた。
その目からは今まで我慢してきた分の涙が大量に流れる。
しかし決して悲しいわけではなかった。
間桐臓硯という怪物の呪縛から解放された事に対しての嬉し涙なのだ。
それからしばらく泣き続けた桜は泣き終わった頃には可愛い顔が涙で腫れ上がっていた。

「………あぁ、もう。可愛い顔が台無しだよ、桜」
「すみません、先輩………でも嬉しくって」
「うん。わかってる。でも少し落ち着いたら話し合いましょう。そうでしょ、凛さん?」
「え? ええ、そうね。私としてももう一度桜の姉を名乗りたいのが本望だけどその役は志郎に取られちゃったしね」

そう言って少しむくれ顔になる凛であった。
桜の事を救いたかったのは凛の本心でもある。
でも志郎と慎二の手前は素直に喜べなかった。
志郎という繋がりがなかったら凛は桜の事を何一つ知らないでこれからも過ごしただろう。
そう思うとやはり今一度姉と名乗るのは今はまだ都合が良すぎるし関係の悪化も避けたいところだからだ。
少しずつ桜に歩み寄っていけばいい。
いつか桜の姉だと名乗れるその時まで。
そして今はしないといけない事がある。
それは、

「………志郎。改めて言わせてもらうわ。桜を救ってくれてありがとうね」
「ううん。凛さんは気にしないで。私も私で桜を救いたいという想いを慎二くんと共有して今まで頑張ってこれたんだから。ね? 慎二くん」
「ああ、そうだな。僕からも言わせてくれ。衛宮………本当にありがとう」
「先輩、私からも言わせてください。ありがとうございます」

三人から感謝の言葉を言われてさすがに志郎も顔が赤くなるのを抑えられなかったのか頬を掻きながらも恥ずかしそうに、

「………感謝の言葉は素直に受け取っておくね」

それで四人して笑みを浮かべるのであった。
それから少しの余韻を味わった後、凛が「さて………」と言って立ち上がり、

「それじゃ桜に間桐くん。こんな雰囲気で言うのもなんだけどライダーとの契約………破棄できるかしら?
間桐くんは間桐臓硯に命令されたとはいえたくさんの人を襲ったのは間違いない事実だしね」
「ああ、わかっているさ」
「はい………」

慎二と桜はそれで頷く。
そして慎二は間桐臓硯から預かっていたライダーを使役するための『偽臣の書』をバックから取り出して凛に渡そうとした、その時だった。
偽臣の書は突如として炎に包まれてそのまま焼き焦げてなくなってしまった。

『なっ!?』

その光景に一同は驚きの声を上げる。
偽臣の書が燃えてしまった。
つまり、それが意味することは、

「もしかして、ライダーはやられたの………?」

志郎がそう呟く。

「ッ! 桜! 令呪は!?」

慎二が慌てて桜にそう問う。
偽臣の書がなくなったという事は委託されていたのが戻ってきたために消えていた桜の令呪も手の甲に再び浮かび上がるはずだからだ。
だが桜は手の甲を見て、

「すみません、兄さん。ライダーとの繋がりが感じられません………」

桜は残念そうにそう呟く。
それで今の今まで事態を温かく見守っていたセイバーとキャスターが桜に近づいてくる。

「サクラ。ではもうライダーは誰かに………」
「あ、アルトリアさん。はい、多分もう」
「アーチャーはやり過ぎたのかしらね?」

キャスターがそう呟く。
それで凛はアーチャーに思念通話を試みようとしたが、そこにちょうどよくアーチャーが戻ってきたのか凛の背後に実体化する。

「………凛」
「アーチャー!? いつ戻ってきたの!?」
「今しがただ」

そう言うアーチャーの表情は幾分優れないものであった。
それを察したのか凛は冷静にアーチャーに問いかける。

「………なにがあったの? ライダーを追いかけて行った後に」
「ああ。ライダーはアサシンに殺された」
「アサシンに!?」

それでアーチャーは語る。
事の顛末を。

「私がライダーと先程まで森の中で交戦していた時の事だ………。ライダーは突如として動きが悪くなり、ふとどこかを向きながら小声で『………やりましたね、慎二』と言った」
「おそらく私達が間桐臓硯を倒した時の状況ね」
「多分な。それでライダーもどこかへ去ろうとしたのだろう。私ももう追うべきじゃないかと思って見逃がそうとした………その時だった」


『魔術師殿を裏切ったか………。ならば貴様だけでも葬るとしようか、ライダー?』


「そう言う言葉が辺りに響いたと思った矢先に突如として黒塗りのマントを羽織った骸骨の仮面をつけた奴が現れた。そして………」


『………妄想心音(ザバーニーヤ)ッ!』


「おそらく宝具の名なのだろう真名を言って赤く細長い腕が契約が切れたばかりで動きが鈍っていたライダーの胸に添えられた。そしてその直後にライダーは苦しみだして消滅した」
「ザバーニーヤ………それってやっぱりアサシンのサーヴァント?」
「そうだろうな。………そしてその口ぶりから間桐臓硯のサーヴァントだったのだろう。
その後に私は仕留めようとしたがすぐに気配遮断のスキルを使われてみすみす逃がしてしまったわけだ」
「そう………」

それで凛は思案する。
おそらく間桐臓硯のサーヴァントだったのだろう。
だから今は野良のサーヴァントだという事になる。
でも、そしたらいずれは魔力切れを起こして自然と居なくなる可能性もある。
しかし、腐ってもサーヴァント。
どこかしらで魔力の調達をするのは目に見えている。
そして標的になるのは間桐臓硯を裏切った桜と慎二の可能性は濃厚………。

「凛さん」
「志郎………?」

志郎に話しかけられてそこで思案をやめた凛は志郎の方へと向く。

「しばらく桜と慎二くんはうちで匿おう。多分狙われるとしたらこの二人だから」
「志郎もやっぱりそう考えるのね。わかったわ。キャスターの結界がある志郎の家なら匿うには最適だからね」

それで桜と慎二もしばらくの間………正確に言えば聖杯戦争が終わるまでは志郎の家で匿おうという話で決まった。


……………
…………
………


それから落ち着きを取り戻した一行は今日はもう遅いという事で食事も軽めに取って明日に備えることにしたのだった。
ちなみに学園から連絡があり弓道場の一件でガス漏れを疑われて数日間学校に警察が検査に入るという事で休みになった。

その晩の事であった。
凛は桜も救えたことだしアサシンの件もあるだろうが一応の落ち着きも見せたことでいつもなら家の屋根の上で監視をしているだろうアーチャーを部屋に呼び出して、

「さて、それじゃアーチャー。桜も救えたことだし私達だけの会話でもしましょうか」
「そうか。いつか来るとは思っていた」
「そう」

凛はアーチャーのその言葉に相槌を打ち、話し出す。

「昨日………あなたの、生前のエミヤシロウの過去を夢で見たわ」
「そうか」
「そうか、って………なにか他にあるんじゃない?」
「別に………。見られたのなら別に隠す必要はないさ。私は心の底から過去の自身を恨んでいるのはもう話したな? 私の真の目的も」
「自分殺し………。でも、そんな事をしてもただの八つ当たりよ?」
「そんなことは先刻承知済みだ。それでも私はそれに綴るしかもう希望が見いだせないのだよ」
「でも、この世界のあなたは………」
「ああ。志郎を守ってすでにこの世にいないことは知っている。だから私は志郎のことを………」

その時だった。
ガタッという物音が部屋の外から聞こえてきたのは、

「………誰だね?」
『私です』

外からはセイバーの声が聞こえてきた。
アーチャーはドア越しに、

「セイバーか。どうしたね?」
『いえ、たまたま通りかかっただけですよ。気に障ったのならすみません』
「いや、構わない。衛宮志郎にあったらよろしく頼む」
『わかりました。では………』

そう言うとセイバーの気配は遠ざかっていった。
それから凛とアーチャーはまた話を再開した。
だが、二人は気づかなかった。
セイバーはとっさに凛と話をしようとして来ていた志郎にキャスター仕込みの魔力と気配殺しのフードを被せていたのだ。
突然の二人の会話に頭が追い付かず体を震わす志郎をセイバーはなんとか部屋まで運び、

「シロ。落ち着いてください」
「で、でも………そんな。アーチャーは………そんなッ!」

志郎はただただ衝撃の事実に体を震わせることしかできなかった。
こうして夜は更けていくのであった。


 
 

 
後書き
最後に爆弾投下しました。 
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