魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第28話 心配しなくていいんだよ
――side響――
聖王教会での話し合いが終わって、現在はヘリで帰ってる最中なんだけど……。
うん、まさか艦長……いや、婆さんを知ってる人が居たとは。世間って狭い……いや、あの階級の人達だから知ってたと考えるのが妥当かな。
しかしまぁ、まさか暴露する羽目になるとは思わなかった。
でも、良いパイプ……って言ったら失礼だ。良い方と知り合いになれた。同時に、こっちの面子に話して良いと許可ももらえたけれど、問題はあいつらの処理のされ方だ。それ次第では、今後の動きも変わってくる。
さて、現在ヘリに乗ってるんだけど、手元にはアタッシュケースが2つある。この中身を聞いて少し血の気が引いた。
はやて部隊長様曰く。最近見つかったロストロギア。一つは手の平サイズの黒い水晶。一つはA4サイズ程度の鏡。どちらも黙ってみたらそういうものだと思われるが、渡されて実物を拝見した時。水晶は何処か落ち着く魔力を。鏡の方は何処か嫌な魔力を。それぞれ感じた。
しかも、半分封印処理をしてて感じる程度ということは開放したらもっと凄いということ。
機動六課の名分としては、この躊躇半端な封印物も預かって、再度処理を、完全封印処理を行わないといけない。見つかった時の時点で、この状態。下手に開放しては不味いとの判断だけど。持ってて思うのが正直なんかやだ。
一応あんまり意味は無いかもしれないけれど、隊長達から距離をとって座る。3人とも気にしなくていいと言ってくれたものの、あんまりこういうもん持って近くに座るのは居心地が悪い。
しかもはやてさん、写真データ消されたせいか、思い出すと沈むからなー。そういう負の感情ってあんまりよろしくないと思う。で、今の話題が。
「ふむふむ、ということは響と震離以外はデバイスを持っていたんだね。だから皆それぞれ違うんだね」
なのはさんにあいつらの情報を伝えてる最中。それぞれデータにして渡しましょうかと伝えたら、それは見て判断するから今はいい、との事。それよりも皆普通の魔道士と違う戦い方するということを聞かれたもんだから、デバイスを所持してた事を伝えた所だ。
「やっぱり皆インテリジェンスデバイスだったの?」
「後々はって話だったんですが、とりあえず簡易AIを組み込んで、武装を使えるようにしてましたね。あいつらは。で、その予算確保した矢先に……って感じです」
「うぅ、ごめんね嫌な事思い出させるようで……」
「いえいえ」
申し訳なさそうに、少し頭を下げるけれど笑って流す。もう話した時点で問題ないし、もう吐き出したもんはいいんだ。
「うーん……今ね、シャーリーと奏と震離用のデバイスの作成プランを考えてるけれど、やっぱり本人達と相談した方がいいよね」
「うーん。それはなんとも。俺自身インテリジェンスデバイス持ったのは本当に初めてなので、そこはなんとも」
『なるほど。私は、主の初めてを頂いたんですね』
さらっと花霞の言葉で一瞬なんとも言えない空気が流れる。こいつ本当に最近生まれた子なの? あんまり話さないと思ってたら、こういう場でさらっと冗談というか普通に言うし、色々凄い。
「まぁ、冗談はさておいて……奏なんかは多分オールレンジで対応したいって言うでしょうし、震離は色々組み込みたいタイプなので。俺からは何も言えないです」
「そっかー。うーん、優夜達の動き次第だけど、皆の分組んであげたいなー。シャーリーも、丁度響とギンガの分が終わって、手が空いたって嘆いてたし」
「あはは、でもそうすると予算が大変な事になりますよ」
「そう。そう言えば同じAとしては、ギンガってどう思う?」
「いやぁ。どうって言われましても。俺とは違う正当なAですし、きっと最初のうちにしか勝てないでしょうし。皆に良い影響が出ると思いますよ」
「そっかぁ。いい線行くと思うんだけどなー」
話してて口から乾いた笑い声が出て来る。言ってて悲しくなるし。
「そう言えば。響は居合は使わないの?」
「……ぅ」
ふと思い出した様にフェイトさんの言葉で思わず変な声が出る。なのはさんもはやてさんも割と気になってる様子だ。
あんまり居合は使いたくない。だけど、よりによって居合を使ったことのあるフェイトさんからの質問だし、下手には答えられない。うーん……まぁ、いいか。
「あー……使わないと言うか、なんというか。切り札って言う意味も勿論あります。正真正銘最後の手札というか、奥の手と言うか」
「確かに、私と戦った時も最初は普通に戦って、最後の最後で使ってたね。アレは痛かったし。ちゃんとした刀なら負けてたと思う」
うんうんと頷くフェイトさんを尻目に、少し気まずくなる。いや、あの……どう転んでもあれはもう詰んでたし……。
「なんというか……それまで使い出すと、俺では抑えられないと分かった時に詰んでしまうんですよね」
「と、言うと」
おっと、対面のなのはさんの目が少し細くなりましたよ……地雷踏んだかな? まぁ、もう止まれないし……。
「もっと言えば……いや、言い訳ですね」
「……」
ふと視線を下に落として、自分の手の平を見つめる。目を閉じれば、母さんが生きてた頃を思い出す。声はもう……なんとなくでしか思い出せないけれど、あの顔は忘れない。いつも笑ってくれてたしね。
「母さんが教えてくれた。残してくれたこの抜刀術。確かに強いと思います。
だけど、刀がとかそういう理由ではなく。なんというかこの前みたいに意識が半分飛んでたら別かもしれませんが。あんまり私闘とかで使うのはなんか違うかな、と。あくまで護るための技術、いや手段ですし」
ハッとして、顔を上げる。一瞬怒られるかなー、それは舐めプだよ-って叱られるのかと思った。そして、なのはさん達の顔を見上げると。
「うん。それはそれでいいと思うよ。ちゃんと意味を理解してるみたいだし、なのはさんとしては文句なし、かな」
ニコニコしながらそういうなのはさんをみて、少し呆気に取られる。フェイトさんもはやてさんもちょっとわからない様子だけれど……。
うーん……これと言ってちゃんと答えられたと思ってないけれど、追求が無いのなら、これでいいのかな……?
『はやてさん。ロングアーチから連絡が入ってますけど、どうします?』
『あ、受けるよ。こっちに回してな』
『了ー解!』
ヘリを操縦してるヴァイスさんからの連絡を受けて、はやてさんの前にモニターが開かれる。その相手は。
『八神部隊長。お疲れ様です』
「お疲れ様や、グリフィス君。なにかあった?」
『事務員の優夜達4人についての処遇ですが、本局のレティ提督より、事務員兼武装隊員としての運用の許可と、その場合のランクについて連絡が有りました』
「ということは、お咎めなし……な感じか?」
『えぇ、部隊保有制限にかかるので彼らはBランクとして登録。ただ、あくまで予備員として登録なのであまり前線には出せないかと』
はやてさんとグリフィスさんの通信を聞いて少し安心。話の通りお咎めなしだから尚の事だ。
恐らく、優夜達に連絡を入れたあの人が手を回してくれたんだと思う。
そして、地上ではティレットさん達もきっと動いてくれたんだろうな。でなければ、こんなに何も無いのは、普通は無いから。
「わかった。対応してくれてありがとうな?」
『いえ、とんでもない。それではご帰還お待ちしております』
敬礼をして、通信を閉じられる。3人とも何処か嬉しそうな視線でコチラを見てくるのは、ちょっと恥ずかしい。ふと視線を外へ向けると、既に日も暮れ始めている。
こりゃ六課に付く頃にはもう沈みきってるなぁ。
――sideフェイト――
ヘリの中で話をし終わって、六課のロビーに私たちはいる。外を見ると、もう夕日も落ちて辺りは真っ暗だ。
「では、俺はこれで。このロストロギアは明日封印処理を施すということで?」
「うん、危険度は少ないけれど、いい封印処理の練習になると思う。明日は万全を期して行うよ」
「はい、了解です。ではこれを地下の安置所に置いてきますので失礼します」
両手にロストロギアが入ったアタッシュケースを持ってそのまま奥へ消えていった。これから私となのはは部屋へ戻ってヴィヴィオの様子を見に行こうと思ってる。
「ほんなら、なのはちゃん、フェイトちゃん」
「うん」
「情報は十分……大丈夫だよ」
簡単に3人で敬礼をして、部屋へ戻ろうと歩き始める。少し進んだ先で。
「……あのな!」
「「?」」
はやての声に、振り返って見ると、何かを決めたようなはやてがコチラに向かって走ってきた。
「私にとって、二人は命の恩人で、大切な友達や。六課が、どんな展開と結末になるかは、まだ分からへんけど……」
深刻な表情を見せながら言葉を口にするはやてを見て、私となのはは顔を見合わせて、思わず笑みが溢れた。
「その話なら、出向を決める時にちゃんと聞いてるよ」
「私やなのはも、ちゃんと納得してここにいる」
「それに、私の教導隊入りとかフェイトちゃんの試験とか、はやてちゃんや八神家のみんながすごいフォローしてくれたじゃない」
「だから今度ははやての夢をフォローしないとって……」
なのはの言葉に頷き、私も伝える。その言葉を受けたはやては、笑顔になった。
「フフフ、あかんなぁ。それやと、恩返しとフォローの永久機関や」
「あははは」
「友達って、そう言うもんだと思うよ」
はやての言葉に私達も笑顔で答える。そして、もう一度。さっきとは違ってしっかりと敬礼をして。
「八神部隊長。今のところ、部隊長は何も間違っていないであります」
「だから大丈夫。いつものように、堂々と命令してください。胸を張って、えへんと」
あえて少しふざけたような様子で、はやてを励ます。これくらいしないと分かってくれないからね。
はやては少し目を潤ませ、しっかりと頷いて私達に答える。
「……うん! それじゃあ、二人共、お休み!」
そのまま走っていくはやてを、六課の奥へ消えるまで2人で見送った。
「……行こうか」
「……うん」
部屋に向かって歩きはじめた時に、ふとヘリの中で気になったことを思い出した。
「そう言えば、ヘリで話してた響の居合を使わない理由。なのはは何か分かるの?」
そう、あの時響は私闘で使うのは何か違うと言っていた。だけどなのはは何処か納得した様子だった。響も一瞬分からないといった顔をしたのは分かる。
「うん。本質はもしかしたら違うかもしれないけれど、響の居合はきっと純粋な対人用……もっと言えば、殺人術。人を斬るための物かも知れない。
響のデバイス装備の中に暗器があるのは分かるよね?」
「使ってる所は見たこと無いけど、ワイヤーやクナイが入ってるのは知ってるけど……」
「そう、きっと響は、それ込みで居合術と括ってるんだと思う。実際は違うかもしれないし、もっと深いのかもしれない。
だけど、それを護る為の手段って言ってた。本当ならフェイトちゃんとの試合の時も使うつもりは無かったんじゃないかな?」
なるほど、確かに半分意識は飛んでいたって言ってた。
「あの時、フェイトちゃんの一撃を貰って、意識が飛んで、反射的に自分が一番信じてる技術を使ったんだと思う。
だから、人と戦う時は見れないだろうし、見せるつもりはない……かも知れない」
「……そっか」
「多分使う時は、きっと響の中で納得出来る答えを見つけて、その上で使うかもね」
何処か遠くを見るように話すなのはを見て、何処か寂しそうにも見える。
気がつくと、もう部屋の近くまで来ていた。
「さぁ、ヴィヴィオは大丈夫かな?」
「あはは、きっと大丈夫だよ」
自室の扉を開けて、部屋へと入る。きっとエリオとキャロが見ていてくれてる。
「「ただいま」」
部屋の中からパタパタと駆け寄って来る音が聞こえる。その顔はとても嬉しそうになのはへ真っ直ぐに駆け寄った。
そんなヴィヴィオを優しく抱き上げて、微笑みながら今日のお話をゆっくりと聞き始めた。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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