ある晴れた日に
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53部分:穏やかな夜にはその二
穏やかな夜にはその二
「どっこいどっこいだよ」
「虎は違うんだよ」
ここでは阪神ファンとして退かない野本だった。
「虎はな。あれは神の獣なんだよ」
「神様のかよ」
「そうだよ。けれど御前のそれは鰐の他には鮫だったり恐竜だったりするよな」
「だから可愛いじゃない」
やはりセンスのおかしい奈々瀬だった。
「それがわからない野本の方がおかしいわよ」
「流石三下だな」
「その仇名を呼ぶなつってんだろ!」
「うるせえ三下!」
「手前!」
二人はまた喧嘩に入った。やはり仲が悪い。
その中でも一同カレーを食べている。見ればその具は実に個性的だ。
「流石に内臓は入れなかったのね」
「まあ流石にそれはね」
恵美が明日夢の言葉に頷いていた。
「味が変わり過ぎるから」
「内臓も美味しいけれどね」
「うん」
「ただ。あれはかなり癖が強いから」
「止めた方がいいわね」
「そういうことね。けれどそれでも」
ここで自分の皿に入っているカレーの具を見る明日夢だった。
「凄いカレーね。つくづく」
「そうね。私のお皿に入っているのは」
恵美もここで自分の皿の具を見る。
「葱に大根にソーセージに羊肉ね」
「私のにはコンビーフと烏賊と貝と人参、それにピーマンね」
「俺のには何だこりゃ」
正道は自分のカレーの具を見て顔を顰めさせる。
「大蒜と海老。それに林檎、パイナップル、それにジャガイモか」
「どうだ、凄いだろ」
ここで佐々が胸を誇って皆に言う。
「これが俺のスペシャルカレーなんだよ」
「スペシャルカレー!?」
「そうさ」
胸を張ってまた皆に言う。
「猛虎堂の特別メニューさ。ありったけの具を放り込んで作る特別カレーだ」
「それでも幾ら何でも滅茶苦茶だろ?」
「カレーに大根や葱は」
恵美はここに突っ込みを入れる。
「ないと思うのだけれど」
「じゃあ食ってみろよ」
やはり自信満々で告げる佐々だった。
「このカレーをな。ほらほら」
「それじゃあ」
「ピーマン嫌いなんだけれど」
明日夢は顔を顰めさせていた。
「それも食べないといけないの?」
「そうだよ。好き嫌いはこのカレーでは許されないんだよ」
「とんでもないルールね」
「とにかく食べてみろって」
強引に主張してきた。
「騙されたと思ってな」
「騙されたと思って獲得した外人がスカだった」
明日夢はここでまた野球のことを言う。見れば今彼女が着ている服の背中には星のマークがある。番号まであってそれは十一、アルファベットで『サイトウタカシ』とある。
「いつもあることだけれど?」
「不吉なこと言わないでよ」
静華が今の明日夢の言葉に即座に反応してきた。
「バース二世とかそういうの思い出すから」
「少し前の阪神もそうだったっけ」
「そうよ」
忌々しげに明日夢に返してきた。
「毎年毎年ね。オープン戦には打ちまくってもシーズンに入るとさっぱり」
「それ毎年だったっけ」
「暗黒時代にはね」
彼女はまだ阪神の暗黒時代を覚えているのだ。
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