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ある晴れた日に

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579部分:鬼め悪魔めその十五


鬼め悪魔めその十五

「あれだよな。ウィンナーコーヒーと同じで」
「そうよ。紅茶の上に生クリームが乗ってるのよ」
「それよ」
 恵美もここでまた言ってきたのだった。
「それもあるから」
「へえ、紅茶でもあれあったんだな」
 坪本はそれを聞いて感心した顔になっていた。
「何ていうか意外だな」
「意外なの?」
「何かコーヒーならイメージできるけれどな」
 彼が言うにはそうなのだった。
「ほらよ、黒い中にクリームがあるっていうのはな」
「黒と白でなのね」
「ああ。けれど紅茶はな」
 今度は首を傾げさせていた。
「ちょっとな。想像できないな」
「美味しいわよ」
 恵美が静かな微笑みと共に彼に告げてきた。
「それもね。美味しいわよ」
「そうか。美味いのか」
「何なら今飲んでみる?」
 明日夢はそれを提案するのだった。
「ウィンナーティー。どうかしら」
「いや、悪いけれど遠慮しておくな」
 だが彼は右手を横に振ってそれを拒むのだった。
「ちょっとな。紅茶とコーヒーを一緒に飲むのはな」
「好きじゃないの」
「どっちかにしたいんだよ」
 どうやらそれが彼のポリシーであるらしい。
「飲むんならな。コーヒーはコーヒー、紅茶は紅茶でな」
「お酒はいつも滅茶苦茶に何でも飲むのに」
「酒はいいんだよ」
 これもまたポリシーであるらしい。他人には随分とわかりにくいポリシーではある。
「別にな」
「坪君っておかしいでしょ」
 ここでまた加住がくすくすと笑いながら二人に言ってきた。
「いつもこうなのよ」
「そうなの」
「何かは駄目だけれど何かはいいってね」
 そのことを二人に告げるのであった。
「いつもそうなのよ。中学生の時から」
「譲れるものと譲れないものがあるんだよ」
 その坪本はいささか真剣な顔で述べた。
「だからなんだよ」
「だからなのね」
「そうだよ。酒は譲れるんだよ」
 また明日夢に返してみせたのあった。
「酒はな。いいんだよ」
「それで紅茶とコーヒーは駄目なのね」
「ああ、そうだよ」
 まさにそれだと今度は恵美に返した。
「御前等だってあれだろ?黄色いビールと黒ビール両方好きだよな」
「まあね」
「ビールはね。あとワインも」
 恵美はカウンターに両手をついて少し前にもたれかかった姿で彼に告げた。
「赤も白もロゼも好きよ」
「それと同じだよ。けれどな」
 こう言い換えてみせてきた。
「北乃、御前横浜と巨人一緒に応援できるか?」
「巨人を?」
「安橋、御前だって西武と巨人は無理だよ」
「冗談でも無理よ」
 明日夢はあからさまに、恵美は穏やかにその表情をむっとさせていた。その表情こそが答えであった。何よりもはっきりとした返答であった。
「言っておくけれど私のアンチ巨人は先祖代々由緒正しいものなのよ」
「巨人は球界の敵よ」
 二人の言葉も色も表情と同じになっていた。
「何でそれで」
「巨人を応援できるのよ」
「俺も同じだよ」
 なお彼は阪神ファンである。阪神ファンであるということは即ちアンチ巨人ということである。巨人が好きな阪神ファンなぞこの世には存在しない。
 
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