魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第212話「戦闘とは名ばかりの……」
前書き
神を相手にしているその他大勢視点の話。
フェイトとアルフ、アリシアは書いたのでそれ以外です。
「かふっ……!?」
神の一人が繰り出す腕が、プレシアの腹部を貫く。
元の世界では致命傷だが、幸い神界なため、死に直結することはない。
「ッ……食らいなさい……!」
―――“Plasma Smasher”
その状態から、無理矢理砲撃魔法を放つ。
元よりダメージを負わずに攻撃を当てる事などできない。
だからこそ、プレシアは捨て身で攻撃を当てに行ったのだ。
「……ッ!くっ……!」
「プレシアっ!」
だが、プレシア程の大魔導師の砲撃魔法を食らっても、神は倒れない。
それどころか、追撃の構えを取った。
すぐさまリニスが割って入り、蹴りで間合いを取る。
「……一応、大魔導師と自負していたのだけどね……直撃させて無傷となると、少し自信をなくしそうだわ」
「相手が相手です。気にすることではありませんよ」
「……そうね」
プレシアもリニスも、非常に優秀な魔導師と使い魔だ。
ミッドチルダでも有数の強さを誇る。
……そんな二人が、戦闘とは名ばかりの蹂躙を受けていた。
「ぐぁっ!?」
「ぐぅう……!?」
そこへ、さらにクロノとユーノも吹き飛ばされてくる。
それだけじゃない、他にも吹き飛ばされてくる者がいた。
「きゃっ……!?」
「ぐっ……!?」
優香と光輝の二人も吹き飛ばされ、一か所に集まる形になる。
「プレシア!」
「わかってるわ!」
そうなった瞬間、次に何が起きるか二人は理解した。
すぐさまチェーンバインドを使って二人ずつ捕まえ、その場から逃げ出す。
「ッ―――――!」
直後、六人がいた場所に光の槍がいくつも突き刺さり、大爆発を起こす。
槍を放ったのは、六人を囲うように集まっていた“天使”達だ。
「くっ……このっ……!」
―――“Photon Lancer Genocide Shift”
爆発で吹き飛ばされ、体勢を立て直す間もなくプレシアは反撃に出る。
否、正しくは防衛に出たというべきか。
「くぅうっ……!」
周囲に放った魔力弾は、追撃に放たれた光の玉に貫かれ、相殺すらままならなかった。
防御魔法を張ってもあっさりと貫かれてしまう。
「すまない、助かった!」
「礼は後よ。一か所にまとめられたわ」
「分断されているよりはマシですよ。多分……」
だが、その間にクロノたちが体勢を立て直す。
劣勢のままだが、これで手札は増えた。
「……何回、殺されたのかしら?」
「……10から先は数えていませんよ。無意味だと思ったので」
「同じく。ユーノの防御すら軽く貫かれたからな」
本来なら死が確定するような攻撃を、既に何度も受けている。
それだけ、物理的ダメージでは蹂躙されていた。
「連携なんて取れたものじゃないな……」
「……そうね。例え取れても、通じないわ」
複数の“天使”を相手にしていた優香と光輝が呟く。
二対一でようやく拮抗出来るというのに、相手は複数で普通に倒せても“倒せない”。
「……まともに戦えているのは?」
「優輝だけよ」
「なのはさんも戦えてはいますが……やはり一人になっては厳しいようです」
唯一直接的な戦闘力で互角に戦えているのは優輝だけだった。
プレシア達やはやて達、キリエ達に比べてなのはも戦えているが、それだけだ。
完全な防戦一方になっているため、むしろプレシア達より危険だ。
「むしろ、優輝はよく戦えるな……」
「霊力と魔力を掛け合わせた技を、さらに昇華させたものを使っているようです。……神界だからこそ、限界を超えた力を得ているようですね」
「それで、互角か……」
互角。そう、互角なのだ。
優輝が限界を超えて、圧倒的な身体能力を得て、ようやく互角なのだ。
しかも、それは神一人に対しての話だ。
複数の神や“天使”が相手では、碌に倒すことも出来ずにいた。
「……悠長に会話する暇もないらしい」
「そのようね」
気が付けば、包囲している“天使”達が力を溜め終わっていた。
肌で感じられる程の力の集束に、冷や汗を流しながらも、次の行動を決めた。
「散開!」
クロノの合図で、全員が別々の方向へ散らばる。
だが、それは無意味に終わる。
“天使”達の放った光が連鎖的に炸裂し、一種の殲滅魔法のようになる。
散り散りに逃げた所で、まとめて消し飛ばされるだけだ。
「ッッ!」
「ただではやられないわ!」
「はぁああっ!!」
しかし、準備していたのは“天使”達だけではない。
クロノ達もまた、力を溜めていたのだ。
ユーノ以外は砲撃魔法で、ユーノは多重の障壁を展開し、“天使”達の光を凌ぐ。
「ッ―――!」
拮抗は一瞬で、プレシア達の抵抗はすぐに押し切られた。
だが、その一瞬で十分だった。
元より凌ぎ切れないと考えていたため、全員が弾かれたようにその場から吹き飛ぶ。
最小限のダメージに抑え、すぐに体勢を立て直した。
「ぐっ、く……!」
直後、追撃が叩きつけられた。
想定内だったため、吹き飛ばされながらも何名かは散り散りな状態から合流する。
「光輝!」
「ああ……!」
その内の一つ、光輝と優香は即座に連携を取り直す。
体勢を整えると同時にデバイスの剣を振るい、続けて放たれた追撃を逸らす。
光輝の体勢がそれで崩れるが、フォローするように優香が魔力弾を放った。
「ッ……!」
直後、チェーンバインドが優香の体に巻き付き、入れ替わるように光輝が前に出る。
そして砲撃魔法を放つ。
「(ここまでやってようやく“弾ける”か……!)」
接近していた神がその砲撃魔法を食らい、弾かれるように吹き飛んだ。
ダメージは入っただろうが、それだけしか出来ていない。
その事に光輝は歯噛みする。
「『優香、やはり一か所に集まった方が……』」
「『そうね。でも、その前に……』」
「……合流しなくちゃ、だな」
立ち塞がる複数の神。
一人だけでも倒せないというのに、それが複数だ。
「ッ―――はぁああああっ!!」
「ふっ……!」
その時、二人を阻む神の一人が、別方向に対して砲撃を放つ。
同時に、別の神から逃げるように飛んできたなのはが突貫した。
「っづ……はぁっ!」
「ちっ……!」
その砲撃は滑るように受け流す事で躱し、そのまま魔力の刃を振るう。
しかし、当然のようにその刃は障壁で受け止められた。
「ふっ!」
「はっ!」
間髪入れずに、光輝が魔力の籠った強力な刺突を繰り出す。
さらに、同時に当たるように優香が魔力弾で援護する。
「ちぃっ……!」
「まだっ!」
―――“Excellion slash”
「シュート!」
「ぉおっ!!」
「そこよ!」
なのはが魔力を纏った魔力の斬撃を飛ばし、纏う魔力で障壁を飽和。斬撃で切り裂く。
直後、控えていたなのはの魔力弾と、光輝の追撃、優香の死角からの砲撃魔法が決まる。
「ッ、くっ……!」
「次……ッ!」
「くそっ……!」
ようやく大きなダメージを与えたのも束の間。
ここにいる神は一人ではない。
そのために、それぞれが他の神に邪魔をされる。
「『すみません!相手の数を増やしちゃいました……!』」
「『構わないさ。それよりも、よく一人で頑張った』」
「『そうね。ここからは協力するわよ』」
何とか一か所に固まりつつ、念話で会話する。
「『むしろ、一か所にいた方がまだ対応出来るわ』」
「『ああ。個々の実力は向こうが圧倒的だ。その状態分断されているのは辛い』」
「『じゃあ、皆を集めた方が……』」
念話はそこで途切れる。
神に攻撃を受け、それどころではなくなったからだ。
「くっ……!シュート!」
幸い、念話が途切れる瞬間、なのはは光輝と優香が頷いたのが見えた。
そのため、何をすべきかは理解出来ていた。
「っ、助かった!」
「なのは!」
「『二人共こっちに!』」
放たれた魔力弾は、攻撃を仕掛けてきた神には当たらなかった。
だが、狙いはそこではなく、クロノとユーノを襲っていた神及び“天使”。
僅かにでも意識を逸らす事で、クロノとユーノに体勢を立て直させる。
そして、念話を飛ばして合流を促す。
「ぐ、ぉおおおっ!」
「っ、今……!」
一方で、優香もまた同じようにプレシアとリニスを援護した。
その際は、光輝が身を挺して優香を守り、攻撃を耐え凌いだ。
「『何とか一か所に集まれたな』」
「『他に孤立している所は?』」
「『はやてちゃん達は揃ってたけど……あそこの結界の所……』」
なのはが示したのは、サーラとユーリを隔離している結界だった。
そこにはアミタとキリエが結界を守るように立ち回っている。
「『あそこは……エルトリアから来た人達が固まってたわよね?』」
「『ユーリも洗脳の影響を受けていた。……と言う事は、あの結界は……!』」
詳しい分析は神の攻撃により中断させられる。
激しい光の雨霰や直接攻撃を耐え凌ぎつつ、なのは達は結界の方を目指す。
「『目的地はあそこだ!何とか攻撃を凌ぎつつ、こちらも戦力を一か所に固めるぞ!』」
クロノの指示が飛び、全員が目配せで連携を取るように動く。
倒れる訳には行かないと、自らを奮い立たせながらも、必死に抗い続けた。
「っ、展開が間に合いません!」
「気合で間に合わせよ!ッ、小鴉!」
「こっちも一杯一杯や!」
一方で、はやて達もまた耐え凌ぐ形になっていた。
「ぬぅうううううっ!!」
「はぁっ!!」
ザフィーラが肉体強化で耐え、その隙にシグナムが切り込む。
間髪入れずにシャマルが援護し、ヴィータが追撃する。
その連携の隙を補うようにはやてとアインスが遠距離から攻撃を放つ。
アインスの場合は、状況によっては切り込む役目も担っていた。
リインははやてのサポートをし続け、索敵や状況把握に役立っている。
「うぁああっ!?」
「っ、させません……!」
「ちぃ……!調子に乗るなよ、下郎!」
ディアーチェの方は、レヴィのスピードを軸に、シュテルがサポートする形を取っていた。
だが、そのレヴィのスピードすら上回られるため、常に劣勢だった。
「……防御すらままならんとはな」
「……なんや?王様、弱音か?」
「たわけ。事実として状況を判断しているだけよ」
何度も防御を破られ、攻撃が直撃している。
倒れていないのは、偏に神界の法則故に。
それでも、精神的に疲れてくる。
背中合わせになり、軽口を叩きあうはやてとディアーチェも、肩で息をしていた。
「幸い、魔力は無限と言っても良い。常に全力の火力を放てる」
「せやな。おかげで、今までのストレスとかもなくなったわ。……それで打開出来ていれば、の話やけどな」
「敵も無傷という訳ではあるまい。このまま消耗戦になるとしても、倒せるはずだ」
牽制に大魔法を叩き込みつつ、二人は状況を分析していく。
「戦力差は圧倒的。覆すのは至難の業よな」
「けど、こっちは“諦める”を選択肢に入れられへん」
「となれば、突破しかあるまい」
“諦める”。それはすなわち、全てを捨てるに等しい。
実感が出来ていなくとも、今はやて達の双肩には全ての世界の命運が乗っている。
そんな状態で、“負け”だと倒れ伏す訳にはいかないのだ。
「ちらっと見えたけど、すずかちゃんや洗脳された人を助けに行くのは難しそうやなぁ」
「妨害を受けていないとはいえ、包囲が固められている。洗脳を解いたとしても手遅れだ」
「やっと助けたと思ったら完全包囲。……そんな絶望を味わわせるためやろな」
“助ける”という意志がある限り、簡単には敗北しない。
だが、助けた後、一つの目的を達成し安堵した所への絶望ならば、心を挫きやすい。
そのため、神や“天使”は洗脳された者の相手を妨害せずにいたのだ。
「唯一」
「ん?」
「唯一、アミタとキリエが抵抗している分、包囲が甘い場所がある」
「……それって……」
「ユーリとその騎士がおる場所だ」
例外として、ユーリの所だけは違った。
蹂躙されながらも必死にアミタとキリエが抵抗しているため、包囲され切っていない。
絶体絶命なのには変わりないが、それでも他よりはマシだった。
「一か所に固まっておれば、ある程度の抵抗はできる」
「戦力を一か所に固めるんやな?」
「さすがに小鴉でも理解できるか」
「当たり前や」
奇しくも、アリシア達やなのは達と同じように、はやて達もユーリ達がいる結界の方面に集まろうと考える。
「ぶっちゃけ、このままやとどうしようもない。ザフィーラの鉄壁の防御のおかげで、何とか耐え凌いでいるけど、それだけや。せやったら、少しでも手札を増やしたい」
「盾の守護獣らしい働きだが、あれでは肉壁も同然よな。我も同意見だ」
大規模な攻撃の全ては、ザフィーラが前に出て盾になる事で凌いでいた。
それだけでは余波は防げないが、はやて達が耐えるには十分だ。
だが、それもいつまでも続く訳でもなく、打開できる策もない。
故に、手札を増やすためにも一か所に固まるべきだと考えたのだ。
「だが、あそこに辿り着くのも至難の業だぞ?」
「ッッ!?」
ディアーチェがそういった瞬間、はやて達は地面に押さえつけられる。
立ち上がる事が出来ない程の強い力でその場から動けなくなった。
「これ、は……!」
「重力か、はたまたそういう概念か……!くっ、これでは……!」
全員が一瞬で身動きが取れなくなる。
そして……
「っぁ……!?」
全員が串刺しにされた。
「『リ、イン……!』」
『はいです!』
だが、その中でもはやてが行動を起こす。
リインに指示を出し、今の自分では起動できない魔法の起動を任せる。
「『シュテル……!』」
「『わかって、います……!』」
ディアーチェの方も同じように、しかしこちらは自力で魔法を使う。
「『全員、魔法に備えて!』」
―――“vajra”
―――“Fegefeuer”
夜天の書に記録された大魔法と、ディアーチェとシュテルによる合成魔法が発動する。
嵐のように雷が飛び交い、辺り一面を炎の魔力が包み込む。
「ぐ、ぅぁああああああ………!?」
だが、それは身動きの取れないはやて達全員を巻き込む。
神や“天使”も巻き込んでいるが、これでは自爆だ。
「予想、通りや……!」
「『全員、結界への進行方向への神へ突撃!……よもや動けないなどとは言わせんぞ?』」
そんな中で、はやては呟きを、ディアーチェは念話で指示を飛ばす。
そして、魔法の効果が未だ続く中、立ち上がった。
「(“味方には効かへん”。そう信じ込んで放てば、実際効かへんもんや。……無意識にそうじゃないと思う分、ダメージはあるけどな)」
「『味方の攻撃で倒れる阿呆はおらぬだろう。敵の力も途切れている。ここが好機よ!』」
神界での戦闘が続く中、はやて達も神界の法則に慣れてきた。
思い込みである程度は何とかなる。それを逆手に取って、フレンドリーファイアをほとんど無効化にしたのだ。
「味方に当てても問題ないんやから、もっとやらへんとなぁ!」
神の“性質”によって抑えつけられていたのが弱まり、ヴィータ達も立ち上がる。
同時に、はやては第二撃を用意していた。
それは、本来あまりにも強力な威力故に、使用者さえ殺す可能性のある大魔法。
神界だからこそノーリスクで放てる魔法を、はやては夜天の書を用いて発動させた。
「いざ、流星よ。その輝きを以て、打ち砕け!」
―――“流星、雨の如く”
はやての遥か上方に、巨大な魔法陣がいくつも出現する。
はやては、先程の魔法とは別に、もう一つの魔法を並行して構築していたのだ。
そして、その魔法は、本来はやての大魔力を以ってしても扱えないもの。
神界という例外の場所だからこその、反則技だ。
「……かつて、古代ベルカには数多くの猛者がおった。シグナム達ヴォルケンリッターもその中の一つや。シグナム達はそんな猛者の中でも一際強かった。……でもな、一芸に関しては、それ以上の騎士もぎょーさんおったねんで……!」
「再び、この魔法を見るとは、な……」
アインスが感慨深げに呟く。
夜天の書が闇の書になり、何度かの転生を経た頃。
その時に蒐集を受け、その上で生き残った騎士が一人いた。
その騎士は、ナハトヴァールの暴走の時に再び戦闘に身を投じ、今はやてが使った魔法を発動させ、その身を代償に当時のアインスを葬った。
たった一撃で闇の書という強力な存在を打ち破る程の魔法。
しかも、それはリンカーコアが破損している状態でだ。
今のはやてによるそれは、その時以上の威力を誇る。
「一人の騎士が命を賭して使った大魔法、とくと受けてみぃ!!」
流星の如く、極光が降り注ぐ。
一発一発が、非常に強力だ。
ザフィーラですら、防ぐのはおろか耐える事すら出来ないだろう。
そんな魔法が、神々を蹂躙する。
「皆、行くで!!」
「レヴィ!小鴉に肩を貸してやれ!」
「りょーかい!」
いくら負担を度外視出来るとしても、無意識下のダメージはある。
そのため、ディアーチェが指示を出してレヴィがはやてを手助けする。
「すまんなぁ、助かるわ」
「安心するにはまだ早いよ!」
「その通りです」
「ッ―――!」
直後、はやて達の前に複数の神と“天使”が立ち塞がった。
同時に、弾幕がはやて達を襲う。
「ぉおおっ!!」
「通さん!!」
咄嗟にシグナムとザフィーラが前に出る。
シグナムが剣で逸らし、ザフィーラが障壁を展開し盾となる。
遅れてシュテルが魔法で相殺を試み、ヴィータは攻撃を止めるために牽制を放った。
「あれでも、足止めにならへんのか……」
確かに、確かにはやての放った魔法は強力だった。
神の防御すらも貫く事は可能だっただろうし、実際防御の上から叩き潰していた。
だが、ここは神界。ただの物理ダメージだけでは倒せない。
「(距離は縮まってる。このまま少しずつ近づけば……近づけば……)」
―――……それで、どうにかなるんか?
ふと、そんな考えが脳裏に過る。
そして、それは致命的な隙となった。
「っ……?」
『はやてちゃん!』
リインの悲鳴が頭に響く。
一瞬、はやては何が起きたのか理解が出来なかった。
「っづ、貴様……!」
「これも“性質”の一種ですか……!」
はやてだけではない。実体化していなかったリイン以外全員に“それ”は当たっていた。
「今のは……」
『弾丸のようなものが、皆の心臓と頭を貫いたのです!防護服も、まるで無意味です!』
「なるほどなぁ……」
気が付けなかったためか、はやては倒れなかった。
認識していなければダメージがほぼないのも、神界故だった。
「(全く見えへんかった。知覚すらできひんかった。……ただ、“貫かれた”と言う結果が残っただけ。……相手は神や、過大評価するつもりで推測すれば……因果でも操作したんか?)」
皆の様子を横目で見ながら、はやては分析する。
見た所、自分だけではなく他の皆も攻撃を見る事が出来ていなかった。
そのため、ただの速い一撃ではなく、特殊な攻撃だと言う事が分かった。
「………」
「(……なるほど、あの神が……)」
立ち塞がった神の一人が笑みを浮かべていた。
そして、手を銃の形にして構えた事で、下手人だとはやては推測する。
ブラフであれば意味のない推測だが、その事を気にする余裕はない。
「……ばん、ってね」
「―――シグナム!!」
「ッッ!!」
圧倒的上位にいる余裕から、その動作をわざわざ見せた。
……それを、はやては好機と捉え、シグナムの名を呼んだ。
―――ィイイン……!!
「なに……!?」
「ふっ!!」
高い金属音のようなものが響く。
はやて達は先程と同じように、その場に崩れ落ち、何とか耐え抜く。
だが、シグナムだけは反撃に出ていた。
「この一太刀、貴様への手向けと知れ」
―――“Wille Aufblitzen”
一閃。シグナムが振り抜いたレヴァンテインが、神の体を下から斜めに切り裂く。
「な、に……!?」
「今だ!!」
倒れはしなかったものの、一閃を食らった神はその場に膝を付く。
直後、ディアーチェの声が響き渡った。
「ッ……!」
シュテルが魔力弾と砲撃魔法を。
レヴィが斬撃を飛ばしつつ高速で接近して大剣で一閃を。
ザフィーラははやてを庇うように立ちつつ、鋼の軛で神達にたたらを踏ませる
ヴィータは鉄球を飛ばした後、追撃のために巨大化させたハンマーを振りかぶる。
ディアーチェ、はやて、アインスも比較的発動の早い大魔法を放った。
「かふっ……!?」
「どうせリンカーコアは関係ないのだから、遠慮なく抜かせてもらうわね……!」
そして、シャマルはクラールヴィントを用いて神を背後から貫いていた。
かつてなのはにやったようなリンカーコアへの干渉ではなく、単純に貫いていた。
物理的にも、魔力的にも貫いているため、神界でなければ即死攻撃だろう。
「シグナム!」
「トドメだ!」
もう一度一閃が放たれる。
膝を付き、体内をシャマルに握られた状態で、首が切り飛ばされる。
それにより、ようやくその神が倒れた。
「ッ!」
喜ぶ間はなかった。
直後にはやて達の直下から炎が迸り、雷が撃ち貫く。
予備動作も、力が動く事も感知できなかったため、全員がそれを食らう。
「ぐぅっ!?」
特に、敵陣に斬り込んでいたシグナムは防御する間もなく攻撃が直撃した。
「なかなかやるらしい。が、イリス様は見逃すなと仰られている。……一人たりとも、逃げられると思うな?」
「一人倒した程度で喜んでいるようでは、すぐにでも死にますよ?」
嘲嗤うように、神や“天使”が口々に言う。
それは事実だった。現に、はやて達は既に数えきれない程死んでいた。
自覚する暇もなかったため、まだ倒れる事はないが、本来ならとっくに負けているのだ。
「(皮肉やなぁ……神界の法則のせいで追い詰められてるっちゅーのに、その法則のおかげでまだ生き永らえてるんやもんな……)」
攻撃が止まぬ中、はやては立ち上がりながらそんな事を考える。
「(……負けられへん。負けたくない。……勝つんや)」
“意志”をしっかり保つ。
それだけで“敗北”は免れる。
「(……けど……)」
だが、それに陰りが出る。
本当にそれで勝てるのかと、敵うはずがないのだと、そう考えてしまう。
それは敗北への一本道だ。意志が砕かれれば、その時点で勝ち目はなくなる。
「まだ……まだや……!」
必死に耐えようとする。
だが、攻撃の嵐は止まない。おまけに、また地面に縫い付けられた。
「ぁ、ぐ……!」
複数の神を相手にする。その脅威がここに来て身に染みる。
いくつもの能力を重ね掛けされる事で、抵抗すら許されなかった。
「ッ――――――」
その時、はやての視界を何かが横切った。
見れば、そこにいたはずの神がいない。
「ッ……!」
「(あれは……優輝さんか……?)」
一瞬だけ見えた姿は、優輝のものだった。
戦闘でここまで飛ばされてきたようで、先程は神を足蹴にして着地したようだった。
「(……速過ぎて見えへん)」
神や“天使”を複数相手に、たった一人で立ち回る優輝。
その速度が速過ぎて、はやては見失っていた。
「助けられたな……」
まだ神や“天使”の攻撃は飛び交っている。
しかし、優輝によって半分ほどはやて達への注意が逸れていた。
その間に全員体勢を立て直し、再び結界の方向へ向かった。
「行くで。……まだ、終わらへんよ……!」
まだ終わっていないと、自らを奮い立たせ、はやて達は改めて結界へと向かった。
後書き
Excellion slash…エクセリオンバスターを斬撃として放つ技。魔力を纏った魔力の刃という二重構造の斬撃なため、防御を突破しやすい。
vajra…雷の嵐を起こす魔法。インド神話のものとは別物だが、夜天の書や優輝のグリモワールに記されている魔法の中でもトップクラスの殲滅力を持つ。
Fegefeuer…煉獄のドイツ語。名前の通り煉獄を引き起こす、ディアーチェとシュテルの合成魔法。実は術式にシグナムも協力していたりする。
流星、雨の如く…本来ならば、超強力な威力の代わりに放てば術者のリンカーコアが崩壊する大魔法。流星の如き一撃を雨のように降らせる。元ネタはFate蒼銀のフラグメンツ及びFGOの流星一条(厳密にはFGOイベネロ祭りの“【超高難易度】第三演技 流星、雨の如く”)。
Wille Aufblitzen…確固たる意志と共に放たれる一閃。シグナム程の剣士になれば、たった一撃で神の“意志”をかなり削ぐ事が出来る。
何気にはやて達が一番被害を受けていますが、プレシア達の方もあの後かなりの被害を受けます。なのはの踏ん張りと、はやて達と同じような優輝の妨害のおかげで、結局はやて達よりはマシな被害になっていますが。
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