【完結】Fate/stay night -錬鉄の絆-
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第022話 4日目・2月03日『対策。そして怯える夜』
前書き
更新します。
新都での慎二くんとそのサーヴァント・ライダーとの戦闘後に私達はなんとか家まで帰ってこれることができた。
あのままだと一般の人達に見られる可能性があったから人が少ない夕暮れ時の時間で助かった感じであった。
でも、慎二くんと桜が心配だ………。
恐らく慎二くんも今頃は帰路についていることだから間桐臓硯になにかをされているかもしれない。
桜もまたなにか魔術的な事をされているかもしれない…。
とてもではないが平静を保っていられるほどではないのが正直な所だ。
私が顔を俯かせて色々と考えている時だった。
「志郎…きっと間桐くんは大丈夫よ」
「でも、凛さん…」
私は普段の自分では出さないであろう弱気な声を出してしまう。
でも凛さんが私の正面に立って私の両肩を掴むと、
「大丈夫よ! 間桐くんも桜もきっと大丈夫…。聞く限り確かに間桐臓硯は悪質だけど少なくとも桜は臓硯に魔術師としての誇りが少しでも残っているなら次の次代の子を残すために殺すことはないと思うわ」
「だけど慎二くんは…」
「間桐くんはまだライダーがいるから利用価値はあるという感じでまだ命は取られないと思うわ。仮にも孫なのよ? そう簡単に殺さないわよ」
「そうだと、いいね…」
「そうね…」
お互いにそれでなんとか落ち着くことができた。
そうでもしないと私は間桐邸に今にでもセイバーを連れて乗り込んでいたかもしれないから。最悪エクスカリバーを放って………いや、さすがに桜達の家を無くす事はしたくないからしないけど。
「さて、志郎も落ち着いた事だし話し合いをしましょうか。アーチャー?」
「ああ」
それで今まで気を使ってくれていたのか霊体化していたアーチャーが姿を現す。
それと同時に席を外していたセイバーも私がラインで呼んであった事もあり居間に入ってきた。
「リン、すみません…。本当であれば私がシロの事を慰めてあげなければならなかったのに…」
「いいわよセイバー。適材適所よ」
「ですが仮にもリンの身内にも関係してくる話ですし、貴女も落ち着けないでしょう」
「ま、確かにね…でも、私は一度桜とは家族の縁を切ってしまった経験があるから表向きはなんとか落ち着いていられるわ」
「それは…」
それでセイバーは少しばかり顔を顰めている。
私もセイバーと同じ考えだ。
さすがにドライ過ぎないかと。
でも、魔術師として一から育てられたのだからそれくらいはしないとやっていけないんだと思う…。
私が知らないだけで魔術の世界は桜以上に不憫な思いをしているかもしれない人がたくさんいるかもしれないのだから…。
だからまだ間に合うかもしれない位置にいる桜は必ず救わないといけないんだ。
「話が脱線したわね。それで志郎? 間桐くんとの話を聞かせてもらっても構わないかしら?」
「はい」
それで私は慎二くんとの過去からの付き合いなどを話していった。
特にアーチャーは何故か聞く耳を立てていたのが印象的だった。
全て話し終えると凛さんは少しすっきりしたのか、
「………そっか。間桐くんは雁夜おじさんの意思を継いで今まで頑張ってきたのね…」
「うん。雁夜さんって人は桜を救うために聖杯戦争に参加して、そしてその過程で死んじゃったらしいの」
「そう…」
それでなにか思う所があるのか凛さんは目を瞑ってなにかを思案している。
思う事は桜か、あるいは雁夜という人物についてか。
「わかったわ。とにかくまずは聖杯戦争云々よりこの事を解決することを第一に考えていきましょう。そうじゃないととてもではないけどイリヤスフィールを救うとか、聖杯を破壊するとか以前の問題だから。まだ出てきていないサーヴァントもいるわけだし」
「そうだね、凛さん」
「で、アーチャーにセイバー。少しいいかしら?」
「はい。なんでしょうかリン…?」
「なんだね、凛…?」
「ライダーの宝具だけど二人はあの一瞬でなにかわかった…? 特に真正面から受け止めたアーチャーは」
「残念ですが、リン。私はあの一瞬ではさすがに分かりませんでした」
セイバーは残念そうに顔を俯かせる。
「私もだ、凛。さすがに宝具名が聞き取れなかったのでね」
「そう。でもライダーのクラスなのだからなにかの乗り物の可能性は大ね。それになんで首を釘で刺したのかが判明できれば…」
そういえばなんで首に刺したか…。
そんな伝承の神話はあったかな?
それで少し思案してみると該当する英霊がいたことに私は気付いた。
「ねぇ、凜さん。なんとなくだけどライダーの正体がわかったかも…」
「え!?」
「本当ですか、シロ?」
「本当かね?」
それで三人とも声を揃えて私の方に顔を向かせて来る。
「うん。合ってるかわからないけどギリシャ神話の英雄譚で読んだ事があるんだけど半神のペルセウスは邪神メドゥーサを退治した際に切り伏せたメドゥーサの首から零れた血からペガサスが生まれたっていう話があるよね?」
「そ、そうね………えっ? まさか本当に…?」
「だ、だからまだ確証はないですからね」
「いえ、シロ。恐らくそれで正解だと思いますよ」
「そうだな。衛宮志郎の言い分が合っているのだとすればライダーの正体は反英雄メドゥーサか」
そんなこんなでライダーの正体はメドゥーサだろうという話で纏まっていき、話は終わった。
それから藤ねえは夕食時に珍しく来なかったのは恐らく朝の出来事が原因だろうという事で落ち着いた。
藤ねえ、あれで自分の惨めな過去はすぐに忘れちゃう性質だからな。
………まぁ、今日だけは気持ちを落ち着かせるために来てもらわないでよかったと思う。
そしてもう一方では案の定だけど桜も家に来なかった。
今日のあれで来るわけもないけど来てほしかったのが本音である。
そういえば、
私はふと忘れていた事を思い出してキャスターの所へと向かう。
「キャスター、いる…?」
「はい。なんでしょうか、志郎様?」
部屋をノックするとすぐにローブ姿のキャスターが部屋から出てきた。
部屋の中には私には分からない様々な道具が置かれている。きっと色々な魔術の触媒なのだろう。興味は引かれたが今は我慢我慢………。
気持ちを切り替えて、
「うん。それなんだけど今日の一件で声の主の発信源は分かったかなって…」
「その件でしたか。はい、すぐに調べは付きました。ついでに一匹確保させてもらいました」
そう言ってキャスターはおもむろに懐を擦ると中から一匹の悪趣味な形の蟲が出てきた。
具体的に言うと昔に何回かお父さんとお風呂に入った時に目撃したような卑猥な物と芋虫を合わせたようなものだと表記しておく。
それで私はつい「う゛っ!」という声を出してしまったことは許してほしい………。
「すみません、志郎様。酷いものを見せてしまいましたね」
「い、いや大丈夫だよ。でも、これって大丈夫なの…?」
「はい。捕まえた時にすでに機能を停止させていただきましたのでご安心を」
「そう…」
でも、よく考えれば桜の体の中にはこいつが何匹も居座っていると思うと途端に怒りが沸いてくる。
どうにかして殺すことができればいいんだけどな。
「大丈夫ですよ志郎様。もう対策はできています。後は時が来れば…」
「え? なんのこと? キャスター…?」
「あっ! そうでしたね。はい、なんでもありませんわ。志郎様はお気になさらずにお願いします」
「う、うん? よく分からないけどわかった…」
おそらくキャスターはこの蟲についての解析が終わって対策も出来ているということなんだろうな。
ならばいよいよ間桐臓硯を倒す手段が整ってきたのかもしれないという嬉しい思いを感じ取れていた私であった。
………後に私には内緒ですごい薬を作っていたというのを知ることになるだろうとはまだ今はわからなかったんだけどね。
「それで声の主の居場所ですが、やはり志郎様の言う通り間桐邸のある場所でしたわ」
「そう…」
やっぱり工房に引きこもっているんだね。おそらく無断で侵入すればこの蟲達に食い殺されるのが目に見えていると考える。
「乗り込めそう…?」
私は敢えてキャスターに聞いた。
キャスターのクラスのサーヴァントである彼女にしてみれば現代の魔術は児戯に等しいだろうけど用心に越したことはないからね。
それでキャスターはすぐに笑みを浮かべて、
「はい。この程度の魔術式ならば私にとってすれば容易いですわ。命令があればすぐにその魔術師を排除できますわ」
妖艶の笑みを絶やさず浮かべながらそう宣言するキャスター。
でも、きっと他に考えていることがあると思う。
「でも、まだ攻め込まないんでしょ…?」
「はい。やはり志郎様は聡明ですね。先のことをしっかりと考えています。私がまだ警戒するのはこの聖杯戦争が始まってからまだ姿を現さない暗殺者のサーヴァントの存在ですわ」
「やっぱり…そうなのかな?」
「はい、恐らくは…。暗殺者無勢にやられるとは思っていませんがもし宝具が強力なのであればもしやも視野に入れておかねばなりません。もしかしたら今もこの屋敷に侵入しているかもしれませんからね」
「キャスターの結界内にそう簡単に侵入できるものなの…? アサシンの気配遮断のスキルは…?」
「まだ分かりませんが用心に越したことはありません。ですから志郎様もお気を付けください」
「うん、わかったわ」
それで私はキャスターとの会話を終えて部屋を出ていく。
異様に広いこの屋敷はふと夜にでもなれば電気をつけないとお化け屋敷のようなものに変化する。
ギシッ、ギシッ…と小さいながらも年月を感じさせる音を響かせながら自室へと歩いていく私。
ふと、首筋になにかが這った様な、そんな錯覚を覚えた。
それでつい首を何度も擦る。まさかね…?
先程のキャスターの話で緊張しているのかもしれない。
すでにこの家の中にはアサシンが侵入しているのかもしれないという恐怖感が少しばかりある。
もしそんな事があれば屋根の上で警戒しているアーチャーか私の異変に気付いて颯爽にセイバーが助けに来てくれるという安心感があるからいいけど、やっぱり一度怖いという感情を覚えると部屋までの道のりが遠く感じてしまう。
そんな思いを感じながらやっとの事で部屋へと到着して襖を開けるとそこにはセイバーがいた。
「おや?シロ…? どうされましたか。少しばかり表情が強張っていますよ」
「うん…セイバー、少しいいかな?」
「はい。なんなりと」
「今日は、一緒に寝てもらっていいかな…?」
「別に構いませんが、どうされたのですか…?」
「うん。ちょっと子供っぽい感想なんだけど自分の家がなぜか別次元に入り込んだような錯覚を覚えちゃって…」
「つまり怯えてしまったのですね」
「うん。柄じゃないよね…?」
「そんな事はありません。シロもまだ可憐な少女なのですからそんな気持ちになる事もさほど珍しいことではありませんからね」
「ありがとう、セイバー」
それで私はセイバーと一緒の布団で今夜は寝ることになった。
どうか悪い夢ではなくいい夢が見れますように…。
後書き
という訳で四日目終了となります。
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