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ある晴れた日に

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515部分:空に星は輝いているがその二


空に星は輝いているがその二

「水羊羹がね」
「それじゃあやっぱりそれね」
「水羊羹だな」
「種類はまあ」
 話が動いてきた。それもかなり早いペースである。
「何でも揃えればいいか」
「そうだよな、何でも」
「数は力ってね」
「あと品揃えも」
 こんなことまで言う彼等であった。そうしてそんな話をしながら山月堂に向かう。奇麗でカウンターも整然とした和菓子屋というよりは洒落た洋菓子屋みたいな店であった。そこに入るとカウンターに太い眉をした穏やかな顔の青年がいた。咲がその彼を見て言うのだった。
「この人がだけれど」
「この世で一番不幸な人なんだな」
 こう言ったのは野本であった。
「お気の毒様だ」
「全くだ」
 今度は坂上が言う。
「こんな奴と一生一緒なんてな」
「菓子食うだけだからな」
「待ちなさいよ」
 今の二人の言葉に瞬時に反応した咲だった。それはまさに瞬時であった。
「こんな奴っていうのは誰のことなのよ」
「今俺の前にいる茶色の髪の女だよ」
「その赤い服のな」
「言ってくれるわね、また」
 咲のことであるのは言うまでもない。だからこそすぐに臨戦態勢に入る彼女だった。
「折角人がね、こうして美味しいお菓子屋さんに案内してあげたのに」
「けれどよ、御前は食うだけだろ?」
「菓子食いたくてこの家に入るんじゃねえのか?」
 二人も実に口が悪い。
「只でさえ太りやすそうなのに大丈夫なのかよ」
「顔とかパンパンになるなよ」
「ならないわよ」
 とはいってもその辺りはあまり自信のない咲であった。
「そんなのはね」
「だったらいいけれどな」
「まあそれは置いておいてだよ」
 二人もここで言うのを止めた。流石に店の中で他のお客さんに迷惑がかかるからだ。そうしてそのうえであらためてその若い店員に尋ねるのだった。
「あのですね」
「水羊羹ですけれど」
「はい、咲ちゃんのお友達ですよね」
 その若者は笑顔で皆に応えてきたのだった。
「お話は聞いてますよ。特に」
 ここで咲の周りの四人を見るのだった。四人を見てさらに笑う彼であった。
「君達はいつもだしね」
「えへへ、まあそうですね」
「またお邪魔します」
 彼の言葉に少しばかり照れ臭そうに返す四人だった。どうやら既に顔馴染みであるらしい。
「それで今日はあれなんですよ」
「お見舞いに」
「ああ、それで水羊羹なんだ」
 若者は全てがわかっているようだった。おそらくそれは店の商いで全てわかっているということらしい。どうやら中々頭の回転はいいらしい。
「じゃあ一式揃えたのがいいかな」
「すげえ」
「まだ言ってねえのに」
 坪本と佐々はこのことにいささか唖然となった。
「この人プロだな」
「やれるよ」
「いや、そうじゃないかなって思っただけだけれど」
 これは謙遜の言葉であった。
「よかったよ。そうだったんだね」
「はい、それで御願いします」
 明日夢が彼に応えてきた。
「それじゃあ水羊羹の」
「松だね」
 若者は応えて述べた。
 
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