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戦国異伝供書

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第四十八話 去った後でその十二

「そうします」
「そうですか」
「それだけでも大変ですが」
 それでもというのだ。
「必ずです」
「この度は」
「必ず小田原の城を攻め落とします」
 こう言ってだった、景虎は自ら先頭に立って上野に入りさらに進んでいった。するとまずはだった。
 上杉家の軍勢が長尾家の軍勢に加わった、彼等は口々に言った。
「どうかです」
「我が殿をお助け下さい」
「そして関東もです」
「宜しくお願いします」
「承知しています」
 景虎は彼等にもはっきりと答えた。
「わたくしは必ずです」
「北条家を倒して下さいますか」
「我等を脅かすあの家を」
「そうして下さいますか」
「必ず」
 こう言って約束するのだった。
「ですからご安心下さい」
「では我等はです」
「これから長尾殿の軍勢の末席に加えて頂きます」
「そしてそのうえで」
「共に戦わせて頂きます」
「宜しくお願いします」
 景虎も是非にと応える、そしてだった。
 長尾家の軍勢は上杉家の軍勢も加え上野を進んでいった、昼はかなりの速さで進み夜は見張りを多く出したうえで休むが。
 陣中でだ、景虎は飲んでいた。その彼に兼続は問うた。
「殿は陣中でもですか」
「はい、どうしてもです」
 杯を手に言うのだった。
「これがなければ」
「酒が、ですか」
「夜は常にです」
 例え陣中でもというのだ。
「酒がなければ」
「なりませんか」
「ですから」
 それ故にというのだ。
「こうしてです」
「飲まれていますが」
「逆に酒がなければ」 
 そうであればというのだ。
「その時はです」
「どうしてもですか」
「どうにもならないものがあります」
 言いつつ飲むのだった。
「酒は過ぎれば毒だとわかっていても」
「それでもですか」
「こうしてです」 
 夜になればというのだ。
「飲んでいます」
「そうでありますか」
「飲みつつ」
 景虎はここで夜空を見上げた、そこには月がある。その月を見ながらそのうえで兼続にさらに言うのだった。
「夜空を見る」
「それがですか」
「実にいいです、それが雨でも」
 この時もというのだ。
「それはそれで」
「よいのですね」
「はい」
 まさにと言うのだった。
「こうして」
「そして肴は」
「これです」
 見れば杯の傍に塩が皿の上に盛られている、それを見れば明らかだった。
「これがありますので」
「塩で、ですか」
「贅沢な時は梅があれば」
 それでというのだ。
「それを」
「そうですか」
「はい、しかし普段は」
「塩が肴ですね」
「そうして飲んでいます」
 言いつつ実際に飲む。 
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