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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第25話 出会って、変わって

 世界は変われど、私達は変わらない。

 いつか来る明日のために、私達は耐えることを選んだ。
 大切な親友達には空を舞う自由を縛り、好きな人には、やりたくない道をさせた。
 
 だけど。
 
 いくら私達を縛ろうと、手元に置こうとしていても。心までは渡せない、変えられない。
 
 2年離れて、皆で積み上げた。響と私で見せ札となって、震離や紗雪、優夜が少しずつ情報を集めて。
 煌と時雨も言うことを聞いてるふりをして長いこと隠し通した。
 
 だけど、いざ終わってみれば大層な用意だけでしたねって笑い話に成って。
 皆で泣いて話したっけ。準備しすぎたねって、用意しすぎたねって。
 
 あとは……あとは。私と震離を助けてくれた流が無事に復帰してくれることを願うだけだ。
 
 
――side奏――
 
 
「はぇ? 誰が一番強かったって……また抽象的な」

「あはは。シンプルな意味と、いろんな物を込めた本当の意味での2つかな」
 
 朝練が終わって、朝食を頂いてる時のなのはさんとちょっとした雑談。
 ちらりと視線を隣のテーブルに移せば、ティア達も気になっているらしく、興味あるという視線を向けてる。
 
 勝手に言っていいものかって考えるけれど……まぁ、いいかと。ただ1人だけ別問題が居るからそれだけ伏せて、本人に説明させようかな。
 私もよくわかってないし。
 
「ランク的には昨日言ってた通りですよ。優夜が一強、そこから煌、紗雪が次いで、私と時雨が得意レンジは違えど同程度で、その次が震離、響が一弱になりますねぇ」

 ランクとしてはこの通りだ。煌もその気になればSランク射程圏内らしいけれど、優夜程の拡張性が無いし、それを取る程の必要性も無いからとAAAで止めていた。
 
「凄いっていうのと、優夜がSを取れたのは何か有るの? 結構難しいよ?」

 ……やだーなのはさんの目がすっごくキラキラしてらっしゃる。ま、隠すこと無いしこれは正直に言おうかな。

「優夜の場合色々有るんですが、一番は魔力変換風の質が高い事、加えてそれを用いた広範囲の天候捜査。
 更には、風の応用で大気? を操作して――」
 
「熱も冷気も扱えて、加えて天気を操れば雷雨も呼び込める。なるほど、文句なしのSランクだね」

 ……驚いた。それだけでなのはさんには伝わったらしく、ギラギラとしているように見える。
 
 私達……響を除けば皆資質には恵まれた。優夜には風が、煌には炎熱、時雨には水。紗雪にも僅かだけど氷結。震離には雷電が。
 私にも一応光っていうのが有るけど、今一実感出来ない。スフィア作ればもの凄く光るだけっていうのしか分からないし。
 
 昔震離が、私の資質見て渋い顔してたけど……多分使いにくいんだと思う。
 
 まぁ、それは置いといて。
 
「じゃあ。実際に戦った場合の各付けはどうなる?」

「……直接の殴り合いになった場合。文字通りの血戦になった場合は大きく変わります。私と震離、時雨は中距離以降になりますので詰められれば負けます。
 ですが、残った4人は、それぞれの得意分野で昔から手合わせしてたので、やった数だけ勝者は違います。
 といっても、響には遠距離技が少ないので、一歩劣るというのがありますけどね」
 
 ニッコーと凄まじく笑顔のなのはさんを見て、ミスったかなと思うのが半分、まぁ4人共体を鍛え直さないとって言ってたし、まぁいいかって言うのが半分ある。
 ふと、ニヤリと悪い笑みを浮かべたと思えば。
 
「……紗雪にはまだ秘密があると思うけど、それは置いといて」

 ……ばれてーら。
 
「今回の件でハッキリわかったよ。そっかぁ……そっかぁ」

 ……あれ? やっばいやぶ蛇つついたかな?
 助けてーって思って、視線をティアたちの方に向ければ。
 
 フイっと。首をそらされました。
 
 あぁ、そうですか、さいですか!
 
「この後私もちょっと出るけど、それまで付き合ってね? 勿論皆も」

「あ、はい」 
 
 ……頑張りましょう。私! そして、逃げないでFWの皆!


――side響――

「フフフ、いいわぁ」

「……クックックッ」

「……うぅ」

「♪」

 あっはっはっはっは。なんだろう。出来るだけ顔に出さないように出さないようにって思ってんだけどさすがに完全に隠しきれなくて、含み笑いが出る。
 ていうか隠しきれないし。
 あ、ちなみに現在の状況は、聖王教会のベンチに腰掛けてんだけどさ。俺の隣に流が座って、更にその隣に震離が居るんだけど、その流の膝の上に金髪のオッドアイの女の子が座っているという状況だ。

 うん、はっきり言おう。見てて超面白いなう。

……使い方これであってんのかな?

まぁ、事の発端は数時間前に遡んだけどね。


――数時間前、早朝・聖王教会――

「……いかん超眠い」

 昨晩、俺らの恥ずかしい過去(笑)を暴露して、その後シャマル先生に頼まれて流の迎えに来たわけだが。本当は迎えに行くのは昼からなんだけど、朝っぱらから公欠? かなんか取れてたから、即効で来た。
 ぶっちゃけ朝練とかしたくないし! その事奏に伝えたら間違いなく止められるから、言わずに来た。帰ったら確実に怒られるな、これ。

 それに、なのはさんからは、俺らの過去を知って、もっと頑張れるってことだね、って言うもんだから、怖くて……。うん、すまんな奏。

 まぁ、いいや。そんなこんなで朝っぱらから、ちょっとしたお店によって、それなりに飯とか買ってから、コッチに来たわけなんだけど。うん簡潔に一つ言おう。
 公園の敷地を案内通りに歩いていたけど、昔の知り合いに聖王教会の病棟を案内されたの思い出して、案内に載ってない近道を通ったら。

「はっはっは、迷った……」

 クソゥ。生まれて初めて自分のミスで膝付く体勢取るとは思わなかったぜ。
 
 ……いかん、斜め上の方向に暴走しだした。落ち着け俺。とりあえず。どっちが北か……分かってりゃ迷うことなんて無いわな。うん。だけどまぁ。

「……どうするかぁ……な?」

 がさりと、近くの林の茂みが小さく動いた。うん、ぶっちゃけ風が吹いたわけじゃないから怪しいね。
 ただ、動物だったらもうちょい上手く隠れるだろうから、多分相手は人。
 だけど、殺気とかそんなのは全くない。まぁ、だいたい誰かわかるしいいけどね。とりあえず。

「そこに誰か居るのかー?」

 ガサガサとまだ音をたて揺れる茂みに向かってわざと問いかける。
 茂みから少しだけ見えたのは、見覚えのある頭。うん、だいたい分かると思うけど、万が一がある。

「……出てこないなら、コッチから行くぞー」

 一応行くことを伝えてからゆっくりと茂みに近づく。そして、その茂みの前に来たときには完全に気配が消えた。うん、超遅い。だから……

「そういう事は、最初からしろよ。震離?」

「う、ごめん」

 制服を着た震離がそこにいた。うんはっきり言おうか。というか視線で言おうか、なにしてんだよお前は?

「いやぁ、流が運ばれて、シャマル先生の処置が良かったから、大丈夫だったんだけど……おなかすいちゃって」

「あぁ。スッゲェ腹減ったから病院抜けだして飯買いに行こうとしたんだな?」

 震離の腹から可愛らしい音で「クー」と聞こえる。ふと顔に視線を戻すと赤くなってる。

「で、その途中で俺が警備の人に見えたとかそんなんだろう?」

「……ぅ、うん。引っ込みつかなくなったから隠れたけど意味なかったしね」

「とりあえず、コンビニまで遠いし俺のだけど食うか?」

「……うん。ありがとう」

 まぁ、時間つぶしにと思って、いろいろお菓子とかパンとか飲み物とかあるから適当に好きなのを取ってくれたら有難い。
 まぁ、本音言ったらオニギリとかそう言うのを食いたかったけどね。さすがはミッド、日本と世界が違いすぎて、日本食なんて滅多に置いてない。

 で、なんだかんだで。

「響、ありがとう」

「ん、別にいいさ。一人で飯食うのも味気なかったし、別にこっちが礼を言うよ。ありがとう」

「……ううん、本当にありがとう。でもなんでこんな時間にここに居るの?」

「ん? あぁ、流が緊急搬送されたつっても、最初の処置と、思ってる以上に傷が浅いって事で目が覚めてたら六課に帰るって事で、迎えに来た。
 早めに来たのは朝練サボっただけ。さ、一度流のとこ戻んな? 結構気にしてるだろう」

「うん。それじゃあまた後でね」

 病棟のある方向へ向かう震離を見送る。やはり、昨日の事を引きずってるよなぁ。それに、シャマル先生の言っていた事も気になる。

 昨日の晩、シャマル先生に小さく呼ばれて話を聞いた。俺としても流の様子を知りたかったから訪ねようと思ってたし、ちょうどよかった。そして、聞かされた内容を聞いて驚いた。

 流の体は既に怪我が治り始めていた、と。

 普通に考えればありえない。バリアジャケットを抜く程の威力に、現にダメージで血を吐いてた。それなのに、シャマル先生の処置の段階である程度怪我が治っていたとの事。

 この前の遺跡の事が頭をよぎる。もし流が人造魔導師だとしたらその傷の治り方はおかしい。
 その前に受けた傷は割と長引いていたのに、今回に限って発動なんて。考えられるとしたら、流と同じ顔のアイツと会った後だから、か?

 まぁ、これはまだ情報が足りなさすぎるから、一端置いておこう。一番の問題は。

 なんで流は前に出て自分を盾にしたんだ? ロングアーチで記録していたデータを見てそこが一番わからなかった。
 でも、その御蔭で奏と震離は怪我をしなかった。Sランク相当の砲撃なんて3人集まって防げるかどうか微妙なラインだった。
 なのはさんも寸の所で間に合わなかったしな。だからこそあの2人を捕まえたかったけど、横槍のせいで逃してしまった。
 
 がさりと、また近くの林の茂みが小さく動いた。今日で二度目だよ。もしくは震離がまた短縮つって、戻ってきたか。とりあえず、視線を向けていると、茂みから少しだけ見えたのは、茶髪の髪。おや?

 立ち上がって近づく。そして、茂みをかき分けて……。

「何してんのさ、流?」

「……ぅ、申し訳ありません……」

病院服をきた流がそこにいた。うんはっきり言おうか。というか視線で言おうか、なにしてんだよお前は?
 
「……申し訳ありません、昨日からここに来て検査入院したんですが……」

「フフフ、おう、それで?」

「何も食べてないせいで、少し辛くて……」

「なるほど、それは大変だ」

 なんてしどろもどろになりながら話す流。そして、少しした瞬間。可愛らしい音で「クー」と聞こえた。まったくのデジャブ。ここまで来ると面白いからいいけどね。
 さて、買ってきたもんなんか残ってたかな? そう考えながら袋を漁る。そして、出てきたのは一口サイズのパンが数個と、お茶。まぁ、いいか。

「とりあえず、俺のだけど食うか?」

「え、あ、い……いえ」

「遠慮すんな」

「……で、では」

 そう言って、お茶とパンに手を伸ばす。いやほんと無駄に買っておいて良かったー。そんなこと言って何も持ってなかったら恥ずかしいにも程がある。
 パンをちぎって食べる姿を見て、ふと思う。背中が丸い、いつもだったら背筋伸ばして食べているのに……。

「……昨日のこと。気にしてんの?」

 ビクリと体を震わせた。その反応を見て納得する。

「報告な。別に誰も責めちゃ居ないよ。むしろそんなになってまで守ってくれてありがとうって言われる事だ。胸を張れ」

 そっと流の頭を撫でる。パンを食べる手がまた動き出す。静かに水滴の音が聞こえるけれど、きっと空耳だ。撫でてると思う。14なのにこの子は本当に小さい。それなのに、あんな砲撃を一人で受けきったんだ。賞賛に値するよ。
 食べ終わるまで、そのまま撫で続けてた。そして。

「すまんな。そんだけしか無くて」

「……いえ、お気になさらないでください」

 おぉ? 珍しいこともあるもんだ。仏頂面の流が珍しく笑ったよ。普段もそれくらい話したり笑ったりすりゃいいのにな。さて、時間はそれなりに過ぎた……っと。

「流、時間は大丈夫か?」

「えぇ……大丈夫です……よ?」

 ……今日はいろいろイベントが起きる日だなぁ。いやいやマジで。いやだって、ついさっき流が隠れてたのに、また茂みに誰かいるよ。今度は普通に茂みが動いてるから素人っぽいけど。三回目だぜこれ?

「……そこに、どなたかいらっしゃいますか?」

 隣りに座る流が、ガサガサとまだ音をたて揺れる茂みに向かって静かに問いかける。
 茂みから少しだけはみ出して見えたのは艶やかさを帯びる金色の髪だった。多分これほど雑って言ったら悪いけど、隠れ方から見るに子供だと思う。

「……行きますね?」

「あいよ」

 静かにベンチから立ち上がって、ゆっくりと茂みに近づく流。ちなみに俺は座ったまんま。だって流が率先してやってくれるんだもん。楽なんだよ……本当に。

「……捕まえまし……た?」

「……ぁ」

 と茂みに手を突っ込んで、持ち上げて現れたのは、現れたのはエリオやキャロよりも少し幼く見える少女ってか、女の子だったんだけど……だけど。

 ――この子昨日の子ですよね?

 流がこっちを向いて指示を求めてんだけど……正直なところ、今すっごく驚いてる。いやだって、昨日衰弱した状態で見つかってんだよ? 何でもう起きてるし? ってか、何で警備ザルなんだよ。
 っていうか、なんで流は流で首かしげてんだよ……って、知らないだったね。って、あーあーあー、あの女の子の顔がどんどん涙目になって……泣くなありゃ。って思った瞬間。

「え、あ……と、驚かせちゃったかな?」

 怪我がないか一通り確認してから、抱き上げた女の子を地面へと下ろして目線を合わせて話をしだす。うん、何でお前、そんなに子供の扱い心得てんだよ。フレアの時も妙に懐かれてたし。

「ひっく……ひっく……グスッ」

「ほら、泣かない泣かない、そうだ、名前……教えてくれるかな?」

 女の子の頭を優しく撫でて、目尻に浮かぶ涙を指で振り払ってみてるけど、なんかあの女の子は不安がってる。

「こんにちは、じぶ……私の名前は、流。風鈴流」

「ぁぅ……にゃ……がれ?」

「あはは……違うよ、な・が・れって、私の名前は後でいいな……君の名前はなんて言うのかな? 教えてくれる?」

「……ヴィヴィオ」

「ヴィヴィオか……ヴィヴィオはどうして、ここにいるの? 中庭なんて何にもないよ?」

 って言いながら俺の少し前で、ぐるりと流が周囲を確認する。何となく俺も釣られて確認するけど、辺りを見渡して見てもそこには木々と芝生が生い茂っている変哲のない中庭。
 ぶっちゃけこんなところに人が来るとしたら、散歩とか日光浴位だろうな。

「……ママ」

「ん?」

「ママがいないの……」

「ママが?」

「うん……ママがいないの」

 そう言うとヴィヴィオはまた落ち込み始める。流もどうしていいのか分からず、ただ、壊れそうに静かに震えるヴィヴィオの頭を撫でてあげてる。

「よし、ママが見つかるまで一緒にいてあげるよ」

「ほんと?」

「うん、ほんと、でもね、ヴィヴィオはちょっとお医者さんの所に行かなきゃいけないんだ」

「お医者さん?」

「ん、お医者さん。それから一緒にいて探すの手伝ってあげるから……ね?」

「……うん」

「うん、いい子だ」

 よしよしと撫でるとくすぐったそうに目を細めてる。

「よし、部屋に戻ろうか?」

「うん」

「あ、ねぇ、ヴィヴィオ? ヴィヴィオはどこから歩いて来たの?」

「あっちから歩いて来たの」

 と二人手をつないで、ヴィヴィオの指差す方へと進んでく。うん、超微笑ましいわ。ほんと、何で流はあんなに子どもに好かれんのかね。しかもまたにゃがれって言われてるし……。
 いやはや、ほんと微笑ましいもんが見れてよかったよか……。

 ――俺、今、迷子じゃーん……

 って思って、慌てて追いかけたけど……うん、見失ったわ!


――side流――

― 聖王教会・検査病棟 ―

「……ふぅ」

 やっと、検査が終わった。身体自体はどういうわけか既に治りかけている。きっと、そういう意味もあっての検査だと思う。
 私はあんまり病院は嫌い。というか白衣を着た人が嫌い。なぜかはわからないけれど、嫌だと思ってしまう。

 まぁ、そんなことよりも、少し早歩きで別の病室へと向かう。
 目標の病室を見つける。そこは、検査室の用だけど、他とは隔離されるかのようにガラスで仕切られている変な病室。そして、その中で、何かの検査を受けるヴィヴィオがそこにいた。

 だから、私の検査が無いときは出来るだけこの病室に入ってヴィヴィオの側にいるようにしてるんだけど。一つ疑問があるんだ。

 ――普通。こんな小さな子にこんな検査を受けさせるものなんだろうか?

 ヴィヴィオはその眼の色以外は何処からどう見ても普通の子供にしか見えない。まぁ、瞳の色がちょっと昔話に出てくる聖王と似てる気がするけど……。ただそれ以外は普通にしか見えない。

「……ん?」

 少し考え事をしてる内に、中で検査を受けているヴィヴィオが泣きそうな顔で私を見てた。だから、出来るだけ優しそうな顔? を作って笑って見せると、中にいるヴィヴィオもまた笑って返してくれた。

 うん、良かった。ちゃんと笑えてて……正直意識的に笑うのはあんまり得意じゃない。だけど、なんとなく、何となくだけど。

 どこかでやったことがあるような気がする。これと似たようなことを。

 でも、何処で? 正直心当たりは全くない。でも、心のなかに靄が掛かったような嫌な感じだ。何かこう……大切な事を忘れてるみたいな気持ち悪い感覚が頭の中に広がっていく。
 これも、あの遺跡であった人の……?

【失礼いたします、マスター。至急、病室へとお戻りください】

(ん? どうかしたの?)

 突然、私のデバイスであるギルからの念話で少し驚く。普段あんまり話さないから、少し嬉しいと思ったのは内緒だ。

【お医者様がお探しになられています】

(うん、分かった。アークはどうしたの?)

【……スリープモードになりました】

(そう。じゃあ、直ぐに戻るから、もう少し待っててね?)

【はい、お待ちしております。それでは】

 そう言い終えてから念話を閉じる。
 実は緋凰さんといるときには手元に追いてたけど、検査を受けるとき取り外して検査室に預けておいた。
 理由としては、こうして離れている時に、呼び出してくれるようにって意図があったんだけどね。
 だけど、六課に帰ったら直ぐに修理に出さなければ。二機とも普通に語りかけてくれるけれど、昨日の一件でかなり損傷していたはずだし。

 まぁ、まだヴィヴィオがこの病室にいる限りはまだ移動しない。だって、見える範囲で移動したら、絶対またヴィヴィオが泣きそうになるし。それは中の人達も大変だし……。

「……よし」

 少しだけこの場に残って、ヴィヴィオが別の病室に入ったのを確認して少し早歩きで病室から抜ける。

 ただ、正直に言おう。この時凄く間違えたと後々本気で後悔したんだ。だって、私の位置からヴィヴィオの姿は見えなかったけど、ヴィヴィオの位置からは私の姿は丸見えで、私がそこから出て行く姿を全部ヴィヴィオに見られてたんだ。うん、本気で後悔した。

――side響――

 出来る限り気配を殺して、木の影に隠れております!
 本音を言えば段ボールがあったら尚良かったんだけどね……。うん、どの世界でも段ボールは最強なんだいつだって、どんな時だって。

 で、隠れてるんだけどもさ。木の影から先程から攻撃をしている人を観察する。
 聖王教会の修道服を着て、きっちりとベールをつけているから髪は見えない。
 だけど、凛としていて、服の上からでも分かる華奢な体つき。多分格好いいと言われる部類の人間。その両手に鎖つきの鉄球を2つも持っていなければ!

「うーん。見失った、さすがだ」

 先程まで俺に攻撃をしてきた主が俺を探して辺りを行ったり来たりしている。うん、ぶっちゃけるとアレからずっと攻撃回避してました。理由は単純。面倒、そして、だるい。この二つです。
 うん、だってねぇ。折角の公欠ですよ。少しくらい休みたいじゃないですかッ!

 いや、まぁ。お前最近働いたって聞かれると、首を縦には触れないんですけどね。これといって役に立った気なんてしないし。
 
 というか今現在の俺の隠れ方がなんかヤダ。
 いや、嫌だっていうかなんていうか。昔ドラマかなんかでみた隠れ方っぽくてなんか嫌なんだよ。ここを選んだ俺も悪いけども! 今の隠れ方ってなんか家政婦は見た! っぽいから、なんか嫌なんだよなぁ。

「うん? はい。あら? ……わかりました。直ぐに」

 小さなモニターが展開され、短く会話をする。だけど、今一わからない。さて。

「へーい、どうしたし?」
 
「あら、ちょうどよかった。今しがた連絡を貰ったんだ……ですけどね。昨日保護したちっちゃ……女児が検査の途中で抜け出しちゃったみたいで」

「へー……ん?」

 何事も無いように話すから、普通に聞いてた。そして、意味を理解して。

「え、まじで?」

「……うん、それで子供のことだし、人質っぽい立ち位置の子だったし、そこまで警戒しなくていいと思うんだけど、シャッハさん、脳き……頭の固い人だから……」

「必要以上に警戒してるわけ、か」

「……うん」

 ……あぁ、アレからかなり時間がかかったわけか。
 まぁ、昼間で見つけりゃいいやなんて思ってたら、いきなり襲われたからなぁ。時間間隔がおかしくなってたな。それなりに楽しかったからいいんだけどな。

「一応無いとは思うけど、なんか警戒してるんだったら先に見つけよう。脱走だと思われて子供相手に剣とか抜かれたら洒落にならん」

「だよねー。というか響、手伝ってくれるの?」

「ん、邪魔だったらいいけど」

「とんでもない。きっと震離も探してる最中でしょうし、人手は多いほうが助かる……りますし」

「……お前本当にシスター兼騎士やってるのかよ。言葉遣いおかしいぜ」

「んなこたぁ無い……有りませんことよ?」

「絶対ウソだ」

 そう言ってから、二人揃って走りだす。正確には俺は付いて行ってんだけどね。え? 迷子になったなんて言えないし。まぁ、なんだかんだで。建物の中へと入って、流と一緒に行ったあの子――ヴィヴィオを探す。そして、二階を探している途中に。

「やべ、見つけた」

「やべって何よ。まぁ良かった」

 ホッと一安心。良かった、割と速く見つかって。

「……最悪なパターンで」

「はぁ!?」

 って言うもんだから、慌てて窓の外から下を見下ろす。俺の目に映るのは、トンファーを構える女の人の前に流が立ち塞がり、流の後ろには半泣き状態のヴィヴィオが尻餅をついたまま座り込んでいたんだけど。正直に言おう。何あの状況。

「まぁ、何にせよ。止めに行くぞー」

「了解!」

 二階の窓を開けて俺から先に飛び降りる。理由はもちろん急ぎだから。
 いやだって、あの女の人確実に流も敵みたいに捉えてるっぽいもん。急がないと危ないし。そう思って二階から飛び降りて着地、そこから慌てて二人のもとへと行くと。

「シャッハさーん気負い過ぎ」

「へぁっ!?」

 ハリセン片手に俺を追い越して、シャッハさんと呼ばれる方の頭にまっすぐたたき落とし、凄く軽快な音が響く。
 よく、分かんないけど上司じゃないの?

「な、何するのアーチェ!?」

「それはコチラのセリフです。女の子相手にデバイス構えて。流もそりゃ怒りますよ?」

 さっきと打って変わって真面目な表情で、それこそシャッハさんと呼ばれる方が、流とヴィヴィオに向けていた顔と同じ顔でアーチェはシャッハさんを睨んでる。
 うん、アーチェの発言で流が何処と無く凹んでるのは言うまでもないと思うけど。別に流を指して女の子って言ってるわけじゃないのよ? ただ、流も仕事モードらしく、なるべく表情には出していない。

「わ、私は……その……」

「何があるのか存じませんけど、警戒するにもほどがありますよ。保護した女の子なんて泣いてますよ?」

「……うぅ」

 うわぁ、普段事なかれ主義なアーチェが真面目そうな人に説教してる。正直な意見を言おう。かなり、面白い図ができてる。
 まぁ、そんな事してる間に、いつの間にかこっちに来ていたシグナムさんと震離がそこに居て、なのはさんがヴィヴィオの側にいる。
 ちなみに流は服についた埃を払って少しヴィヴィオとなのはから離れてる。きっと懐かれているのを見られたくないんだろうな。

「ごめんね? びっくりしたよね?」

 なのはさんが、ゆっくりとヴィヴィオの側に近づいて、落ちていたうさぎの人形を拾って、ヴィヴィオに差し出す。
 んー、やっぱり女性って子供あやすのが得意なんだろうか? 一人例外がいるけども。

「大丈夫? 立てる?」

「……うん」

 尻餅をついたヴィヴィオをゆっくりと立ち上げて、服に付いている汚れを払いながら優しそうな笑みをヴィヴィオに向けた。さて、こっちも動くか。

「アーチェ?」

「そんなに堅いと……って、何響?」

「もういんじゃない? その人が警戒した理由もちゃんとあるんだ、あんまり言い過ぎは良くないぞーってか、お前人の事怒れるほどじゃないだろう?」

 そう言われて少し渋い顔。小さくため息を付いて。

「それもそうだね。久しぶりに会った奏を叩くくらいだし……」

「……あれは仕方ないと言うか、ポーズだろ。仕方ねぇって」

 ……まだ気にしてたか。

「あとは……流!」

 少し離れてヴィヴィオとなのはさんの様子を見てる流に声を掛ける。うん、なんとなーく、寂しい雰囲気が出てたからね。
 一応大体流の事もわかってきたし少しは、雰囲気とか読めるようになって来たし。
 ……アイコンタクトはまだできんけども。

「何でしょうか?」

「一応聞くけど怪我してない?」

「いえ、自分は大丈夫です。ただあの二人の間に割って入っただけなので」

「そっか、ならいいや」

 相変わらずの無表情で応対する流。正直疲れないのか、とさえ思う。だって物の少し前まであんなに表情とか変えてたのにさ。いや、この場合二人……知らない人が居るからか?
 まぁ、どっちにしても。いつか、いつかちゃんと流と向き合って話をしなきゃ……な。
 なんて思ってると、アーチェが流の所に行って。

「ごめんね流。シャッハさんとバトってない?」

「……!」

 あ、流の雰囲気が変わった。そうか、流も一応奏の時の件知ってたんだっけ。

「私の名前はアーチェ・ノヴァクと申します。お見知りおきを」

「……ご丁寧にありがとうございます。自分の名前は風鈴流といいます」

「よっろしくね!」

 ニッコーとすごく笑顔なアーチェさん。
 俺らの関係がわからないと言った様子のシグナムさんと……あれ? なのはさんは普通に笑ってる辺り察してた?

「アーチェ、行きますよ?」

「あら、もう行くんですね。それじゃね響と流。また近いうちにそっち行くからぬー」

 小さく会釈をした後、シャッハさんの後を着いていく。ほんと、普通にしてたら格好いいんだけどなー、マジで。


――数分後――


っていうのがさっきまであって、現在の状況がこれ。

「フフフ、いいわぁ」

「……クックックッ」

「……うぅ」

「♪」

 あの後、なんかヴィヴィオを六課に連れていくために、なのはさんとシグナムさんがここの院長さんから許可を取る為に、ヴィヴィオを置いていこうとした。
 だけど、既にヴィヴィオがなのはさんになついてて、置いていこうとしたらヴィヴィオが大泣き。そうしてたらヴィヴィオが流を見つけて「にゃがれと一緒にいる!」って言って流のそばに付いたら、こうなったんだ。

 ちなみに、なのはさんとシグナムさん。流が慌てた表情見せたもんだから凄く驚いてた。始めて見るとそうなるよなぁ。

「……ねぇ、ヴィヴィオ?」

「ん~?」

「高……なのは隊……なのはさんが来たら、少しの間、離れるかもしれないけどいい……かな?」

 なんていった瞬間、目に見えてヴィヴィオの表情が一気に暗くなった。
 少しずつ涙目になって言って、そのまま流の膝の上で反転して抱きつくってか、しがみ付いて、涙目の状態で流を見上げるヴィヴィオ。同時にその流から「助けてください!」って視線が送られてくるけど。

「なつかれてるのはお前なんだ、しばらくそうしとけ、飲み物買ってくるよー」

「え、あ、ちょ……。叶望さん」

「……尊い」

 顔押さえながら俯いてる。そして、流に向かってサムズアップ……。と言うか流のヘルプにすら気づいてないぞこれ。
 流もどうして良いのか分からず、あたふたしてるし。少し離れた自販機に足を運んで急いで飲み物を買いながら、少し耳を済ませる。もちろんあの二人の会話を聞くために。
 というか面白い展開だからあんまり見逃したくない!

「……」

「ぅ~……」

「……分かった、なのはさんが来るまで、一緒に居るから……これでいい?」

 慌てて買って戻ってきたらちょうどそんな事を話ししていた。実際、流がそういった瞬間、涙目だったヴィヴィオの顔が、一気に笑顔に変わったもんよ。まぁ、兎にも角にも。

「はい、お茶。震離も。ヴィヴィオにはオレンジジュースな」

「ありがとー♪」

「え、あ……ありがとうございます。えと、お金を……」

「ん? あぁ、気にすんな……ッ!」

 全力で流から目を背ける。いやさ、流がその……ヴィヴィオを、抱きながら、あげたお茶を両手で持って、上目遣いで見てきたんだもん。うん、思わず……。

 いや、少し待て。思わず何だ?

「……緋凰さん?」

 フハハハハハハ、落ち着けよ俺。俺は普通だ。普通の男ですよ。いやマジで。かわいい女の子は普通に可愛いと思うよ。
 うん、うん。落ち着け響。目の前にいるのは男だぜ。
 震離じゃないんだ俺は普通。そこで顔押さえて尊いとか言ってる子とは違うんだ!

「どうしたの響?」

「……いえ、ちょっと自分を見直してました」

 そうこうしてるうちに、なのはさん達は帰ってきて、俺と震離も一緒に帰ることになった。
 勿論流も帰ることに。検査入院として入ってるし、元々動かせる状態だったら退院させる予定で、後は六課で見るつもりらしいし。
 で、ついでに俺まで乗せてくれるのはありがたい。片道代が浮くからね。
 そして、駐車場に付いたらそこにアーチェとシャッハさんがそこにいた。アーチェはさっきと違い、ベールを脱いでセミロング気味な薄い琥珀色の髪が靡いている。六課に来てる時も大体つけっぱなしだったもんなー。久しぶりに見たわー。
 いやほんと、こいつ黙ってたらモテるだろうに。性別問わずに。でも、どこかずれてるからな。勿体無い。
 なのはさんとヴィヴィオは先に車の後部座席に乗って、シグナムさんはシャッハさんから、書類とか一式もらってる。
 そして、俺らはというと。

「流ーこれデバイスね」

「あ、ありがとうございます」

 流の病室から持ってきたであろう2つのデバイスを流へ。こうしてみるとお姉ちゃんみたいな属性も持ってる辺り面白いよなー。

「響。ギンガと奏と皆に宜しくね。次はちゃんとバトれるよんって」

「おぉ。またな」

「うんまたね!」

 なんて2人で拳をぶつけてると。

「行くぞ、緋凰、風鈴!」

 後ろからシグナムさんの声が響く。うん相変わらず大きな声だ。正直びっくりするくらいに……。
 なんて振り返ると、面白いものが見える。流も見えたらしく少し眉を潜めて、困ったような顔になった。

 まぁ、面白いものっていうのは、車の後部座席の窓。だって、中でなのはさんになだめられながら、ガラスにすがるように流を見ているヴィヴィオの姿があるんだもん。
 しかも流に向かって、まだ来ないの!? って言わんばかりに視線を送ってるし。

「流、あれで後ろに乗らなかったら、絶対ヴィヴィオ泣くな?」

「……本当にそうなりそうなので、言わないで下さい……」

「あっはっはっは、そうだな。じゃあ、行くよ」

 振り返ってアーチェに一言告げる。無言で笑いかけてくるけど。何処か含みの有る笑み。そして、車の外で待つ、震離が後部座席の扉を開けた瞬間。
 
「むー!」

「ッ!?」

 開けた瞬間、流のお腹めがけて突撃を掛けるヴィヴィオ。お陰で車ん中が騒がしいじゃねぇかよ。
 だけど面白いから放置するけど。相変わらず震離は顔押さえて尊いってしか言わねぇ。パッと顔を上げたと思ったら。

「ほら、詰めて詰めて」

「え、あの、その」

 って、震離も乗り込んでいく。俺は前へ。というか。……ヴィヴィオよ、おとなしくしたらいいのに。ま、面白いから放置だけどねー。そして、乗り込んだら乗り込んだでまた問題は起きてるし。

「……ぅぅ」

「……むぅ」

「ヴィヴィオ……手を……というか、腕を……」

「やっ!」

「……ぅぅ」

 なんてしてるうちに、シグナムさんが微笑を浮かべて、車が発進したわけなんだけど。
 その後もまだ続行中らしく。ヴィヴィオは流の手を離す気配が全くない。
 まぁ、別に離れないなら離れないで別に流もそこまで困らなかったと思うけど。問題はヴィヴィオの座る位置で、今現在のヴィヴィオの座ってる位置はというと、なのはさんの膝の上。
 なのはさんもヴィヴィオに気に入られてるらしく、膝の上から動こうとしないで、流の腕も離そうとしない。
 しかもヴィヴィオはまだ小さいから、その腕が届く範囲はまだまだ狭く、そのせいで流となのはさんの距離も限りなく近い。相変わらず直視出来なくて、尊いとしか言えてない震離。
 まぁ、多分昨日徹夜で起きてたろうし、思考が落ちてんだろうな。

 うん、面白いね後ろは!

「……」

「むぅっ」

 流が少しでも腕を動かそうもんなら、直ぐにヴィヴィオの手に力が入れられ、流が離れないようにする。
 うん、抜け目ないな。まじで。というか本当に面白い。
 だって俺なんてさっきから吹き出しそうで色々きついんだもん。シグナムさんはバックミラーで何度も後ろを見てるし、なのはさんは普通に驚いてるしね。

 でもまぁ、分からなくもない。だって、普段、オフシフトでも無表情な流が、普段見せない表情を出す上に、困り顔になったり呆れ顔になったりと、表情をころころと変えるんだから。気にならないわけがない。
 気がつけば、震離も落ちてた。やっぱ昨日からずっと起きてたんだな。

 でもまぁ。本当に少しだけ距離が詰められて良かったよ。本当に。きっとなのはさんも、誰も流の事を責める奴なんて居ないよ。

「……ふっ!」

「むぅっ!」

 ……いい加減お前も諦めろよ流……。
 
  
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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