【完結】Fate/stay night -錬鉄の絆-
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第013話 3日目・2月02日『弓兵の正体と魔術の終着点』
前書き
更新します。
──Interlude
凛が一度遠坂邸に荷物を取りに行くと言い戻りながら私は無言で霊体化して着いていっていた。
凛もなにか言いたげだが踏ん切りがついていないようで無言で前を歩いていた。
そしてそんなギスギスした感じを漂わせながらも凛の自宅に到着するとすぐさま凛は家に鍵を施して誰も入ってこないことを確認して私に振り向いた。
「…ねぇ、アーチャー。さっきの志郎との会話だけど…本当のところはどういうことなの?」
「隠すつもりでなかったが計らずも衛宮志郎が私の正体にすぐに気づいたことはすごいことだ。彼女の言ったことと私の言ったことはほぼ間違いない」
「それじゃあんたは本当はアーチャーのクラスじゃなくてキャスターのクラスに該当する英霊なわけ…?」
「いや、確かに私の生前は魔術師に当たるものだったがせいぜい落ちこぼれもいいところだったのだよ。
使える魔術は衛宮志郎とほぼ同じようなもの…。
だが衛宮志郎は私と違いそれらすべてを確実に使いこなし初歩ではあるが他の魔術や優れた武術も使い封印指定級の投影魔術をうまく隠している」
「…ええ、そうね。志郎の投影した剣を見るまで信じられなかったけど、少なくとも私の戦いではそれを使う素振りは一度も見せてはいなかったわ」
「もし、あのまま交渉に持ち込まれなければ、おそらく私はセイバーにやられていただろう」
「そうね…味方だという安心が今はあるけど、逆にそのまま敵だったと想定したらまず勝ち目はなかったわね。
そして志郎の話を聞いてよりいっそうそれが真実味を帯びている…私も本気じゃなかったけど彼女は力のほんの一端を見せただけ。
それも魔術もほぼ使わないで体術と投擲技法だけという本来の戦い方ではない方法で…はっきりいっちゃうけど完全に私達の敗北ね」
「凛…」
私は思わず慰めの言葉をかけようとしたが凛はそれにいち早く気づき手で制した。
「アーチャー、余計な同情はよしてよね? 私は落ち込んでなんかいないわ。今敵わないならいつか追い抜いてやればいいだけの話よ!」
「ふっ…そうか。それでこそ凛だな」
「ふんっ! 褒めてもなにもでないわよ? それよりそろそろ教えなさいよ?」
「なにをだ?」
「しらばっくれるのもいいけど私は志郎とは違って大体あなたの正体は検討ついているのよ?」
「なに…? どういうことだ?」
「あなたは言ったわよね? “平行世界の別世界の住人”と…」
「ああ。確かに言ったがそれがどうしたね?」
「そうね。普通に考えたらそれだけじゃ正体なんてわからないけど英霊は過去、現在、未来に関係なく喚ばれるものよ。
だから並行世界も例外じゃない。
そしてもう一言…“この世界で私の正体を知るものはおそらく誰もいない”とも言った。
どういった意味がこめられているのか知らないけど、平行世界という無限に広がる世界で誰一人知らないっていうことはまず断言できない。
さらにあなたは志郎と同じ投影魔術師だと言った。
仮に志郎がこの世界に存在していない世界だったら世界は矛盾を修正しようと代用品を必ず用意する…そう、大火災の生き残りが志郎じゃない誰かを…。
最後にあなたのあの慌てよう。志郎の名前や将来の夢を執拗に聞いていたわ。
そして志郎の兄の名前が出た途端、急に力を抜いたわ。
これから推測するにアーチャー…あなたの真名ってもしかして」
まさかそこまで読まれていたとはやはり凛だな、と言うべきだろうか?
…ああ、もう隠す必要もないだろう。この世界は特定の人物を除けば私とはほぼ無縁のものだ。
そこで私は一度目を瞑り息を吐いた後、目を凛に向けた。
「では凛、私からのつまらない質問だ。私の真名を見事当ててみろ」
「ええ、いいわよ。あなたの真名は“英霊エミヤ”、もしくは“衛宮士郎”とでもいえば満足かしら?」
「……………ふっ。まさか本当に当ててくるとは志郎同様に凛もなかなか鋭いな」
少し間を置いて私は凛に正体を明かした。
すると凛はなにか思案している。何事だ…?
「それじゃアーチャー。どうしてあなたは志郎じゃなくて私に召喚されるのよ?
志郎の立場をあなたに置き換えれば接点なんていくらでも見つかるだろうけどそんな触媒なんてもっていないわよ?」
「いや、それが一つだけあるのだよ。凛、君が一番大事にしている宝石を出してみろ」
「? いいけど。はい」
凛から渡された赤いルビーの宝石を見てやはりと思った。
凛はなにか分かっていなかったので私は懐から光は失ってはいるが同じ宝石を出して凛に二つとも手渡した。
「え!? どうしてあんたがこれ持ってんのよ!?」
「なに…凛、いや正確には“私の世界の遠坂”にはこれで救ってもらったのだ」
それから私は昔語りのように記録を引っ張り出して覚えている限りの聖杯戦争での話を聞かせた。
と、言っても世界の制約でサーヴァントの真名とそのマスターの情報は切り落とされているようで断片的なことしか語れなかったが…。
そして話し終わるとなぜか凛は拳をワナワナと震わせていた。
やばいっ!? と思ったがもう遅かった。そこには“あかいあくま”が降臨していた。
「ふっざけんじゃないわよっ!! それじゃなに!? あんたは志郎と違って本当に魔術師としては落ちこぼれだったわけ!?
いえ、それ以上に許せないのがそんなただ偶然死んだあんたを蘇生させた私よ! あー、絶対魔術師として甘いわその私ー!」
「平行世界の別の自身のことをけなしたい気持ちも分かるが…ただ空しいだけだぞ?」
「そんなことは言われなくても分かってるわよ! ただね―――……」
それから凛の愚痴が連発して、する度に自己嫌悪に陥って自爆をするといったことを何度も繰り返していた。
いや、私のときでもここまではっちゃけなかったが見ていて飽きないな。
………………………
………………
………
…しばらくして凛はやっと一方的な愚痴が終わったのか態度も落ち着いてきたようだ。
そこで急に態度が変わり別の意味で怒っている。
なんでも志郎には正体を明かしてもいいんじゃないかと。
「別にいいじゃない? あなたと志郎は世界が違うとはいえ家族なんでしょ?」
「凛…。私に今更兄を名乗れると思うか? 結論は無理だ…仮に名乗れたとしてもそれではこの世界の“士郎”の立場を侵してしまう。…横取りのようなものだ。
まして他の平行世界から次々と本体の座に流れてくる “様々な衛宮士郎”の記録どれ一つとっても彼女の記録は一切無い。つまり私は、いや私達は彼女のことをなにも知らない。
だから私は胸を張って兄と名乗ることはできない。ならばせいぜい感づかれないように一定の距離を保ちながら同じ投影魔術師として助言をしてやれるだけだ」
言い切ると凛はバツの悪そうな表情をして、
「ごめん、アーチャー…。私きっとかなり軽率なことを言ったわ」
「構わん。私達のことを思って言ってくれたのだから別に怒りはしない。
だが、これだけは約束してくれ…志郎には私の正体は決して明かさないでくれ。
いずれ消えうせるこの身…短い期間とはいえ必ずなにかしら志郎のことを傷つけてしまうだろうからな」
「ええ。約束するわ。でも志郎自身が気づいちゃったら面倒見ないからね?」
「そこは自己責任だ。私自身でなんとかしよう」
そして部屋の空気はやっと落ち着いたようで先ほどまでの雰囲気は一切無い。
だが代わりに実に好奇心に駆られている凛の姿がそこにあった。
「ころころと態度を変えるあたり、見ている限りは面白いな。だが、なにを企んでいる?」
「えぇ、まぁ…志郎とあんたは平行世界のもう一人の自分とかじゃなくてまったくの別人なわけだから本質は違っているわけよね?
でも、同じ投影魔術師。それで境遇も一緒だからアーチャーと志郎は起源は多分同じでしょ?」
「おそらくな…。それで結局なにが知りたい?」
「そう…確かに遠回りな言い方ね。それじゃ率直な意見だけど記憶も思い出したんだしアーチャー、通じては志郎の宝具はなにか知りたいわけよ。
まさか投影魔術で作り出すすべての武具があなたの象徴とかじゃないんでしょ?」
「半分正解で半分ハズレだ。五分五分といったところだな。
いや、そもそも志郎はどうかはまだ分からんが本来私の魔術すべてはある場所から零れ落ちた副産物に過ぎない…よってせいぜい20点といったところか」
「ある場所、ね…それに副産物。魔術すべてがそのある場所から零れ落ちたもの…そして半永久的に形を残す異常な投影、何度でも同じ武具を作り出せる………え? は!?」
どうやら凛は気づいたようだな。さすがだ。
だが思い至ったが信じたくないのか、それとも現実を直視したくないのか言葉を濁らせている。
いや、実に愉快だ。
まさかこれほどにあの凛の百面相を見る事ができるとは。本日は実に運がいいかもしれん。
自然と口元が攣り上がってくるのが自覚できる。
そして凛は一度深呼吸をして、
「まさかあんたの使う魔術って“固有結界”!?」
「ご名答。よくぞこの短時間で至ったものだ。そう…本来私が使える魔術はこれ一つだけ。
己の心象世界を外界に写しだす古来より精霊・悪魔の領域を指す人が持つに過ぎた“秩序”。
五つの魔法に最も近いといわれる大禁忌と称された魔術における“究極の一”。
すべての剣を内装する世界…固有結界『無限の剣製』…。
こと『剣』にのみ特化した魔術回路。これが私の魔術師としてのあり方だった」
凛はそれでしばし言葉を失っていた。
しばらくして、
「…あんた、よくそんなとんでもない事を事も無げに言うわね? 英霊じゃなくて尚且つ聖杯戦争じゃなかったら今頃は協会に封印指定をかけられているわよ…」
「だから尚更凛には志郎のことを見守ってほしい。“全てを救う正義の味方”という愚かな理想を目指していないとはいえ志郎も私と同じ『剣』にのみ特化した魔術回路…ゆえに魔術の終着点も一緒ということだ。目立った行動は自身を滅ぼす」
「わかったわ。でも私から一ついいかしら?」
私は「なんだ?」と答える前に凛に平手打ちをもらい、続けてガンドを数発浴びせられた。
いきなりなんだ! と反論しようとしたが凛の人をも殺せるのではないかという真剣な眼差しに押し黙った。
「…志郎の前で“正義の味方”を愚かな理想と言うのだけはよしなさい。
生前なにがあったか知らないけど志郎はあなたのことをとても尊敬しているわ。
だからその思いを踏みにじるというなら私は真っ先に令呪で“自害”を命令するからね! わかった!?」
「…ああ、そうだな。気をつけるとしよう」
「当然よ。ただでさえ令呪でその発言は禁止しようとまで思ったんだから!」
本気で凛は怒っているようだ。
まぁそれはしかたがない…。
だがこれだけは言わせてもらわなければいけない。
「…だがな、凛。私は本当にかつて必死に理想を目指していた自身を殺したいと心の底から思っている」
「なんでよ?」
「もう私の過去は夢で見たかね…?」
「えっ? あんたの過去の夢…?」
「その様子だとまだ見ていないようだな。ならば今はもう話すことはなにもない…ではいずれ見た時に再度この話をしてくれ」
そう、今はな…。
凛は納得のいかない表情をしていたがすぐに思考を切り替えたようで、
「ええ、わかったわ。その時になったらまた話してよね?」
「くくっ…了解だ、マスター」
「それとあんたは私を裏切ったりしないわよね?」
「何を当然のことを…私のこの聖杯戦争に参加した本当の目的は理想を目指している衛宮士郎を殺すことだ。
それが失われた今、後は自身に与えられたサーヴァントという使命を死ぬ最後まで果たすことだ」
「なんか参加した理由が釈然としないけれど…それを聞いて安心したわ。それじゃ後はこの馬鹿げた戦争をさっさと終わらせることを考えていきましょう」
「無論だ。凛と志郎は必ず私…そしてセイバーとキャスターが守り抜くことを約束しよう」
「そう、頼りにしてるわね、アーチャー」
「承知した」
それからもう話は終わったようなので凛は自室から着替えやその他もろもろ必要なものをボストンバックに詰めてやってきた。
だが顔が笑っている…。ちなみにあくまの笑顔のほうだ。
言わずともわかっている。ああ、わかっているとも。運べばいいのだろう?
やはりどこまでいっても遠坂凛は遠坂凛だ。
ゆえに内心で「地獄に落ちろ」と言って無言で荷物を凛の代わりにすべて持って衛宮の屋敷に向かった。
Interlude out──
後書き
今回は凛さんとアーチャーで埋めました。
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