魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第9話 ホテル・アグスタ
――side響――
新しい任務。もとい俺らの始めての任務が言い渡されたんだ。出張は任務じゃないのかって? アレは任務じゃない、公開処刑かなんかだ。痛かったし。フェイトさんの手伝い? あれはそのまんまの意味で手伝いだ。
で、新しい任務というのが、オークション会場。ホテル・アグスタでの警備任務。オークションと言っても、骨董価値がある物が出るだけではない。取引許可が出ているロストロギアなどの貴重品も出るし、このような場所は、密輸取引の舞台ともなるし、ロストロギアを奪おうとする連中もいるからな、だから今回六課が出動するはめになった。
……それ以外にもありそうだが。
『ほな改めて、ここまでの流れと、今日の任務のおさらいや。これまで謎やったガジェット・ドローンの制作者。及びレリックの収集者は現状ではこの男。違法研究で広域指名手配されている次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティの線を中心に捜査を進める』
はやてさんの説明を継ぐ様に、フェイトさんが小さく手を上げて。
『こっちの捜査は、一応私が中心になって進めるけど、一応みんなも覚えておいてね』
『はいっ』
『で、今回の任務の会場はここ。ホテル・アグスタッ!
骨董美術品オークションの会場警備と人員警護。それが今日のお仕事ね』
んー、モニタ越しから隊長陣の話を聞く。ちなみに他の面々というより女性陣は後ろに全員座っているのだが、如何せん人数が多いということで、俺と流、エリオの三人、要するに男はコックピット側に座ってる。普段居ないシャマル先生もいるから地味に居づらいしね。だけど、一つ疑問がある。
『隊長陣と響と奏は中のオークションの方の警備で、戦闘になった場合は副隊長の指示に従ってね』
後ろでなのはさんがそう言うけど、正直一番分からないのがこの指示だ。別に指示が悪いというわけではない、別にいいと思う、俺が指揮してるわけではないからな、だけどそれが、二つの小隊から一人ずつ、それこそ俺や流、奏や震離、と一人ずつ抜いていくのは理にかなってる。
だけど、どうしてライトニングから俺と奏を抜くのかが分からない。でも、ま。
「……信頼されたと思えばいいのかね」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「何でもないさ、ちゃんと話聞いとけよ?」
隣に座るエリオが声を掛けてくれるけど、今は作戦の説明の途中だから、軽い注意を。うん、口に出てたか。この時点で、俺も話を聞いてないことだよな。でも、本当に面倒だ、自分の会場くらい自分で警護しろよ全く。
まぁ、そうならない事情があるし、知ってるからわかるよ。多分ホテル関係者胃が痛いんだろうなと。
――side震離――
あっはっはっは、警備って言ってたから、どんだけ堅苦しい事するんだろうって思ってたけども、実際は言ってたよりも落ち着いたものだね。
ん、ちなみに私の警備ポイントは二階のテラス。響と奏は内部の警備で襲われたときには前に出るみたい、そしてティアナ達は見回りとかいろいろやってて、ちなみに流はというと、正面玄関を警備してる。うん、近いし、始まるまで時間もあるからちょっと様子見に行こうと思って今、玄関付近に居るんだけども……居るんだけども。
「久しぶりね、流?」
「あっ……お久しぶりです、隊長……いえ、―――さん」
うん、なんか会場に流の知り合い? というより、前の部隊の隊長だと思う人が来てたらしく。今そこで話ししてる。らしいっていうのは、相手は管理局の制服ではなくて、普通のレディーススーツを着て、若干色のついたメガネを掛けてる。5、60歳くらいだけど……駄目だわからん。
ちなみに私は、側にあったカーテンに身を隠してる。突然だったもん反射で隠れちゃったよ。でも、ここから流とその隊長さんの様子をみる限りだと、ものすごく親しそうだ。理由は簡単、普段無表情というか、大人しい流の顔が本当に嬉しそうで、楽しそうで、安心してる表情だから。
……なんだろう、少し胸の中がモヤッとした。
「ええ、本当に久しぶりね。今回こっちの仕事の関係でもう帰らないといけないけど、その前に貴方の顔を見れてよかったわ」
「え、うぁ」
流の顔を見て微笑んでて、自然な感じで流の頭を撫で始めた。絶対嫌がるかなと思ってたけど、一瞬だけびっくりした様子以外、普通に受け入れて、普通になでられてる。 うん、見てて思う。いいなぁ、と。
「ふふっ……」
「どうしましたか?」
「いえ、ね、あなた、私の所にいた時よりも、いい顔つきになっていたから、それがうれしくてね」
「そうでしょうか……?」
「ええ、そうよ……あ、そうだ、近いうちにスカリエッティの資料をあなたに送るわ」
「分かりました」
ここまで聞いて疑問が確信へ。流の前いた部隊って一応地上の武装隊の筈。
そして、流の目の前にいる人は流の前の隊長で……そんな人がスカリエッティの資料なんて持ってるということは、やっぱり流は普通の部隊出身ではないという事。
なんて考えてるうちに、あっちは既にやることが終わったらしく、帰る用意してるし!
「私はもう帰るけど……気をつけてね?」
「分かりました、隊長も体に気をつけてください」
「ふふっ……ありがとね、またね」
そう言って流から離れようとしたときに。はっきりと、はっきりと私の目を見てから微笑んだ。うん、バレてたし。でも、疑問点は多いけども、そろそろ始まる時間だし、戻らないと……。
カーテンからゆっくりと離れる時に、ふと流の顔を見ると、どことなく寂しそうな表情をしていたのが印象的だった。
「へぇ。あんな顔するのか、可愛らしいね」
「そうなんで……ん?」
横からの声に、同意しかけるけど……え?
なんか気がついたら、私の隣にシスター服の女性が一人。くせっ毛の黒髪を目元まで伸ばしてるせいで、目が見えにくいが……これは明らかに楽しんでる様な雰囲気が伝わってくる。
ってか。
「……ど、どちら様でしょぅか??」
接近に気づかなかった上に、声が震える。どこからそれが漏れるかわからないし、この人の目的が見えない。
というか、なんだこの人? 時折見える瞳がフェイトさん以上に紅い瞳だ。
ただ……ただ怖い。だけどそれと同じくらい。どこかホッとしてる自分がいるという訳の解らない感情を抱いてる。
この矛盾が気持ち悪いし、理解できない。
「フフ、見ての通り、通りすがりのシスターですよ。
ちょっと気になるものが出品されるらしいから、見に来ただけですし」
「……ゃ、そういうことじゃなくて」
駄目だ、なんか凄いプレッシャーで上手く話せない。思考が出来ない。全身が粟立っているのに、冷や汗が止まらない。
え……なにこれなにこれなにこれ? こんなの……あ、あれだ。殺気に似てるから……?
頭が白くなってくる。あれ、これ、私……死んだ?
「――ごめんなさい。意識してた訳じゃなかったとは粗相をしてしまったわ。
ゆっくりと、深呼吸をして」
その言葉と共に、プレッシャーが無くなった。
同時に。
「げほっ、ごほ……はっ、はぁ……っ」
貪るように酸素を取り込む。眼の前を光が瞬く。
ほんの僅かだと言うのに、呼吸すら忘れていたらしい。
だけど、それは。
「ごめんなさいね。大丈夫? 立てる?」
「……は、はぁ……」
差し伸ばされた手を取って立ち上がる。
しかし不思議なことに、もう一度そのシスターの顔が見えたが、茶色のタレ目にそばかすという、普通の人そのものだった。
「な……? は?」
意味が分からない。今までのが嘘かの様に、何も無かった様子。
「ね? あの人とはお友達?」
「……や、友達……じゃなくて、同僚です」
「……同僚、あぁそっか。そうよね変な事聞いてごめんなさい。
ねぇ? あの人と一緒に動くの?」
「……まぁ、同じチームなので……私より強いですし……」
……やっばい。何だ隠したら死にそうなこの状況。今まで会ったことの無いタイプなのもあるけど……。間違いなくこの人やばい強い。
と言うか、あんなわかりやすいプレッシャー掛けてきたのに、誰からも連絡来ないのはなんで!?
響に連絡入れる?
「……そ。ねぇ? 私なんかが……お願いするのも烏滸がましいのだけど――あの人を見ていてくれますか?」
……さっきからこの人は。
「さっきからなんですか? お願いするなら、名前で呼んであげて下さい。あの人なんて他人行儀な。そんなお願いをする以上、知らないなんて事は無いでしょう?」
……驚いたのか、ピタリと動きが止まった。
やっべ、藪蛇かな?
くすっと笑って。
「ごめんなさい。私はあの人――あの子の名前を知らないの。こうして動いているのも初めて見たし。
まさかこんな所で会えるなんて考えてもなかったから。だけどそうね、お願いする以前にあの人なんて失礼だったわ」
……えっ?
「……どういう関係?」
「ふふっ、そうなるわよね。でも……」
ちらりと、流――は既に居なくなってたけど、居た場所に顔を向けて。
「あの人、あの子がああやって動いてる姿を見て、嬉しかった。
あぁ、本当だったんだって」
嬉しそうに、だけどそれ以上の違う感情が入り混じった優しい呟き。
……やべぇ、マジで関係が読めない。何だ?
「さて。私はそろそろ行こうかしら。お仕事ほっぽってますし。シスターがこんな所でサボってちゃ不味いですし」
「……いや、もう遅いと思うんですけど?」
「そんな事無いわ。また会えたら逢いましょう」
「や、その前に名前――」
パチリとまばたき一つした瞬間、その人は消えた。
意味が分からない。
でも慌てて響や奏に念話を飛ばして、さっきプレッシャー無かったと聞いても。
風邪でも引いたんじゃないと言われた。奏は純粋に心配してくれたのがわかるけど、響め……覚えてろ?
しかし……聖王教会のお偉いさんが来るのは知ってたけど。シスターが来るのはどうなのということと。
今日の参加者にシスター居ないはずなんだけど何なのあの人? 加えて流の上司というか、その人もそれっぽい名前見つけられなかったんだけど。
最初からイレギュラー有りなオークションとは思ってたけど、更にイレギュラー重なってえげつない事に。
そして、警備をやり直してから、少し経った後。周囲に反応が出たんだよね。様子を見て話を聞きたかったけれど、まぁ、仕方ない、頑張ろうか。後でも話は聞けるしね。
――side響――
ガジェットドローンⅠ型がおおよそ、35機かぁ。あぁ。
「……メンドくせぇ」
「ボヤかないボヤかない、仕事でしょう?」
「……初めから外だったらいろいろ出来たのになぁ」
その一言に尽きる。何で隊長という名のジョーカーが三枚も中にあるのに、俺みたいなしょぼいカードと、奏みたいに優良手を中に入れるか分からん。でも、ま、大体予想はつく。俺らを中に置いとけば安心するってことは何か隠してるか、純粋な考えかの二択だろうし。俺としては後者がいいけどな。
さて。
「奏? 俺は外で遊撃に回ってる流と震離の援護に行くから」
「そして私は、ティアナ達の援護だね」
さすが、俺が全部言わなくても、分かってくれるのは凄く有難い。でもなぁ。
「……警備にドレスもってくるとかうちの部隊って一体」
「まぁ、上は半ばそう捉えてるってことだよねぇ。嫌だったろうに」
「……ほんとだよ全く」
本当、機動六課を……管理局の中核を成すかもしれないのに。まぁ、今に始まったことじゃないか。
「さて、周辺のガジェット蹴散らしてから行こうか?」
「うん」
合流する前に少しでも楽させとこうか! とにかく今は数を減らそう。
「響後ろ!」
「お? うぉおお!?」
全力でガジェットに刃を立てました。とっさ過ぎて変な声出たわ。恥ずかしいにも程がある。
「別に気にしてないよ~っと!」
「……あぁ、そうかい」
気にしてないよって言いながら、奏よ? 顔が笑ってるんだけど……。しばらくネタになるかなぁ。さすがは奏、ガジェット群をどんどん打ち抜いていく。さすが。
「っ!」
が、瞬間。肌が粟立つと同時に、震離達の反応がロスト。先程までのゆるい雰囲気をすて、森の奥の方睨みつける。
「響!!」
「あぁ、分かってる! 予定はそのまま! 気をつけてな」
「了解!」
ロスト――いや、アイツラが居るであろう場所に結界がはられて、直ぐに対応する。
とは言っても、最初の段階で離れてる俺らが今できるのは限られているけどな。でも、最悪な展開を防げればそれでいいさ。
森の中を駆けつつ、今はガジェットの処理をしつつ、合流を――
「待たれよ!」
その声が聞こえたと同時に、紅い斬撃が頭上より降り注ぐ。
回避――間に合わない。防御は意味がない。
斬撃に合わせて刀を振り上げ、わずかに軌道を逸らす。飛んでくる斬撃は大きな一撃のみ。なら出来る。
すぐさまその場を離れ、木々に紛れて空を睨む。
自然と舌打ちが漏れる。防護服をカスタムする奴は多いが、斬撃を撃って来た奴は。
「―――どこの南蛮武士だよアイツ?」
黒い服に黒い陣羽織を纏ったヘルムを付けた男が空に居た。しかも右手には紅い、それも血染めた様な色の大太刀。
「待たれよ侍! 我と……戦え!!」
空でなんか能書き垂れてるが、陣羽織の右内が一つ膨らんでる。多分小太刀か何かを持っているんだろう。
警戒してたが、震離達の反応がロストした瞬間に接近してきたと考えて――いや、
(ロングアーチ! 応答を、ロングアーチ!)
(―――! ―――!!)
……マジかよ最悪。通信遮断というわけじゃないが、ジャマーでも装備しているのか?
奏はあちらに向けてるが、それ以前に副隊長達がそれを察して動き始めてると信じたい。せめて、俺の所じゃなくて……震離達の方へ向かっててくれることを願うか。
映像を残すために、サーチャーを展開しておいて。
「侍! どこだ、我と決闘しろぉ!!」
……こいつを無視してアイツラの元へ行くことも出来る。だが、そうした場合のこいつの動きが読めん。下手すりゃ……ティアナ達の元へ行くかもしれない。
アイツラが弱くないことは知ってる。だが、ガジェットと共にアンノウンを処理するとなると話は別だ。
ゆっくりと懐に入れてる苦無を一本取り出して。
――俺のやるべき事は。アイツの足止めだ!
現在地の反対方向の木目掛けて苦無を投げると金属音が響き、
「そこかぁ!」
空から急降下――否、魔力反応と共に掻き消え、苦無の投げられた場所へ現れた。が、当然俺はそこに居ない。
踏み込んで仮面の――マスクマンの右後方へ回り込み、左手の刀で袈裟斬りを放つ。
しかし、この一撃を読んでいたと言わんばかりに更に一歩踏み込み回避され、振り向き様に薙ぎ払うかのような一閃を右の逆手にもった刀で逸し、左手を振り上げるがこれも回避された。
ならば、と肩から突っ込み、弾き飛ばして距離を取って、
「ははははははは!! そうでなくては、そうこなくてはなぁ!!」
「……能書き垂れてんじゃねぇよ」
やり難い……クソが!
咄嗟に左の刀を侍に向かってまっすぐに投合。すると、マスクマンは懐に左腕を突っ込み、取り出したのは。
――拳銃かよ。めんどくせぇ!
真赤な拳銃の銃口を即座に向けて、放つと同時に刀が弾かれ下へと落ちた。弾いた鈍い音と共に、今度はマスクマンの方から間合いを詰めようと踏み込む。
右手に持った刀を構え、重い一撃を叩き込もうとまっすぐに斬り込まれる――よりも先に、空いた手に鞘を持ち替え、突き出しこれを迎撃。
不意をついたと思ったが、マスクマンは、銃で鞘を受け止め、これを防ぐ。しかし自身の加速故に重い威力となり、武士はふっ飛ばされた。いや、正確には自分から飛んだ。
たった数分。いや、これだけで分かる。
こいつ、上手い。あのまま突っ込んできてくれれば、そのまま重いダメージにもなった、だが、あの勢いを殺してでも後ろへ下がり尚且つ、あの体制から、空いてた俺の刀に銃弾を当てやがった。とっさの事で斬ることも出来ずにモロに受けた事もあって刃の部分が既に欠けている。
右の刀を構え直し、左手には鞘を刀のようの構えて腰を落とす。あちらも銃口をこちらに向けつつ、右の長刀を逆手に持ち替え構え直す。
そして、一瞬の間。
「……ふむ、目的は果たしたか。侍、預けるぞ!」
「何? おい、手前ぇ!」
武士の足元が紫色に輝きだした。そして、一際光が強くなった瞬間、奴が消えた。突然の事で把握するまでに時間がかかったが、おそらくあれは第三者の手による転移魔法、又は召喚魔法のどちらかだろう。周辺の確認をした後、刀を鞘へ納め、息を吐く。けど。
「あいつら無事か!?」
通信ウィンドウを展開し、ロングアーチに通信を飛ばすが、未だ不通。ノイズ混じりで何か叫んでるのはわかるが――
『ティ、ティ――、大―夫? 無茶―な――!』
あん? シャーリーさんがなんか叫んでるが。誰にだ?
だが。
「ライトニング5。スターズ5、6と合流する!」
無事で居てくれ。
そう願うと共に、視線の先に罅が入った。
いや、正確には景色に、だ。そして、その罅の発生元ははるか上空。まるで卵が孵る様に罅は広がり、そして。
赤黒い魔力光が輝いたと同時に、割れて――
――――
――side震離――
通信が途絶。完全に分断されたけど……最悪!
「欝陶しい、もう!」
自分の杖に刃をつけて一気に薙ぎ払って、周辺のガジェットを破壊する。
隣で砲撃と射撃を駆使して戦闘する流は落ち着いてるようで、心強い。しかも手数優先というか、突っ込む必要もないから、長銃――アークだけ展開してる。
「……どうかしましたか叶望さん?」
「ううん、なんでもないよ」
……やっぱりまだ私との心の距離はあるなぁ。この数日流と接してきたけど、殆ど表情出さないし……だけど、流をデレさせれば……向こうの隊長さんに見せてた表情を見ることがきっと出来る! よし!
「頑張ろう!」
「えぇ。そうですね。ジャマー系か、わざわざ完全に途絶するように結界を張ったか……わかりませんが。なんとかしましょう」
その通りだ。ジャマーを用いた分断だと思いたい。わざわざ結界を張るなんて、なんのためにって話になるし。
「ブルーティガードルヒ、フォイア!」
刃を展開させた杖を構えて、雷を短剣方スフィアをガジェットに向けて発射する。流が使ってる技だけど、結構使い勝手がいいかな。私的には十分使いやすい。威力も申し分ないし、周辺に見える限りのガジェットは破壊し終えたし、いいかなこれで。
「どうよ!」
「……凄いですね」
やった、素直に驚いてくれた! 現に普通に驚いてるのか目が点になってるし。よっしゃ。このへんは終わったし次は……。あれ、流の顔が一気に変わった。
「しんr……叶望さん! 後ろ!」
「は?」
しんってまで言いかけたんなら、最後まで呼べばいいのになーとか思いながら、後ろを見た瞬間、ローブを纏ったアンノウンが拳を振りかぶってて、振り下ろした瞬間だった。
――side流――
油断していた……正直腹がたつ。いや、自分が嫌になる。気を失って墜ちる叶望さんを、アンノウンから引き離して、少し離れた場所へと連れてくる。手首を持って、脈を確認――正常。外傷は――無し。
ただ、突然の衝撃で防ぎきれなくて、気を失っただけ……か。
「よかったぁ……」
思わず声が漏れた。本当に良かった、だが。何故あのアンノウンは加減をした? いや、こちらとしてはそれで十分助かった。直ぐにギルとアークを取り出して――
[っ?! マスター!!]
アークの言葉を聞く前に腹部に衝撃――上空に飛ばされ、そこでようやく攻撃されたという事実に気づく。
ダメージは重い。何時接近された? 何故気づかなかった? 敵の総数は? どれほど差がある? 私一人で対処は可能?
否、それらよりも。
「ギル!」
叶望さんの近くには、吹き飛ばされた時に手放してしまった大剣――ギルに指示を出す。万が一にもあいつが叶望さんを攻撃するかもしれないから、だから!
[っ……! 了解。ご武運を!]
元々込めてあった魔力で防御魔法を張ってもらう。今の手持ちの武装はアークだけ。銃だから接近戦は厳しい……だけど。
「さぁ、お前はどこまで持つかな?」
「……黙れ」
遊び感覚でこいつ……!
ノイズ混じりの声を聞きつつ、空中で体勢を整え、私を吹き飛ばしたアンノウンに銃口を向ける――が。
「遅い」
既に地上には居らず、気がつけば横に来ていた。
でも!
「アーク!」
[分かってます!]
地上目掛けて砲撃を放つ、そして、その車線上には盾を配置するようにミッド式魔法陣を展開。同時に砲撃が魔法陣に当たった瞬間、砲撃が私とアンノウンに向かって戻ったとほぼ同時にもう一つ魔方陣が展開。当たった瞬間、散弾状になって向かって降り注いだ。
「ほーぅ。だがっ!」
「ぐ、がぁあ!?」
右側頭部に衝撃と共に、気がつけば地面に叩きつけられていた。でも――
「……やっぱり……かっ!」
その程度の砲撃は聞かないと言わんばかりに、アンノウンは散弾を拳で相殺していく。
直ぐに立ち上がって……くっ、まだ二打しか受けてないのに、足が震える! 身体強化で無理やり足を動かして、踏み込んでアンノウン目掛けて突っ込む。
「アーク!」
[了解! ブレードフレームオープン!]
銃口に刃を展開し思いっきり、今も相殺しているアンノウン目掛けて突き刺す。
「……ふむ、まぁいいか」
勿論シールドで阻まれたけど。それでも。
「発射ぁっ!」
シールドがあってもなくても。ゼロ距離から砲撃を撃ち放てば、何の問題もない。赤黒い魔力光に包まれながら、空へと昇る。
が、途中でそれが止まるのを見て……いや、それ以上に。
「……な!?」
「……本当に効かないのか、これは良き物だ」
砲撃はまだ続いている。なのに、対象は……アンノウンは――
「なん……で?」
砲撃を物ともせず、その中から、コチラに右手を伸ばしてアークの……ブレードフレームを、まるでガラスの様に砕いて、
「あまり、暇つぶしにならんか……チッ、やはり簡易結界ではこの程度か。まぁ、良い。今日は調整だ」
銃口を塞がれ、砲撃も止められた上に、逆流した砲撃でカートリッジが弾けた。
(―――! ―――!!)
念話にノイズが走る。これは外と繋がったということだ。
助けを求める? 否、他もアンノウンが来てる可能性がある。
皆さんが居る方へ逃げる? 否、ガジェットと同時処理になってしまう。
銃を手放す? 駄目、アークは……アークは!
[マスター!!]
アンノウンはアークを自分の元へ引き寄せるように、同時に私はアンノウンへ引き寄せられて。
私の左腕目掛けて、アンノウンが膝をかち上げると共に鈍い痛みが走る。手放しそうになる。でも、そうすると切り返しが出来ない。
まだ、まだ、まだ!
「貫手というのも試しておくか」
そう言って、左手の貫手がまっすぐ私に向かって走る。
これは……不味い。
そう思った瞬間。体を捻って躱そうとするけど。
「ぁ……っ、ぐ、ぅ!?」
[マスター!?]
間に合わず左の脇腹突き刺さる。致命傷は避けられた。だが――
「ふふ、なるほど。筋肉――いや、内蔵とはこういう触感か、面白い」
「あ、ぎ……がぁぁ!?」
突き刺した左の貫手で、そのまま内蔵を触れられる。
不思議と痛くなく、ただ熱い。鉄をそのまま押し付けられるような、そんな熱だ。
「ふむ……話と違うが……まぁいい」
「ぅ、ッ!?」
「置き土産だ。そのまま死ね」
私に突き刺さった拳を一気に引きぬく。瞬間。私の内でスフィアが爆発。私の内から血が飛び散って――
――side震離――
眼の前が揺れる。殴られた? 誰に? 何故気づかなかった?
いや、それよりも。
「流は?!」
[叶望一等空士!? 無事でしたか!]
「え、あぁ、うん。ってか、このシールドは?」
なんか私の前に流のデバイスが落ちてて、それを中心にバリアが張られてるけど。そう思って空を見上げて、探して……見つけた。
「あ、流……え?」
[マスター!?]
見えたと思った瞬間。ローブの奴が流に腕を突き刺してて。後ろから見える流の姿は。黒い防護服なのに、左の脇腹辺りから血が流れててどす黒く変色してて、そのまま腕を抜かれたと思ったら。血が勢い良く吹き出して――
「あぁあああああああああああ!!!!!!!!!!」
近くにいた流のデバイスをつかみとって、左の自分の杖も持って。手持ちのカートリッジを全部使って。真っ直ぐローブに向かって跳んだ。
「力貸して!」
瞬間的に踏み込む。ここには居ない人を思い出しながら、2つの剣を構える。
「ほう、もう目覚めたか。どれ、遊んでやろう」
魔力刃を杖とギルにありったけの魔力を込めて、展開させてローブに叩きつける。
「悪くない。だが」
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。
無我夢中で、全力でローブ目がけて、両手の剣を叩きつける。だけど。
「届かない?!」
「力不足だな」
磁石が反発するかのように、刃が直撃寸前で浮いて止まる。
わずかに見える口元が笑ってる。それが私を余計に熱くさせる。イラつかせる。腹ただしいほど。ムカツクほどに。
「なん……で?!」
敵はノーガードなのに、攻撃が通らない。
(スターズ5、スターズ6? 応答を!)
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!
こいつをどうにかしないと、流を下がらせることも、何も出来ない! なのに、なのにぃぃいい!!!
「うわぁぁあああああ!!」
なんで……こんなにも、遠いんだ!
右のギルで袈裟斬りを打ち込もうとした瞬間、それまでノーガードだったローブが僅かに左手を、拳を打ち出す。
その先は、刃ではなく。ギルの持ち手。私の右手甲目掛けて走ってきた。
鈍い痛みと共に、ギルが投げ出される。隙かさず左の魔力刃を横一線に振り抜こうとするが、これも右手で止められて。
「さぁて。次はどう墜とすかな?」
左手が腰だめに戻されてるのが見える。だから気づく。次は避けきれない。そして私よりも早く相手の攻撃が私を貫くと。躱せない。迎撃も間に合わない……!
「さぁ――」
「―――退け、震離」
「……っ!? うん!」
「何?」
静かに声が聞こえたとほぼ同時に、魔力刃を解除、そのまま急降下して。反転すると
「今度はなん……がぁああ!?」
突然現れた人は、ローブの胸に刀をもったままの右拳を添えたと同時に。衝撃を徹して、相手を吹っ飛ばす。
――あぁ、あぁ!
「響!」
ありがとうって言葉を伝えるよりも先に。
「震離。流を連れて、シャマル先生の元へ。速く!」
「でも!?」
「大丈夫。一応手持ちの武装じゃきついけど、ギルも拾った。時間を稼ぐ! 行け!」
「……ぅん!」
その言葉を告げると共に、響は左手に大剣をもってローブへと斬りかかる。
……ごめん、弱くて……何も出来なくて……!
直ぐに地上へ。流の堕ちた位置に行くと。蒸せ返る程の血の匂い。既に赤く染まった地面と、服の上からでも分かるほどの出血量。
そして、か細い呼吸の音。認識するよりも先に、飛びつくように側へと行った。
「……ッ! アーク、流の状態は!?」
[……脈がどんどん弱くなっていっています。このままだと]
「わかった、アーク! 全力で止血してて、私が連れてくから!」
[お願いします。マスター……どうかマスターを助けて下さい……お願いします]
願いを聞いて。私は流を打き抱えて、空へと上がる。こうやって抱いてる状態でもどんどん血が溢れて。もう私の手は流の血で赤く染まってる。流の顔を見ても。真っ白で文字通り血の気が無い。私が……私が気さえ失わなければ……! 少なくても流にここまで怪我させなかったのに……ッ!
「……ぅ……ぁ」
「ッ!」
そんなこと考えてる場合じゃない。今は。今は! シャマル先生の元へ! 急がないと! できるだけ揺らさないように、それでいて全力で空を駆ける。死なないで。死なないで死なないで死なないでお願いだから……っ!
「スターズ6より、ロングアーチへ! アンノウン襲来によりスターズ5が撃墜されました。ライトニング5が現在交戦中。救援を求む!」
こんなことしか出来ない自分が……何も出来ない自分が、ただ悔しい……!
――side響――
震離が流を連れて、後退していくのを確認する。さて。
「おい手前ぇ、覚悟決めてんだろうな?」
「……フフフ」
笑ってやがる。まぁ、説得に応じるとは思えないしな。
「痛い。痛い痛い。これが痛み!」
「あ?」
「礼を言う!」
「あぁ?」
何だこいつ? 胸抑えて震えてると思ったら、今度は笑ってやがる。何だ?
というか、ローブのせいでわからんが、こいつ……女か。ボイスチェンジャー使ってんのか知らんがノイズ混じりで性別わからんかったが……マジか。
「誰も、愚作共ですら私に痛みを与えることも出来なかったのに、よもや、まさか、こんな所で!」
……何いってんだこいつ?
「あは、あははははははははは! あははははははははははは! 良いわ良いわ! 最高よ貴方ァ!」
「……知らねぇよ」
とりあえず。なんだコイツ――
「遊びましょう?」
一瞬で懐まで踏み込まれた。でも。
「そう言われて――」
間合いを詰められたが、即座に右手の刀をそのまま上に上げ斬りかかる。しかし、この一撃を無視して、刃を掴まれた。
即座に、右の刀から手を離して、体の各部を連動して。右手をもう一度胸目掛けて走らせて。
「――わかりましたって言うかよ」
衝撃を叩き込む。
だが、こいつ。わざと受けに来やがった……!
直情型だと思ったがいやに冷静だ。反対に俺は熱くなりすぎてた。嫌になる。
お蔭でダメージの程度を測られた……! 悪手だったか。
震離の攻撃度合いを少し見てたからわかるが、こいつ……なんだ?
衝撃を徹さないとダメージが与えられない。いや、もっと高出力、高威力の攻撃、砲撃ならわからんが……普通には攻撃は通らない。
刀は全部無い。だが、流の剣ならある。まだ戦える……が。
「……あぁ、もう! 仕事が早いのも考えものね……せっかくのテストが! もう!」
迎撃姿勢を取ったと同時に、フードの足元がまた紫色に輝きだした。
「あぁ、あぁ、あぁ! ヒビキと言っていたわね! ヒビキ、ヒビキ!! 次も私と遊びましょう!!」
そして、一際光が強くなった瞬間、奴の右目が見えたが直ぐに消えた。周辺の確認をした後、ギルを逆手に持って深く息を吐く。けれど。
「……クソ」
周りに誰もいないのを確認して地上に降りてから呟く。隊長陣に意見して俺か奏の何方かを流と震離の側に置いておけば良かった。いや、ティアナ達の援護に付けとけば、俺や奏が遊撃に回れた。だけど、結果は出てしまった。もう戻れない結果だ。もう少し警戒を広げておけば。遊撃の手筈を整えておけば。もう少し結果が変わっていたはずだ。
[緋凰様。救援感謝致します]
「……救援になったかね」
[えぇ。叶望様と貴方がいてくださったから、マスターの助かる確率は大きく上がりました。感謝しかありませんとも]
「……そう言ってくれると救われるよ。ありがと」
ため息が漏れる。
頭の中じゃ分かってるよ、分かってる。だけど心は違う。
あぁ……俺じゃ時間稼ぎ程度しか出来ないことが、悔しい。
――side震離――
……参った。本当……本当に。だけどシャマル先生に見せる前に流の体を触診だけしてみた限りだと。外見よりも大丈夫そうだった。だけど、あの出血量は危ない。流の体は小さいから。エリオやキャロよりも少し大きくても、子供として括られる程小さい。それでも。
「……何やってんだろ」
本当にその一言に尽きる。いいところを見せようと、張り切って自分の背後を疎かにして。気を失わされて。私は……私はッ!
「震離」
少し離れた場所から、声を掛けられる。その声の主を確認して、直ぐに俯く。
「……奏、どうしたの?」
「ん、ちょっと、様子が気になってね」
私の隣に奏が座り込む。一応ガジェットの調査とかしてるけど。さっきから流の事で頭が一杯で。正直今は誰とも会いたくないし。話したくない。
「……こっちもあっちも大変だから、とりあえず、さ。誰も見てないから泣きなよ」
「……何いってんの?」
奏がよく分からないこと言いながら私の真ん前に立つ。うつむいてても、奏が底にいるのが分かるから、視線を横に流すけど、奏は口を止めない。
「……震離、私達とは付き合い長いからあなたの事を知ってる。けど、ティアナ達はあなたの明るい部分しか知らないよね?」
「……」
「せめて、皆の前じゃ笑ってなさい。そうしないと皆不安がる。FW組は今、大変な状態になってきたから」
「……」
「大丈夫」
「……ッ! ……私、何も何にも出来なかったぁぁぁぁ……何一つ通すことも、何も……何も出来……ゥゥゥゥウウッ!」
奏の胸に顔をうずめて、声を殺す。正直誰かが見たら情けないって思われるかもしれないけど。だけど、たくさん泣いて、泣いて、少し心が軽くなった。
――side響――
……よし、動こう。そう思ったと同時に空へと上がり、ホテルを目指す。同時に機動六課へと回線を繋ぎモニタを開く。そして繋いだ先にいたのは。
『どうした響?』
「すまん優夜。少し調べてほしいことが出来た」
『あいよ』
「とりあえず黒い服に黒い陣羽織、そして頭がすっぽり隠れるほどの仮面と、身の丈ほどの刀、そして赤い銃を持った人間で、管理局に敵対してる奴。それと、右目が緑で、攻撃が通らないローブの奴を調べてくれ」
『なんだそいつ? まぁ、調べるけど時間掛かるぜ?』
「いいさ、あと帰ったらみんなに……いや、四人に見せたいものがあるから俺の部屋に、夜に来てくれ」
『……了解、すぐに調べるけどあまり期待するなよ? じゃ』
そう言ってモニタが閉じる。さて、あいつらの元に戻って――
「緋凰」
不意に声をかけられ、そちらに目をやると。
「……シグナム副隊長」
直ぐに今回の件、交戦した二人のアンノウンの報告と、シグナム副隊長達の状況も確認。
予想はしてたが、あちらにはⅢ型を中心に大量のガジェットが向けられていたらしい。それをシグナムさん、ザフィーラさんで迎撃、ヴィータさんを一端ティアナ達の方へ向かわせてたらしい。
その上で、震離達の方へ向かう手筈だったとのこと。
わかってる。行かなかった訳じゃない。イレギュラーが重なった結果、メインの守りを抜かれないように立ち回った結果なんだと。
なのはさん達が出てこれなかったのも、ホテル・アグスタにトライアングルエースが居るという事実だけで近寄りがたくしていたのと、万が一抜けた後に襲われた時のリスクを取ったという事。
わかってる。襲われて、各社の重役と、教会のお偉いさん。そして無限書庫の司書長に何かあった場合を考えれば仕方がない事だ。
あー……くっそ。襲われる確率の高さなんて解ってた筈だ。
駄目だ、せっかくクールダウンしたのに、すぐぶり返す。
「……なぁ緋凰?」
「はい、何でしょうか?」
事情が事情だからシグナムさんも悔しそうだが……いや、どこか怪訝そうな顔を。
「……一つ聞きたい。昔、どこかで――」
「ありません。そういった筈ですが?」
「……そうだな。すまない。二人目のアンノウンに打ち込んでた攻撃に……どこか見覚えがあってな」
……あー。やっぱ、意図的に忘れてる……訳じゃなさそうだが。微妙だな。変に取られても困るし。
ちょっと質問……いや。やめよう。そんな気分じゃねぇ。
「シグナム副隊長。すぐ戻ってきますし、叶望……スターズ二人の分も動きますので、一度様子を見に行っても?」
「あぁ。二人分と言わなくとも、交替部隊も居るし問題はない。様子を見に行ってこい」
「ありがとうございます。では」
一礼してからホテル目指して往く、ふと森の中をなのはさんとティアナが歩いてた。だけどどうにも二人の表情は暗くて、特にティアナなんて本当に暗い。
「……何かあったと見るべきか。けど」
なのはさんが話をしているから多分大丈夫だろう。それよりも速く行こう。
本当に無事でいてほしい。
到着して、俺が居なかった間の情報……特にティアナ関係で何かあったのかと奏から聞く。
――――
「ミスショット、ね」
「スバル曰く。初めてだって、さ」
初めて、ね。なんとなく察してたけど、やはり完璧主義か。だけど、少し変だな。スバルがミスした時は、ティアナはツッコミを入れるはず。厳しい言い方かもしれないけど。
「ちなみにスバルはその時全く見えてなかった、そして、ティアナ自身もテンパってた……かな」
奏がデバイスを点検しながら教えてくれる。
その後も色々話を聞くと、エリオ達が疲弊して、後方へ下げ、ティアナとスバルが前に出てのコンビネーション。ここまでは悪くない。このスイッチは悪くはないが。
だが、この後、ティアナがミスショットしてしまい、前に出ていたスバルを撃ちかけた。それを守ったのがヴィータさん。同時に前線からさげられた、と。
結論からいうと、おそらく奏も近くにいたろうし、この時点の最適解は隊長陣に来てもらうべきだし、何よりも進撃する必要はなく、護りに徹すれば問題なかった。
エリオを下げるんじゃなくて、いっその事ワンブロック分下がって、一度キャロのブーストを受ける余裕があった筈。
加えて、おそらくこの時スバルはまだ余裕があったと思う。だからこそ前で戦い続けられてたわけだしな。そのせいでこう考えてしまった。
私もまだ余裕、ティアナも大丈夫だろう、と。
けれど、ティアナにそんな余裕はなく、結果ミスショットに発展。こんなところかな? だったら尚の事。
「なぜティアナが無理したか、だよな」
「……うん、無茶……というか思い切りの良い作戦は考えるけれど、無理な作戦を実行するタイプじゃないと思うんだけどなぁ」
ティアナの戦術の組み方を見てると本当にそう思う。ただ、やっぱり思うのが、まだ俺たちには会話が足りないなぁ。エリオやキャロとは割と話すが、それは同じ分隊だから。加えて最近俺がフェイトさんと話すからであって、俺はティアナ達とはあまり話さない。正確には、話す。でもどこか距離がある。そんな感じだ。
正直な所。悠長に構えすぎた。
それも大切だけど。
「……流は?」
一瞬目を伏せる。けど、直ぐに目を合わせてくれて。
「左側腹部に穴とそこからの出血多量、左腕若木骨折。震離も拳に罅入ってたらしいけど、まぁなんとかなるってさ。
幸い、六課で見れるってさ。というかまぁ……流がグレーだから六課で見るってのがあるんだろうけど」
「……だろうな」
頭が痛くなってくる。
倒すため、じゃなくて嬲る為の戦闘。
……あぁ、くそ……この借りは必ず返す。
今日は色々ありすぎて、全体的にぎこちなかったし、反省点も多すぎる。震離のケアもしないと。基本は奏に任せるとしても、暫くは流を動かせないからそれの穴も埋めないといけない。やることは多すぎる。
その後は、奏と一緒にガジェットの残骸調査を行なう。特に新たな発見はないが、それでも小さな変化を見逃さないように、破壊したガジェットを一つ一つ見て回る。そのまま森の方から調査を行なったため、気が付くとホテル周辺まで戻っていた。
あらかた終わった後、報告を受ける。今回の残骸からは今の所、特に変わったことはないとのこと。俺の対応した部分は特に変化はなかったが、他のポイントでは突然動きが変化したとのこと。リィンさん曰く、召喚虫を出されたらしい。おそらくそれが要因となり、ガジェットの動きが変化したんだろう。だけど、その残骸はまだ発見されていない。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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