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魔術師ルー&ヴィー

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第二章
  〜 Epilogue 〜


「アルモス。お前、これからどうしたいんだ?」
「はい?」
 急に問われ、アルモスは些か面食らった。
 ここはミルダーンにある宿の一室。アンネム大公やノイス公らは自らの館にと申し出てくれたのだが、どうやらルーファスには居心地が悪いようで、それらを丁重に断って宿に入ったのであった。
 因みに、ヴィルベルトとウイツは個別の部屋である。
「我が主殿…急に如何されましたか?」
「いや…お前は悪魔だ。だからな、このまま俺が死ぬまで束縛されんのはどうかと思ってな。」
「…気色悪いですよ?何か変な物を拾って食べましたか?」
 アルモスは本気で心配しているようで、それが返ってルーファスをイラッとさせる。
「なら良い。一生お前は俺の奴隷だ。」
「そんなご無体な!せめて…せめて色んなものを食べさせて下さいよ!」
 あんまりな返答に、ルーファスは半眼になって呆れた様に言った。
「…アルモス。本当に、食うこと以外どうでも良くなったんだな…。」
「はい!この世界の不思議の一つなれば!玉子一つ取っても千差万別の食になりますから!」
「はいはい…っと。そんじゃ、お前は友達ってことにしとくか。」
「えっ!?」
 再び面食らった。まさか…悪魔である自分を“友”としてくれるなぞ考えもしていなかったからである。
 普通なら、用が済めば元いた世界へと送還させられる筈なのだが、ルーファスはずっとこちらの世界に居ても良い…そう言ってくれたのである。
「あ…ありがとうございます!我が主殿!」
 アルモスはルーファスの手を握って感涙に咽ぶが、そんな折、急に扉が開かれてヴィルベルトとウイツが中へと入り…そんな光景を目の当たりにして暫し固まった。
「ルー…確かにそいつは美形だが…男だぞ?」
「師匠…それはちょっと…。」
 二人が顔を引き攣らせて後退るのを見て、ルーファスは慌てて「違う!そんなんじゃねぇって!」と反論してはみるが、アルモスは我関せずで…ずっと感涙に咽ぶのであった。
 それはさておき、アリシアを倒してから二十日程経った頃、リュヴェシュタンのコアイギスから伝令を受けた各国の魔術師ギルドは、彼女の仕掛けていた罠を探し出し、それを全て解除することが出来た。
 そうして漸く、この一連の事件は幕を降ろされようとしていた。
 先ずコアイギスはゾンネンクラールで事後処理をしていたマルクアーンを逸早く呼び寄せ、どうしてここまで事件が大きくなってしまったのかを話し合った。
「シヴィル…私も様々なものを見聞きしてきたが、これ程侘びしく思うものもない…。」
「じゃろうな…。わしも同じじゃよ…人の業は何とも深いものじゃのぅ…。」
 その言葉は、コアイギスにはマルクアーンが自らに言い聞かせている様にも思えた。
 シヴィッラは…シュテットフェルトを愛していたのだ。コアイギスはそれを知っていた。故に…コアイギスは友であるシヴィッラの前では絶対に、ゾンネンクラールの話はしてこなかったのだ。
 友の…マルクアーンの傷は癒えることはない。時の止まったその身では…。
「のぅ、ベル。もうあの事を…アーダルベルトへ伝えても良かろう。」
「…!」
 コアイギスは一瞬、その言葉に躰を強張らせた。
「もう隠す必要もあるまい。弟子のヴィルベルトでさえ気付いておる。話してそれを受け止められるだけの器に育て上げたのはお前じゃ、ベル。」
「そう…だな…。余計な者に暴き立てられる位ならば、私の口から直接告げる方が良いかも知れんな。」
 そう言うやコアイギスは窓辺へと立ち、遠きミルダーンへと視線を向け…そして、決意した。
「アーダルベルトを呼び戻す。」

 その頃、ルーファスらはミルダーンを出て、リュヴェシュタンへと向かっていた。
 ミルダーンの方は大公が全てを仕切って、事後処理は概ね終わっていた。
 今回の件では、大公から各自に褒賞と爵位が贈られたが、ルーファスには伯爵、ウイツとヴィルベルトには男爵の位が贈られ、彼らはミルダーンでは貴族として扱われることとなるが、忠誠を誓わされた訳ではない。飽くまで、ミルダーンはこの三人を称え、有事の際には後ろ楯になることを約束したものである。
「爵位なんて要らねぇっつってんのによ…。爺さん、無理やり押し付けやがって…。」
「師匠。孫みたいに思っていたから、きっと何かしたかったんじゃないですか?師匠とウイツさんは兎も角、僕なんかにも男爵位を贈って下さって…本当に嬉しかったです。」
「そうだぞ?ルーは元々侯爵家の出だが、お前本人が爵位を持てば、例え他国であれ母君だって鼻が高いと思うが?」
「そうです!我が主殿が立派になれば…私も美味しいめのが…おっと、よだれが…。」
 その容姿でよだれを拭くアルモスに、周りの三人は思わず吹き出し、当のアルモスも笑った。
 何とも可笑しなパーティーであるが、この三人と一柱は、この先でも互いに信頼しあえる仲間になるのであった。
 だが、この大陸には未だ問題が山積している。それ故、彼らは一旦リュヴェシュタンへと戻り、再び旅に出ることを話し合っていた。
 そして何より、ルーファスはヴィルベルトの第七修をコアイギス立会の元で行う腹積もりであったため、少しばかり先を急いでいたのである。
 ミルダーンを立って三日後、ルーファスらはリュヴェシュタン国内へと入った。彼らはそのまま王都に向かうつもりであったが、シュテンダー領内へ入るや検問で呼び止められてしまった。
「アーダルベルト様、シュテンダー侯爵様より急ぎ戻られたしと申し遣っております。」
「はっ!?親父がか?」
「はい。今回の一件に関わることなので、必ず伝えよとのご命令でして…。」
 それを聞き、四人は顔を見合わせた。
 確かに、アリシア自体は消え去った。だが、彼女は置き土産を残していった様で、それは養父…シュテンダー侯爵でさえ唯事ではない代物だと考えているのである。
「分かった。」
 そう短く返答するや、ルーファスは三人を連れて直ぐ様シュテンダー侯爵の館へと向かったのである。
 四人が館へ到着するや、玄関から意外な人物が顔を見せた。
「シヴィル!?」
「変顔するでない!事は急を要する。直ぐにゾンネンクラールへ飛ぶぞ!」
「はっ!?また何かあったんかよ。」
「あったから行くに決まっとろうが!ほれ、早ぅせんか!」
 四人は急かされて、マルクアーンの言うがままに移転の間へと向かうが、その最中に聞かされたこと…それは四人の顔を曇らせるには十分であった。

ー ブリュート・シュピーゲルの復活…。 ー

 現存する妖魔中では、最早最大級の大妖魔である。
「恐らく…アリシアは己が滅びたと同時に封が解かれる様にしとったのじゃろう。全く…次から次へと厄介事を起こしおって。」
 そう言いつつ移転の間へ入ると、そのままゾンネンクラールの王城へ飛ぶようルーファスを促し、ルーファスはそれに応えて詠唱するや…五人の姿はそこから消えたのであった。
「もう!何で挨拶一つなしで行っちゃうのよ!」
 一足違いで駆け付けたマリアーナ・シュテンダーは憤慨するが、それを夫フェリックス・ミカエリス・フォン・シュテンダー侯爵が宥めた。
「何、直ぐに戻るだろう。恨み言は帰ったらゆっくりすれば良い。」
「そうね…。でも、あの事を…話すんでしょ?」
「ああ…。コアイギス殿は我らも呼び、全てを話すと言っておられた。」
「そう…そうね。あの子ももう立派な大人なんだし、受け入れられる歳よね…。」
 そう言ってマリアーナは夫に寄りかかる。
「案ずるな。必ず良き方へ向う。」
「ええ…そう信じているわ…。」
 二人は抱き合い、再び旅立った息子を案じて、遠くゾンネンクラールへと目を向ける。

 ただ一心…息子の無事を祈りながら…。





            第二章 完



 
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