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ある晴れた日に

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631部分:桜の枝を揺さぶってその九


桜の枝を揺さぶってその九

「別にね」
「あれっ、そうだったか」
「何時の間にそんな話になったの?」
「いや、この前酔ってる時にな」
 随分と滅茶苦茶な話である。
「決まったじゃねえか」
「そんなの全然覚えてないし」
「御前ちゃんと言ったぜ」
「大体事務所との契約は?そういうことは?」
「そんなのどうとでもなるだろ」
 この辺りのいい加減さが実に野本らしかった。
「だからいいんだよ」
「僕大学行くつもりだけれど」
「じゃあ大学通いながらマネージャーやれ」
「それって滅茶苦茶忙しくない?」
「マネージャーは忙しいものじゃねえかよ」
 無茶苦茶な話が続く。
「だから頼んだぜ。いいな」
「断わるけれど」
 こんな話をしているうちに今度は薔薇の園に入った。屋外になっている。
「うわ、ここはまた」
「凄いっていうか」
「滅茶苦茶奇麗だし」
 紅に白に黄色。紫や黒もある。ピンクの薔薇もあれば新しく造られた青い薔薇まである。
「色々な薔薇があって」
「しかもこの香りって」
「最高だな、おい」
 皆緑の中に咲き誇るその薔薇達とその香りに包まれて。恍惚とした顔になっていた。
「まさかこんな場所まであるなんて」
「凄い植物園だよな」
「全く」
 こう言って皆うっとりとなっていた。
「色々あってね」
「薔薇まであって」
「薔薇だけじゃないわよ」
「言っておくけれど」
 ここで三人あらたに現われた。
「えっ、先生」
「先生達まで」
 まずは江夏先生と田淵先生であった。そしてもう一人」
「学年主任の藤井先生まで」
「来てくれたんですか」
 見れば初老で皺のある顔の男の先生もいた。合わせて三人であった。
「先生達まで」
「どうして」
「どうしてもじゃないよ」
 その藤井先生がにこりと笑って彼等に言ってきた。
「私達は先生だよ」
「だからですか」
「それで」
「生徒のことを思うのは当然じゃないか」
「竹林さんのことが気になって」
「それでなのよ」
 藤井先生だけでなく江夏先生達も彼等に答える。
「だから来たのよ」
「ここにね」
「すいません、何か」
「気を使わせてしまって」
「それはないよ」
 藤井先生は優しい声でその彼等に告げた。
「それはね」
「気は、ですか」
「別になんですね」
「そうだよ」
 優しく微笑む声はそのままであった。
 
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