戦国異伝供書
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第四十九話 小田原へその一
第四十九話 小田原へ
景虎が率いる軍勢は上野を南下していきその国の国人達は元々上杉家に仕えていたこともあり景虎の軍勢に次から次に降って軍勢に参加していた。それでだった。
景虎が率いる軍勢はかなりの数になっていた、これには先陣を務める柿崎も驚いて周りにこんなことを言った。
「いや、わしはこれまでじゃ」
「この様な大軍はですな」
「ご覧になられたことはないですな」
「越後においては」
「左様ですな」
「出陣の時すらじゃ」
この時でもというのだ。
「相当な数であったが」
「それが、ですな」
「今やあの時の倍程もありますな」
「上杉家の軍勢も加わって」
「そうなっていますな」
「そうじゃ、これはじゃ」
まさにというのだ。
「わしも考えていなかったわ」
「我等もです」
「これだけの大軍になるとは」
「考えていませんでした」
「しかしこの数なら」
「若しや」
「うむ、北条家もな」
今の敵である彼等もというのだ。
「破ることもじゃ」
「夢ではありませぬな」
「ではこのまま南に下り」
「殿が言われる通りにですな」
「相模に向かい」
「そして小田原にも」
「行こうぞ、そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「あの小田原の城もじゃ」
「攻め落とし」
「そうしてですな」
「北条家を降し」
「関東の公を」
「殿はそう言われておる」
景虎、彼がというのだ。
「だからな」
「我等もですな」
「先陣を務め」
「北条家の軍勢が来れば」
「破りますな」
「そうする、しかしこの上野にも」
柿崎は今度はこんなことを言った。
「北条家の軍勢がおる筈だが」
「攻めてきませぬな」
「城にも砦にもおりませぬ」
「北条家の旗は見えませぬ」
「白い具足も」
北条家といえばこれになっている、北条家の具足や旗は長尾家の黒とは違い白になっているのだ。その白が今関東を席捲しているのだ。
それでだ、柿崎も言うのだった。
「その白が見えないのはな」
「ですな、意外です」
「すぐに大軍が来ると思いましたが」
「それがなく」
「どうも逃げていますな」
「そうしていますな」
「そうじゃな、どういうことじゃ」
首を傾げさせつつだ、柿崎はこうも言った。
「敵が来ぬのは」
「逃げたのでしょうか」
「臆病風に吹かれて」
「北条の兵は多いですが弱いと聞いておりますし」
「まさか」
「いや、当主の北条新九郎殿は名将でじゃ」
柿崎は彼のことを話した、当主である氏康のことを。
「戦でも臆せずな」
「そうしてですか」
「戦われる方ですか」
「受けた傷は全て向こう傷という」
前から受けた傷ばかりだというのだ。
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