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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica47イリュリアが悲願の為~Wir sind in Berlka geboren~

 
前書き
Wir sind in Berlka geboren/
ヴィーア・ズィント・イン・ベルカ・ゲボーレン/
我々はベルカで生まれた 

 
ベルカ人の末裔や、ベルカを発端とする聖王教の信者が多く住んでいるベルカ自治領ザンクト・オルフェン。現在、領内全体に結界が張られ、その内部では教会騎士団と、新生ベルカ騎士団と名乗るクーデター軍が交戦していた。

『こちら水色扶桑花騎士隊(ヘルブラウ・ヒビスクス)3班。橙石楠花騎士隊(オランジェ・ロドデンドロン)と、騎士プラダマンテの治療に入ります』

『同じく3班。逃走していたリナルド・トラバント卿の死亡を確認。騎士プラダマンテが殺害を自供しました』

『こちら白雪中花騎士隊(ヴァイス・タツェッテ)2班です。キャメロット地区にて交戦した敵戦力を確保しました』

金水仙騎士隊(ゴルト・アマリュリス)1班! ワンデスボロー地区の敵戦力が説得に応じ、投降しました!』

黒篝火花騎士隊(シュヴァルツェ・ツュクラーメン)1班と2班です。カンベネット地区での交戦に勝利。敵戦力の確保に成功』

灰芍薬騎士隊(グラオ・ペオーニエ)3班から本部へ。ストランゴール地区にて簡易陣地を構築していた敵戦力を撃破、確保に移ります』

蒼薊騎士隊(ブラウ・ディステル)4班です。コーンウォール地区での戦闘を終了。3班と共にティンダジェル地区へ移動します』

朱朝顔騎士隊(ロート・ヴィンテ)3班と4班は、これよりカーリオン地区に入り、敵戦力の捜索に移ります』

『こちら翠梔子騎士隊(グリューン・ガルデーニエ)1班! 寝返っていた黄菊騎士隊(ゲルブ・クリュザンテーメ)の確保が完了!』

紫唐菖蒲騎士隊(プルプァ・グラディオーレ)1班は、これよりパヤルネ地区にて敵戦力との交戦に入ります!』

中央区アヴァロンはログレス地区に在る聖王教会本部。その広大な敷地内の1画にある黄菊騎士隊ゲルブ・クリュザンテーメ隊舎の隊長室にて、続々と入る通信を盗聴している女性が1人いた。灰色のショートヘア、翠色の瞳、そして女用の騎士団服を身に纏ったその女性は、長年影ながら築いてきた組織の崩壊を知らせる通信の内容に、「どうして・・・!」と歯噛みした。

「こんなにも容易く瓦解するのですか我々は・・・!」

彼女の名はキュンナ・フリーディッヒローゼンバッハ。教会騎士団では銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼに所属する騎士であり、最後の大隊レッツト・バタリオンでは“王”という意味を持つアランのコードネームを頂く仮面持ちであり、新生ベルカ騎士団ノイエ・ベルカン・リッターオルデンでは団長位に就く予定であった。

「プライソン・・・! アイツがそもそも計画に従ってさえいれば!」

壁を全力で殴って怒りをぶつける。死してなおプライソンは、キュンナを始めとしたベルカ再誕計画の中心人物の予定を狂わせ続ける、トリックスターとしてあり続けていた。

(騎士プラダマンテもまさか敗れるなんて・・・。同志フィヨルツェン(ヴィスタ)はあまり頼りにならない。・・・負けを、大人しく認めろと・・・? そんなの嫌だ)

キュンナはここからどう立て直そうかと必死に思考を巡らせる。新生ベルカ騎士団は壊滅と言っても差し支えないレベル。同じように最後の大隊も似たようなものだ。ここからの立て直しは不可能に近いが、技術者のミミルが居れば再起は出来る、と可能性を見出す。

(セインテストの待つ本部へ向かうために地下へ行かないと)

ゲルブ・クリュザンテーメの隊舎は他の隊舎とは違い、秘密裏に地下室が造られ、転送装置を設けられている。何故それが教会に気付かれなかったと言うと、ゲルブ・クリュザンテーメは始めから新生ベルカ騎士団の構成員となるべく育てられた騎士を纏めておくために、リナルド・トラバントによって設立された部隊だからだ。

(なんとしてもベルカを、レーベンヴェルトを再興させなければ)

自分が生まれた理由、そして存在意義を胸に隊長室を出たキュンナは、「っ!」直感のままにその場から飛び退いた。

――コード・パディエル――

銀色に光り輝く電撃の槍1本が、キュンナが今しがた立っていた場所に突き立った。その槍が放たれてきた方へと目をやったキュンナは、2mとある槍を携えた騎士を視界に収めた。

「騎士パーシヴァル・・・!」

「やあ、キュンナ。部下を連れずに独りで何をやっている?」

パーシヴァル・フォン・シュテルンベルク。結婚や子供が出来たのを機に称号を返上した、元槍騎士最強のシュぺーアパラディン。昇格試験でA級1位に敗れて降格したわけではないゆえ、その実力は今なお最強。

「部下・・・ですか?」

「ゲルブ・クリュザンテーメだよ。かつてお前が率いていた部隊だ。彼らは必死に抵抗していたぞ? ベルカのため、イリュリアのため、とね。イリュリア。お前の先祖の国の名だ。まだ諦めていなかったんだな」

古代ベルカに繁栄した技術大国イリュリア。ベルカ統一という名目で、かつての名前だったレーベンヴェルトの再興を目的としていたが、対イリュリア連合との1日戦争に敗れてからはその目的は失われた。

「・・・断言された以上はもう誤魔化しはきかないんでしょうね。そうですよ、ベルカ・・・レーベンヴェルトの再興が、私の存在意義ですから」

キュンナは思い返す。自分が生まれた理由を、そして遥か過去の記憶を。キュンナは、イリュリア大戦の発端となった女王テウタの遺伝子とリンカーコアを基にして、プライソンの手によって生み出された記憶転写型クローンだ。それゆえに敗戦の原因とも言えるオーディンもといルシリオンのそっくりさんであるパーシヴァルやトリシュタンのことは苦手としている。

「過去に囚われるのはあまりにも辛いだろう? もうやめないか? これ以上の戦闘は無意味だ」

「いいえ。私がそうであれ、と生み出されました。その事実が存在し、私自身がそれを叶えようという意志を持つ限り・・・!」

「投降はしない、か。残念だよ、キュンナ。お前は一角の騎士だったのに」

パーシヴァルは穂先をキュンナへと向くように槍型アームドデバイス・“ロンゴミアント”を構え、「コード・フロガゼルエル」穂に銀色の炎を付加させた。

「デバイスの起動を待っていてくれるんですね・・・?」

キュンナは応じるように首から提げていた逆五芒星ペンダントを手に取った。

「ここで闘わずして捕まると、お前も納得は出来ないだろ? だからお前の本気の全力を真っ向から打ち砕いて、これ以上の戦いを諦めさせるだけだ」

「・・・ありがとうございます。ペンドラゴン、セットアップ」

キュンナの言葉で“ペンドラゴン”は起動し、大鎌へと変形する。2m近い柄のヘッド部分には50cm幅の歯車があり、片側からは弧を描く刃体1mの金属刃が伸び、もう反対側からは金属刃と同じ形状の銀色に輝く魔力刃が展開されている。石突にも歯車が有るが、金属刃は無い。こちらの歯車は魔力刃展開用だ。

(こんな狭い場所での戦闘は、点での攻撃を得意とする槍の騎士パーシヴァルに軍配が上がる。外に出るべきなんだろうけど、地下室から離れてしまう。どうすれば・・・?)

チラリと窓の外を見れば、もう日も落ちて暗くなっている中で、複数の騎士が隊舎を包囲しているのが判った。パラディン級ではない相手であれば、たとえ複数人であってもキュンナの実力なら包囲の突破は可能だろう。

「(でも外に出たら意味が無い。地下に降りるまでに騎士パーシヴァルを撒くようにして、気付かれる前に本部へ転送。これが一番か・・・)ごめんなさい!」

謝罪の言葉と同時にキュンナは踵を返して、脱兎の如く逃げ出した。パーシヴァルは驚きも焦りもなく、軸足に力を込め、「逃がさない」の声と共に床を蹴った。一足飛びで一気にキュンナへと迫るが・・・

「夢影!」

キュンナを護るかのように、彼女と瓜二つの女性が3体と出現。まず1体がパーシヴァルの繰り出した炎の刺突を体を張って受け止め、消滅する前に両手で“ロンゴミアント”の柄を握り締め、残り2人がパーシヴァルに飛びつこうとした。

「コード・シャルギエル!」

宙に生成された氷の槍2本が迫り来る偽キュンナ2人の胸目掛けて射出され、ドスッと鈍い音を立てて貫き、全身に広がるように凍結が始まった。

「キュンナ! これ以上罪を重ねるな!」

3人の偽キュンナの消滅を待たずにパーシヴァルはキュンナの追跡を開始。廊下を駆け、角を曲がったところで「またか!」と悪態を吐く。廊下を塞ぐように偽キュンナが2体と立っていた。面倒くさそうに溜息を吐いたパーシヴァルは、“ロンゴミアント”を構えた。

「コード・シャルギエル・・・フォイア!」

初手は氷槍による中距離射撃。偽キュンナはパーシヴァルへ駆け出し、迫り来る氷槍を紙一重で躱した。が、「エクスプロジィオーン!」というキーワードによって氷槍が炸裂。躱したと思い込んでいたらしい偽キュンナ達は、一切の表情や声を出さずに凍結された。

「分身を創る魔法・・・、いや、スキルか。発動に何かしらデメリットは無いのか・・・? だとすればなんて厄介な・・・!」

消滅していく偽キュンナを尻目に、逃げ回っている本物のキュンナを後を追うパーシヴァルは、礼拝堂へと続く両開き扉の前に立った。トラップや奇襲などを警戒しつつ開けようとしたところで、外から悲鳴が聞こえてきていることに気付いた。

「新生ベルカ騎士団の残党か・・・?」

礼拝堂へと続く扉の正反対に位置する隊舎入り口の扉へと目をやるが、外で交戦している他部隊の騎士たちを信じて、礼拝堂の扉を開けようとした時、ガァーン!と大きな玄関扉が音を立てて開けられた。

「っ!? あ、おい!」

2人の騎士が扉を突き破ってきたのだ。うう、と呻いて体を起こせずにいる騎士2人に声を掛けるパーシヴァル。騎士たちは「気を付けて・・・ください」と声を振り絞って、パーシヴァルに注意を促した。

「おお! そこに見えるのは、シュテルンベルクの末裔だな! エリーゼ卿と魔神オーディンの面影を残している! 遺伝子とは実に不思議よな!」

2mを超える巨体を誇る禿頭の老騎士の言葉に、幼少時より読んでいた先祖エリーゼの手記からその正体にすぐに行き着き、パーシヴァルは「グレゴール・ベッケンバウワー・・・?」と、確認を取るようにその名を口にした。

「応とも! 元イリュリア騎士団総長、グレゴール・ベッケンバウワー! そして我が長年の相棒のシュチェルビェツ! 今や新生ベルカ騎士団の参謀、最後の大隊では大隊長ロクエンとは、我のことだ!」

グレゴールは自身と同じ位の長さを持つソードブレイカー状の大剣、“シュチェルビェツ”の剣先をパーシヴァルへと向けて名乗りを上げた。

「イリュリアもしつこいな! ベルカもイリュリアも、疾うの昔に滅んでいるんだ! 大人しく現実を見て、今の時代を生きろ!」

「いいや! ベルカは、レーベンヴェルトは蘇る! そのために最後の大隊、そして新生ベルカ騎士団を作ったのだ! ベルカ再誕こそが我らの最終目標なのだ!」

第2世界ベルカは、長く続いた戦争の末期頃に使用された禁忌兵器によって大地は死に絶え、生命が実らない死の世界へと成っていた。それはベルカが滅んでから何百年と経過している今も変わらずだ。そのベルカが蘇る、そのための組織というグレゴール。

「無理だ。これまでに何度かベルカの環境を再生しようという働きはあった。しかし魔法文明がここまで発達していながら悉く失敗。ベルカの再生は不可能と断じられた」

「それが出来るのだ。どうだ、シュテルンベルクよ。我らはベルカに地に生まれた子同士だ。母なるベルカに帰りたくはないか?」

“シュチェルビェツ”を降ろすと空いている左手に握り替えて、空けた右手を差し出した。それは握手を求めているもので、パーシヴァルの視線が右手に向き、次いで何か考え事をするように天井へ向けられた。

「何も聖王教会を潰そうとは思ってはおらん。聖王教の信者もまた、ベルカの子。ベルカ人は等しくベルカの地で生きて――」

「ふざけるな! 何が等しく、だ! ここまでザンクト・オルフェンを滅茶苦茶にしておいて! 始めから話に乗るつもりはなかったが、今ので解かったよ。お前たちはやはりベルカの面汚しだと!」

――コード・フロガゼルエル――

パーシヴァルは“ロンゴミアント”の穂に銀色の炎を付加し、臨戦体勢に入った。その様にグレゴールは差し出していた右手を戻し、“シュチェルビェツ”の柄を握り直した。

「グレゴール・ベッケンバウワー。お前は、このパーシヴァル・フォン・シュテルンベルクが・・・獲る!」

「ふむ。仕方ないな。ではシュテルンベルクの首、我が獲ってやろう!」

パーシヴァルとグレゴールが交戦を開始した中、キュンナはひとり地下室の転送装置を起動していた。1階から伝わってくる激しい交戦音と振動に、「グレゴールが間に合ったのね」と安堵。

「騎士パーシヴァルの実力は確かですけど、グレゴールの不死性の前には実力なんて意味はない・・・」

古代ベルカ時代より生き永らえているグレゴールの秘密である不死性。当時のイリュリアで研究されていた、不死の騎士を生み出すという生体兵器化研究。その披検体として、グレゴールは見事にその成果を現した。ゆえに外見60歳を保ったままで死ぬこともなく、現代にまで生き延びていた。

『(本部の転送装置とのリンク・・・完了)・・・グレゴール。先に本部へ行きます』

『承知しました、陛下! こちらはもうすぐで方が付くゆえ! しかしご注意を、キュンナ陛下! 向こうには我らが宿敵、オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード。いやルシリオンが居ります。十二分にお気を付けを』

念話でそのようなやり取りを終えたキュンナが転送装置によって隊舎から本部へと移動した。転送室の守衛や出迎えの同志は姿を見せず、ただ静寂だけがキュンナを迎えた。

(やはりもう、ルシリオンによって制圧されてしまった・・・?)

大鎌“ペンドラゴン”の柄を握り直し、警戒しながら転送室を出る。声は出さず、気配を殺し、慎重に廊下を進んでいると、目の前の自動ドアが急に閉まり、脇に在る別のドアが開いた。それだけで「誘導されている・・・?」と察することが出来たキュンナは、グレゴールと合流することを選んだ。

「陛下。お待たせして申し訳ありませんでした」

待つこと十数分。白銀の甲冑で全身を覆ったグレゴールがやって来た。それが意味するのはパーシヴァルの敗北。甲冑は傷だらけだが、体の損傷は無い。グレゴールの不死性という体質の前には、どれだけ傷を付けてもすぐさま再生し続け、最終的には相手の魔力や体力が尽きてしまうのだ。

「騎士パーシヴァルはどうしました?」

「ぬるま湯に浸かりきった現代の騎士としては合格ですな。いずれ心変わりさせて見ませしょう」

「生かしたのですね」

「ええ。クローンとは比べられぬ程の実力を亡くすには惜しすぎますゆえ」

誘導されるままに廊下を突き進むキュンナとグレゴール。2人を誘い込むように何度もドアが閉まり、ドアが開き、エレベーターで降り、そしてとうとうゴールへと到着した。そこは本部地下7階、トレーニングルーム。空戦すらも行えるような広大な部屋だ。

「来たな、待っていたぞ」

キュンナとグレゴールの耳に声が届く範囲内に、銀色の髪と、融合騎のアイリとユニゾンしていることで僅かに発光している蒼と紅の光彩異色、黒の長衣を身に纏った女性と見間違う外見をした男、「ルシリオン・・・セインテスト・・・!」がそこに居た。

「キュンナ・フリーディッヒローゼンバッハと・・・グレゴール・ベッケンバウワーだな・・・? この施設内に居たお前たちの同志とやらは、俺とアイリで片付けさせてもらった。残るはお前たち2人、そしてフィヨルツェンだけだ」

ルシリオンは左手に携えている双槍型デバイス・“エヴェストルム”を構えて、臨戦体勢に入った。キュンナとグレゴールは、横目で互いを見た後・・・

「骨が折れそうですが、私たちが同時であればなんとか・・・」

「いけるでしょうな。我が盾役になりますゆえ、陛下は夢影による包囲攻撃を」

――夢影――

出現したキュンナの分身体3体とグレゴールが前に出て、キュンナを護るかのようにルシリオンの前に立ちはだかった。

圧戒(ルイン・トリガー)

直後、ギンッと鈍い音がし、キュンナとグレゴールは聞き慣れたその音にハッとして、その場から離れようとしたがすでに手遅れ。

「うっぐぅぅ・・・!」「むぉぉぉ・・・!」

あらゆる物質を押し潰すように発生した重力場により、キュンナとグレゴールは強制的に床に伏せることになった。その格好はまるで許しを請うために土下座しているかのよう。

「キュンナ。お前の出生の秘密から言えば、お前もまた被害者だ。しかしグレゴール、お前はダメだ。お前を生かしておいては、このような事件がいつか繰り返されるだろうな」

「殺すのか・・・? 管理局員が、教会騎士が・・・!」

グレゴールは重力に抗うように両手を付いて上半身を起こし、ルシリオンを睨み付ける。

「まさか。お前を殺せば、その様子を見ていたキュンナも口封じのために殺さないといけなくなる。今お前が言ったように、俺は局員で教会騎士だ。殺害ではなく逮捕で、お前たちの野望を打ち砕く」

――シーリングバインド――

重力場を解除すると同時、ルシリオンが発動したのは、拘束した相手のリンカーコアの活動を弱らせ、魔力生成を阻害させるバインド。キュンナとグレゴールは四肢を拘束された。

「お前たちは知っているかな? 俺の持つ魔術の中には、コード・エイルというものがある。こいつは対象の身体の異常を完治させる効果を持つんだが、対象によってはある副次効果を発揮する」

ルシリオンは“エヴェストルム”の穂先をグレゴールへと向け、サファイアブルーに光輝く魔力スフィアを1基と生成。そして「コード・ゲルセミ!」と術式名を告げ、上級閃光系砲撃を1発と発射した。魔術ではない魔法としての一撃だったが、上級であり、グレゴールの防御力が著しく低下していた状態での直撃。

「ぐおおわあああああ!」

着弾時に発生した強烈な閃光爆発にキュンナも「きゃああああ!」と悲鳴を上げた。爆煙で姿の見えないグレゴールを前に、ルシリオンは“エヴェストルム”を横に凪いだ。

――風音よ広きに渡れ(シルフィード)――

それと同時に放たれるのは強烈な爆風。下級風嵐系術式シルフィードによるもので、グレゴールを覆っていた煙は一瞬で吹き飛んだ。

「グレゴール。お前の不死性は後天的なものだろう? エイルは遺伝子レベルでの治癒を可能とする。・・・お前の不死性という異常も、綺麗サッパリ治してくれるだろう」

「ふん! 不死性だけが我の全てと思ってもらっては困るな! たとえ不死を失ったとしても、この肉体1つでベルカを、レーベンヴェルトを再興しよう!」

直撃によって負っていたダメージも、不死性によって回復していくグレゴールは、自信に満ち足りている瞳をルシリオンに向け、「やってみるがいい!」と促した。今の発言が嘘ではないことは理解したルシリオンは「なら遠慮なく」と、コード・エイルの術式をスタンバイした。

「グレゴール!」

「ご心配なく陛下。再び人の身に戻るだけのことゆえ。命尽きるまでの時間で、必ずや我らが故郷を取り戻しましょうぞ!」

――女神の祝福(コード・エイル)――

ルシリオンはグレゴールの肩に右手を置き、コード・エイルを発動。グレゴールの全身がサファイアブルーの魔力に覆われ、そして彼は低い唸り声を発し続けた後、「我の体が・・・」と漏らした。

「・・・これで不死性は消失したはずだ。試してみたいが誤って殺してしまっては意味が無い。このままで教会に引き渡す。キュンナ、お前もクーデターの中心メンバーとして逮捕する」

魔力も生成できず、身動きが取れないようにバインドで拘束され、一切の抵抗が出来ないキュンナは「またセインテストに邪魔をされるなんて・・・」と、悔しさに涙した。

「お前たちは喧嘩を売る相手を間違えたんだよ。それに、手段も間違えた。ベルカを蘇らせるだけなら、ミッド地上本部を貶める必要はなかったんじゃないか?」

「いいや、必要ではあったよ。確かに我々の目的は、ベルカの再誕だ。しかし、それは第1段階。計画には第2段階もあった。かつてミッドガルドと呼ばれていた複合世界は、本星とレーベンヴェルトで成り立っていたという。そのためにはミッドチルダも掌握しなければならないのだ」

だからミッドチルダ地上本部を貶めたのだ、グレゴールは言う。全てはベルカという世界名に変わる前のレーベンヴェルトと、ミッドチルダという名前に変わる前の本星を再現し、複合世界ミッドガルドに戻すため。

「俺が言えた義理じゃないが、過去に囚われすぎだろう? 現代の世界に生きているお前たちは、未来を見据えて生きるべきだった」

そう言ってルシリオンは手錠を用意し、キュンナとグレゴールを捕まえるために、2人の側へと近付いて行った。

――瞬神の風矢(ソニック・エア)――

「っ!」「「っ!?」」

ルシリオンと、キュンナとグレゴールの間に向かって飛来したのは風の矢8本。床に突き刺さると同時にブワッと爆ぜ、風圧でルシリオンを僅かに後退させた。3人の視線が同じ方へと向く。
そこに居たのは、チェスナットブラウンのセミロング、ブロンズレッドの柔和な瞳。赤紫のブラウスに黒のベスト、黒ネクタイ、黒のプリーツスカート姿の・・・

「フィヨルツェン・・・!」

「「同志ヴィスタ!」」

“堕天使エグリゴリ”の1機で、最後の大隊最高幹部の1人、フィヨルツェンが、美術品のような大弓を構えていた。
 
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