戦国異伝供書
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第四十七話 義に従いその九
「覇道ではなく」
「王道ですか」
「それを歩んでいるつもりです」
「そうですか、貴方は嘘を言っていません」
晴信のその目と顔を見てだ、景虎は答えた。
「それがわかります」
「わかって頂けましたか」
「戦はしても、しかしです」
ここで景虎は晴信にさらに言った。
「わたくしの道は貴方の道とは違い」
「王道ではなく」
「正道です」
それだというのだ。
「今の幕府を立て直しそれを以てです」
「天下を正されますか」
「貴方は幕府の執権になられるおつもりですね」
「管領に」
将軍を補佐し天下を治めるそれにというのだ。
「家柄については」
「本来の管領である細川家等とはですか」
「落ちると言われるやも知れませぬが」
「いえ、武田家は甲斐源氏の嫡流」
その元はとだ、景虎は述べた。
「それはです」
「違いますか」
「はい、その血筋から考えますと」
血筋から来る格、それはというのだ。
「管領にもです」
「相応しいですか」
「そして貴方が王道を歩まれるなら」
「その王道がですか」
「貴方を管領にしてです」
そしてというのだ。
「天下を正されるでしょう、ですがそれは」
「出来ぬと」
「貴方のそれは正道ではありません」
断じてというのだ。
「それならばです」
「止めると言われるのですな」
「そうです」
これが景虎の返事だった、晴信の王道に対する。
「正道を以て」
「そしてですか」
「必ずわたくしの片腕とし」
「天下を正道で治める為に」
「織田殿と共に」
尾張の彼と共にというのだ。
「天下に尽くしてもらいます」
「それならばです」
「貴方もですか」
「貴殿に勝ち」
景虎、彼にというのだ。
「そしてそのうえで」
「わたくしを家臣として」
「王道の力となってもらいます」
「織田殿と共に」
「そうさせてもらいます」
「わたくし達は相入れませんか」
ここまで話してだ、景虎は晴信に述べた。
「残念です」
「拙者もです」
「ですがわたくしはわかりました」
晴信にこうも言うのだった。
「貴方という人が」
「拙者もです」
「そうですか」
「道を間違っていますが」
それでもというのだ。
「悪人ではない、だからこそです」
「何時かはですか」
「その過ちを正し」
そのうえでというのだ。
「必ずです」
「拙者をですな」
「共に道を歩む方にさせて頂きます」
「拙者も貴殿が嫌いではありませぬ」
真心からだ、晴信は景虎に返した。
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