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戦国異伝供書

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第四十八話 去った後でその十三

「この様にして」
「飲まれても質素なのですね」
「贅沢はどうも」
 少し苦笑いで言った言葉であった。
「わたくしにはです」
「合いませんか
「毘沙門天は贅沢とは無縁ですね」
「御仏であられるので」
 仏、それならというのだ。
「もう既にです」
「贅沢という煩悩からは」
「もう脱しておられて」
「贅沢なぞされない」
「はい、ですから」
 酒、それは飲んでもというのだ。
「わたくしは肴は」
「塩で充分ですか」
「贅沢はしません」
 ここで塩を舐めた、そうしてまた言うのだった。
「塩で充分です、むしろ塩も」
「それすらも」
「贅沢とです」
 その様にというのだ。
「感じています」
「そうなのですね」
「はい、どうも」
「塩位は」
「いえ、越後なら塩は何でもないですが」
 海がある、そこでかなり採れるのだ。このことでも越後は恵まれた国だと言えて景虎もそう考えている。
「山国ではです」
「海がないので」
「塩が採れません、ですから」
「それで、ですね」
「塩はです」
 それはというのだ。
「贅沢です」
「その様にお考えですか」
「若し塩がなくても飲みますし」
 酒、それをというのだ。
「ですから」
「塩ですら贅沢で」
「はい、それがなくとも」
「飲まれるのですね」
「そのつもりです、では今宵も」
 言いつつまた飲む、飲みっぷりもいい。
「楽しみます、ですが」
「酒もまた」
「煩悩ですね、わたくしはまだ御仏には遠いです」 
 自分でだ、この言葉を出した。
「到底」
「そうですか」
「はい、そして」
「何時かはですね」
「酒を乗り越えて」
 そしてというのだった。
「毘沙門天の様になりたいものです」
「解脱ですか」
「それは僭越かも知れませんが」
 仏になる、つまり解脱を目指すということはというのだ。
「しかしそれでも」
「殿はですね」
「それを目指したいです」
 こう言う、しかし今も酒は飲むのだった。彼にとってはどうしてもこれは欠かせないものであり今は飲み続けるのだった。


第四十八話   完


                   2019・5・1 
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