魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第18話 不安とデバイスと
遠くで、膝をつき、天を仰いでる人がいる。
「ぁあああぁぁあぁ!!!」
またこの夢かと、直ぐに気づく。何度目になるかわからないこの夢を。弱くて何も知らなかった頃の私を。
豪雨の降り注ぐ森林の中で、むせ返るほどの血と、強い土の匂いがあたりに漂う。
周囲には沢山の人――いいえ、人だったものが倒れてる。
その中で、私は女性を抱きかかえて泣いている。大きな声で泣いてる私から視線をずらせば、そこには名前はわからないけれど、見知った皆さんが倒れている。
苦痛に歪んだ顔をしていれば、私のせいで、と納得できるのに。皆の顔を見ると、ただ安堵の表情を浮かべている。
絶命する直前、間違いなく激痛が、苦痛が襲ったはずなのに、この方々は何故――?
一年前、皆さんが何度も何度も裏を取って、確認して、調べ上げたスカリエッティの戦闘機人のプラント。皆さんだけの情報では心もとない。ならば今は亡き、「本局特殊部隊第13艦隊」の最後の情報をベースに調査した結果。プラントだとか確証を得た。
そして、沢山の下準備を施し、作戦決行。プラントがあった土地は、木々に覆われ、皆さん曰く御誂え向きの場所だと笑っていた。
皆さん――本当は名前を教えてもらいたかった。名前で皆さんを呼びたかった。
だけど、皆さんは決まって口をそろえてこう言う。
私たちはもういない人だから、呼んじゃだめだよ――と。
曰く、裏に生きてるから名前は捨てた、と。曰く、死んでも何も残しちゃいけないんだ、と。
この時、酷く悲しくなって、泣いた思い出がある。思えばこの頃の私はよく泣いていた気がする。誰かがケガして帰ってきたときも、喧嘩した訳ではないが、言い争ってるのを見た時も、泣いていた。
そのたびに皆さんがそばにいた。勝手に泣いている私が悪いのに。
その頃の私は、拾われてまだ、1年目だった。私が評価されたのは、同時に情報を処理できること、それを送ることが出来るということ。それを買われて、隊長からも評価を受けて、皆さんの任務に同行することとなった。
初めて……というわけではない。後方部隊で、いろいろ支援を行ったりしていた。誰かに教わったわけではないけど、自然と武器を取って戦うことが出来た。剣を銃を使って戦闘出来た。皆さんにどうやって覚えたのと聞かれれたけれど、私もわからない。だけど、体が自然と動く。覚えてると、そう伝えた時には皆さんすごく驚いていた。
そうして、隊長が私を連れてきたときに、私が持っていたアームドデバイスを改良。AIをつけて最適化した2つのデバイス。「ギルガメッシュ」「アークジャベリン」の2つを頂いた。マスターと呼んでくれるこの2つ……いえ、この子達を見て、凄く嬉しかった。
防護服は、真っ白に黒い縁取りがされたオーバーコートに、隊の皆さんが着ていた、黒いインナーだった。白いジャケットに思わず文句を言う。目立ちすぎると。
けど、皆さんは、私たちとは違う道をいってほしいという願いを込めた、と言ってた。見知った皆さんにそれぞれ文句を伝えると、同じ回答だった。こんな汚れたことをしなくていいように、暖かい場所へ行けるように、と。
今でも思う。この時の皆さんは気を使っていってくれたと。弱い私はいらないと、言っていたんだと。
事実、任務同行を申請しても皆さんは受けてくれなかった。自分の力が十全に役に立つとは思っていない。いつもお世話になっている皆さんに対して、何か返せたらいいって、それだけを考えてた。
それを察してくれたのか、隊長が作戦の同行許可をしてくれた。とても喜んだ事を覚えてる。だからこそ気づかなかった。「力になりたい」が、「皆さんと一緒に任務に参加する」に切り替わっていた事を。
そして、私を含めた12人でプラントを攻め込む為、夜中に作戦が開始された――。
はずだった。突然の豪雨に紛れ、何者かの接敵。瞬間的に気づく。情報が漏れていたことに。
目の前――いや、周囲にいたのは大量の人間に似たもの。それらは揃って青を基調としたスーツを着ているが、皆が皆、同じ顔だった。口が開く様子もなく、感情も感じられない。そして何より、この視界の悪さの中で、文字通り、その眼が赤く光っていた。
視線を上げれば、雨と木々で見えにくいが、確かにもう一人そこにいる。フード付きのマントを着ているが、腰にあたる部分に剣……いや、大きな鎌を所持していた。
情報が洩れている以上、一時撤退をすべき。小隊長が判断を下し、皆従う。撤退しつつ後退を開始する。
周囲を囲んでいたアンノウンを薙ぎ払い、転移ポートを設置した場所を目指す。だが、ある程度進んだ時に、前方からもアンノウンが攻めてくる。ここまで進んでくるまでに、かなり消耗した。アンノウンにもAMFが内蔵されているのか、魔力をうまく廻す事が出来ない。ならば、と一番の先輩格の男性が空へと上がる。
次の瞬間、空から雨以外の生暖かいモノが降ってきた。木々の隙間から見えるフード付きは相変わらず一定の距離でこちらを追っている。なら、空へ上がったあの人は?
交戦しながら視線を下へずらす。暗くてわかりにくいが、明らかに地面が変色している。大きく下がった際に、自分のコートが目に入る。泥や雨で汚れているとはいえ、つい先ほどまでまだ、白かった。それが今では、赤い斑点が所々についている。
突然何かに躓き、体制を崩す。躓いたモノを見て、理解してしまう。今そこで空へと上がった人の下半身だけがそこにあった。
緊張が走る、全力で撤退せよ。そう声が聞こえたと同時に、何かが私の目の前を覆った、瞬間、轟音と衝撃に襲われる。
――――
「……はぁ」
ため息が漏れる。また、この夢だ。機動六課に来て何度目になるか分からない。
備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを一本取った。ふと、ベッドに視線をずらすと、寝汗で人の形になっていた。ミネラルウォーターを口に含む。冷たくて美味しい。
時計を見ると朝の訓練まで、まだ時間はある、だけど、二度寝をするには少ない。汗でぬれた衣服を着替えて、ベッドのシーツを取り換える。不意に涙がこぼれた。
あの日のことを思い出す、その度に涙が溢れる。大きな失態を犯した私を……、あの日生き残ってしまった自分を許せない。
弱いのは嫌だ、誰かが傷つくのは嫌だ。そう考えて自分は前に出る事を決めたのに。
ホテル・アグスタで自分は敗けた。六課の足を引っ張った。挙句の果てにはしばらく医務室で缶詰にされて何もできなかった。身を案じてくれたんだろう。だけど、それはきっと――
「もっと、強く……でも、どうすればいい?」
緋凰さんの様な……いまだ全力を出していないあの二人のような、機動を自分はできない。ランスターさんの様な、指揮や予測を自分はできない。ナカジマさんのようなタフネスもない。モンディアルさんの様な速度も、ルシエさんのブーストの強さも生かせない。
今の自分は、体が覚えてる事をなぞっているだけの不完全な状態。その結果があの敗北だ。
研究所にいたという過去を思い出せない。だからこそ、自分は何なのか、いまだにわからない。
加えてここ最近は変だ。私の知らない情報が溢れてくる。知るはずない場所から湧き上がる。
緋凰さんとハラオウン隊長の戦いを見た時も、思った。最後のあの激突の時に使用された居合術。私はあの太刀筋を、その流派を知っている。
――御神流。私の流派の根っこの名前。
どこからかそう聞こえた。知らない女性の声で。だけど、酷く懐かしくて。それが何なのかわからないから、怖い。
ふと視線を窓へとむけると、朝日が差し始めた。そろそろ訓練の時間だ。そう考えて、休止状態のギルを起こす。本当はアークも側に置いておきたいけれど、まだ修復に時間が掛るそうだ。
さぁ、今日も足を引っ張らないようにしないと――――
――side響――
108部隊……というより、ギンガと共同捜査をする前は何時もの朝練に参加。
ここ最近の訓練が、徐々にしんどくなってきたらしく、最近ティア達4人が毎回毎回屍みたいになっている。まぁ、なんとなーく予想はつく。特にティアがなんとなくでも……いや、無いな。最近の訓練の量で思考が死んでる。多分そんなこと考えてる余裕はない。二週間……いや、一週間以内に、第二段階クリアのテストが入るだろう。
だからこそ、それに向けての訓練量アップ……なんだが、大丈夫かこいつら。
さて、と。視線を少しずらすと、肩で呼吸をしている流の姿。病み上がりで中々ついてきてるけど、やっぱりしんどそう。というか、それ以前に。目元が若干暗い。寝不足かな?
どーするかなと、考えてると。
「流ー最近眠れてる?」
震離が行った。ふと奏と、目がある。
――KY古い? 空気読めないの略語だけど、古い?
――うん、それ死語だよ
――まじかよ。
アイコンタクトで会話が成立して、ふらつきそうになる。まじかー、古いかー。最近はなんて言われるんだろうか。
「いえ、自分は大丈夫です」
……おっと、震離が固まる。最近ずっと流の一人称が私になってたのに、ここに来て自分に逆戻り。なんかあったかな?
その時、なのはさんの声が聞こえる。
「はーい、整列!」
FW8人がなのはさんの前に集まる。
「さて、今日も皆、いい動きだったって、いいたいんだけど……」
少し困った顔しながら、とある人物へ視線を向ける。向けられた相手はもちろん。
「……申し訳ありません。気をつけます」
自分でも思い当たる節があるらしく、名前を言われるよりも先に謝罪する。ここ最近、流も復帰して訓練に参加しているけれど、何処と無く動きが良くない。凄く悪いわけでもない、これと言ったミスもしてないし。だけど、なんか最近少しずつ、ずれているような感じがする。具体的にどこが悪いって指摘できない分、質が悪い。
しかも流も自覚しているし、震離もそれに気づいてフォローしてるけど、今一な感じ。更に最近4対4をするようになったけど、勝ててはいる。だが、その内容は困ったときの流ワントップ、3人でフォローという自他ともに認める糞手。いや、色々あるんだけど、いかんせん下手に流のスタイルをいじるのもどうかと思うし、その辺はなのはさんと相談済み。
ここで一度流のスタイルを纏めると、非常に珍しいタイプ。剣を使った接近戦、体術を使った密着戦も出来て、銃を使った射撃砲撃もこなせる。種類は散弾、自動追尾弾、砲撃増強と、凄いラインナップ。
正直な感想を言うと、本当に理想論を纏めたようなやつ。ベルカ&ミッドハイブリットなんてそうそういないのに、この子は普通にやってのけてる。しかもオーバーコートのバリアジャケットに大体の防御を回しているから、基本的に硬い。ものすごく硬い。
更にぶっちゃけると、多分コートを剥いだら、早くなる可能性が高い。今でも普通に早いけど、それがもっと早くなるわけで。
つまり、馬鹿でかい大砲を持って、接近戦も出来て、いざとなれば高速戦も出来る。どこの完璧超人だお前。しかも、ベルカ式の斬撃魔法撃ったと思ったら、即ミッド式の砲撃を撃ったりしてる。このことから並列処理も中々凄い事がわかる。デバイスに任せてる部分があるんだろうけど、それを差し引いても、マルチタスクが自然にできてるということだから、尚の事凄い。
でも、それはカタログスペックでのお話。実際は、それの切り替えがどうも上手くいってない感じだ。
なのはさんと相談してこんだけ情報が出て、2人して頭を抱えた。調子が悪いのも少し待ってみようかって話で一旦終わった。
「コホン。さて、今日訓練なんですが。さて、緋凰空曹?」
「……えっ、あ、はい」
思わず声が漏れる、苦笑を浮かべながら皆がこっちを見る。スルーしていいんだよ。
突然名字を呼ばれてちょっと口ごもる。
「深い意味は無いから安心して。響は後でデバイスルームへ行くこと、それだけだよ」
「はぁ……デバイスルームですか。なんでまた?」
はて、デバイスルームなんて行く用事なんて無いはずなんだが。
「響用のデバイスが完成したの、それの受け取りだね」
そう言うや否や、俺と少しへこんでる流以外の皆が歓声を上げる。するとなのはさんが俺の表情に気づいたのか。
「ちょ、なんでそんな微妙な顔してるの?」
「え、いやだって。良いデバイスってそれだけ、運用が大変というか。発動が大変なやつの補助というのが大きいじゃないですか。俺自身対して困ってないというか、勝手に判断して盾はられても困るというか」
実際そうだ。勝手に盾はられたりすると、すぐにガス欠になっちまう。この前の対フェイトさんも。刀一本修復させるのにかなり持って行かれたし、その後バリアジャケット直さなかったのも、余裕が無いからだったし。
「フフフ、でもね響。そう言うだろうと思って、いくつか機能を用意しておいたんだよ。その為にはやてちゃんやヴォルケンリッター総出で手伝ってくれたし」
フラッと立ちくらみに襲われそうになる。なんですかそれ? 視線を横にずらすと嬉しそうに奏と震離がサムズアップしてるし、スバルやエリオ、キャロは目をキラキラさせながらこっち見てる。ティアもなんかニコニコしてるし。とりあえず、疑問をぶつけよう。
「あのー俺だけですか?」
「うん、今回は響だけ、奏と震離も様子を見て作っていうつもり。だから待っててね?」
「「はい」」
うわぁ……正直俺なんかよりも、先に二人分作っても良かったと思うんだけどなー。ソッチのほうが単純に戦力上がりますよー。とかいい出したかったけど、雰囲気的にもうだめだったから諦める。
「じゃあ、これで午前は解散。皆しっかりと休むように!」
そうして、解散となって、皆で隊舎まで戻る間に凄くいじられた。特にティアからはこれで逃げ隠れしなくて、ガチンコできるわけだからいいじゃないと煽る煽る。少し前にティアと話をした。特になんて事無い他愛もない話。ふと言われたのが、ちびっこ達もそう呼んでるから同じでいいと言われて、それからはティアって呼ぶようになった。それからは割とオープン。色々相談も受けるようになったし、接近戦での見切りとかも教えるようになった。良い流れ何だということは分かる。だけど、事あるごとに煽るのは良くないと思うんだ。
そうこうしている内にデバイスルームへ。で、だよ。
「なんでお前ら居るんだよ」
後ろを振り向くと、流と震離以外の全員がそこにいる。なのはさんは分かるよ。色々仕様聞いてるんだろうし。だけど、お前ら5人だよ。なんでいんだよ。
「えー私も見たーい」
「お兄ちゃんのデバイス見てみたいです!」
「エリオ君と同じく」
「どんなふうになるか気になって。で、文句ある?」
上からスバル、エリオ、キャロ、ティアの順。なんだよ、ちくしょう。とりあえず扉を開けて皆で中に入る。
「あ、待ってたよー響ー」
凄く上機嫌なシャーリーさんがそこにいる。ニコニコ笑顔を浮かべながら手招きまでしてる。
ここまで来たら、素直に受け取るか。
「で、俺のデバイスはなんでしょ?」
周囲を見渡すけど、それらしきものが見当たらない。
「ああ、そこにあるでしょ、待機状態になってるから」
シャーリーさんがメンテナンスポッドの中に浮かぶ待機状態のデバイスを指さす。視線の先には、小さな鈴が浮かんでいた。
「……ふーん」
正面に立ってこれを眺める。なんかよくばあちゃんとかが財布につける鈴みたいで、ちょっと可愛い。銀色でこれと言った装飾もない。いいね、好感が持てる。
[よろしくお願いします。我が主、響]
瞬間固まる。おいおいまじかよ。シャーリーさんに視線を向けると、ニヤリと笑って。
「響のもインテリジェンスデバイスだよ。ティアナ達もインテリジェンスデバイスなのに、簡易デバイスなわけ無いじゃない」
おいおいまじかよ。ため息が自然と漏れる。いやだって、俺の魔力量じゃこの子を十全……8割も使いこなせそうにないんだけどなー。
[主。私では不服でしょうか?]
「ん、いや全然。むしろ俺ががっかりさせないか心配だ。名前は?」
鈴を手に取りながら名前を聞く。コミュニケーションは大事だ。
[いいえ、まだありません]
思わずシャーリーさんを見る。多分めっちゃ怪訝な顔してたと思う。そして、視線をそらされる。代わりににゃははと笑うなのはさんが。
「それはね。響が名前をつけさせようって皆で話し合ったの」
「なるほど……展開しても?」
「うん、いいよ」
許可も出たことだし、鈴を手に持って……何ていうかな。展開、じゃ、味気ないし。そうだ。
「今から言う言葉をセットアップとする。いいか?」
[はい]
「ありがとう。なら、結べ」
[了]
瞬間、六課の制服から赤い和服が目に入る。黒いインナーに、カーゴパンツの上に赤い和服。腰には帯、そして刀が一本出現した。やはり、か。鈴が一つの時点でなんとなく察してた。そして、刀を抜く。白塗りの鞘に、桜の花びらを散らしたきれいな鞘。合口拵えの刀。刀身には波紋がある。
少しそれを眺めた後、鞘に収める。スッと顔の前に持ってきて、少し刀を抜き、もう一度刀身を見る。
決めた。
「名は花霞」
[はい。花霞……ですか?]
「ああ。意味はゆっくり教える。これからよろしくな花霞?」
[全身全霊を持って、あなたに御使えいたします。どうかこの身が朽ち果てるその時までお使いくださいますよう。よろしくお願いします]
――sideなのは――
無事に名前をつけ終えて、私とシャーリーからの説明を受けてる。インテリジェンスデバイスの説明をした後、本命の刀身の説明。
この刀には色々と機能を組み込んでいる。刀身はミッドに存在するシグナムさんの知り合いの居合道場の協力を得て出された刀がこれ。
シグナムさんが言うには、鍛冶屋の人曰く、天瞳流の子以外に久しく良い子を見たと喜ばれたらしい。ただ、もう一本はすぐには出せない上に、今から作るから時間が掛るそうで。
仕方ない、という事じゃないけど。それならば後に追加出来るようスロットを空けておこうということで話は纏めていた。そして、問題の刀身の機能ははやてちゃん達が監修して作った。
魔力収束機能。私が使う収束系魔法とはちょっと違う。私の場合、攻撃を行うために魔力を集めるけれど、この子の場合は、魔力を還元、又は利用するために常時行われる。
響自身魔力量が少ない、だからこそ出来る幅が少ない。ならば違う場所から魔力を持ってこようと考えた結果がこれ。
この機能について説明した時、素直に驚いてた。けど、同時にまだ問題がある。この子は、花霞は、まだ生まれたばかりの子。完全に響とはまだ同期されていない事。使い込めば使い込むほど、効率よく魔力が還元されることを伝えた。
次に、前のデバイスとはそもそも違う点として、バリアジャケットと刀身は完全に別物。つまり、以前使った刀をリアクターパージすることは出来ないと、改めて伝えた。一応内部には暗器も仕込んであるけど、それらも別の物ということ。
「以上。わからない事があったら聞いてね」
一通りの説明を終えたので、そう聞いてみると、響の表情は何やら曇ってる感じ。後ろに居るスバルたちは機能を言うたびにはしゃいでたけれど、本人はそうじゃないみたいだね。
「みんなにも言ったんですけど、この子は生まれたばかりです。大事に、でも限界まで育ててあげてね?」
シャーリーがニコニコしながら伝える。そう、色々あったけれど、響に渡したデバイスはまだ生まれたばかりの赤ん坊と一緒。だから、これから響と一緒に成長していくものなんだ。そういう意味を込めて伝えた……はずなんだけど、更に表情が曇った。後ろに居た奏がそれに気づいたのか苦笑を浮かべてる。
「……そしたら、今回は起動はないな」
「え!?」
奏以外の、全員が驚きの声を上げた。
[私では不服……という事でしょうか?]
「違う。そうじゃない。機能がただの刀なら運用していた、だけど特殊機能が入っていて且つ、まだ同期されていないのなら、まだ使用するには早いって事だ」
[……私ならば、貴方に合わせることが可能です。その為にデータを頂きました]
掌に置いた花霞が食い下がる。うん、早速感情が出てきて喜ぶ所なんだけど……。
「確かにデータも大事だ。でもな花霞? 俺はまだ出してない手だっていっぱいある」
ふにゃっと、力が抜けそうになる。いっぱいあるって……。いいきっちゃった。
[……ですが]
「信用してないわけじゃない。近くで見ないとわからないこともあるって話。そもそも今日の予定は、俺はこれから調査任務だし、そもそも出番は無いよ。大丈夫。やばいと思ったら頼るさ」
多分、これが訓練だったらすぐに使ってたと思う。だけど、調査とは言え、使い慣れてないものを持ち込むのはどうかと考えてる。何より響のスタイルを見ていると、余計にそう思う。
きっと、自動防御とかされたりすると困るんだと思う。私達には普通だけど、響にとっては戦闘が継続出来るかどうかの問題になる。
ふいに響がこっちを見た。何だろ?
「この待機状態はどうしたらいいでしょ?」
ん? どうしたらって……、あぁ、なるほど。そう考えてると、すすすっと奏が響の側に行き……。
「こうしたらいいんだよ。少し借りるね」
鈴を手に取り、赤い小さな巾着袋に入れる。そして、それを響の手に返した。
「本当は髪縛りの紐の装飾にしたら映えると思うけど、それはいやでしょ?」
「それは流石に。恥ずかしいし」
確かに、響の髪って長いし、キレイなんだよね。ワンポイントでそれが入るだけでもいいかもしれない。
っと、時間を確認して、さて。
「皆、長話もいいけど、御飯食べないと今日も大変だよ?」
はい! と、今日も元気よく返事が聞こえる。気が付かなかったけれど、この場に流と震離が居ない。てっきり一緒についてきたかと思ったけど……。うーん、これは近いうちに本格的に話を聞いてみないといけないなー。
――side響――
結論から言うと、もう一つの調査場所も外れ……だけど、わりかし有力な証言が得られた。
最近若い女性が出入りしてる廃棄区画があると、そこに住む人達から話を聞くことが出来た。
ローブを纏っているが明らかに若い女性の声に、大きすぎる荷物だったり、そんな所に入るには怪しい大きな車両。
お礼として、色々食料を渡して、他に何か分かったらここに連絡をと、捨てアドレスの連絡先を教えて、これ以上の収穫は無いと判断してギンガと一緒に108へ戻る用意をしていると。
「あの……なんで、あんな人達に話を聞いたんですか?」
おや?
「あー……ホームレスの人達にって事?」
「う、うん……私が単独の時、あまり話どころかすごく睨まれたのに」
「そりゃそうだよ。俺だって睨まれてたし。だから交渉して、食料という報酬渡すからどうですかって聞いたんだよ」
実際、すげー目で睨まれたし、まぁ分からなくないけれど。
「や、そう……じゃなくて」
「……? あーそういう事か。あの人達も人で、守る対象で。だから普通に接したんだよ。当然だろ?」
「……」
ギンガが言わんとしてることは分からなくはない。あんまり関わりたくないだろうしなー。だけど、
「そういう区別してたら、いざって時に困るのは自分達だしねー」
基本的に守るものを区別したら……いや、そもそもだ、
「守るものを選ぶなんて……どんだけ、俺達は偉いんだよって話にもなるし」
――sideギンガ――
「守るものを選ぶなんて……どんだけ、俺達は偉いんだよって話にもなるし」
正直、ああいう人達って、割と苦手な部分な人達だ。捜査に協力してくださいと伝えても、適当な情報を渡して、信じてそこに行ったと知ればせせら笑う。
そんな人達ばっかりだった。
今回の件だって、何処まで本当なのか分からないし、あまり信憑性もない。
きっと響も半分嘘が混じってるだろうと気づいてると思う。
でも、そういった彼の瞳は、ひどく悲しく見えた。
「それに、こういう捜査ってやっぱり足で回って探さないと行けないし、真偽は別として連絡があったのなら行かなきゃね。
ま、情報提供のお礼をしても変わらなかったから、ある程度は本気だと思うよ」
さっきと変わって落ち着いた目をしてケラケラと笑ってる。
それこそ見間違いだと思うほどに。
「まぁ、今日は終業時間な訳だし、これは次だな。なんかご飯食べに行こうぜ」
「う、うん」
手を頭の後ろで組んで先に進む響を追おうとしたと同時に。
[You've Got Mail.]
ブリッツにメールが届いて足が止まる。待ってもらおうと視線を響に向ければ、待ってるから大丈夫と言わんばかりにこちらを向いて止まってる。
すぐに済ませようと内容を確認して。
ちょっと笑ってしまう。そのまま響の方を見れば、丁度あくびをしようとしていて、
「響。明日からよろしくね?」
「んぁ?」
「明日の出張任務から、私も六課に出向だから」
「……マジで?」
久しぶりにスバルとティアナに会える事と、この人がどういう風に動くのか生で見られるのがちょっと楽しみになった。
さぁ、明日から頑張ろー!
……その前にカルタスさんに今日の報告と、情報を提供しないと……。
――――
「そう言えば、六課でスバルってどう? 大丈夫?」
「ん? それはどっちの意味? 仕事? 魔導師? どっち?」
ズーッとおうどんを食べながらお互いに会話を、ちょっとはしたないかなと思う半面、閉店間際のようでお客さんも少なくて助かる。
「……仕事の方。ティアナに迷惑掛けてないかなーって」
あの子、主席で卒業した割に事務処理は苦手だから。
「んー……ぶっちゃけるとあんま良くない。今事務処理が上手く回ってる理由に気づいてないし」
「……そう。でもティアナの事だから。ある程度は自分でやりなさいってするかと思ったのに……、あ、うどんのおかわり下さーい」
「……相変わらずすげーな。や、ティアはある程度突き放してるよ。ヴィータさんの方針も有るし、それ以外の要因で上手く行ってて、ティアはそれに気づいてるよ。
だから、割と話すようになってきてるし。
あ、すいません、天ぷらの盛り合わせって……あ、もう無い? あ、はーい」
ズーッとうどんを食べながらそんな話をする。その要因って……もしかして。
「ホテル・アグスタで大怪我した流くん? さん? だっけ?」
「くんだな。そ、アイツが時間有る時に代理で処理しても問題ない奴全部片付けてくれてたんだよ。
スバルから、ティアがちょっとミスった件って聞いた?」
響の言うミスというのはきっとあの件だ。スバルから連絡を受けた時驚いたのもあるけれど、そこまで思い悩んでいた事に何も手助け出来なかったのが歯がゆかった。
「……うん。だからすごく驚いたけど。それにも関係あるの?」
「直接的にはない。だけど、動きやすいように医務室ベットで仕事片付けてたってさ。スターズの事務処理は流が居たから上手く回って、スバルの所に仕事が溜まってないからなぁ」
「そう……なんだ。あれ? ということは待って。スバルはそれに気づいてない……?」
その可能性に気づいた時、スーッと背筋が冷える。
中々負担を強いているのに、まだ何も返してないということ、そして、そういうことって不満が溜まりやすく、積もり積もって……不味い。
「気づいてないけど、流も前線メンバーに穴空けたって気にしてるから、プラマイゼロだよ。それより問題なのは、割と明るい子だと思ってたスバルが流に苦手意識持ってる気がするって事だよ。
……ごちそうさまでした」
「そう、なんだ……あの子、内気な所もあるから。
あれ? もう食べないの?」
「……君ら基準で物言うな。天ぷらうどんと、肉うどんでお腹いっぱいです」
それにしても響の紹介した、このおうどん屋さんってすごく美味しい。
今度お父さんや、スバルも連れてこよう。
「そうだ。さっきの連絡に書いてあったんだけど、明日の任務ってシスターさんも同行するみたいね。
私も今日はそんなだし、ごちそうさまでした」
「……エ? マジで? ……名前って分かる?」
「確か……シスターアーチェさん。あ、アヤさんって方の推薦みたい」
「……へぇ」
一瞬空気が変わる。なんだろうって、視線を響に向ければ……。
「さて、なら明日も早いし帰るかね」
そう言って注文票を手にスタスタと歩いてく。値段の確認が……。
「え、や、待って自分の分は自分で」
「いいよ。誘っておいて払わせるのはどうかと思うし。すいませんお勘定……また来ちゃ駄目ですかね? あ、事前連絡……はい、わかりましたー。あ、カードで……ごちそうさまでした。
よっしゃ、ギンガ行くぞー」
「あ、うん。ごちそうさまでした」
響に続いてお礼を告げてから、店外へ出て。
「じゃ、また明日な」
「う、うん。明日、よろしくね」
「こちらこそ。じゃおやすみ」
そのまま歩いていくのを見送りながら、あの空気の変わり方で、何かあったのは確かなんだけど。
駄目だ、シスターアーチェさんの名前を出した頃からだから、よく分からない……。
シスターアーチェの事はわからないけれど、アヤさんって確か、はやてさんに隊舎を紹介したり色々手伝いをしてくれた人だった筈。
私は直接会ったことは無いけど、確かお父さんが何度か会った筈だし、ちょっと聞いてみようかな。
明日はちょっと楽しみ。管理局に勤めて知り合いの多い任務に関われるんだもの、すごく楽しみだ。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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